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涙たちの物語11 『旅の軌跡』

59 :(・ω・):08/03/14 23:43:25 ID:a02kOuDQ
ヴァナ紀行のNさん書くの辞めちゃったのかな。
定期的に書いてくれてたから、かなり心配。

最後まで主人公達を冒険させてあげれるのは、作者様達だけなので
途中で止まってる物語もダルメルになって続き待ってます!!


60 :(・ω・):08/03/15 00:23:19 ID:+KsmEKkl
うっはw
>>59書いてから、作者様達どのくらい来てないんだろ、と
前スレを開いたら・・・

すたんぷらりーキテタ━(゚∀゚)━!
しかも、完結してたorz 今まで気がつかなかったよ(ノД`)
すたんぷらりーの作者様とても楽しめました。
ありがとうございました!
そして、クピピ姉様ワロタwww

61 :BeniBana.5『約束』:08/03/23 20:52:47 ID:ePGdSK9w
 「君はどうして騎士に成りたいんだい?」
 夕暮れの中、私は熱心に木の剣を振る弟子に尋ねた。弟子は振る手を休め、
少し考えて答えた。
 「カッコイイから」
 幼い弟子のシンプルな言葉に、私は笑った。この子には才能がある。剣の才
能ではない。人並みはずれた集中力と忍耐力だ。今後、どのような道に進んだ
としても、この子なら大成するだろうと思える。
 「師匠はどうして騎士に成ったの?」
 逆に質問を返された。
 「私の場合はただ家業を継いだだけだな。幼い頃から騎士に成るべしと育て
られ、そう育っただけだ」
 「う〜ん・・・・じゃあ、どうして今も騎士なの?」
 意外な質問に、私は目を見張った。
 「・・・・どうして、とは?」
 「師匠は戦いに負けてここに来たって言ってた。護るべき王様ももう死んじゃ
った。私みたいに成りたいと思って成った騎士じゃないなら、もうやめちゃっ
てもいいんじゃないの?」
 考えもしなかった言葉だった。騎士をやめる・・・・? そうだ、なにも不
自然な事ではない。かつての部下達はとうに剣を置き、新しい生活を始めてい
る。私もそうしても良かったはずだ。なのに、今だ・・・タブナジアの貴族に
身を寄せてまで騎士であろうとし続けているのはなぜだ?
 「師匠?」
 弟子の声に黙り込んでいた事に気づく。
 「ああ、なんでもないよ。・・・・・そうだなぁ・・・私はもう長いこと騎
士であり続けたから、もうそれ以外には成れないと思うよ」
 「そんなこと無いよ。人は成りたいと思ったものに成れるんだよ。父さんは
そう言ったよ」
 人は、成りたいものに成れる。本当にそう望みさえすれば。その方向へ歩い
てさえいれば。
 「はは、そうか。・・・・わかったよ、レティシア。私は騎士でいたいんだ」
 「そうなの? なんで騎士でいたいの?」


62 :BeniBana.5『約束』:08/03/23 20:54:57 ID:ePGdSK9w
 「カッコイイからさ」
 親指を立てて笑ってみせる。レティシアは吹き出して笑った。
 「自分で自分をカッコイイって言うのは、ナルシストって言うんだ。ソレイ
ユが言ってたよ」
 「うむぅ・・・・」
 気恥ずかしくて頭の後ろを掻く。
 「じゃあ、師匠は騎士だけれど、今は護るべき人が居ないんだよね」
 「そうだなぁ、それが問題だ」
 「じゃあ、お願いがあるんだ。師匠はサンドリアを護ってよ」
 さっきから、この弟子には驚かされてばかりだ。
 「サンドリアとはまた大きいな。どうしてだい?」
 「だって、私はタブナジアを護りたいんだ。でも、サンドリアあってもタブ
ナジアだってソレイユは言うんだ。私が大人になるのはまだ先だから、それま
で師匠に護って欲しい」
 私は弟子のまえに跪き、彼女の頭に手を載せた。
 「サンドリアの騎士・・・・・か。なかなか大変そうだが、よしわかった。
君の師匠をやめた後はそうしよう」
 深紅の髪の毛をかき回してやる。レティシアは悲鳴をあげて笑った。笑いな
がら私に『約束』する。

 「ああ・・・・・その時まで、待っているよ」

 その二年後。イヴォン・ボナールはタブナジアを旅立った。次にその姿が確
認されたのはサンドリア王都だった。
 その夜は満月だった。そして王都上空にはその満月を覆い隠すほどの巨大な
影があった。闇に滲むようなそれは黒龍ヴリトラ。凱旋広場に降り立った黒龍
は大いに暴れ回り、王都は大混乱に陥った。
 そんな中、突然の出来事に右往左往する兵を一喝でまとめ、指揮し、民の避
難に大きく貢献した騎士がイヴォンだった。
 黒龍が去った後、イヴォンは王城へ出頭し、ランペール王の前に跪いた。
 イヴォンは東王の配下でもっとも精強と謳われた『回廊騎士団』の団長であ
った男だ。

63 :BeniBana.5『約束』:08/03/23 20:57:44 ID:ePGdSK9w
 王座へ至る回廊を護る騎士団として名付けられたほどの戦闘集団の長。戦後
も彼の力は危険視され、国外追放を言い渡されていたのだった。しかし、彼は
無断で国内へ入ったことを詫びるどころか、こう言った。

 「ご用命があろうかと愚考致しまして、罷り越しました」
 「ほう、わしがおぬしに何を望むと?」
 「黒龍の住処・・・・突き止めてご覧に入れましょう」
 「! ・・・・して、おぬしは何を望む?」
 「今一度、サンドリアの盾と成ることを。黒龍討伐の折りには末席に加えて
頂けますよう・・・」

 イヴォンは見事黒龍の住処を見つけ出し、討伐の際にもその剣で貢献した。
その功績を認められ、国外追放は解かれることになった。しかし、黒龍と同時
に帰還したことで、黒龍を王都へ導いたのはイヴォンだとする噂が流れること
になった。
 ランペール王はその噂とイヴォン自身の東王派への影響力を危惧し、彼にあ
る特別な称号を授けた。あるいは特別な刑を科した。

 『囚縛将軍』イヴォン・ボナール
 彼は王の囚人にして近臣。刑罰として王の側で仕えることを義務づけられた者。


64 :BeniBana.5『約束』:08/03/23 21:01:03 ID:ePGdSK9w
 「師匠が・・・・反逆など! 信じられるものかっ!!」
 緋盾騎士団の詰所にレティシアの怒号が響く。しかし、カリウィスは表情を
全く動かさなかった。
 「ボナール将軍が王の許可無く王都を離れ、かつての回廊騎士団の手勢を集
め、バタリアに向かったのは確かだ。ギョホンベール王の墳墓に向かったのだ
ろうな」
 サンドリアとバストゥーク間の融和交渉は進んでいる。国同士が友好を持と
うとすれば、当然人の行き来が活発になる。つまり、新たな商売の芽を求めて
商人の動きが変わるのだ。
 また、両国の政策がそれを後押しする。バタリア・ジャグナーを経由する陸
路の関税が大きく引き下げられ、両国の商人には荷車に乗せれるだけの荷を積
んで、陸路を往来する者が増えるようになった。また、バストゥーク側から建
設されているヘヴンブリッジが完成すれば、さらに陸路の往来が容易になると
いう見通しが、その動きに拍車をかける。
 しかし、急激な動きには反動が伴う。それが、今回の囚縛将軍の反逆である。
商人の往来する陸路のすぐ側にギョホンベール王の墳墓があることがいけなか
った。王の眠る地をヒュームの商人共が騒がせる事が許せぬと、イヴォンはグ
ランテュール王に申し立てた。彼は陸路の変更を望んだが、それは却下された。
 「この意見はどう聞いてもボナール将軍側に理はない。ただの感傷と一蹴さ
れて当然だ」
 「それが、すでに信じられない。師匠がそんなことを言うなど・・・・」
 「歳をとって視野と了見が狭くなった」
 「なんだとっ!」
 「・・・・と、王都では言われている。落ち着いてくれ、レティ。私もそん
なことを信じている訳じゃない・・・・無論、この事態には裏があるのだ」
 「なにか知っているのか!」
 レティシアがカリウィスの首を絞めんばかりに詰め寄る。いや、実際に絞め
上げる。
 「ぐぇ・・・・ちょっとまて、レティ・・・・うぉっとと」
 「うわわっ」
 カリウィスがバランスを崩し、背中から倒れる。レティシアも引っ張られそ
のまま彼の上に乗る形で倒れた。ちょうどその瞬間、ノックと共に詰め所の扉
が開かれる。

65 :BeniBana.5『約束』:08/03/23 21:03:02 ID:ePGdSK9w
 「ボス〜。お客さんを連れてきたわょおっととぉ? あら〜お取り込み中?
 ごめんなさいねぇ〜時間をおいてくるわぁ」
 ドアの隙間から整ったひげ顔がのぞかせた。低い声のオカマ言葉を残してド
アを閉じようとする。
 「まて、アドリアンっ! 変な誤解をするなっ!!」
 レティシアがあわてて制止する。その下でカリウィスが呻いた。
 「誤解を解きたいならどいてくれ、レティ・・・・重い」
 「な、なんだとう!!」
 レティシアの肘がカリウィスのみぞおちに突き刺さる。
 「ボス・・・それは女性に対しては禁句よ。馬鹿なことやってないで、ちゃ
んとレティを納得させなさいね」
 「ぐぅ・・・・・・・すまない、アドリアン。半時間ほど待ってくれ」


 「やれやれ・・・ね」
 ドアを閉じて、アドリアンと呼ばれた男は苦笑した。
 「騒がしい事だな」
 その後ろで巨大な人影がつぶやく。サンドリアでは珍しいガルカだった。
 「飽きなくて良いわよ? ウチはみんな個性が強くって」
 そう言って笑うアドリアンを見て、ガルカは嘆息した。
 「そのようだ」


 半時間後。詰所には、レティシア、カリウィス、アドリアン、そして客のガ
ルカが顔を合わせていた。
 「師匠を・・・ボナール将軍を追うのに相当規模の軍の派遣は認めないと言
うのか?」
 「そうだ」
 バストゥークから派遣されてきたガルカ、ダブルギアは静かに頷いた。詰所
の椅子を二人分占拠して座るその姿は、まるでオークのようだ。ひげを生やし、
それぞれのパーツが大きい顔も結構な迫力だが、タブナジア出身のレティシア
はガルカを見慣れている。まっすぐに見返した。
 「なぜだ? 貴方達からしてみれば、陸上貿易を妨害する彼らを一刻も早く
除外したいはずだろう?」


66 :BeniBana.5『約束』:08/03/23 21:05:31 ID:ePGdSK9w
 「我らが今最も危惧することは、討伐軍がバタリアでボナール将軍の軍と合
流し、そのままジュノへ侵攻することだ」
 現在、両国は捕虜交換と共に取り付けた条約により、国境付近への派兵を大
きく制限されていた。そして、ボナール将軍が向かった墳墓はこの国境付近の
エリアに含まれる。もし、将軍の反逆が狂言であり、討伐軍と併せてジュノに
侵攻するような事になれば、ジュノはたやすく陥落するだろう。そして、それ
はバストゥークにとって致命傷に成りかねない事態だ。
 「ヘヴンブリッジの建設はまさに国運を賭けた事業だ。国外的に見れば台頭
してきたタブナジア海商へ対抗するための陸路の開発。内政的には、国内の大
規模工事が終了した事による我らガルカの石工達の職を確保するため・・・・
・もし、今この事業を潰されることがあれば、我が国は大きな痛手を負うこと
になる」
 「馬鹿な・・・・我らがそのような小細工を労して、ジュノへ攻め入るなどっ」
 レティシアが声を荒げるが、ダブルギアの表情にはさざ波も立たない。
 「・・・・ここ最近、橋の石工達が数人変死している。どれも真夜中に刃物
で斬りつけられて殺害されていた。エルヴァーンのような影が夜中にうろつい
ていたという証言もある・・・・すまないが、この状況では信用することはで
きん」
 淡々とダブルギアは繰り替えす。国境付近への軍の派遣は認められんと。レ
ティシアは黙り込んだ。
 「事情はわかったけど・・・・じゃあ、どうするの? まさか放っておけと
言うわけではないでしょ?」
 アドリアンの言葉にカリウィスが、当然だ、と頷いた。
 「そこで、我が騎士団に陛下から勅命が下った。少人数の精鋭を編成し、ギョ
ホンベール王の墳墓へ突入、ボナール将軍を討てとな」
 室内に緊張が走る。
 「少人数って、どれくらいかしら?」
 「最大で18人。アライアンスだ」
 「相手の人数は?」
 「30から40。ほぼ倍と見て良い。だが、かつては精強で知られた『回廊
騎士団』とは言え彼らは平均年齢50の老兵だ。しかも、一線を離れて20年
も経っている。十分に勝てるはずだ」


67 :BeniBana.5『約束』:08/03/23 21:07:47 ID:ePGdSK9w
 レティシアがカリウィスをにらみつける。
 「無論、その18人に私は含まれているのだろうな?」
 「もちろんだ。・・・・これで異存はありませんか、ダブルギア殿?」
 ガルカは重々しく頷いた。
 「それならば問題無い。墳墓近くまでは私も同行させて頂く事になるが?」
 本当に少人数かどうか、そしてボナール将軍を討ち取れたかどうかの監視役
と言うわけだ。レティシアが俯き拳を握りしめる。それを横目にカリウィスは
頷いた。
 「当然ですね。承知しております」


 時代はすでに新たな世代の物だ。
 我らが魂を燃やし、得た熱もすでに冷めた。
 だが、だからこそ今、我らが立たねばならない。
 我らが仕えた王を、王と共に眠る戦友の高潔を! 踏みにじる事を許すわけ
にはいかぬ!!
 我らは過去の時代を引きずった反逆者として、人々に記憶されるだろう。だ
がそれでも! あの戦いを生き残った者として、護るべき矜持がある。
 魂の燃えかすをかき分けよ! ここに集った我らならば、あるはずだ。くす
ぶり続けてきた熱が、あの日々の残滓が!!
 もう一度、火を起こそう。もう一度我らの芯鉄に火を入れよう。我らの刃は
綻びても、今だその芯まで折れてはいないのだから。
 ・・・・さあ、行こうか諸君。回廊騎士の本分を果たすために、王の元へ。


 遙かな昔、人間種族が女神によって創られた後、初めて降り立ったのがバタ
リアとされている。信仰厚き者は、長き巡礼の果てにこの地で最後を待つと言
う。
 その為、かつての古エルヴァーン族が築いたコヴェフ墳墓群には、今も新た
な墓地が築かれている。
 それら墳墓群のはずれに、ギョホンベール王の墳墓がある。ギョホンベール
王は熱心な女神アルタナの信者だった。そのためバタリアで眠ることを望み、
自らの墳墓を生前から建設していた。建設途中で二王会戦が起こり、ギョホン
ベール王は戦死したが、ランペール王は東王派に配慮して墳墓を完成させたの
だった。
 「そのランペール王も、最晩年は自らの王墓の建設に執心したのよね。やっ
ぱり、ライバルには死んでも負けたくないって思ったのかしら?」


68 :BeniBana.5『約束』:08/03/23 21:10:32 ID:ePGdSK9w
 アドリアンの軽口にカリウィスが返す。
 「・・・王などという位は自分のことを特別だと信じなければ、全うできる
物ではないのだろう。そんな自分への信仰が、最後にはああいった墓を求める
のかもしれんな」
 小山のような墳墓。その地上部分の横腹に鋼鉄の扉が張り付いている。よく
見れば最近開いた後があった。その前にレティシアともう一人、黒い鎧の騎士
が立っていた。ダレン・バレスターである。
 二王会戦後、生き残った回廊騎士団は解散したが、その多くは新たに開墾さ
れた開拓地に流れ、新たな人生を歩み始めた。そして二王会戦で功を立て、そ
の開拓地を預けられたのがバレスター家だったのだ。
 今回、ボナール将軍の呼びかけに応えた元回廊騎士は、ほとんどがその開拓
地の者達だった。ダレンにとっては、騎士としての先達達であり、武芸の師で
あった者もいる。彼らの人柄を知るだけに、今回の暴挙を信じることが出来ず、
勅命を受けた緋盾騎士団に同行を申し出てきたのだ。それに・・・・
 「将軍に賛同した騎士達の中に一人だけ、年若い娘がいるのだ。彼女は騎士
達が拾った孤児で、彼ら全員を父として育った様な娘だ。どうしても彼女だけ
は助けたい・・・・。どうか、某(それがし)の同行を認めて頂きたい」
 そう言って、ダレンは頭を下げた。カリウィス達としても、将軍配下の情報
が得られ断る理由は無かった。最終的に、カリウィス・ダレン・レティシアを
始めとするナイトや、騎士団所属の戦士や修道僧のモンクなどの前衛が10人。
アドリアンを始めとする騎士である赤魔道士や、騎士団所属の白魔道士が8人
という編成になった。
 レティシアとダレンの二人は入り口の前で並び、一言も口をきく事もなく古
墳を睨んでいる。
 「では、我らはここまでだな」
 サンドリアからここまで同行してきたダブルギアがチョコボを引いて近寄っ
てきた。その背後では彼の部下のヒュームが二人、すでに騎乗している。
 「言えた義理ではないが、無事を祈っている」
 「まぁ、確かに十分な戦力を出すことを認めないでおいて無事を祈るなんて、
おかしな話よねぇ」
 アドリアンの揶揄程度では、ガルカの鉄面皮には傷も付かなかった。

69 :BeniBana.5『約束』:08/03/23 21:12:43 ID:ePGdSK9w
 「つまらないことを言うなよ、アドリアン。・・・そちらの事情も理解して
いる。貴方は命令に従っただけだろう。もともとこちらの不始末だ。気にされ
ることはない」
 「感謝する・・・・では」
 ダブルギアは頷くと、チョコボにまたがりジュノの方向へと駆けていった。
その姿を見送って、アドリアンはカリウィスへ向き直った。
 「どう思う、ボス? 彼は・・」
 「どちらにしても、ここまで何も動きがなかった以上は同じさ、外交上はな。
・・・・バストゥークも我が国との良好な関係を望んでいる・・・・今は」
 カリウィスは墳墓に向き直ると、指揮官として令を発した。
 「さぁ! 監視役は居なくなった。迅速に墳墓に突入する。レティシア、先
鋒として突入し入り口付近の安全を確保しろ。ダレン殿もレティに付いてくれ」
 「待ちかねたぞ」「承知した」
 レティシア達は剣を抜き放つ。部下達が墳墓の扉に手をかける。重々しい音
と共に扉が開かれ、地下へと続く暗い穴蔵が口を開いた。
 「行くぞ。目が慣れるまでは足下に注意しろ」
 冷静に指示を出しながら、レティシアは墳墓へと降りていった。


