■掲示板に戻る■ 全部 1- 最新50

涙たちの物語11 『旅の軌跡』

188 :いつか桜の咲くころに :08/07/06 06:43:39 ID:NS1LOhHN
>187
公式設定資料集は手放せないですね!
そろそろ第2弾とか出していただきたいくらいですが。

BeniBana様は、スウィフトなど実際のWSエフェクトが目に浮かぶような筆致から
モンスとの戦闘を間近に見ることの多い前衛ジョブの方なのかなあと思っていました。
忍者さんでしたか!
私はウィン出身で後衛しかやっていないので、いつも敵も前衛さんもはるか遠くにいて…
魔法の発動音や連携エフェクトはイメージできるんですが、WSのそれはどうもぴんと来なくって。

>184
自分は細かいところにちまちまこだわるのが好きな性なので、ゲーム的な制約もできる限り
活かせるように、と思っています。たとえばアビの効果時間や、エリアの実際の敵配置。
絡まれる敵のレベル。そのOPを支配している国が配置するガードの種族性別。ただこれは
単なる趣味に近いので、物語を殺さない程度で……展開上必要があれば、現実的な範囲で
そのあたりは見なかったふりをしちゃったりもしています。
以前書かせていただいた「暁のひとみ」では、本来天候が変化しないロンフォールにだって
雨を降らせていたり、ですね。

189 :(・ω・):08/07/14 08:26:21 ID:AMJKTsFl
紅花さんはやっぱりサンドの人だったか。
自分もサンド人なので、話の作り的になんとなくそうかな、と思っていた。
前衛に近いジョブなんだろうなぁとは思ってたけど、「がちょーん!」だとは
思わなっかたw

逆に暁の人はもろウィンって感じだよね。
文章的にも柔らかいし、雰囲気がそんな感じ。

自分はウィン→サンドで移籍したので、どっちも入り込んで読ませてもらって
ます。

190 :(・ω・):08/08/03 02:35:32 ID:fwAemMrc
age

191 :ヴァナデール紀行:08/08/07 21:15:29 ID:Qmlina7u
バタリア丘陵

「ふぅん。今はこんな値段なんだなぁ」
ルークがバタリアに並ぶバザーを冷やかしながら歩く。
「わ、ね。ルーク。美味しそうなケーキがあるよ?」
「って、すでに買ってるじゃないか!!」
「だってはじめてみるケーキだったから。
レシピ教えて欲しいなぁ。パティシエさんかな?」
久し振りのジュノのそばのバザーは
二人を刺激するものにあふれていた。
「ねね。ルーク、あっちの売り手さん
ゴブリンの帽子かぶっていたよ」
売り手が目立つのも、一つの商売方法だ。
「へぇ、面白いな」
ととっと草原を歩いていると、ルークの肩にとんっと人の手が触れた。
「ん?」
「こんにちわ、お目にかかるのは初めてですね。リクルクさん」
本名を呼ばれ、ルークの眉がピクッと跳ね上がった。
「しらねぇなぁ。誰だ?あんたら」
目の前には、チュニックを着たタルタル。
そしてその背後に、強屈なガルカとエルヴァーンを従えていた。
「お二人がご一緒に旅をしているの言うのは本当だったのですね。
見つけるのに苦労いたしました。ミスティアノリアさん」
ミストはタルタルを見て、目を細めた。
「人違いじゃないかなぁ?」
のんきなミストの言葉にルークはうなずく。
「残念だが、別人だな。俺達はそんな名前じゃない」
「こちらでゆっくり話しませんか?
もしよければ、最高のサンドリアティとロランベリーパイご馳走しますよ」
「そんな義理はねぇな」
ルークの言葉にタルタルは首をかしげ
瞳で笑った。
「いまさら…身元は割れているのですよ。お二人とも。
いらない小芝居は結構です。
私はHNMLSクラウンのリーダー代理のルルヴァルです」
差し出す小さな手を握らずルークとミストは顔を見合わせた。
しらばっくれるのは難しいようだった。
ルークはしばらく思案し、小さく舌打ちした。
「だめだわ。ミスト。後ろのガルカ、顔見知りだ」
昔顔を合わせた程度だが、ルークには見覚えがあった。
「……そっか」
ミストは吐息をついた。
「こちらへ」
「ジュノじゃないのか?」
ルークの言葉にルルヴァルはうなずいた。
「お二人はジュノでは
まだ会いたくない方もいらっしゃるでしょうから」
「無駄に有名人だと困るね。どうも」
ルークは肩をすくめてルルヴァルの後をついてゆく。
びゅうびゅうと強い海風が吹くバタリア丘陵。
その風を避けるように小さな洞窟に入った。
「なかなかルピゥスの煎れるお茶は美味しいんです」
タルタルが笑み、ルピゥスと呼ばれたエルヴァーンは無言でお茶をいれた。
高貴な香りのサンドリアティは、確かに美味かった。