 ギョホンベール王の墳墓の構造は単純だ。中央に広間があり、その広間を囲
むように回廊がある。広間の入り口は階段の反対側にあり、長い回廊を通らな
ければ到達できない構造だ。広間にはさらに下に降りる階段があり、その先は
同様の構造となっている。地下三階まであり、三階の広間が王が眠る玄室とな
る。
 あらゆる小細工を否定し、立ちふさがる者を全て倒さなければ最深部へ到達
できない愚直な構造。
 「まるで要塞ですな」
 ダレンの感想にレティシアも頷いた。
 「おそらく、そう利用できるように造ったのだろう・・・・もしバストゥー
ク、あるいはウィンダスが侵攻してくれば、ここは重要な拠点として使える・
・・・自らの墓すらも国の為に、か」
 会話しながらも、二人は油断なく歩を進める。まっすぐな回廊に足音と鎧の
擦れる音が響く。進入はとっくに気づかれているはずだが、迎撃に出てくる兵
は居ない。


70 :BeniBana.5『約束』:08/03/23 21:14:27 ID:ePGdSK9w
 「まぁ、向こうの方が数は多いのだ。迎撃してくるならば広間であろうな」
 「・・・・・・」
 レティシアは答えない。ただ歩を進める。
 「レティシア殿、そろそろ本隊を呼んだ方が良い。先鋒だけで広間に行くべ
きではないぞ」
 レティシアは首を振る。歩む速度を落とすこともなかった。
 「恐らくは大丈夫だ」
 ダレンが訝しげにレティシアを見下ろす。
 「どういう事ですかな?」
 「行けば・・・・わかる」
 レティシアも彼女の部下も、けっして歩む歩を止めようとしない。その決然
とした態度にダレンは口を閉じ、後に続いた。やがて、広間へと続く扉が現れ
た。躊躇うことなくレティシアが扉を開くように命じる。部下が取り付き、扉
を押し開いた。流れ出す空気。それに乗って漂うそれは。
 (死臭!?)
 眼前に広がる第一層の広間。そこは戦場跡だった。魔法で焼けこげた跡、凍
り付いた跡、そして横たわる騎士達の亡骸。
 「これは!!?」
 ダレンがもっとも近い騎士の亡骸に走り寄る。俯せに倒れていた彼を抱き起
こし、絶句する。
 「ダミアンッ・・・・」
 見知った顔に呻く。
 「生存者を捜せ! それから、本隊へ伝令。第一層の広間までの安全は確認
したとな」
 的確に指示を出し、レティシアがダレンの側に立った。
 「どういう事なのだ!? レティシア殿! 彼らはいったい誰と戦ったのだ!?」
 レティシアは膝をつき、ダミアンとダレンが呼んだ亡骸を見た。その死に顔
は全てを成し遂げ満足したように晴れやかな物だった。
 「許せ、ダレン殿。バストゥークの者が居たため話せなかった。本隊が来る
まで時間がある。話そう。なぜ回廊騎士達が反逆しなければならなかったのか
を」


71 :BeniBana.5『約束』:08/03/23 21:16:49 ID:ePGdSK9w
 始めにそれを発見したのは、かつて回廊騎士団の一員であり、イヴォン・ボ
ナールに個人的に仕えている細作(忍び)だった。細作はイヴォンの命により
ギョホンベール王の墓を定期的に参っており、その時も備える花を用意して古
墳を訪れていた。
 古墳の入り口に立った途端、細作は異常を感じ取った。内部から漂う暗い死
者の気配。信じられぬ思いと細作としての勘がせめぎ合った。細作は術を使い
己の気配を殺すと、古墳の内部へと足を踏み入れた。そして、見たのだ。二王
会戦で倒れたかつての仲間が、そして何よりも自分たちが使えた王がアンデッ
ドとして蘇っているのを。
 そして、彼らの前に立つ、黒いローブの何者かを。
 細作はすぐにその場を後にした。詳細は掴めなかったが、生きて帰って報告
しなければならない。
 細作は元回廊騎士が多く住むバレスター家の開拓地に戻り、仲間にイヴォン
への伝令を頼み、自分は古墳の監視に戻った。結果、奇妙なことがわかった。
古墳の亡霊達は基本的に外に出ることはないが、時折、月の陰る夜に数人でジュ
ノへ赴きガルカの石工を狙って暗殺を行ったのだ。そして、その時には必ずあ
の黒いローブの者が側にいた。
 亡霊達はその者に蘇らせられ、使役されている。それがイヴォンの下した判
断だった。イヴォンは怒り狂った。かつて仕えた主君が、そして戦友達が、安
息の眠りを妨げられ使役されているなど、耐えられるわけがない。
 また、サンドリア首脳部としても、東王が蘇り使役されているなど放置でき
るわけがなかった。東王派に知られれば反乱の火種になる。それに、彼らを使
役する犯人は明らかにバストゥークに害を成している。明るみに出れば、最悪
第二次コンシュタット会戦以来の直接戦争に、そこまで行かなくても両国の融
和交渉は大きく後退する。それは避けねばならなかった。
 蘇った東王達を倒し、黒いローブの犯人を抹殺しなければならない。だが、
軍の派遣は結んだばかりの条約が許さない。首脳部はジレンマに陥った。


 「だから、師匠は・・・・ボナール将軍は、回廊騎士は立ったのだ。反逆者
の汚名を被ることになろうとも、東王の誇りとサンドリアを護るために」
 「そうか・・・・そうだったのか・・・・」


72 :BeniBana.5『約束』:08/03/23 21:19:28 ID:ePGdSK9w
 ダレンは抱きかかえるダミアンの死に顔を改めて見た。晴れやかな微笑。使
役され望まぬ戦いを強いられた、かつての戦友と剣を交える。それはどれほど
つらい物だっただろう、どれほどの悲しみだっただろう。だがそれでも、成し
遂げて倒れたその顔には、ただ満足だけを湛えて・・・・騎士達は散っていっ
たのだ。
 「やはり、貴方達は、某が目標とする騎士だった・・・・」
 ダレンは彼をゆっくりと横たえると立ち上がり、静かに敬礼した。


 第一層の広間には生存者は居なかった。一様に晴れやかな死に顔をした彼ら
を、程なく到着した本隊に任せ、レティシア達は第二層へと進んだ。
 第二層には、通路にも倒れ伏す回廊騎士の姿があった。どの顔もどこか満足
げであり、レティシア達は一人一人に敬礼をし、先ヘ進んだ。皆、口を開くこ
ともなく、自然に敬礼をしていた。それぞれに思うことがあり、そうしなけれ
ば居られなかった。
 やがて、第二層の広間に到着する。そこもまた激戦の後が生々しく残り、死
臭が漂う戦場だった。しかし、騎士達の亡骸は整然と並べられ、その前に小さ
な人影が一つ、立っていた。
 「キリリさん!? 無事だったのか!」
 「ダレン坊やかい・・・・あいにく生き残ったよ」
 駆け寄るダレンにそう笑ったのは、タルタル族の女性だった。三頭身ほどの
体躯に蒼い髪を頭頂部でしばり、前髪をそろえて切っている。おかっぱ頭の少
女にしか見えないが、タルタル族は年齢で見た目が変わらない。ダレンと彼女
の態度を見るに結構年上のようだ。二本の短刀を提げ、鎖帷子に身を包んだそ
の姿は、東洋の忍者の物だった。
 「ベルナデットは!? 無事なのか・・・?」
 膝をつき尋ねるダレンに、キリリはあきれたように嘆息した。
 「いきなりそれかい? まぁ、あんたはあの子を助けに来たんだろうしね。
安心しな、あたし達があの子を危険に晒すと思ってるのかい? あの子は団長
と一緒に下さ」
 安堵のため息をつくダレン。レティシアは二人に近づくと、ダレンと同じよ
うに膝をついた。
 「お怪我はありませんか?」
 キリリはにっこりと笑って胸を叩いた。

73 :BeniBana.5『約束』:08/03/23 21:21:57 ID:ePGdSK9w
 「あたしは大丈夫さ。やっぱり女の子は気遣いが違うねぇ。ダレン坊やはウ
チの馬鹿共に似て、そう言う細かいところがからっきしだからねぇ」
 ウチの馬鹿共、と言いながらキリリの視線は整然と横たえられた騎士達に向
けられた。
 「上で・・・生き残った奴は居たかい?」
 レティシアは黙って首を振った。キリリは耐えるように目を伏せた。
 「そうかい・・・・結局あたしだけかい・・・・・あんたがレティシアだね?」
 「はい」
 「下で団長が待っている。ダレン、あんたはベルナデットが待ってる。・・
・・悪いけどここから下は二人だけで来てくれるかい?」
 「わかりました」
 部下に本隊と共にここで待つように指示し、レティシア、ダレン、キリリは
階段を下りていった。

 「黒ローブは確かに倒したよ。ただ、アレはただの使い魔みたいな物だった
みたいでね、本体には手が届かなかった」
 第三層の広間へ居たる道中、キリリは回廊騎士団の戦闘の顛末を話した。
 「それでは!?」
 逃がしてしまう、と言いかけたレティシアはキリリの視線に口を閉ざした。
 「逃がしゃしないさ・・・・。手がかりはちゃんと掴んだ。どんなことをし
たってこの落とし前は必ずつけさせる。でもそれはあんた達の仕事じゃない」
 心の底を殺すような暗殺者の視線。それは、手を出すな、出せばオマエもも
ろとも殺す、と語っていた。
 「あんた達は、自分達のするべき事をしな。さしあたっては−−−−」
 「キリリ母様っ!!」
 「ムギュぅ!」
 通路の角から飛び出してきた人影にキリリが抱きしめられる。人影はエルヴァ
ーンの少女だった。収まりの悪い髪をベレー帽でまとめ、竪琴を持っている。彼
女がベルナデットなのだろう。
 「母様、母様! 良かった・・・生きてる・・・」
 「吟遊詩人だってのに・・・馬鹿力・・・・死ぬ・・・」
 思い切り抱きしめられて、キリリが苦しげにもがいている。
 「ベル・・・」
 ダレンが呼びかけると、彼女の腕の力が抜けた。その隙を逃さず、キリリは
彼女の腕から逃れる。だが、ベルナデットはそれにも気づかない様に、怖々と
ダレンの方へ振り向いた。


74 :BeniBana.5『約束』:08/03/23 21:23:35 ID:ePGdSK9w
 「ダレン様・・・・・」
 そのまま、二人とも見つめ合ったまま固まってしまった。
 「レティシア」
 息を整えたキリリがレティシアの膝を叩いた。
 「あんたは先に行きな。・・・・早く行って、あの人の戦いを終わらせてお
くれ」
 レティシアの方を見ずに、キリリは言った。
 「あの人との約束を、果たしておくれ・・・・たのんだよ」
 「・・・・・わかりました」

 泣いているような小さな背中に背を向け、レティシアは駆けだした。角を曲
がり、後は広間までまっすぐに。
 枷をはずしたように走る。イヴォンの覚悟を知ってから押さえつけてきた想
いが、あふれ出す。
 −はは、そうか。・・・・わかったよ、レティシア。私は騎士でいたいんだ−
 −サンドリアの騎士・・・・・か。なかなか大変そうだが、よしわかった。
君の師匠をやめた後はそうしよう−

 (覚悟をさせたのは私だ)

 今になってあの言葉の重みに歯を食いしばる。たわいもない、子供との約束
だった。だが、あれは誓いだった。騎士の誓いだったのだ。
 彼は果たした、誓いを果たした。黒龍と戦いサンドリアを護った。敵意だら
けの王宮で虜囚に甘んじながらも騎士であり続けた。
 そして今、反逆者の汚名を被ろうとも、サンドリアを守り抜いた。
 「私は」
 走る。まっすぐに。彼が待っていてくれる。もうすぐそこだ。
 「私はっ」
 重い扉に手をかける。満身の力を込めて押し開いた。
 「私は、レティシア・レギーネ! 約束を果たしに参った!! 騎士イヴォ
ン・ボナァァァル!!」


75 :BeniBana.5『約束』:08/03/23 21:25:16 ID:ePGdSK9w
 第三層、大広間。王の玄室たるその部屋で、中央に鎮座する王の棺の前で、
跪いていた騎士が立ち上がる。ゆっくりと振り向いた。
 黒々としていた髪は灰色に変わり、背中に届いている。かつては無かった髭
を蓄え、かつてよりも深い皺が刻まれている。
 だが、その目は変わらない。深い意志を映した優しい眼差し。その目を細め、
彼は笑った。
 「待っていたぞ、騎士レティシア・レギーネ」



 −私が騎士になって、師匠より強くなったら、私が師匠の跡を継ぐよ−



 レティシアは剣を抜き放ち歩み寄る。イヴォンもまた剣を抜き放ち歩み寄る。
 レティシアの頬は紅潮し、心臓は早鐘の様に拍動する。イヴォンは穏やかだ。
 間合いが徐々に詰まっていく。互いの剣と剣が触れ合える距離まで。どちら
からともなく切っ先を差し出し、交差。剣で山を造る。剣を合わせる前に必ず
行っていた儀式。
 かつてはレティシアの方へ大きく傾いていた山は、今はまっすぐに天を指し
ていた。
 イヴォンは口を開く。
 「語りたいことは多い。だが、口にするのは無粋」
 レティシアも応える。
 「ならば、鋼鉄に語ってもらおう」
 イヴォンは瞳を閉じた。レティシアも同様に瞳を閉じる。大きく息を吸い、
吐いた。鼓動を落ち着かせる。触れ合う切っ先から伝わる穏やかな剣気に自分
の剣気を絡ませる。
 懐かしい感覚に、目頭が熱くなる。穏やかで厚く、そして底が見えない。イ
ヴォン・ボナールという男の剣気。それを感じる。
 レティシアは心構える。積んできた修練により体の一部と化した剣に、神経
を張り巡らせる。目を見開き、そして声を発した。
 「いざっ」
 イヴォンもまた目を見開き、声を返す。
 「応っ」
 打ち合わされた鋼鉄が、約束の時を告げた。


76 :BeniBana.5『約束』:08/03/23 21:27:28 ID:ePGdSK9w
 レティシアから仕掛ける。斬り下ろし、斬り払い、突き抜ける。ほとんど同
時に見えると評される三連撃。イヴォンから教えられた基本となるコンビネー
ションだ。イヴォンはそれを受け流すがその目は驚嘆を表していた。
 レティシアは自分に剣の才能が無いことを知っていた。カリウィスと出会っ
てから思い知った。振るう度に千差万別。次々に新しい剣筋を組み合わせるカ
リウィスのセンスと、その一撃の重さ。自分にはその両方が無いことを。
 だからこそ基本にこだわった。すがりついたと言っても良い。何百、何千、
何万と繰り返し、速さと精度を求めた。その結晶がこの三連撃なのだ。
 しかし、彼女にそれを授けたのはイヴォンである。そして、彼はレティシア
に初めて見せた。本気の剣を。
 レティシアは辛くも受けきった。一気に冷たい汗が滲み出る。実際には三連
撃だった。しかしレティシアは七撃受けたように感じる。三連撃中に四つのフェ
イントを織り交ぜたコンビネーション。
 (これが師匠の本気・・・)
 「よく受けた。速さでは君に分があるようだ。さあ、続けていくぞ」
 イヴォンが剣を振るう。フェイントだろうと本気の殺気がのっている。無数
の斬撃の中から実のみを見分け、受ける。相手の殺気を読むのではなく、確実
に自らに迫る死の香りを嗅ぎ分ける能力が無ければ防げようもない攻撃。
 しかしレティシアはそれを捌ききった。訓練だけでは到底身に付かぬ戦場の
感覚。それがなければすでに勝負はついている。
 「その若さで・・・・ずいぶんと無茶をしてきたようだな!」
 イヴォンが振り下ろした上段からの斬撃をレティシアは受け止めた。受け流
すことが出来なかった。
 (重・・い!?)
 受け流そうとして体を反らせば、そのまま押し切られる。上から押しつぶそ
うとする圧力に全力で抵抗する。ギリギリの鍔迫り合いとなった。
 「ふふ・・・・やはり、無粋だが聞かずには居られない。レティシア、かつ
てと同じ事を聞こう。どうして騎士に成りたかったんだい? 女の身で、しか
も平民出で騎士になるには、相当の苦労があったはずだろう。あの頃は子供の
憧れで済んだ。だが、あれから現実を知り、それでも諦めなかったのはなぜだ?」


77 :BeniBana.5『約束』:08/03/23 21:29:27 ID:ePGdSK9w
 満身の力を込めてイヴォンの剣を押し返しつつ、レティシアは口ゆがめ笑った。
 「傲慢なんだ・・・・私はっ。平民だろうと、貴族だろうと立場が違うだけ
で同じ人間だと示したかった」
 「人は皆、平等だと?」
 「違う! アルバを覚えていますか? 彼と私達のどこが平等なものか!」
 レティシアの剣が徐々にイヴォンを押し返し始めた。
 「平等でなくても、人はただ一つだけ、皆が持っている権利がある」
 「ぐ、ぅ・・・・それは、なんだい?」
 斜めだった剣は徐々に天へ立ち上がる。互角の鍔迫り合い。しかし長くは続
かなかった。
 「人は誰でも、生きている限り、戦う権利があるんだっ!!」
 「ぐっ!?」
 気合いと共にレティシアが踏み込む。イヴォンは抗しきれずに弾かれるよう
に下がった。
 「アルバは自分の身体と、ソレイユは貴族の誇りを護るために、カリウィス
は人が生み出す悪意と、戦い続けている。だから、私も戦いをやめない。彼ら
と同じ場所に立って居たいから!」
 レティシアはイヴォンに剣を向けた。まっすぐに切っ先を。
 「そして私は、貴方と同じ場所にも立ちたい。名誉を失おうとも、誇りのた
めに戦った貴方達の様に・・・・私も騎士で居たいのだ!」
 イヴォンは微笑んだ。
 「よくわかった・・・・では、そろそろこの戦いは終わりにしよう」
 ゆっくりとイヴォンは剣を握り込む。最後の一撃を放つために。

 『人は、成りたいものに成れる。本当にそう望みさえすれば。その方向へ歩
いてさえいれば』

 「決着を」
 レティシアは自らの剣に口づけする。

 『実はこれは嘘だ。人は成長し現実を知ることでこの嘘を思い知る。では、
なぜこんな嘘を親は子に教えるのか』

 互いの剣気が高まっていく。最後の一撃の合図など必要ない。二人の剣気が
最高に達したその時、放たれる技こそ基本にして極意−−−−−−

 『それは、誰もがこの嘘を本当にしたいと願っているからだ』

 「「剣技! ファストブレード!!」」



78 :BeniBana.5『約束』:08/03/23 21:31:16 ID:ePGdSK9w

 「私も、この嘘を信じたからこそ、ここまで来ることが出来た。一度は敗れ、
忘れかけていた。だけど、思い出させてくれたのは、幼い君だったよ」

 仰向けに倒れ伏したイヴォンは、自分の胸にすがりついて泣く、深紅の髪を
撫でながら笑った。彼の肩から心臓にかけて、大きな斬傷が刻まれていた。即
死していてもおかしくない傷。だがそこからはなぜか血も出ていない。彼はとっ
くに・・・レティシアと戦う前から死んでいたのだ。
 「ありがとう・・・・・・約束は果たされた」
 穏やかな成就の言葉と共に、イヴォンは闇に包まれた。


79 :BeniBana:08/03/23 21:35:50 ID:ePGdSK9w
こんばんわん

BeniBana.5『約束』をお送りします。

長い、長いよこれw そして終わってねぇよ。
舞台を整える為にずいぶんと行を要してしまいました。

次は、ダレンと回廊騎士達の決着。イヴォンの戦い。そして全ての決着です。

80 :(・ω・):08/03/24 03:51:44 ID:gbyHQCbU
く〜〜( ̄~ ̄;)
騎士たるものの教示というか・・
読んでいて、その状況が思い浮かぶと言うか・・
とにかく、今後が気になりますね!

っと・・思わずカキコしましたが、自分、本編のファンで
此方にカキコするのは初めてですm(__)m

81 :(・ω・):08/03/24 10:58:33 ID:J136fMNK
私も思わず初カキコ
余りにも気高い騎士魂とその為に悲しい生き方しか出来なかった人々
読んでて涙が出てきました
次回作心待ちしております!

82 :GoVD:08/03/24 23:41:45 ID:B1bg5E8m
Gangs of Vana 'Diel @ 涙たちの物語 on Wiki

Episode16 "歌え、喜びの歌" 前編

うpしますた

#本当は1話書き上げてから上げたいのですが、時間がたってしまったので・・・&BeniBanaさんのうpに触発され・・・。
#はやいところ後編を書こうと思います。

83 :BeniBana:08/03/26 01:30:51 ID:0elycp1W
>>80 81
ありがとうございます。
BeniBanaはカッコイイ騎士を書きたいと思いついたので、それが出来ていれば
うれしいです。
うは、本編!? 長いことほったらかしですいませんです。

GoVDさん
ここに上げるときのあのドキドキはくせになるから、早く上げたいと思います
よねぇ

おまけ
ニコニコ動画にUPされているオリジナルの歌 sm2429076 の内容が
とても今回の小説の内容に合っていて面白いです。
みれる環境にある人は、見てみて欲しいと思います。

84 :(・ω・):08/03/27 14:58:58 ID:/vQoaoDZ
「白き探求者」のサイトが消えてます〜!
どなたか知りませんか?

85 :(・ω・):08/03/27 23:28:14 ID:FAlPcNwf
>>84

Wikiから飛んだところ、健在に見えますが

86 :84:08/03/29 01:33:54 ID:FcyUhibE
今日覗いたら、無事にありました・・・失礼しましたっ(゜▽゜;)

87 :(・ω・):08/04/06 00:06:31 ID:OndLLrqS
すたんぷらりーが前スレに来てるなんて、全然気づいてませんでした!
>>60さん、ありがとうございます!
クピピ姉様のオチには、私も、そう来るか!とw
リピピちゃんの語り口がぴったりの、やわらかくてかわいらしくて
素敵な物語でした。歌う花と同じ方だったんですね。そちらも
切ないのにやさしい文章で大好きでした。
すたんぷらりー作者様の物語を、またぜひ読ませていただきたいです。

そして相変わらずBeniBanaは格好良すぎる……!
続きを心底楽しみにお待ちしております。

88 :暁のひとみ 7:08/04/06 00:27:13 ID:OndLLrqS

 石造りの通路に、どぉん、と鈍い音がひびいた。
 ほこりと血にまみれ、疲労しきった体を休めていた兵士たちが顔を
見合わせあう。ゆっくりと消えていく音と入れかわるように、不安げな
空気がその場を
支配した。
「隊長……これは、おそらく」
「……ああ」
 耳打ちをしてきた壮年の槍兵に、アルテュールはうなずきかえした。
 実物を見たことはないが、想像はつく。攻城戦用の破砕槌でもって、
自分たちの隊が立てこもる魔防門を打ちやぶろうとしているのだろう。
 資材も人員も乏しい中、王国軍の威信をかけて落成にこぎつけた
ばかりの要塞、ガルレージュ。ジュノ攻防戦の要とうたわれた、その
存在自体を揺さぶるかの
ように、不吉な振動は繰りかえされる。
 アルテュールは、苦い舌打ちとともに剣の柄に手を触れさせた。
ちらりと視線を投げれば、友軍として派兵されてきているウィンダスの
魔戦士たちの多くは、こわばった表情で手に手を取り、通路のすみで
身を寄せあっている。
 その、日暮れに宿る小鳥の群れを思わせる集団から一人が離れ、
こちらへ歩みよってくるのに気づいて、アルテュールはひとみをすがめた。
同じような背格好のタルタルたちは見わけがたいが、あちらの小隊の長と
名乗った者のはずだ。
「あの……少し、よろしいですか?」
「どうされた、エトト殿」
 応じれば、相手は金糸で縫い取りをされたクロークのフードを払い
おとした。頭頂近くで結わえられた緋色の髪と柔和なおもだちに、
ようやくその性別を知る。
 タルタル族の娘は、足下までやってくると沈鬱な声音で告げた。
「……どうやら、ヤグードたちがここまで攻め入ってくるのも時間の
問題のようですね」
 一瞬返答を迷ってから、気休めは無礼になるかと思いなおす。
アルテュールはうなずいた。
「ああ、我々もそちらとまったく同意見だ」
「正直に言って、私たち魔戦隊にはこれ以上戦いを続けるだけの余力がありません」
 わずかに口ごもるそぶりを見せてから、娘はひかえめに付けくわえた。
「……差し出口とは思いますが、あなたがたも同様であるようにお見受けします」

89 :暁のひとみ 7:08/04/06 00:31:03 ID:OndLLrqS
「何を……ッ!」
「よせ」
 従騎士たちのうち、年若い一人が気色ばむのを、アルテュールは片腕を
伸ばし制止した。
「このありさまでは否定できまい。それよりも、エトト殿。なにか算段が
あっての云い様か」
 緊張した面持ちで、娘は暗く沈む通路の先を見つめた。
「お願いがあるのですが……みなさんを連れて、撤退の指揮を執って
くださいませんか?」
 唐突な提案に、思わず眉根が寄った。
「己の部下を放って、貴卿はどうするつもりだ」
「できるだけ敵を引きつけながら、反対の方向へ逃げてみます」
「な……」
 思いがけない答えに絶句したアルテュールをどう取ったのか、娘は
ことばを継いだ。
「もし囮として機能するほど持ちこたえるのかどうかを危ぶんで
おられるのなら、ご心配は無用です。これでも幻術使いのはしくれ、
それなりの時間はかせいでみせます」
「……いや」
 ことばを重ねようとして、首を上げた娘と目が合った。
「私のほかは、ほとんど新兵ばかりなんです。……こんなところで
死なせたくない」
 娘の決意の色濃い表情に、アルテュールは、翻意をうながす言葉を
飲みこんだ。
 エルヴァーンである自分には彼らタルタル族の年齢は計りがたい。
とはいえ、少数精鋭をもって知られるウィンダスの戦闘魔導団に籍を
置く者が、見た目通りの力なき幼子であろうはずもないことはわかっていた。
 そうであるならば、彼女の覚悟を、同じ軍人として受けいれるしかない。

90 :暁のひとみ 7:08/04/06 00:32:29 ID:OndLLrqS
「……わかった。貴卿の部下たちは、我が隊でたしかにお預かりする」
 娘が、あからさまにほっとした顔になった。
「ありがとうございます」
 胸の前で剣をささげ持ち、礼をとる。
「貴卿に武運を」
 告げて、背を向けた。わずかにほほえんだ気配があって、娘は
うなずいたようだった。
「あなたも」
 その声をかき消すように、ひときわ大きな破砕音がひびいた。
 門が破られたのだ。
「本隊はこれより戦線を離脱、ジュノ大公国まで撤退する!」
 動揺する兵たちのざわめきを払いのけ、腹の底から声を張りあげる。
「魔力の残っている者は癒しの技を! 動けぬ者には手を貸してやれ!」
 両手の指で足りるほどに数を減らした部下と、自分の腰までの
背丈もないタルタルたちをせきたて、アルテュールは走りだした。
「………出でよ、聖なる光よ」
 揺れる甲冑の音の合間をすり抜け、娘が精霊を呼ぶ声が聞こえた。
しばらくの間をおいて、背にしていてさえ、一瞬視界が白く染まる
ほどの閃光が届いた。
 とっさに立ちどまりそうになる足を叱咤して、走りつづける。
 騎士たる己が同胞を置いてただ逃げおちようとしている事実に、
知らず噛みしめたくちびるからは鉄さびた味がした。
 だからこそ。
「隊長、前方に!」
 先頭を行く従騎士が警告の声を上げた。風の精霊を従え、あるいは
異国の刀をたずさえ待ちかまえるヤグードたちの姿を見て、いっそ
自分は安堵したのだろう。
「……先に行ってくれ。はぐれ鳥の相手など、私ひとりで十分だ」
 うそぶき、剣を抜いた。
 返される答えを待つことなく、アルテュールはそのまま漆黒の
羽根を持つ異形へと突進した。

91 :暁のひとみ 7:08/04/06 00:34:23 ID:OndLLrqS
 東方風の赤い鎧をまとった獣人が、その太刀を振りあげた。身を
低くして駆けるアルテュールを迎えて、白刃が空気を切り裂く。
 そのふところへ飛びこみ、刀をにぎる腕を内側から盾で打ちすえる。
空いた胴体へと横なぎに片手剣を払った瞬間、獣人は骨ばった足で
地を蹴って、おおきく後ろへ飛びすさった。
 黒い羽毛がちぎれて宙を舞う。
 それが落ちるのを待たず踏みこみ、斬撃を重ねた。今度こそ、深く
肉を絶つ感触。
 くずおれた相手を飛びこえるようにして、肩をいからせ羽を
ふくらませた小兵が間へ飛びこんでくる。
 ぎぃんと耳障りな音がした。その両手にかまえられた鉄色の鋭い
小刀、空中から交差するように振りおろされた二本の軌跡をとっさに
体へ引きよせた盾で防ぐ。
 押しかえす力と反動で、後方へ着地した小兵がたたらを踏んだ。
間髪入れず、体重を乗せて刺突をかける。アルテュールの剣を、体勢の
ととのわぬ相手は羽ばたくように広げた腕で迎えいれた。
 抵抗なくその胸もとをつらぬいた刃に驚愕する間もなく、抱きとめる
ようにふわりと両の翼が降りた。
 肩口に走った鋭い痛みに息をのむ。鎧の継ぎ目に突きたてられた刀が、
ずぶずぶと己の身に沈んでいく。
「………ッ!」
 間近に見た敵兵の黒いひとみには、狂信者じみた熱が宿っている。
 そうだ、彼らヤグードこそ、アルタナの民には理解できぬ教義に
命を捧げ惜しまぬ者たち……殉教をもって美徳とする種族ではなかったか。
 とっさにその腹を蹴ってふりほどこうとするも、突然のかまいたちが
敵兵の痩身ごと己を包んだ。
 やけどの熱にも似た痛みが四肢をおそう。一瞬、視界が、舞いあがる
黒い羽と霧のように漂う血とでふさがれる。
 渾身のちからをこめて、ボロのようになった敵兵を振りはらい、
剣をかまえる。
 炯々とひとみを光らせた魔道士らしきヤグードが、そのかぎ爪で
こちらをぴたりと指した。
 かたわらでゆるゆると輝く風の精霊が、まとう微風を徐々に
荒々しいものへと変化させていく。

92 :暁のひとみ 7:08/04/06 00:35:36 ID:OndLLrqS
「うおおおおおお!」
 吼えて、アルテュールは駆けた。ほおを、腕を、風が深く切り裂く。
 力まかせに剣を振りおろした。鴉めいた悲鳴とともに、ヤグードが倒れる。
 溶けるように消えた精霊を見届けた、そのとたん、肺腑の奥から
生温かいものがこみあげた。
「………ッ」
 片膝をつく。ごぼりとのどが鳴った。むせ返った反動で、剣を
たよりに支えた上体がくずれ、血だまりへと崩れ落ちた。
 目がかすむ、と思った次の瞬間には、すうと視界が暗くなる。
 遠のきかけた意識をひきもどしたのは、遠い剣戟と、悲鳴の
ような鬨(とき)の声だった。
 倒れている場合ではない。行かなければ。起き上がろうと
もがいて、ほんの少しも身体が持ちあがらないまま、のどの奥から
金臭い味がこみあげる。
 ざらついた地面を掻いて、指先に力をこめた。利き手には、なじんだ
剣の感触がある。
 断末魔の叫びが、また遠くでひびく。甲高い、嗚咽まじりの声が命を乞う。
 その声を途中で断ち切る鈍い音。
 やめてくれ。わめこうとして、のどからかすかに空気の漏れる音がした。
 もう一度起きあがろうともがいたが、切り裂かれた四肢は言うことを
聞かなかった。血液とともに、力も抜けてしまったかのようだ。
 抵抗する思いと裏腹に、意識はゆっくりと遠のいていった。



93 :暁のひとみ 7:08/04/06 00:36:35 ID:OndLLrqS

 どれほど時が経ったのだろう。
 ふたたび意識を取り戻したとき、視界は闇に閉ざされていた。
 目を開こうとする。けれど、まぶたの動く気配がない。
 恐慌を起こしかける精神を押さえつけ、必死に耳を澄ませる。
 剣戟どころか、胸かきむしる悲鳴も絶えている。灼けつく四肢の
痛みすら嘘のようになくなっていた。そのすべてに、かえって寒気が
こみあげる。
 必死に意識を凝らして、身体の状態を探ろうとする。利き手の指先に、
わずかに感覚があった。
 ……ただの錯覚かも知れない。
 そう思いながらも、手のなかの剣の、冷たい感触にすがる。

 真っ暗で何も見えない。聞こえないんだ。誰もいないのか。
 教えてくれ、戦はどうなった。要塞は落ちたのか。私は、彼らの
うちただひとりでも、救うことができたのか。
 誰でもいい……答えてくれ!
 闇へ問いつづける声が音となっているのか、そうでないのかさえ
わからない。
 身体のそれとともに、時間の感覚も失せていた。もう何年も
こうしているような気すらしてきている。
 ……私は、いったいどうなってしまったのだろう。
 戦は終わったのだろうか。
 サンドリアは……私の国は……
 脳裏に、あざやかな森の翠がよみがえる。
 涼しい葉ずれの音、木洩れ日のあたたかさを、音を拾えぬ耳、
何も感じぬ肌で思いえがいた。
 虚ろに食われかけた胸のうちに、願いが灯る。
 ああ、もしも叶うのならば、帰りたい。
 緑なす彼の地、私の国へ……
 帰りたい……。



94 :暁のひとみ 7:08/04/06 00:38:11 ID:OndLLrqS

 ぞっとするような悪寒に、ローファルは毛布をはねのけ飛びおきた。
 とっさに剣を身体へ引きよせようとして、背筋が冷える。手の
ひらには何の手ごたえもなかった。さきほどまでこの手ににぎって
いたはずなのに。
 混乱してあたりを見まわしたところで、記憶の齟齬に気づいた。
 ゆっくりと、こぶしを作っていた手を開く。薄闇の中、視線を
落とした先にあるのは、いくつもの弓だこを作った指だ。狩人を
生業とする自分が、剣などたずさえているはずもないのに。
「いまのは、……夢か?」
 思わず、口に出してつぶやいていた。
 凍るような暗く冷たい虚無が、妄執じみた願いが、身の内を
這いまわる感覚。ただの夢と言うにはあまりに生々しいそれに、
ローファルはわずかに身ぶるいをした。
 寝なおす気にもなれず、寝台から降りる。窓にかかった薄布を払った。
 夜明けが近いのだろう。二階の窓からは、白みかけた東の空がよく見えた。
 扉口のランプをつけようときびすを返したところで、耳を打った鈍い
金属音に、ローファルは背筋を伸ばした。
 ……何だ?
 外から聞こえたそれに、窓辺から暗い街路を見おろす。
 音は続いていた。澄んだ剣戟ではない。不規則に、金属製の何かを
引きずるような、耳ざわりな音。
 目をこらした先、視界のすみで、小さな人影が街路の角を曲がるのが見えた。
 見間違いかもしれない。けれど、嫌な予感を抑えきれず、手早く着がえて
ローファルは部屋を出た。
 こんな時間だ。隣室の彼女はまだ眠っているだろう。そのはずだ。
「悪い、入るぞ」
 声をひそめて、扉を開ける。
 まず目に入ったのは、開かれた窓。吹きこむ風に揺れるカーテン、
しわの寄ったシーツと、空っぽの寝台。
「冗談よせよ……くそッ」
 思わずうめきがもれた。舌打ちをして、窓を乗りこえる。桟に手を
かけ、邸の外壁にぶらさがるようにしてから庭へと飛びおりた。
 屋敷の生垣を飛びこえ、街路へ出る。そのまま、人影の消えた方向
へとローファルは走った。

95 :暁のひとみ 7:08/04/06 00:39:00 ID:OndLLrqS
 焦るな。半病人の足だ、追いつける。
 はやる気持ちを抑え、立ちどまって耳を澄ます。途切れ途切れの音を
ひろって、また駆けだした。
 槍兵通りから裏路地へ。両脇におおいかぶさる民家は静まりかえって
いる。路地の出口近くまで来て、前方をふわふわした足取りで進む
仲間の姿が目に入った。
「おい、リピピ!」
 抑えたつもりの声は、夜明け前の石畳に思ったよりも高くひびいた。
 娘が立ちどまった。ふり返る。
 安堵とともに、ローファルは足取りをゆるめた。
 こちらを見ている彼女の表情は、表通りから差しこむ街灯の明かりを
背にして陰になっていた。
 その小脇には、ほどけかけた包帯の絡んだ剣。地に引きずられた
切っ先から、長く伸びた影がローファルの足もとまで伸びている。
「どうしたんだよ、こんな時間に……」
 すっと、リピピの片手が上がった。なめらかに印を切る。
「かの……に……眠りを……」
 とぎれとぎれの、小さな声が届いた。
「…嘘だろ?」
 唖然とするうちに呪言が完成する。唐突な睡魔に襲われ、ローファルは
ひざをついた。
 体を起こしていられない。崩れおちながら必死にかすむ目を凝らす。
 見つめるローファルの視線の先で、何事もなかったかのように歩き
だしたリピピは、そのまま暁闇に姿を消した。


96 :暁のひとみ 7:08/04/06 00:40:00 ID:OndLLrqS
「………おい……おい」
 男の声と、ゆさぶられる振動に、ローファルは目を開けた。
「こんなところで寝るんじゃない。身ぐるみはがされてもしらんぞ、酔っ払い」
 巡回兵らしき男が、倒れた自分の腕に手をかけていた。その肩ごしに
見える空はまだ暗い。
「ああ、やっと起きたか。まったく、いくら王都の治安が良いと言ってもだな…」
 ひざをついていた兵士が、呆れ顔で立ちあがりかけた。
「待ってくれ」
 とっさに、ローファルはその腕をつかんで問いかけていた。
「あんた、剣をひきずって歩いてる妙なタルタルを見かけなかったか」
「ああ? 剣を持ってたかどうかまではわからんが…タルタルなら、
しばらく前に西門のほうへ歩いていくのを見たな。…何かあったのか」
 途中から怪訝そうな顔つきになった相手に、ローファルはあわてて
首を振った。
「いや、なんでもない。ありがとう、助かった」
 半身を起こしたとたん、眩暈がした。魔法の眠りを途中で破ったからか。
 ふらつかないように、ローファルはゆっくりと立ちあがった。
 背後に巡回兵の視線を感じながら、焦る気持ちをこらえて歩きだす。
 魔法を受けたことを、兵士に悟られるわけにはいかなかった。
 正当防衛を除き、人間に対する攻撃魔法の使用はご法度だ。
 それはもちろんアルタナ四国共通の取り決めだったが、強い
魔力を持つ者への畏怖や偏見が根強いこの国においては、特に厳罰が
下される傾向にある。そんなことは、リピピも重々承知しているはず
なのに、なんだってあんな真似を。
 混乱を引きずったまま路地から出ると、西門前の屋台が並ぶ通りに出た。
 ここからさらに東へ行けば凱旋広場だ。広場へ向かったのか、
それとも西門へ行ったか。判断に迷って、ローファルは立ちどまった。
 あの室内着のようないでたちでは、門番に見とがめられるだろう。
 耳を澄ませても、西門の方向でさわぎが起こった気配はない。
見切りをつけ、広場へ向かおうと走りだしかけたところで、目の
はしに映った人影にローファルは足を止めた。

97 :暁のひとみ 7:08/04/06 00:40:27 ID:OndLLrqS
 門へと続く通路から少しはなれた位置に、王都を囲む防壁の
一部を切りとってぽっかりと開いた階段がある。防壁の上へと
登るためのものだ。
 その入り口に立つ神殿従騎士が、不自然な姿勢で壁へよりかかっている。
 そのそばへと寄って見れば、ぐっすりと眠りこんでいる様子だった。
「……おい」
 声をかけても反応がない。ただのうたた寝ではない熟睡ぶりに
ひやりとしながら、肩に手をかけ身体をゆさぶった。
 はっと従騎士が目を開けた。抱えていた槍を取りおとしそうに
なって危なっかしくよろめく。
「うわ、すみません隊長! 起きてます起きてます! ……って」
 寝ぼけ顔でわめきかけた途中で、目の前に立つ人間を正しく認識
したらしく、男は言葉を切った。わずかな沈黙の後、顔を赤らめ
早口でつづける。
「なんだ、冒険者か。いや、その、さぼってたわけじゃないぞ。
なんだか急にありえないほど眠くなっちまって……いやいや、
寝てなかったけどな!」
 こいつは、自分が眠りの魔法をかけられたことに気づいただろうか。
見さだめようと凝視する視線を、相手は勘違いしたようだった。
 気まずそうな顔で問いかけてくる。
「いやあ、まあ、なんだ、……黙っててくれよな」
「ああ、告げ口なんてしやしないさ」
 どうやら大丈夫そうだ。内心安堵しつつローファルが言うと、
男もほっとした顔になった。
「寒い中ご苦労さん」
 かるく聞こえるように言って横をすり抜け、階段へと足をかける。
 止められるかと思ったが、先ほどのやり取りのせいだろう、男は
何も言わなかった。

98 :暁のひとみ 7:08/04/06 00:41:18 ID:OndLLrqS

 防壁の上を、一陣の風が吹きぬける。
 夜明け前の街は、美しい青に沈んでいた。遠くには、影絵めいた
凱旋門の尖塔が見える。
 通路のへり、エルヴァーンの腰の高さほどの石組みの上に、街を
見おろすようにしてリピピは立っていた。
 その姿は、まるで彫像になったかのように動かない。声をかけよう
として、ローファルは息を飲んだ。
 小さな身体の後ろに、背の高い男の透きとおる影が見えたのだ。 
 つばを飲みこみ、今度こそ声を出そうとしたその時。
 東の空、街並みと接するその境目がすうっと白くなった。
 こぼれだした金色の光が、朝もやに沈む王都を照らしだす。
 濃紺の空が、みるみるうちにその色を淡くしていく。
 あざやかな群青から、明るい青。そして透きとおるすみれ色へ。

(帰って、きた……)
 風の音にも似た、かすかな声がした。
(無事だったのだ。この国は、この街は……)
 立ちつくすリピピの目から、ぽろりと涙がこぼれた。あごを
伝って、はるか下へと落ちていく。
 ゆっくりと顔を仰向かせた彼女のひとみが、空の色を映して、
暁のすみれ色に染まる。
(帰って……私は、かえってきた……)
 ささやく男の銀色の髪が、長身が、光のなかに熔けていく。
 リピピの手のなかの剣が、さあっと砂のように崩れおちた。



99 :暁のひとみ 7:08/04/06 00:42:13 ID:OndLLrqS
 リピピはゆっくりと目を開けた。
 背中の下に、マットレスの感触がある。気だるさと鈍痛が心身の
不調を訴えた。
 目に差しこむ白い陽光に、思わずつぶやく。
「まぶしい……」
 ふっと目の前が暗くなった。
 光がさえぎられたのだと気づいて、リピピはぼうっとまばたきを
した。誰かが自分の上におおいかぶさるようにして、こちらを
のぞきこんでいた。
 背中に光を受け、その輪郭が銀のかがやきを帯びる。
 ああ、とうめいた。つんと鼻の奥が痛くなる。
「……だいじょうぶ……あなたの声、聞こえましたから」
 重い体を叱咤して、リピピは腕を上げた。手を伸ばす。
「帰りましょう? いっしょに……」
 その手をにぎりかえされる。痛みを感じるほどの力に、ぼんやり
していた頭が動きだす。
 リピピは自分をつかんでいる手を見つめた。健康的な、日焼け
した腕だ。
「…………?」
 腕からたどって視線を上げていけば、見知った顔が見おろしていた。
「おい。……大丈夫か」
 低く問いかけてくる、聞きなれたその声色にリピピは我に返った。
「え、……ファルさん?」
 つづけて何かを言おうとしていたローファルが、飛びこんできた
影に押しのけられ視界から消えた。
「ちょっ、おまえな…」
「リピピ!」
 あっけにとられたリピピを、寝台に飛び乗る勢いでのぞきこんで
きたのは、顔を真っ赤にした妹だった。
「タ……タチナナ……!」
 ほんとうに久しぶりに見る、元気な姿にひとみがうるむ。
「このばか! 何考えてるのよ! ああもう信じられない!」
 いきなり叱りとばされて、こみ上げた涙が引っこんだ。怒りゆえ
だったらしい赤い顔で、妹は言いつのる。
「あんたね、常識的に考えて、赤の他人にハイどうぞって身体
明けわたすとかありえないでしょ!? ほんっともうもう、もう…!」
「え、でも、あの、その……」

100 :暁のひとみ 7:08/04/06 00:42:57 ID:OndLLrqS
「はいはいはい、とりあえずそのへんにしといちゃどうだい、お嬢さん」
 割りこんだフェッロが、ひょいと後ろからタチナナの体を持ちあげた。
「ちょっと、何するのよッ!?」
「まあまあ、落ちついて」
 かるい口調で言いながら、すとんと床に降ろす。そのままタチナナの
頭をぽんぽんと叩いている男に感謝すべきか、それとも止めてくれる
ように頼むべきか、迷いながらリピピは口を開いた。
「あの、フェッロさん……」
「いやあ、まったく、俺としたことが読み誤ってたみたいで、
申しわけない。あっちが本命だったとはなあ。……つまり、そういう
ことだったんだろ?」
 苦笑混じりに言うフェッロに、反射的にリピピはうなずいていた。
「わかんねえよ。つまり、どういうことなんだよ」
 むすっとした声が落ちてくる。タチナナに押しのけられ、腕組みを
して立っていたローファルの後ろでタキがほほえんだ。
「事情はさておき、二人とも目を覚ましてくれて本当によかった。
…どうぞ。のど、乾いてませんか?」
 グラスを差しだされ、リピピはゆっくりと半身を起こした。タキの
グラスを持たないほうの腕が、起こした背中に枕をはさみこむ。
「ありがとう、いただきます」
 受けとった冷たい水を飲みほす。人心地ついたところで、答えを
待つようにこちらを見おろしているローファルに気づき、リピピは
あわてて口を開いた。
「ええと、その……つまりですね」
 焦ってことばを選んでいるうちに、ようやっとフェッロの手を
ふり払ったらしきタチナナが、鼻息あらく引きついだ。
「イビルウェポンってモンスターがいるでしょう。あれと同じよ」
 ローファルが露骨に嫌な顔をした。
「つまり……最初から、あいつはタチナナに取り憑いてたわけじゃ
なく、剣に宿ってそれを手に取った者を操ってたってことか?」

101 :暁のひとみ 7:08/04/06 00:43:23 ID:OndLLrqS
「操っていた、というのとは……少し違うんですよ」
 そっと、リピピは言いそえた。
「現に、ローファルさんはジュノからの道中ずっと、あの人の
剣を持ち歩いていても平気でしたよね?」
「ああ、…まあな」
「ほんとうに必要なのは、物理的な接触じゃなくて……気持ちが
重なることだったんだと思います」
 目を閉じて思いだす。それだけで、よみがえる感覚に指先から
冷たくなっていくような気がした。
「夢を見たんです。暗いところで、たったひとりで、ずっと
取り残されている人の夢。だから……」
「ああ、もういい」
 ローファルの深いため息が聞こえた。目を開けて、その
ため息の主を見あげる。ローファルはかたく目を閉じ、鼻先に
しわを寄せたしかめ面になっていた。自然、首がうなだれる。
「その……みなさんには、心配をかけてしまって」
「本当にそうよ。心の底から反省しなさい!」
「……ごめんなさい」
 妹の憤然たる声に打たれ、さらに頭が下がっていく。その
上から、もう一度深いため息が降ってきた。
「俺もな、……たぶん同じ夢を見たんだよ」
 おどろいて、リピピは顔を上げた。目が合うと、こちらを
見下ろすローファルの眉根がわずかにゆるんだ。
「あいつを送ってやれたってんなら、苦労の見返りとしちゃあ
十分だろ。……俺は、そう思う」
 ぽん、と頭におかれた手はあたたかかった。
 ふいに、目の表面が熱くなる。
 うなずくふりでうなだれて、リピピはこみ上げる涙をこらえた。



102 :暁のひとみ 7:08/04/06 00:44:09 ID:OndLLrqS
 修道院の墓地のかたすみ、日当たりのよい草地に穴を掘る。
 草いきれと湿った土のにおい。手首が入るほどの深さまで掘り
さげ、黒々とした土の上に、ミシェルはしゃがみこんだ。
 ふところに収めてきた布包みをそっと開く。
 中に収められていた赤さびた砂は、さらさらとして、今にも
風に溶けてしまいそうだった。おそらく、ミシェルが防壁の上に
残されたそれをかき集めるまでの間にも、いくらかはこの国の
どこかへと飛んでいってしまったのだろう。
 慎重に布をかたむける。さあっと静かな音がして、砂は穴へと
すべり落ち、黒土をうっすらと赤く染めた。
 土をかぶせてしまうのがためらわれて、しばらくミシェルは
その様を見つめていた。
「何をなさっているんですか?」
 背後からの声に、はっとミシェルは顔を上げた。立ちあがろう
として、声をかけてきた者が、しゃがんだ自分とほぼ変わらない
背丈の持ち主であることに気づく。
 視線が合って、タルタル族の女性がにこりとほほえんだ。その
後ろには、やはりタルタル族の男性が憮然とした顔で立っている。
「ああ、驚かせてしまったようですね。ごめんなさい。怪しい
者じゃありません、ただのお墓参りですから」
「……こちらに、どなたかお知り合いが?」
 思わず、ミシェルは問いかえしていた。この墓地に葬られて
いるのは、エルヴァーンばかりであるはずだ。
「ええ、その……ほんとうに、こちらに葬られているのか
どうかは、わからないのですけど」
 彼ら特有のあどけないおもだちに不釣り合いな微苦笑を
のぼらせ、女性は答えた。まったく、と男の方が悪態をついた。
「閣下をお待たせしてまで寄るところがあると言うから何かと
思えば、おるかおらぬかも知れぬ首長の墓参とはな」
 居丈高な物言いに、思わずミシェルは男の姿を改めた。
緑がかった上質のビロード生地のコートはどうやら軍服である
らしく、その肩口には勲章がかざられている。

103 :暁のひとみ 7:08/04/06 00:45:35 ID:OndLLrqS
「大戦では、ともに戦った仲間でしょうに。あなただって、
カルゴナルゴでは彼らのおかげでよほどの命拾いをしたのだって
聞きましたよ」
 見れば、女性のほうも金糸でこまかな刺繍をほどこされた
魔道士用のクローク姿だった。たしなめる口調に、ふんと
男が鼻を鳴らす。
「そなたの酔狂にはつきあいきれん。先に行っておるからな」
 靴音高く歩きさった背中を見送って、いくぶん悲しげに
女性はほほえんだ。
「……すみません、連れが失礼を」
「いいえ、お気になさらないでください。もしかして、戦で
亡くなった方のお参りにいらしたのですか?」
 ならば、たしかにここにはかつての大戦で命を落とした
軍人たちが数多く眠っているし、慰霊碑もある。
 ええ、と女性はうなずいた。
「私の仲間を何人も、死地から救ってくださった方なんです。
戦地ではぐれたきりになってしまって、その後ずいぶん安否を
尋ねもしたのですが、消息知れずのまま……。あのころは、
どこも混乱していましたからね。あの方がどちらへ葬られたのかも
わからずじまいで。サンドリアへは軍務で来たのですが……」
 わずかに、女性は目を伏せた。
「……せめて、この地で祈りを、と思いまして」

104 :暁のひとみ 7:08/04/06 00:46:37 ID:OndLLrqS
「そうでしたか」
 ミシェルは手もとに目を落とした。
 黒々としていた土は、日ざしに乾いて白く色を変えはじめている。
「ちょうど、大戦で亡くなった方を弔っていたところなんです。
……その方が我が身とも思っておられたのだろう遺品が、ようやく
戦地から戻ってこられたものですから」
「……私も、その方のためにお祈りをしても?」
「ええ、もちろん」
 ミシェルは、おずおずと問いかけてきた女性にうなずいた。
「祈りは、死者にとってなによりの慰めです。あなたが想う
方のところへも、きっと、アルタナ様が届けてくださいますよ」
「そうであればよいのですが」
 女性はわずかにほほえんで、草地に膝をついた。両手で深く
かぶっていたフードを払い落とすと、その髪を結いあげた
花飾りを取って砂の上にのせる。
「……あなたの魂が、どうか、女神のもとで安らかにありますように」


 昼下がりの墓地に、おだやかな風が吹く。
 ほどけた緋色の髪が、陽光を受けてやわらかくかがやいていた。




105 :暁のひとみ :08/04/06 00:50:18 ID:OndLLrqS
すばらしい書き手さまがた、さらにアルタナディスクの出来に
触発され、ようやく一つの文章として完結させることができました。
6を書き込みさせていただいたのが年明け早々でしたから、前回から
だけを見ても3ヶ月ぶりですね……。
ほんとうにだらだらと時間をかけての作となってしまいましたが、もしも
始めより通してご覧になってくださっている方がいらっしゃいましたなら、
心よりのお礼を申し上げたいと思います。

106 :(・ω・):08/04/08 08:06:30 ID:rWCib5gu
キター!

107 :BeniBana:08/04/09 21:05:49 ID:MCr5fBVR
>暁のひとみ
剣となって帰った男の物語。題名となったあのシーンで召された彼に安らぎあれ。
完結おめでとうございます。

いや、戦闘シーンカッコイイですね。負傷と瀕死の描写が良くて、無念さが強く
伝わってきました。

108 :風の往く道 :08/04/18 02:09:09 ID:tNC5S0oQ
Wind Climbing −風の往く道− 3

フィーとパナムは、バルクルム砂丘のただなかにある港町、セルビナで出会ったそうだ。パナムの用事で、コンシュタット高地から入る、グスゲン鉱山を探しているらしい。
「なんでもねえ、そこにある土は、ある種類の陶器を作るのに最適なんだそうですよ。ぼくとしては、学術的興味をそそられるじゃありませんか。で、汽船に飛び乗って、マウラからセルビナにやってきたわけです」
「マウラ?それって……」
ミアは頭の中で、素早く知識のページをめくる。
マウラは、セルビナと対にされる港町の名前だ。確か、ウィンダス連邦のあるミンダルシア大陸にあると聞いている。
「それじゃお二人は、海を渡ってきたんですか?」
「いや、僕はサンドリア出身だよ。パナムとは、セルビナで合流した……というか、引っ張り出されてきた、の方が正しいかもしれない」
フィーがそこで、大きくため息をついた。いらだたしさを隠そうともせずに、がりがりと頭をかく。
「だいたい僕は、ホラの岩近くで修行している修行僧に、風の経典を届けに行くつもりでいたんだ。それがどういうわけか、バルクルムについてしまって。セルビナへは、食糧と水の補給のために立ち寄っただけなのに、どうしてこんなことになったんだか……」
「これは心外な。方向音痴のきみを正しく導くかわりに、ぼくの護衛を引き受けたのはフィー君、きみでしょう?責任転嫁はいけませんよお」
「僕が行きたかったのはラテーヌ高原!ここは、コンシュタット高地!まったくの正反対じゃないかっ!」
「……ようするに、お二人とも方角には自信がないということですか……」

109 :風の往く道 :08/04/18 02:12:20 ID:tNC5S0oQ
すいません、wikiに書くつもりで失敗してしまいました!
ずっと書いていなかったので忘れられてるとは思いますが、
一応アップしてみます・・・お目汚し失礼しましたorz

110 :銀の鎖 :08/04/19 23:19:04 ID:xGAnOuoy

 私が年のはなれた腹違いの妹の存在を知ったのは、流行病で亡くなった
父の遺品を整理していて見つけた、一通の古い恋文からだった。訪ねた
手紙の差出し元には、病みおとろえたエルヴァーンの女性と、あどけない
目をしたこどもが住んでいた。
 その年の冬に女性はこの世を去り、我が家に迎えいれられた幼い彼女は、
これ以上は望めぬほどによくできたこどもだった。家庭教師が舌を巻く早さで
与えられた知識を吸収していく聡明さ。そうしてそれをひけらかすこともなく、
常に控える謙虚さを、私は愛した。
 ……愛していたのだ。

111 :銀の鎖 :08/04/19 23:23:44 ID:xGAnOuoy
「兄さま」
 背中に受けた呼びかけに、登りかけた階段の半ばで、ゆっくりと私は
ふりかえった。
 踊り場から見おろしたホールの中央に立って、娘がこちらを見あげている。
窓からの陽光を受けて、その身にまとう鉄色の鎧の鈍いかがやきが目を刺した。
「もうしわけありません。……やはり、わたしは、彼と行こうと思います」
 澄んだ声が、エントランスホールの高い天井に反響した。
 亡き父と同じあわい銀髪はきっちりと結いあげられ、あらわになったほそい
首ばかりが目立つ。じっとこちらを見あげる娘の視線に、私は口を開いた。
「……いったい、この家の何が不満だと言うのだ」
 吐いた声音は、かすかにしわがれて耳に届いた。ひとつ大きく息を吸い、
私は声に力をこめる。
「おまえに必要なものならば、何であろうと与えてきたつもりだ。…この家の
娘として、最高の教育に、淑女たる立ち振舞い。エセルリーダ、おまえの望む
ように、剣術も、果ては癒しの技さえ学ばせてやったというのに」
「……感謝しています、兄さま」
 返った声音は沈鬱ながらそこに迷いはなく、娘の心変わりはないと知れる。
 私はきつくくちびるを噛んだ。
「そのように口先ばかりありがたがってみせながらおまえは、……どこの
生まれともしれぬヒュームやら、ろくでもない流れ者たちとつきあったあげくに、
冒険者になるなどと。愚かしいにもほどがある」

112 :銀の鎖 :08/04/19 23:24:31 ID:xGAnOuoy
「フェッロを……わたしの仲間たちをそんなふうに言うのは、やめてください」
 しずかにうつむいて、娘はその指を、鎧の襟首へと伸ばす。
 金属のふれ合う澄んだ音がして、その胸もとから、一族の紋章をかたどる
ペンダントが引きだされた。
「お返しします。……わたしは、この家の者ではなくなるのですから」
「その必要はない。すぐにおまえは己の過ちに気づき、ここへ戻ってくることに
なるだろう」
 外したペンダントを手に、一歩こちらへ踏みだした娘に私は背を向けた。
「……庶子のわたしを引き取り、この身には過ぎるほどの教育をくださったその
ご恩も返さず出て行くことを、もうしわけなく思っています」
 私はふり返らなかった。背中の向こうで、娘は悲しい顔をしただろうかと思われた。
「……どうか、お元気で。兄さま」

 重々しく閉まる扉に重なって、ちりん、とペンダントの鳴る音がひとつ。
 がらんどうのホールにひびいて消え失せた。



 どれほど聡明であろうとも、所詮はこの家に庇護されて育まれた、世間知らずの
花に過ぎない。出て行ったとて、頼る者もない場所で、何もできぬ己に気づき、
打ちのめされて今に帰ってくる。
 私はその日を待っていた。
 昨今は、オークの郎党がこの王都近くまでさまよい出ているらしい。親戚筋からも、
新たに騎士として任じられる若者が幾人か出ている。あの娘が望むならば、任官を
許してもよいだろう。
 私は、なじみの鍛冶屋に我が家の紋章を刻んだ盾と騎士剣の仕立てを依頼した。

113 :銀の鎖 :08/04/19 23:25:19 ID:xGAnOuoy

 天気のよい、春の日の午後だった。
 エセルリーダの部屋の壁に掛けた盾が、にぶくその色をくすませてきているのに
気づき、私は眉をひそめた。
 下働きの者に、磨きをかけるよう言いつけておかなければ。
 家令を呼ぼうと回廊へ踏みだしたところで、エントランスから人の話し声が聞こえた。
 客を招いたおぼえはない。
 私は耳を澄ませて、ちりん、と懐かしい銀の音色を聞いた。

 ゆっくりと、一歩ずつ足を進め、エントランスホールに降りる。
「エセルリーダ……?」
 私の呼び声に、扉口に立っていた家令がふりかえる。彼と対峙していたのは、
見知らぬ黒髪のヒュームだった。魔道士風の装束はくたびれ、もとは白かったろう
それが黄ばんで見える。
 眉をひそめ、私はその男の前へと歩み寄った。
 男はおどろいたようにその目を見開くと、ふかぶかと頭を下げた。
「……おひさしぶりです、ローラント卿」
 意外なことばに、私はまじまじと男を眺めた。
 そうして、ようやく思いあたる。サンドリアの正教会で、エセルリーダとともに
白魔法をまなんでいた男だ。そうだ、忘れられるはずもない。この男の旅立ちに
連れだって、あの娘はこの街を出て行ったのだから。
 冷ややかになる口調を隠さず、私は問うた。
「……さすがはヒューム、といったところか。この邸に臆面もなく訪れるとは、
まったく面の皮の厚いことだな。エセルリーダはどうした?」
 男は顔を上げた。沈んだ目が私を見つめ、その引き結ばれていた口もとが開かれる。
「エセルリーダは……」
 かすかにためらう気配の後に。
「……俺は、これを届けにきたんです」
 さしだされた手がにぎった鎖、その先で、銀の紋章がゆれていた。

114 :銀の鎖 :08/04/19 23:26:13 ID:xGAnOuoy
 私はひとつ、ふたつまばたきをした。
「…………そうか」
 差し出されたものの意味する事実が、ゆるやかに胸へ落ちていく。
 指を伸ばした。男の手から、ペンダントを受けとる。
 かるく息を吸い込んだ。
「己の力量もわきまえず、家名を捨てた挙げ句に不名誉な死を遂げるとは。
まったく、愚かな娘だ」
 くるりと背を向ける。
「……待ってください!」
 かまわず、私は歩みを早めた。男の強い声がしたたかに背中を打った。
「エセルは! 彼女は最期まで、騎士の名に恥じないだけの……!」
 私は足を止め、ふり返った。男の戯れ言をさえぎって告げる。
「冒険者の僭称する騎士の名に、いったいどれほどの価値がある」
 男が、かっとそのほおを紅潮させた。
「な……っ」
「それで、あれは何を守ったと? ぬけぬけと私の前に立つ、やくたいも
ない白魔道士の命か」
 視線の先で、男の顔がゆがんだ。握られかけたこぶしが力を失い、やがて
だらりと体の横に垂れる。
 私は、そのさまを感慨もなく見守った。
「我が家の紋章を持ち帰ってくれたことには、礼を言おう。……用件はそれだけか?」

115 :銀の鎖 :08/04/19 23:26:51 ID:xGAnOuoy
 私は、うなだれたままの男を置いてホールの階段を上った。そのまま娘の部屋
へと足を向けた。
 中に入って、ゆっくりと後ろ手に扉を閉ざす。娘の出て行った日そのままにして
ある部屋は、やわらかな春の日ざしに満ちていた。
 その光の一片を受け、鈍くかがやく盾に手を伸ばす。両の手でかかえて、卓の上
へと降ろした。
 くすんだ銀の表面を、じっと見つめる。

「……愚かな、娘だ」

 おおきな目をしたこども。
 年を重ねるに従って、そのひとみはあどけなさを失って、沈んだ色を深めていった。
 この場所で、おまえは不幸せだったのか。
 そんなことを考えようともしなかった私こそが、おまえの命数を縮めたのか。
 この国の外で、幸せを取り戻せるだけの時を、生きたのか。
 どれほど答えを請おうとも、問いかけに答えるべき者はもはやいないのだ。

 指から、するりと銀の鎖がすり抜ける。
 がらんどうの部屋の、床の上。転がったペンダントが、ちりんと澄んだ悲鳴を上げた。




116 :銀の鎖 :08/04/19 23:27:50 ID:xGAnOuoy
「背中合わせの明日」「暁のひとみ」の二作で書かせていただいたメンバーの、
次の物語とのつなぎ、ということで。
出てきた二人の名前にご記憶のある方がいらっしゃるかどうか。「暁」のなかで
ちらっと登場していた、ミシェルの従兄妹たちです。
次、こちらにお邪魔できるのがどれくらい後になるかはわかりませんが、
自分のなかにあふれる物語を最後まで書ききるべく、筆を進めています。
カンパニエ待ちの間とか。
……遅筆になる一番の原因は、やっぱりヴァナな気がしますね。

>Benibanaの作者様
息もつかせぬ迫力ある戦闘を書かれる方にカッコイイと言っていただけると、
嬉しいやら恥ずかしいやらで……!
格好良さでも物語の読み応えでも他の追随を許さない、Benibanaの続きを
一読者として心よりお待ちしています。
ニコニコ動画の曲、聞いてみました。確かにイメージが重なりますね。
曲自体もとても綺麗で。BGM用にマイリスト追加しました!

>風の往く道
Wikiにて拝読しました。
うわあ、すごく、懐かしい…! でか羊に踏みつぶされたり、おっかなびっくり
グスゲンに潜ったり、何をやっても新鮮だった頃の空気を久しぶりに吸いました。
忘れられた鉱山での冒険譚、楽しみにしております。

117 :(・ω・):08/04/21 12:35:59 ID:pwHLfqYu
あれ?書き込めてないや。

>>銀の鎖
出だしだけでかなり引き込まれました。
うp期待してます!

118 :(・ω・):08/04/30 03:37:32 ID:6konsgs2
wikiの「流行り神inFF」のトップページが、
ワナっぽいブログの宣伝に書き換えられたあと、まるごと
削除されてしまいました。
暫定でトップページを作りましたが、元の版にもどせる方が
いたら、復活させてもらえればと思います。

119 :GoVD:08/05/02 14:59:57 ID:XSYny4/Y
Gangs of Vana 'Diel @ 涙たちの物語 on Wiki

Episode16 "歌え、喜びの歌" 後編

うpしますた

前編から1ヶ月以上もたってしまった。。。
前編が重暗風味でしたが、後編はすこし明るさを増しています。
よければご賞味下さい。

120 :BeniBana.5『回廊』:08/05/05 11:18:05 ID:5GPEk3UJ
 過ぎ去りし熱を集め、老いた騎士は剣を取る。
 何も迷うことなく、懐かしき戦場(いくさば)へ。
 愛しき子の撫でた頭のぬくもりを、その手に宿して。
 彼らの前に立ちふさがるは、心無くしたかつての戦友(とも)
 懐かしい顔触れに、挨拶をするように剣を交わした。
 懐かしき戦場に、過ぎ去ったはずの熱が戻る。
 時代の波に飲み込まれた者よ、はかなく散る者よ。
 物言えぬ彼らの矜持を誰が酌み取るのだろう。
 誇りのために名誉を捨て去った者よ、名も無き騎士よ。
 悔いも望みも飲み込んだ者達の誓いを、我が詠い続けよう。
 力尽き、冷たい石畳に倒れなお、満足だと笑う貴方達の高潔を。
 一振りの刃に込められた涙と悲しみを、たとえ神であろうとも嗤わせはしない。

 だけど、だけれども、それでも私は−−−−−−−−−



 −−−ごめんなさい。





121 :BeniBana.6『回廊』:08/05/05 11:18:57 ID:5GPEk3UJ
 「誕生日おめでとう、ベルナデット」
 「おめでとう!」「おめでとうぅ!!」
 たくさん居るお父さん達が思い思いのプレゼントをくれる。普通は一人しかいないお父さんが、自分にはたくさん居る。これがすごいことだと思うのは、こんな日だった。
 お祝いには、お父さん達の息子達、お兄さんや弟達もやってくる。小さな弟達は元気いっぱいに走り回ったり、用意された料理を食べている。ドミニク兄様を始めとする兄達は、小さな弟たちの世話をしていた。
 でも、まだそろっていない。一番来て欲しい兄がまだ来ていない。
 お父さん達は、弟達よりも元気いっぱいだ。私が誰のプレゼントで一番喜んだかで言い合っている。そのうちにケンカになってしまった。私がおろおろしていると、たった一人の小さな母様が来て、お父さん達をけっ飛ばして鎮圧してしまった。
 「ベルが困ってるじゃないか! 困ったオヤジ共だねっ!!」
 折り重なって倒れたお父さん達は、楽しそうに豪快にガハハと笑っていた。
 そうこうしていると、外からチョコボの鳴き声がした。ドアを開けて入ってきたのは、騎士になった一番上の兄だ。仕事が終わってすぐにチョコボで駆けて来てくれたのだろう。髪が風で乱れていた。
 「おそくなった、おめでとう」
 そう言って差し出されたのは、吟遊詩人がよくかぶっているかわいいチョコボの羽をあしらった帽子だった。礼を言って受け取る。早速被ってみるが・・・・被る前からわかっていたが、明らかに大きすぎた。
 「なにやってんだい、ダレン坊や。どう見たって大きすぎるじゃないか」
 ダレンは乱れた髪を手櫛でとかしながら笑った。
 「ベルの希望通りですよ。大きくても良いから、大人用の本物がほしいとね」
 頭が半分は隠れそうな羽帽子をかぶって、私は椅子の上に立つ。みんなにお礼を言って、ずっと練習してきた歌を唄った。まるで本物の吟遊詩人に成ったみたい。

 「私、大きくなったら吟遊詩人になるね! そうして、お父さん達の騎士の詩を詠うのっ!」

 お父さん達は感動して泣き出して(だいぶ酔っていた)
 お母さんは散らかった食卓を片づけながら微笑んで
 弟たちははしゃぎ回り
 兄たちは笑って手拍子をくれる。

 そんな、思い出の欠片。


122 :BeniBana.6『回廊』:08/05/05 11:20:36 ID:5GPEk3UJ
すいません、書き込み調整をするのを忘れてました。
もう一度、あげなおします。

123 :BeniBana.6『回廊』:08/05/05 11:21:15 ID:5GPEk3UJ
 過ぎ去りし熱を集め、老いた騎士は剣を取る。
 何も迷うことなく、懐かしき戦場(いくさば)へ。
 愛しき子の撫でた頭のぬくもりを、その手に宿して。
 彼らの前に立ちふさがるは、心無くしたかつての戦友(とも)
 懐かしい顔触れに、挨拶をするように剣を交わした。
 懐かしき戦場に、過ぎ去ったはずの熱が戻る。
 時代の波に飲み込まれた者よ、はかなく散る者よ。
 物言えぬ彼らの矜持を誰が酌み取るのだろう。
 誇りのために名誉を捨て去った者よ、名も無き騎士よ。
 悔いも望みも飲み込んだ者達の誓いを、我が詠い続けよう。
 力尽き、冷たい石畳に倒れなお、満足だと笑う貴方達の高潔を。
 一振りの刃に込められた涙と悲しみを、たとえ神であろうとも嗤わせはしない。

 だけど、だけれども、それでも私は−−−−−−−−−



 −−−ごめんなさい。




124 :BeniBana.6『回廊』:08/05/05 11:24:23 ID:5GPEk3UJ
 「誕生日おめでとう、ベルナデット」
 「おめでとう!」「おめでとうぅ!!」
 たくさん居るお父さん達が思い思いのプレゼントをくれる。普通は一人しか
いないお父さんが、自分にはたくさん居る。これがすごいことだと思うのは、
こんな日だった。
 お祝いには、お父さん達の息子達、お兄さんや弟達もやってくる。小さな弟
達は元気いっぱいに走り回ったり、用意された料理を食べている。ドミニク兄
様を始めとする兄達は、小さな弟たちの世話をしていた。
 でも、まだそろっていない。一番来て欲しい兄がまだ来ていない。
 お父さん達は、弟達よりも元気いっぱいだ。私が誰のプレゼントで一番喜ん
だかで言い合っている。そのうちにケンカになってしまった。私がおろおろし
ていると、たった一人の小さな母様が来て、お父さん達をけっ飛ばして鎮圧し
てしまった。
 「ベルが困ってるじゃないか! 困ったオヤジ共だねっ!!」
 折り重なって倒れたお父さん達は、楽しそうに豪快にガハハと笑っていた。
 そうこうしていると、外からチョコボの鳴き声がした。ドアを開けて入って
きたのは、騎士になった一番上の兄だ。仕事が終わってすぐにチョコボで駆け
て来てくれたのだろう。髪が風で乱れていた。
 「おそくなった、おめでとう」
 そう言って差し出されたのは、吟遊詩人がよくかぶっているかわいいチョコ
ボの羽をあしらった帽子だった。礼を言って受け取る。早速被ってみるが・・
・・被る前からわかっていたが、明らかに大きすぎた。
 「なにやってんだい、ダレン坊や。どう見たって大きすぎるじゃないか」
 ダレンは乱れた髪を手櫛でとかしながら笑った。
 「ベルの希望通りですよ。大きくても良いから、大人用の本物がほしいとね」
 頭が半分は隠れそうな羽帽子をかぶって、私は椅子の上に立つ。みんなにお
礼を言って、ずっと練習してきた歌を唄った。まるで本物の吟遊詩人に成った
みたい。

 「私、大きくなったら吟遊詩人になるね! そうして、お父さん達の騎士の
詩を詠うのっ!」


125 :BeniBana.6『回廊』:08/05/05 11:24:43 ID:5GPEk3UJ
 お父さん達は感動して泣き出して(だいぶ酔っていた)
 お母さんは散らかった食卓を片づけながら微笑んで
 弟たちははしゃぎ回り
 兄たちは笑って手拍子をくれる。

 そんな、思い出の欠片。

126 :BeniBana.6『回廊』:08/05/05 11:27:30 ID:5GPEk3UJ
 久しぶりに帰った自分の屋敷。その執務室の応接用ソファーで、ダレンは窓
からの光を遮る弟の背を睨み付けていた。身動きは出来ない。彼の首筋には、
よく知った顔の従騎士四人の剣が突きつけられている。彼らの実力はよく知っ
ていた。この状況で動けば即座に首が落ちる。
 「・・・・今、なんと言った、ドミニク?」
 「バレスター家の家督を簒奪しますと言ったのです、兄上」
 四歳年下の弟はそう言って振り向いた。癖の無いまっすぐな髪をきっちりと
切りそろえ、整った容貌に皮肉気な表情を浮かべる彼は、兄であるダレンとは
あまり似ていなかった。
 「こんな非常時に、お前は何を言っているっ!!」
 「非常時・・・・やはりボナール将軍の件で帰って来たのですね」
 「無論だ。ボナール将軍が反乱などと、しかもダミアンやキリリさんを始め
とする、我が領内の回廊騎士達がそれに呼応したなどっ! そのような戯言!!」
 「事実です」
 「ドミニク!?」
 「彼らは・・・・姿を消しました。自分たちの武器防具と、人数分の糧食を
持ってね」
 絶句するダレンに、ドミニクは用意していた台詞を読み上げるように、淡々
と告げる。
 「領民の反乱行動を見過ごしたとあっては、領主である我が家への責任追及
は免れません。そこで兄上には当主をやめて頂き家督を僕に譲って頂きます。
陛下や諸侯への弁明も僕が行いましょう」
 「ふざけるなっ!!」
 窓のガラスが震えるほどの大音声でダレンが怒鳴り立ち上がる。従騎士達の
剣もまるで無視し、ドミニクを見据える。
 「反乱だと? 責任だと!? 弁明だと!!? あのダミアン達、回廊騎士
が、あの誇り高き男達が! 王都で言われているような戯言の為に反乱を起こ
すなど、ありえるものかっ!!」
 ダレンは自分に剣を向ける従騎士達に目を向けた。二十歳を過ぎたばかりで
あろう彼らは皆、回廊騎士の子供達だった。


127 :BeniBana.6『回廊』:08/05/05 11:30:07 ID:5GPEk3UJ
 「お前達の父親達は真の騎士だ。誰がなんと言おうと、某(それがし)は彼
らの名誉を称え、彼らの誇りを信じている」
 「・・・・・ダレン様・・・・」
 従騎士達は剣を下ろした。
 「ありがとうございます。・・・・私達も信じています。父達の行動には言
えぬ理由があるのだと」
 彼らはダレンに頭を下げた。涙を拭う者もいた。彼らの父親達は、家族にも
理由を告げず旅立っていったのだ。後を頼む。それだけを育った息子に言い残
して。
 ダレンは彼らに頷き、そして一歩踏み出した。眼前のドミニクは微塵も表情
を動かさず、兄を見据えていた。
 「気楽だな、兄上」
 「なんだと・・・?」
 ドミニクはダレンを指さし、吼える。
 「ああ、そうだ、僕はずっと前から思っていた。貴方の生き方は気楽だ。自
分の信じる名誉を謳い、誇りの為だけに剣を振るう。それで死んだら本懐であ
る、か? ふざけるな? 貴方こそふざけるなっ!!」
 久しく聞いたことの無かったドミニクの怒号にダレンの足が止まる。
 「貴方は騎士である前に、バレスター家の当主であり、領民を統べる者なの
だ! だが、貴方は領地の実務を僕に預け、領外で剣を振るばかり。あげく、
今の我が家の立場も理解せず、反逆者を擁護する発言をするとはっ!!」
 ダレンは懐かしい想いに囚われていた。常に冷静、淡々と物事すすめ、弟は
感情を表に出すことをしなくなっていた。だが、昔はそうではなかった。弟は
負けん気が強く、よく兄弟げんかもしたものだ。四つも歳が違っては相手にな
るわけもないのだが、それでも彼は退くことを知らなかった。
 その彼が感情を表に出さなくなったのはいつからだった・・・・? 武芸に
しか興味がない自分の代わりに、父を手伝い領内の実務を行うようになってか
らではなかったか?


128 :BeniBana.6『回廊』:08/05/05 11:32:00 ID:5GPEk3UJ
 ドミニクは指さした人差し指を収め拳を握る。高ぶった感情を抑えるように。
 「・・・いいですか? 今、我が家は窮地に陥っていると言って良いのです。
反旗を翻したのは、かつての回廊騎士達のみであり、我が家は与していない事
を内外に示さなければならないのです。開拓民たる領民達の努力により、我が
所領は20年かけてようやく豊かと言えるほどになりました。領地の経済が豊
かになれば、それは領主の力となります。しかし、出る杭は打たれる。今回の
件は、我が家を攻撃する絶好の口実となるのです」
 ダレンは反論できなかった。感情は納得出来はしない。だが、彼も長くサン
ドリア貴族として生きてきたのだ。ドミニクの領内の実務を担う者としての言
葉も十分に理解できた。それに、ダレンはずっと負い目に思っていたのだ。当
主としての実務を全てドミニクに任せて、剣を振るう事に明け暮れていた事を。
 ・・・・だが、だがそれでも、認めるわけにはいかなかった。
 「だめだ、ドミニク。それでも家督をお前に譲るわけにはいかぬ」
 自分に理が無いことを承知で、ダレンは首を振る。意地を張った物言いに、
ドミニクは苦笑した。
 「そうですか・・・・やはり、始めに言ったとおり簒奪するしかありません
か・・・・・お前達」
 「はっ」
 再び従騎士達が動く。突き出された刃の檻がダレンを捕らえた。
 「くっ・・・・ドミニク!」
 苦みの混じったダレンの声。ドミニクは苦笑のまま言った。
 「ところで兄上・・・・・聞いて欲しいことがあります。実は先日、僕はあ
る女性に求婚しました。そして玉砕しました」
 「なにっ!? ベルにか?」
 「私もしました」「自分もです」「俺も」「・・・はは、私もです」
 「お前達もか!?」


129 :BeniBana.6『回廊』:08/05/05 11:34:02 ID:5GPEk3UJ
 ベルナデットは孤児である。父親はなく、母親は身重の身で開拓民としてバ
レスター領に流れ着き、彼女を生んで死んだ。
 生まれた幼子はそれ以来、回廊騎士達全員が父親代わりとなって育ててきた
のだ。
 幼子は騎士の荒々しい腕の中でもすくすくと美しく育ち、騎士達の戦話を子
守歌に育ったためか、戦場で騎士を鼓舞する歌い手、呪歌を操る吟遊詩人とな
ったのだった。
 「バレスター領で、彼女に恋をしない若い騎士は居ないと言うことです。騎
士の心を誰よりも理解してくれる・・・・皆、彼女に認められる騎士になりた
いと励んできたのですからね」
 ドミニクの言葉に従騎士達も頷く。そこで、はた、とダレンは気が付いた。
そう言えばベルナデットの姿を見ていない。いつもならば、戻ればすぐに会い
に来ていたのに。
 「そうだ、ベルはどうしている? 父親達が居なくなったのだ。塞ぎ込んで
しまっているのか?」
 「彼女は回廊騎士達に同行したと思われます」
 「なんだとっ!? ばかな、なぜ行かせたっ!? なぜ追って連れ戻さない!?
 ベルを反逆者にするつもりか!!」
 ドミニクと従騎士達は大きくため息を吐いた。
 「それは僕たちの役目ではありません。・・・・貴方の役目だ、兄上」
 ドミニクはダレンに背を向けた。
 「兄上はもはや男爵ではなくなる。意地を張る必要はもうありません。ベル
は兄上にお願いします」
 ベルナデットは平民である。男爵の妻に成ることは難しい。だが、男爵家の
者でもただの騎士ならば、たいした問題にはならない。ダレンが意地を張った
のは、ドミニクの想いがわかっていたからだ。そして、その想い散った今、ド
ミニクはダレンから枷を外そうとしている。


130 :BeniBana.6『回廊』:08/05/05 11:35:55 ID:5GPEk3UJ
 「ボナール将軍追撃の勅命は緋盾騎士団に下されたそうです。兄上は彼らと
戦を共にしたことがありましたね。なんとしても追撃隊に合流してください。
男爵家の当主を降りた兄上が追撃隊に加わることで、我が家の責任の取り方を
示すことが出来ます」
 ドミニクはゆっくりと歩を進める。始めに立っていた窓辺に再び佇んだ。
 「そして、見届けてきてください。回廊騎士達の矜持の証を。僕とて、彼ら
があんな理由で反逆などするわけがないと知っています。だが、事実彼らは反
逆した。ならば、そうしなければならない理由があるはずです。それを見届け
るのは、彼らの娘であるベルナデット・・・・そして、最も彼らの魂を受け継
いだ騎士がふさわしい」
 ダレンはドミニクの背に詰まった声を投げる。
 「・・・・それが、某だと言うのか」
 彼を取り囲む従騎士達が答える。
 「ベルナデットは、毎朝、旅先のダレン様の無事を女神に祈っていました」
 ダレンを拘束していた剣が一つ下げられる。
 「彼女は、黒騎兵の武名を称える歌をよく歌っていました」
 また一つ。
 「その歌を謡う彼女はとても誇らしげで」
 また一つ。
 「すこしばかり切なそうでした」
 最後の剣も下げられ、刃の檻は消え失せる。
 「回廊騎士の心を愛した彼女が愛する騎士こそが、回廊騎士を継ぐ者」
 そう言って、回廊騎士の息子達は剣を置き跪いた。
 ダレンはその光景に打ち震えた。託された物は誇らしい。だがその重みに目
眩がしそうになる。


131 :BeniBana.6『回廊』:08/05/05 11:36:58 ID:5GPEk3UJ
 ドミニクはゆっくりと振り向く。
 「兄上、先ほどはああ言いましたが、バレスター家の本質は武人だ。自分の
信じる名誉を謳い、誇りの為だけに剣を振るう。それで死んだら本懐。武功を
立てて領地を持つ貴族に成りましたが、それは変わらない。変えてはいけない」
 ダレンはドミニクの目を見た。喜びと苦渋がない交ぜになった視線と、穏や
かにすでに覚悟を決めた視線が交差する
 やがて、ダレンもまた、覚悟を決めた。
 (・・・・すまぬ、弟よ。お前に面倒ばかりを押しつけて、某は駆けさせて
もらう)
 (いいんだよ、兄上)
 ダレンはゆっくりと膝を折り、ドミニクの前に跪いた。
 「その命に従おう。ドミニク・バレスター男爵」
 ドミニクは頷いた。

 「駆けるが良い。バレスターの回廊騎士よ」





132 :BeniBana.6『回廊』:08/05/05 11:39:00 ID:5GPEk3UJ
 時代はすでに新たな世代の物だ。
 我らが魂を燃やし、得た熱もすでに冷めた。
 だが、だからこそ今、我らが立たねばならない。
 我らが仕えた王を、王と共に眠る戦友の高潔を! 踏みにじる事を許すわけ
にはいかぬ!!
 我らは過去の時代を引きずった反逆者として、人々に記憶されるだろう。だ
がそれでも! あの戦いを生き残った者として、護るべき矜持がある。
 魂の燃えかすをかき分けよ! ここに集った我らならば、あるはずだ。くす
ぶり続けてきた熱が、あの日々の残滓が!!
 もう一度、火を起こそう。もう一度我らの芯鉄に火を入れよう。我らの刃は
綻びても、今だその芯まで折れてはいないのだから。
 ・・・・さあ、行こうか諸君。回廊騎士の本分を果たすために、王の元へ。


 ボナール将軍の言葉に回廊騎士達は剣を掲げ、鬨の声を上げた。その光景を
ベルナデットは瞳に焼き付けた。
 もうすぐ、悲しい戦が始まる。騎士達のほとんどは生きて戻ることは無いだ
ろう。だがそれでも、ベルナデットには止めることは出来なかった。彼ら回廊
騎士が、彼女の父達が、剣を置いても錆びさせることが無かったのは、この時
の為なのだ。
 生き残った者として、敗者の矜持を護るために。物言えぬ死者達が不当に扱
われることに無いように。回廊騎士達はそう誓い、剣を磨いてきたのだから。
 「ベル」
 いつの間にか伏せてしまっていた顔を上げる。
 「ダミアン父さん・・・」
 ベルナデットは微笑んだ。それは相当無理をした微笑み。対照的にダミアン
はにっかりと笑った。


133 :BeniBana.6『回廊』:08/05/05 11:41:28 ID:5GPEk3UJ
 「ほれ、こいつを纏いな」
 ダミアンが手に持っていた布をベルナデットに掛けるように翻す。それは少
し古い外套だった。
 「これはエクスワイヤマントだ。俺が従騎士の頃に先輩の騎士からもらった
物さ。聖なる加護を増幅する力がある。・・・・息子に譲ろうかと思ったんだ
が、あいつには守り刀をやったからな」
 「ダミアン父さん・・・・・・」
 肩に掛かる外套の重みに、肩をすくめて歯を食いしばる。
 (駄目だ、泣いちゃ駄目だ。辛気くさい涙は戦いの神様を遠ざけてしまう・・・)
 だが、それは無理だった。ベルナデットは外套を頭から被り、ダミアンの胸
に額を押しつけた。
 「ごめん・・・・ごめんね、父さん。笑えない・・・・笑ってあげられない
よ・・・」
 頭の上に大きな手の感触。
 「良いんだ・・・ベルの笑顔なら、お前が生まれてから十八年・・・ずっと
見てきたんだからよ」
 大きな手の感触が無くなり、また別の手が頭を撫でた。
 「楽しかったな」「幸せだったよ」「なぁに、いつでも側にいるさ」「これ
までも、これからも」「だから、今だけは」「行ってくる」
 頭の上を父達の手が通り過ぎていく。外套は内側から暖かく濡れていった。
 最後に、小さな母親の声がする。
 「ベル・・・・辛かったら良いんだよ。ここでに居ても」
 「ううん・・・大丈夫よ、キリリ母様」
 ベルナデットは外套から顔を出した。真っ赤に染まった目だったが、もう涙
は無い。外套をきちんと纏い、鞄からすこし古びた羽帽子を取り出し被る。す
こしサイズが合わないのか、収まりの悪い髪がはみ出していた。
 「私が、回廊騎士の最後の戦いを見届けて、詠い継ぐの。私にしか出来ない
ことなんだから。・・・・・・ねぇ、キリリ母様」
 「なんだい?」
 「ありがとう・・・・わがままを聞いてくれて」
 キリリはやれやれと首を振った。


134 :BeniBana.6『回廊』:08/05/05 11:42:45 ID:5GPEk3UJ
 (あんたのわがままを聞くのも、これが最後かもしれないしねぇ)
 そんなことを思いつつ、キリリはベルナデットのポケットを指さす。
 「約束は守るんだよ。ちゃんと呪符は持ってるかい?」
 ベルナデットはポケットを上から押さえて頷いた。中にはキリリが用意した
特別製のデジョンの呪符が入っている。
 「うん、わかってる。危なくなったら、呪符で逃げるから」
 「まぁ、あんたが迷っても、あたしが強制的に発動させるけれどね。その為
の特別製だからね」
 指定された人物が呪文を唱えるだけで、所持者を指定された場所へ飛ばすよ
うに調整された呪符だ。これを持つことを条件に、回廊騎士達はベルナデット
の同行を許したのだ。
 「母様」
 「ん?」
 「私、ちゃんと見届けるから・・・・」
 「ああ・・・。無理するんじゃないよ」





135 :BeniBana.6『回廊』:08/05/05 11:44:37 ID:5GPEk3UJ

 −−−−−過ぎ去りし熱を集め、老いた騎士は剣を取る。
 −−−−−何も迷うことなく、懐かしき戦場(いくさば)へ。
 −−−−−愛しき子の撫でた頭のぬくもりを、その手に宿して。

 第一層の広間を突破する。ダミアンの剣が立ちふさがる亡霊騎士を斬り伏せ
る。先鋒の騎士達が群がる敵を盾を掲げ押しのけた。開けた道を縫って、ボナ
ール将軍率いる本隊が第二層への階段へ躍り込んだ。
 攻守逆転。今度はダミアン達先鋒が階段を護り、本体の後方を支える。
 「ダミアン父さんっ!」
 階段の中程でベルナデットは振り仰ぐ。ダミアンは振り返ることなく、剣を
持つ手の親指だけを立てて見せた。
 「武運をっ!」
 そうして、もはや振り返ることはなく、ベルナデットは階段を駆け下りて行
った。
 ダミアンは周りを見渡して笑った。
 「見知った顔もチラホラ居るな。先に逝ったお前らがこんなところでなにし
てやがる」
 彼は剣を振り上げ、真っ正面にゆっくりと振り下ろす。視線と切っ先を一つ
にした。
 「あんまり俺らが遅いから、迎えに来やがったのか? 仕方ねぇ奴らだ・・
・・。土産話はたっぷりある。今からゆっくり語り合うとしようぜっ!」
 ダミアンは気勢に乗せて一歩を踏み出した。後方の同胞達に向かって叫ぶ。
 「おうっ! てめぇらっ!! 今度こそ此処が命の使いどころだ! 華々し
く行くぞっ!!!」
 回廊騎士達も同時に一歩踏み出した。剣を掲げ振り下ろし、
 「うおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
 戦いの開始を告げた。




136 :BeniBana.6『回廊』:08/05/05 11:47:17 ID:5GPEk3UJ

 −−−−−彼らの前に立ちふさがるは、心無くしたかつての戦友(とも)
 −−−−−懐かしい顔触れに、挨拶をするように剣を交わした。
 −−−−−懐かしき戦場に、過ぎ去ったはずの熱が戻る。

 第二層、広間へと至る通路にも亡霊騎士が待ちかまえていた。回廊騎士達は
その身を削り取りながらも突き進む。
 助け起こそうとしたベルナデットの手を、その騎士は振り払った。彼は負傷
した足を庇いながら立ち上がる。
 「構わずに行きなさい、ベルナデット。この足ではもはや足手まとい。私は
ここでかつての仲間と昔話に興じよう」
 亡霊騎士達は待ちかまえるばかりではなかった。どこから回り込んでいるの
か、後背から現れることもあった。
 「昔話に夢中になりすぎたら、ダミアン父さん達に追いつかれるよ」
 手を引きそう笑うベルナデットに彼は微笑んだ。
 「そうなったら、昔話をする人数が増えるだけだな」
 そんな軽口を叩いて、笑って分かれた。走り去っていくベルナデットの背に
騎士は呟く。
 「私は妻も子も得ることはなかったから、君だけがただ一人の娘だ。
・・・・君にはずいぶんと救われたよ。・・・・生きなさい。生きて幸せにお
なりなさい」
 彼は壁にもたれかかり咳き込んだ。鉄錆の味が広がる。その思考は記憶を巡
り過去を思う。彼が死に損ねた戦争で散っていった人を思う。
 −−−笑顔が愛らしい女騎士だった。

 ばーか、このちびの後輩が。あたしは渋いおじさまが好みなのよ。

 ・・・・近づいてくる足音に彼は壁から離れた。呼吸を整え剣を握り直す。
 それは運命の残酷さなのか。それともゆがんだ慈悲なのか。
 暗がりから現れたその亡霊騎士に、彼は目を見開き、泣き笑いの様な表情で、
震える声を絞り出す。
 「・・・・もうずいぶん僕の方が年上に成ってしまいましたね。どうです?
 貴方好みのおじさまに成れたでしょうか?」



 −−−−−時代の波に飲み込まれた者よ、はかなく散る者よ。
 −−−−−物言えぬ彼らの矜持を誰が酌み取るのだろう。


137 :BeniBana.6『回廊』:08/05/05 11:49:21 ID:5GPEk3UJ
 第二層、広間への扉が開かれる。すでに半数以下に人数を減らした回廊騎士
達がなだれ込んだ。対するのは、彼らの倍以上の亡霊騎士、そして−−−

 −−−・・・あの子の言ったとおり現れましたか、イヴォン・ボナール−−−

 広間の中心に立つ黒いローブだった。目深にフードを被り、ゆったりとした
ローブのおかげでまるで何者かわからない。それが発する言葉もまた、声では
なく、まるで意識に直接語りかけるようなものだった。
 「・・・・貴様が、私の輩(ともがら)を操る元凶だな」
 イヴォンは黒ローブに剣を向けた。
 「なぜ、とは問わない。輩の安息を妨げた罪ごと、ここで斬り捨て終わりと
する」
 回廊騎士達が身構える。彼らの殺気を全身に受け止めても、黒ローブは身じ
ろぎもせず答えた。
 −−−元凶・・・・ふふっ、そうかもしれません。しかし、私もほかの者と
変わりません。この身を滅ぼしても騎士達は止まらない。私は王の名代。彼ら
を動かしているのは王命なのだから−−−
 「貴様が皆を蘇らせ、操っているのではないのか?」
 −−−いいえ。私はただ、最初に蘇っただけ。我ら亡霊騎士を止めたければ、
ここを突破して最深部の陛下を倒すしかありません−−−
 イヴォンは剣を下ろし、頷いた。
 「ならばそうしよう。かつての臣下として陛下に拝謁しお止めする」
 −−−かつての臣下ですか・・・貴方は新たに忠誠を捧げる相手を見つけた
のですね。・・・・ランペール王やグランテュール王は囚縛将軍などと呼ばれ
ても仕えるに値する王ですか?−−−
 イヴォンは首を振った。
 「私はランペール王の騎士になったつもりはない。私の忠誠は、今でもギョ
ホンベール王に捧げている。それ故の囚縛将軍の名だ。私が望んだ咎の名だ」
 黒ローブの声が苛立ちに揺らぐ。


138 :BeniBana.6『回廊』:08/05/05 11:51:42 ID:5GPEk3UJ
 −−−・・・・戯れ言を。貴方が今でも父上に忠誠を捧げていると言うのな
ら、どうしてあの時、ナフィベール兄様の蜂起に力を貸してくれなかったので
す!−−−
 黒ローブはそう叫ぶと、そのローブを脱ぎ捨てた。現れたのは漆黒の質素な
ドレスに身を包んだ女性。漆黒の髪に漆黒の瞳でこちらを見据えるその姿に、
イヴォンは息をのんだ。
 「マルグリット王女殿下・・・・・」
 回廊騎士達からもうめき声が上がった。
 マルグリット王女。ギョホンベール王の娘であり、『黒曜石の歌姫』として
名高い悲運の姫である。彼女の歌声は戦場で騎士達を大きく勇気づけ、王女の
歌声で形勢が逆転した戦場も多くあった。
 しかし、二王会戦では彼女の奮戦も空しく敗北し、その翌年に起こった、ギョ
ホンベール王の遺児ナフィベール王子が起こしたノルバレン独立蜂起(三月王
国事件)に参加。裏にはバストゥークの支援があったとされるこの蜂起は、
『ラストドラグーン』エルパラシオンと、ヴォルダイン・ミスタル伯爵によっ
て三ヶ月で鎮圧された。マルグリット王女はその際に追いつめられ、最後の歌
を唄った後、自刃したとされている。
 「王女殿下・・・・貴方だったのか」
 −−−意外でしたか? そうでしょうね。私とてこのように現世に蘇り、も
う一度騎士達を率いることがあるとは思いませんでした−−−
 そう言いながら、王女は取り出した楽器を口元へ運ぶ。その楽器は角笛。常
に戦場の始まりを告げる雄羊の鳴き声。
 −−−しかし、今一度、望まれて蘇ったならば、私は私の望むところを行い
ましょう。王を僭称する者共、そして私達を利用したバストゥークの災いとな
らん−−−
 角笛の音を聞いてイヴォンは叫んだ。
 「来るぞっ! 密集陣形! 受け止めろっ!!!!!」

 −−−無敵の進軍マーチ−−−

 角笛の旋律に乗り、亡霊騎士が雪崩れうって襲いかかってくる。呪歌の加護
を受けた彼らの攻撃は速く、回廊騎士達も必死に応戦するが、囲まれ次第に削
られていく。
 襲い来る亡霊騎士を斬り捨てながら、イヴォンは吼えた。


139 :BeniBana.6『回廊』:08/05/05 11:53:46 ID:5GPEk3UJ
 「マルグリット王女! 私達は、東サンドリアは負けたのだ! なぜ認めら
れない。死してなお、それだけの恨みを・・・・・なぜっ!?」
 王女はイヴォンを指さした。
 −−−ならば、なぜ貴方は今も騎士であることにしがみついているのです?−−−
 王女は回廊騎士達を見渡した。
 −−−あれから二十年も経っているのに、なぜ貴方達は戦場へ戻ってきたの
ですか−−−
 王女は拳を握り掲げた。
 −−−忘れられなかったのでしょう? あの時見た夢を、あの時抱いた望み
を、あの時描いた未来を。悔いていたのでしょう? それを満たしてくれる戦
場で死ねなかったことを。そして、求めていたのでしょう? それに殉じるこ
とが出来る死に場所を!−−−
 (っ!?)
 イヴォンは言葉に詰まってしまった。
 −−−だから与えてあげましょう。・・・死ぬが良い。亡霊騎士として王に
頭を垂れなさい。そして私達と共に、永遠に戦い続ければいい。甘い夢の中で
災厄となるのです−−−
 王女が角笛を掲げる。
 「まてっ!」
 イヴォンの制止を無視し、王女はさらなる呪歌を奏でる。

 −−−栄光の凱旋マーチ−−−

 回廊騎士達が身構える。さらに強固に陣形を組み、四方から襲い来るだろう
亡霊騎士を待ち受ける。だが・・・・一時の静寂が戦場を支配した。
 −−−・・・・どうして? なぜ動かないのです!?−−−
 亡霊騎士達は動かない。剣を構えてはいるものの、何かに怯んだように動き
かねている。その視線の先は回廊騎士達の陣形の中心に向けられていた。


140 :BeniBana.6『回廊』:08/05/05 11:55:42 ID:5GPEk3UJ
 回廊騎士達は背後からの熱い光に驚いていた。この神聖な気配には覚えがあ
る。ナイトが使うアンデットを退ける『ホーリーサークル』の加護だ。だが、
この圧倒的な圧力はなんだ? これほどの加護を発動できる者が居たのか?

 「ふざけないで・・・」

 陣形の中心にいた彼女は、騎士達の間を抜けて前に出た。光を従え、黒き王
女を見据える。彼女が纏う『エクスワイヤマント』が自身が発する波動にはた
めいている。その裏地にはびっしりと神聖文字が浮かび上がっていた。
 ダミアンが受け継いできたマントには秘密があった。未熟な者が使う『ホー
リーサークル』であっても、その意志力に応じてその威力を高めるのだ。その
性能を今、最大限に発揮して、ベルナデットは亡霊騎士達を圧倒した。
 その力の源は、怒り。彼女は一歩踏み出す。
 「私の・・・・私の父さん達を侮辱するなっ!! 父さん達は忘れなかった。
自分たちの描いた夢を・・・夢のために死んでいった貴方達の事を、子供達に
語る事を忘れなかった」
 さらに彼女は歩を進める。
 「父さん達は死ななかったことを悔いたりしていない。そんなことで自分の
価値を貶めたりしていない! 精一杯生きた! 真剣に私を育ててくれた!!
 次の世代にその志を受け継いで来た!」
 さらに数歩。黒き王女の目の前に立つ。
 「父さん達は死に場所を求めて来たんじゃない! 東王の誇りを、前のめり
に倒れた貴方達の背中を汚さない為に命を賭けてきた!! 貴方ならわかるで
しょう? 騎士達の後ろで、その背中を見つめ続けてきた貴方ならっ!!!!」
 ベルナデットは声を張り上げた。吟遊詩人として鍛えた声量が広間を震わせ
る。回廊騎士達の心を奮わせる。
 「ベルっ!」「ベルナデット!」「そうだ」「俺たちは」「生きた」「精一
杯・・・」「生きて来たとも!!」「何も恥じることなど」「何も悔いることなど」

 「有るものかよっ!!!」



141 :BeniBana.6『回廊』:08/05/05 11:57:51 ID:5GPEk3UJ
 騎士達は喜びと共に剣を掲げる。全員から光の波動が生まれた。一斉に発動
した『ホーリーサークル』の光が亡霊騎士を圧倒する。
 ベルナデットは微動だにせず自分を見据える黒き王女に一礼した。大きく息
を吸い、歌声を紡ぎ出す。厳かで、神聖な旋律。死せる魂の安息を願うその歌
こそ

 「魔物のレクイエム」

 一瞬で灰になる者。膝をついて崩れ消え去る者。光の中に溶け消える者。亡
霊騎士達が消えていく。
 −−−・・・・良い歌声ね・・・−−−
 「あれが自慢のあたし達の娘さ」
 背後、至近からの声。しかし黒き王女は驚くこともなく笑って振り向いた。
その振り向いた胸に、短刀が深々と突き刺さる。いつの間に背後に回っていた
のか。小さなタルタルの暗殺者は満足げに微笑んでいた。
 −−−あなたは、確か・・・キリリ・・・・でしたね。ありがとう−−−
 王女は、マルグリットは膝から崩れ落ちた。座り込み、倒れかけたその肩を
駆け寄ったイヴォンが支えた。
 「マルグリット王女っ!」
 力無く開いていた手を包み込む暖かい手。ベルナデットがマルグリットの手
を取り涙を流していた。マルグリットはベルナデットに微笑んだ。
 −−−ごめんなさい・・・・私達・・・・恨みなんてなかった。わかってい
ました・・・・誰も望まない結果になる・・・・私は戦場で・・・・背中に向
かって歌うしかできなかった・・・・でも、もう一度歌いたかった・・・・・−−−
 ベルナデットは、マルグリットの手をしっかりと握って頷く。
 「本当は、こっちを見て、顔を見て歌いたかったですよね。私も貴方の歌を
もっと、普通に聴きたかった・・・」
 −−−うん・・・貴方の歌は・・・・とても良い歌・・・・揺らがずに歌い
続けなさい−−−


142 :BeniBana.6『回廊』:08/05/05 11:59:52 ID:5GPEk3UJ
 ベルナデットは頷く。それを見て笑い、マルグリットの漆黒の瞳が動く。光
を失いかけた瞳が、イヴォンを見た。
 −−−ここにいる亡霊騎士の中では・・・・私だけが、明確な意識を持って
いました。・・・・あとの者は・・・みんな、情念だけで動いている・・・・
それは、父上も同じです・・・・−−−
 マルグリットの手がイヴォンの肩にかかった。
 −−−私だけが・・・明確な意志を保っていたのは・・・・・そう、望まれ
たから・・・・『彼』がそう望んだから・・・それだけで、ほかの者達と私は
・・・・変わらない。国王を要とする・・・・軍であることは同じ・・・・父
上を倒して・・・・・そうすれば・・・・全て、終わる−−−
 肩にかかった彼女の手に、自分の手を重ね、イヴォンは頷いた。マルグリッ
トは安心したように再び微笑んだ。
 −−−もう一度・・・・父様と・・・・兄様と・・・イヴォン様と・・・・
みんなの顔を見ながら・・・・・歌いたかった−−−
 マルグリットの脳裏に幸せな記憶が蘇る。幼き日の出来事。忙しい父上が自
分の歌を聴くために訪れてくれた日。
 −−−緊張して・・・うまく歌えなくて・・・・泣き出した私を慰めてくれ
たのは・・・・・イヴォン様でしたね−−−
 「ああ、そうでしたね。その後、貴方はちゃんと立派にお歌いになった」

 −−−あの時から・・・・私は・・・・・・・・・・・・・・・−−−

 マルグリットは灰となって消えた。最後の言葉はもはや意志ではなく、ただ、
淡く甘くすこし苦い・・・そんな感情を残した。
 マルグリットの灰の前で、イヴォンは跪いた。それは王族に対する臣下の礼。
彼にはそうするしか無かった。



 −−−−−誇りのために名誉を捨て去った者よ、名も無き騎士よ。
 −−−−−悔いも望みも飲み込んだ者達の誓いを、我が詠い続けよう。
 −−−−−力尽き、冷たい石畳に倒れなお、満足だと笑う貴方達の高潔を。


143 :BeniBana.6『回廊』:08/05/05 12:02:11 ID:5GPEk3UJ
 そして、戦いはまだ終わらない。閉じられていた広間の扉が開かれる。通路
から規律正しく進み出てきたのは亡霊騎士。いったいどこから現れるのか、そ
の列はとぎれることなくあふれてくる。
 回廊騎士達は剣を構えた。キリリは手裏剣を取り出しながら言う。
 「団長とベルは下へ行きな。あたし達はここで食い止める」
 「キリリ母様!」
 キリリはベルナデットを見上げた。その瞳は恐怖と、それに負けまいとする
気丈な意志の間で揺れていた。だから、キリリは笑ってやる。
 「ちゃんと見届けるんだろう? しっかりおしっ!!」
 ベルナデットは頷いた。目を伏せ、歯を食いしばり、握り拳を奮わせて。
 「団長・・・・頼んだよ」
 「ああ、必ず陛下を止める・・・・・皆も、よくここまでついて来てくれた。
後少し、頼む」
 イヴォンの言葉に回廊騎士達は敬礼を返した。キリリはすでに背を向けてい
る。これがおそらく今生の別れ。だが、イヴォンもまた、躊躇無く背を向けた。
 すでに別れはすませている。
 石畳に靴音を響かせ、イヴォンとベルナデットは階段を駆け下りた。

 第三層の回廊には亡霊騎士の姿は無かった。迎撃に出払っているのか、最深
部で待ちかまえているのか。
 イヴォンとベルナデットは言葉もなく駆ける。やがて、長い回廊も終わりを
迎え、最深部、第三層の広間への扉にたどり着いた。
 イヴォンは扉に両手をかけ・・・・そこで動きを止めた。
 「イヴォン様?」
 背後のベルナデットの訝しむ声に、イヴォンは扉に手を掛けたまま、振り返
ることなく言う。
 「ベルナデット・・・・・恨むなら私を恨め」
 「何をおっしゃるのです!?」
 「君の父親達と母親の名誉を奪ったのは私だよ。確かに強制などはしなかっ
た。だが、私は知っていた。話せば必ず彼らは剣を取るだろうとね。・・・・
私は君達の幸せを破壊するのを承知で・・・・・」
 「・・・・・・」


144 :BeniBana.6『回廊』:08/05/05 12:05:37 ID:5GPEk3UJ
 ベルナデットは答えない。
 「だから、恨むなら私を、私だけにしておけ。グランテュール王や、サンド
リアを恨んではいけない。彼らは今後、我らを悪しき様に言うだろう。反逆者
だからね、彼らはそうせざるを得ない・・・・だが、彼らとて望んで我らを人
身御供に出したわけではないのだ。・・・・だから」
 「嫌です」
 ベルナデットは拳を握り、はっきりと答えた。イヴォンはその声の固さに振
り返る。だが、振り返った目に映ったのは、微笑むベルナデットの顔だった。
 「私は誰も恨みません。父さん達が居なくなってしまうのも、母様の声を聞
けなくなってしまうのも悲しいけれど・・・・みんな、それを自分で望んで・
・・・・そう・・・・したのだから・・・・それを、何かのせいにすることは
・・・できないっ・・・」
 微笑むその頬を涙が落ちる。イヴォンはその落ちる滴に自分の過ちを悟った。
 (ああ・・・・私は、とことん愚かだった。彼女に恨まれることで少しでも
自分の罪を軽くしようとしたのだ・・・・・)
 イヴォンは目を伏せ、次の瞬間には大きく息を吸い、吐いた。彼は再び扉に
手を掛ける。
 「ベルナデット。私には約束がある」
 「約束?」
 「かつて、決戦に敗れ、生き方を見失っていた頃に、新たな道を示してくれ
た人との約束だ」
 深紅の髪を持つ少女の姿を思い描く。
 「その人は、もうすぐここへ来るだろう。約束は、その人が大人になって、
私より強くなれば私の跡を継ぐ、と言うものだ」
 ベルナデットは頷いた。
 「レティシア・レギーネという人の事ですね。母様から聞いています」
 「そうか・・・」
 イヴォンは少し考えた後、口を開いた。
 「約束の結果がどうなろうと、この事件が全て決着した後で、伝えて欲しい
ことがあるんだ・・・」


 −−−−−一振りの刃に込められた涙と悲しみを、たとえ神であろうとも嗤わせはしない。


145 :BeniBana.6『回廊』:08/05/05 12:08:20 ID:5GPEk3UJ
 広間の扉が開かれた。足を踏み入れたイヴォンの前に立ちふさがるは、10
人の近衛騎士。そして、中央の棺の前の立つのは、彼が剣を捧げし至高の王。
 「陛下。お久しぶりにございます」
 −−−陛下・・・・そう、我はサンドリアの王・・・・・故国を再び統一し−−−
 イヴォンの言葉は聞こえているようだ。しかし、明確な意志は王からは感じ
取れなかった。
 近衛騎士達が一斉に剣を抜き放つ。イヴォンはまっすぐに歩を進め、彼らと
相対した。握った剣を掲げる。
 「忠誠を捧げた貴方に剣を向ける不忠をお許しください。しかし、臣下とし
て、主君の過ちはこの身をもって正させて頂く。・・・・ふんっ!!」
 イヴォンは掲げた剣を振り下ろす。剣先が空を裂き、石畳にかすって火花を
上げる。
 「さあ、このイヴォン・ボナールが行くぞ・・・・止めてみよっ! 近衛っ!!!」
 −−−我らの悲願・・・・邪魔をするならば・・・・排除せよ−−−
 王の命、そしてイヴォンの挑発に応え、一番近い近衛から3人、順番に襲い
かかってきた。しかしイヴォンは一笑に付す。襲いかかってきた順に、剣を交
わす。一人目、相手の剣撃ごと斬り下ろし、くるりと回転、二人目とすれ違い
様に斬り払う。三人目、剣が動き出す前に、イヴォンの突きがその首を貫いて
いた。
 斬り下ろし、斬り払い、突き抜ける。基本となる三連撃。突き詰められた基
本は、それ故に全てが必殺。
 しかし、近衛とて王の精鋭。三人目が喉を突かれながらも、イヴォンの腕を
捕まえる。その隙に四人目が左から襲い来る。
 「ぐぅっ!!」
 振り下ろされた一撃を盾で受け止める。右足で三人目を蹴り飛ばし拘束を排
除する。しかし、その時にはすでに五人目が背後に。
 「!!」
 イヴォンは三人目を蹴った勢いのまま石畳を転がる。背後からの斬撃が額を
掠った。数回転転がり飛び起き距離を取る。生ぬるい感触が鼻を伝っていった。
 「さすがは近衛騎士・・・・。そうでなくては」


146 :BeniBana.6『回廊』:08/05/05 12:11:10 ID:5GPEk3UJ
 ベルナデットは考えていた。イヴォンは圧倒的に不利。三人倒したとは言え、
今だ七対一だ。この多勢を突破して王にたどり着くのは難しい。だが、自分が
多少の呪歌で援護したところで、焼け石に水。ならば、どうすればいい。

 ・・・あとの者は・・・みんな、情念だけで動いている・・・・それは、父
上も同じです・・・・

 そうだ、情念だけ・・・ならば、英知を取り戻させることが出来れば、正気
に戻すことができるのではないか? そして、吟遊詩人にはその力がある。

 私、ちゃんと見届けるから・・・・
 ああ・・・。無理するんじゃないよ

 父さん達も、母様も、イヴォンさんも自分が危険を冒すことを望みはしない
だろう。
 「でも・・・だけど・・・だけれども、私は・・・・」
 脳裏にダミアンの背中が、倒れていく多くの回廊騎士の姿がよぎる。そして、
刃を受けるキリリの姿が−−−−−−−−−−−−−−
 「!」
 ベルナデットは奥歯を噛みしめた。腰につるした竪琴を手に取る。そして、
視線は閉じる。意識だけを棺の前に立つ、ギョホンベール王へ。
 全身全霊の力、技巧、意志を持って、彼女は竪琴をかき鳴らし、声を上げた。
歌声を紡ぐ。魂から発せられる『ソウルボイス』で。

 「英知のエチュード」

 広間に突然響き渡った竪琴の音色にイヴォンは驚いて振り向いた。
 「ベルナデット!? 何を!」
 近衛の、王の視線が彼女を捕らえる。響き渡る音色は広間に反響し、増幅さ
れて王に至った。
 −−−ぐぬっ・・・・おおおお−−−
 王が頭を抱えもだえる。それを見て近衛は迅速に行動を開始した。王に害を
なす者は排除する。数名の近衛がベルナデットへ走り寄る。しかし、演奏に全
力で集中している彼女は気づかない。

 近衛の刃が血しぶきを巻き上げた。


147 :BeniBana.6『回廊』:08/05/05 12:13:13 ID:5GPEk3UJ
 −−−お前達、剣を収めよ! その者らは敵ではない!−−−
 広間に威厳ある意識が響いた。
 (成功した!)
 ベルナデットは演奏を止め、視線を上げた。しかし、次の瞬間、成功にほこ
ろんでいた彼女の笑顔が凍り付く。

 「い・・・・いやああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 彼女の眼前に、血がしたたる刃。それは彼女の前に庇うように立ちふさがる
イヴォンの背から生えていた。



 ・・・さい・・・・ぇんなさい・・・・ごめんなさい・・・。
 目の前に、涙を落とす少女の姿が見える。その横には・・・・
 「ベルナデット・・・・陛下・・・」
 「イヴォン様!」
 身体に暖かさがまったく無いのをイヴォンは感じた。時間は余り残されてい
ないようだ。
 −−−イヴォンよ・・・・久しぶりだな・・・・歳を取ったな、貴公−−−
 ギョホンベール王はそう言いながら、イヴォンを見下ろした。イヴォンは壁
を背に座り込んでいた。
 「ええ・・・・・生きてきましたから・・・・それも、もう終わりのようで
すが」
 「ごめんなさい・・・イヴォン様・・・・私が先走ったから・・・・」
 イヴォンは笑ってベルナデットを帽子の上から撫でた。
 「いいんだ・・・・こうして陛下は正気を取り戻した・・・・目的は達成さ
れたのだから」
 −−−すでにここの騎士達には戦いをやめるように伝えた。我が消えれば、
皆も消えよう。・・・・・・イヴォンよ・・・貴公の忠義、見事であった−−−
 「ありがたき・・・・・しかし、私だけではありません」
 ギョホンベール王は腰に手をやり、カラカラと笑った。


148 :BeniBana.6『回廊』:08/05/05 12:15:12 ID:5GPEk3UJ
 −−−わかっておる。どうせ、誰であろうとそのうちに我らと同じところに
来るのだ。向こうで皆がそろったときに、宴でも開くとしよう。久しぶりにマ
ルグリットの歌を聴くのが楽しみだ−−−
 イヴォンは笑って頷いた。
 「楽しみですね・・・・それは・・・・・ベルナデット・・・・・・レティ
シアに・・・伝えて欲しい・・・・・約束を守れなくてすまないと・・・」
 −−−いいや、イヴォン。騎士たるもの約定は何があっても違えてはならん−−−
 イヴォンは驚いて目を見開いた。ギョホンベール王の姿が透けて見える。そ
れに反比例して、自らの身体に活力が戻ってきているのも感じた。
 「これはっ!?」
 −−−貴公の身体はすでに死んだ。しかし、我に残ったかりそめの命を分け
与えれば、しばらくは現世に留まれるだろう−−−
 「イヴォン様が意識を失っていらっしゃる間に、陛下には約束の事をお話し
しました。そうしたら・・・」
 身体に力が戻ってくる。イヴォンは身体を起こし、ギョホンベール王の前に
跪いた。
 「陛下・・・・ありがとうございます・・・」
 −−−今の我が、貴公にしてやれる褒美はこの程度よ。・・・・ふっ、では
な。宴の席で待っておるぞ−−−
 イヴォンとベルナデットが見上げる中、ギョホンベール王は笑って消えていった。


149 :BeniBana.6『回廊』:08/05/05 12:16:51 ID:5GPEk3UJ
 「ベル・・・」
 その声を聞いた瞬間、心が真っ白になった。恐ろしくてゆっくりと声の方へ
向き直る。
 「ダレン様・・・・・・」
 見覚えのある黒い鎧。いつからか蓄え始めた髭。暖かい眼差しが向けられて
いる。
 「・・・・・・・・・・・・・・・・ダレン様っ!!」
 気がつくより速く駆けだしていた。広げられた逞しい両腕の間に飛び込む。
鎧は堅く冷たかったが、ダレンの匂いがする。回廊騎士の匂いがする。
 「・・・・ベル・・・・・すまぬ・・・おそくなった」
 「ダレン様は・・・ダレン兄ぃはいつも遅刻だから・・・・いつも通り」
 「そうか・・・」
 背に回された太い腕に力がこもる。
 「だが、もう遅刻することはない」
 「ダレン兄ぃ・・・?」
 「無茶をしたな・・・・・危なっかしい娘だ・・・・だから、某はお前と共
に居ようと思う」
 言葉の意味を理解して、ベルナデットは顔が熱くなるのを感じた。あわてて
鎧に押しつける。
 「某はもう、バレスター男爵ではない・・・・回廊騎士ダレンと名乗りたい。
許してくれるか・・・・回廊騎士の娘よ」
 ベルナデットは、鎧の上からその広い背中をぐっと引き寄せた。
 「ダレン兄ぃは・・・・・ずっと前から回廊騎士だよ」
 「・・・・そうか・・・・・ありがとう・・・・・・それからな」
 「うん」
 「もう、兄ぃ、はやめてくれ」
 「うん」


 タルタル特有の黒豆のような鼻に、手頃だった紙兵を押しつけて鼻をかんだ。
 「ああ・・・・歳だねぇ・・・・・・・涙もろくっていけないよ」



150 :BeniBana.6『回廊』:08/05/05 12:19:22 ID:5GPEk3UJ
 ギョホンベール王の棺の前に跪き、イヴォンは考えていた。
 自分は、誓いを果たすことができただろうか?
 人が聞けば、笑い飛ばすようなたわいもない約束。
 だが、それに命を賭けた。
 誰に強制されたわけでもない。
 ただ、その約束を誓いに変えて今日まで戦ってきたのは、結局。
 「騎士であることを見失った私は、もう一度騎士に成るために、歩いてきたのだ」
 背後で扉が開かれる。
 (私は、嘘を、少しでも本当にできだろうか。嘘を信じていた子供に、歩く
べき道を示すことができだろうか)

「私は、レティシア・レギーネ! 約束を果たしに参った!! 騎士イヴォン・ボナァァァル!!」

 懐かしい少女の声。成長と共に張りを増しているが、聞き間違えたりはしない。
 イヴォンは立ち上がり、ゆっくりと振り向いた。
 久しぶりに深紅の光が彼の目を焼く。
 彼は目を細め、笑った。
 美しく、凛々しく成長したかつての弟子に、言いようのない喜びが胸を満たす。

 約束の時は近い。

 「待っていたぞ、騎士レティシア・レギーネ」


151 :BeniBana:08/05/05 12:32:40 ID:5GPEk3UJ
BeniBana.6『回廊』をお送りします。

ちょっと、始めの方書き込みを失敗してしまいました。すいません。
そして、終わりませんでした(w

イヴォンと回廊騎士だけでいままで最長となりました。
正直疲れた・・・・。書くことにじゃなく、掲示板に写すのが(w

次からは、ちょっと別の方法で発表したいと思います。

152 :(・ω・):08/05/05 17:36:40 ID:Thj7+8Jq
キター
しかし30レスにわたる書き写しは死ねるな・・・w

153 :BeniBana:08/05/05 21:13:19 ID:5GPEk3UJ
>152
yes 半時間以上かかりました・・・・w

そういうわけで、wikiのリンクに私のブログを貼らせてもらいました。
ブログの方でも今までの物は載せてあるので、次からはそちらで発表したいと
思います。

154 :(・ω・):08/05/07 04:34:06 ID:eU33Tqba
く〜〜!!(☆_☆)
カッコイイ騎士を通り越して、騎士たるものの有るべき姿と言うべきか・・
それだけに、誰もが実践できる訳じゃない鋼の信念と言うべきか・・・
読んでて熱くなりました!!

そして、信念に従った「回廊の騎士」達に黙祷・・・


155 :(・ω・):08/05/07 08:23:38 ID:TYRijhzW
キター!
熱い物語でしたなぁ。

しかし、次回からはブログの方のみですか。
ここもまた寂しくなるなぁ。
せめてwikiにはうpして欲しいと思ったり。

156 :(・ω・):08/05/07 15:02:53 ID:qkyeA5wm
密かにGoVDキャラのツンデレっぷりがたまr
【ミス】

157 :(・ω・):08/05/07 22:46:10 ID:5vVj4ZNL
考えてみたら、物語が長くなればなる程スレは重くなっちまうんだよな。
そうなるとWiki等の外部がいいが、外部はどうも皆も読んでる、的な雰囲気にかけて困る。

いや、読むんですけね?

158 :BeniBana:08/05/08 20:48:19 ID:JvM7pjph
熱いというのは、嬉しい言葉です。ありがとうございます。

それでは、wikiにもUPしましょう。それなら平気です。
レスの文字制限に苦労することも無いでしょう。

書き上げてUPしたら、ここにはお知らせを書き込みますよ。

短く、書いた分から書き込んでいけばいいんですが、私は完全に全部きめてか
ら書き始めるタイプではないので、下手に発表して確定してしまうと収拾がつ
かなくなってしまうのです。

事細かに全部決めてから書いている人って居るのかねぇ。

159 :(・ω・):08/05/19 12:13:51 ID:Uv4TvaxC
とっくにやめたと思っていたScrapperが更新されてたage


160 :(・ω・):08/05/19 12:43:14 ID:NoKaA4If
なんだってーーーーーーーーー!
さっそく見てくる!

161 :ヴァナディール紀行:08/06/08 20:04:42 ID:rPqqAhYp
Nです。
お久しぶりです。
>>59様ありがとうございます。

ぽつぽつとヴァナで遊んでおります。
覚えてくださってありがとうございます。

ちょっと記憶が定かではないのですが、
ロランまで書かせていただいたとおもいますので
クロウラーの巣からかと思います。

初めての方 はじめまして。
わずかなりとお楽しみいただければ幸いです。

162 :ヴァナディール紀行:08/06/08 20:08:04 ID:rPqqAhYp
クロウラーの巣


「こんな時は頭からっぽにして戦うといいんだ」
つぶやいたのはルークだった。
「頭からっぽって?」
ルークはコクンとうなずく。
頭を使う事が生来あまり得意ではないルークは
考え事があると単純作業を求める。
「蜂狩りしてくるわ。クロウラーの巣で。
あそこならたくさんいるしな」
ミストはうなずいた。
「うん。僕もちょっと巣の中を見てくるね」
「巣を抜けて釣りに行くの間違いじゃないのか?」
ルークの軽口にミストは笑って、手を振った。

クロウラーの巣では蜂は蜂の巣のカケラも取れるし、はちみつも取れる。
運がよければローヤルゼリーも取れるだろう。
そう考えて短剣を出す。
「っふ…」
吐く息と同時に不意打ち。
蜂の攻撃を空蝉の術でよけながら、短剣を振るう。
ここらのモンスターで、ルークには怖いものは無い。
よけながら無心で戦う。
が…。
背後に視線を感じだ。
短剣の刃に背後を写すと、
そこにはタルタルの青年がちらちらと見ていた。
「っち…」
理由はわからない。
わからないが、今のルークは小さな事でもいらつく。
ルークは奥へ向かった。
そして、不意打ちや盗むで敵のターゲットを取りながら
ザクザクと倒していった。
無心。
周囲の事が気にならなくなる。
ザクザク切っていると、小さな声が聞こえた。
「あ……」
「ん?」
ホルンを手にした吟遊詩人のヒュム女性がルークを見ていた。
タッチの差で敵を奪ってしまったようだった。
ルークは少し眉を寄せたが、視線をそらせて戦闘に意識を集中させた。
蜂はほどなく沈んだが、アイテムはなかった。
吐息をつくと目の端に蜂。
考えるより先に体が動いた。
「たぁっ!」
目の前に飛んで来た蜂を反射的に短剣で切る。
「あ…」
ヒュム女性がまた小さくつぶやいた。

163 :ヴァナディール紀行:08/06/08 20:10:44 ID:rPqqAhYp
詩人もルークと同じ蜂を狙っていたようだった。
敵は誰のものでもない。
と、ルークは心の中で毒ずく。
ルークは他人を思いやれないほど心がささくれだっていた。
冒険者なら、自分の獲物は自分で取る。
早い者勝ちだ。
すべての冒険者が常識として叩き込まれているはずだ。
ぐだぐだ文句を言うなら、それは文句を言う方が悪い。
ルークは敵を倒しさらに…と敵を釣る。
吟遊詩人も頑張ってはいるが、到底ルークの技術とスピードに追いつけない。
気配を探る腕も、そして敵を釣る腕も、シーフのルークのほうが数倍上手だった。
「ふ、ぇ……」
詩人は両目に涙をためて、ルークをじっと見つめた。
「〜〜〜ッ!」
ボロッと大粒の涙をこぼす詩人に、ルークは切れた。
「何故、泣く?」
敵を奪っているのはルークだ。
そのことはルークが一番わかっている。
「………っ」
「なんかいえよ、オラ!」
いらつくと、語尾も粗くなる。
「だって……情けなくて」
「はぁ?」
「一匹も取れなくて…情けなくて…」
しくしくと肩震わせて泣くヒュム詩人にはぁっとルークは大きなため息をついた。
「もしかして…お前さん。『釣り』したこと、ねぇのか?」
ルークの言葉に詩人はコクコクとうなずいた。
「ふん。とりあえず泣きやめよ」
「はい…ごめんなさい。見ず知らずの人の前で取り乱して」
「まぁ…詩人はパーティ支援ジョブだからなぁ。
敵を釣る技術でシーフに勝とうってのが問題だし…それに、
俺もイラついてたしな」
詩人はふるふるっと首を横に振った。
大きな青い目が印象的だ。

164 :ヴァナディール紀行:08/06/08 20:12:57 ID:rPqqAhYp
「いえ。あなたは何も…悪くないです。
ただ自分が情けないだけです」
「何しにきたんだ?」
ルークは話を振った。
「え、と。