192 :ヴァナディール紀行:08/08/07 21:18:02 ID:Qmlina7u
「で?」
ルークの言葉にルルヴァルはペコンと頭を下げた。
「まずは隠遁していらっしゃるお二人を捜し当てた非礼
お許しいただけると助かります」
「ふん」
「で、なにかな?」
「お二人には、是非我らにご協力いただきたい」
ルルヴァルは洞窟に座り、ルークの目を見て言った。
「協力…何するつもりだ?お前さんたち」
「我らのLSを戦闘中に攻撃した者を突き止め
正当な処罰を与えたいと思っています」
「………」
「俺たちには関わり無い話しだな」
ルークの言葉にルルヴァルは首を横に振った。
「いいえ。アーヴィさんご存知ですよね?」
「アーヴィ?!」
はっと二人は顔をあげた。
ルークとミストのかつての気のいい仲間であり、
そして、ルオンの庭に生きて抜け出せた赤魔道師だ。
ただ…恋人を殺され、その恨みを持ちながらルークたちの前から存在を消したが…。
「アーヴィさんがおっしゃるには、
我々の敵とあなたたちの敵は同一な者である。
敵はタルタル族であり、HNMLSに恨みを持つものだ、と」
「…そう…なのか」
敵の存在を見ていないルークには
あいずちしか打てなかった。
「ええ。力が必要なのです。
魔力を使い人が人を殺す。
そんなよこしまな思考を持つもの相手には
情報と団結という力が必要なのです」
「タルタル族一人と戦うのに大仰過ぎはしねぇか?」
ルルヴァルは小さく笑って首をかしげた。
「貴方はウィンダスの至宝シャントット様と闘うといったら
どれほどの戦力を用意いたしますか?
あの方はまさに一人で千人の部隊と戦う事も可能かと」
「…――嫌なたとえを出すなよ」
ルークはうんざりとそっぽを向いた。
「是非、お2人の力をお借りしたい。
『神々の背中を守る者』といわれたリクルクさんと
『アルタナに愛されしもの』といわれたミスティアノリアさん。
お二人が我らと共に戦ってくだされば
こんなに心強いことはありません」
ぐっと身を乗り出し、ルルヴァルは語る。
ルークは小さく首を横に振った。
「無理だな。俺たちは前線を退いた。
もう、戦いの日々ではなく、安らかな日々を送りたいんだ」
ルルヴァルは食い下がる。
「休むには二年は短かったですか?
そして、お二人とも…まだまだ戦えるようにお見受けいたしますが」
「体の問題じゃねぇよ。心の問題だ」
「それも、私には十分充実しているように見えます」
ルルヴァルの言葉にルークは舌打ちした。
「嫌だっつってるだろう」
ルークの粗い語尾にふっと、ルルヴァルは話を変えた。


193 :& ◆b36X4LzTSc :08/08/07 21:19:47 ID:Qmlina7u
「HNMハンターってなんだかご存知ですか?」
「HNMと戦う者だろう?」
「そう。各国の軍隊ではない。
自分達の意思で自由に動ける冒険者です。
そして、巨大なモンスターと戦える者です」
「あぁ」
「そのHNMハンターが狙われるという事は、
巨大なモンスターに優位にたてるチームが潰されるという事
HNMハンターが潰されれば
それはじきにモンスターの優位な世界が来るという事です」
「また…ぶっとんだ理屈だな」
ルルヴァルは微苦笑する。
「お二人は少し人よりお強いから…感じずらいかもしれませんが
普通の人間は自国周囲のモンスターすら命を落とすほど危険な存在です。
人は、ヴァナディールではまだまだ脆弱な存在です。
強い爪も、身体を覆う固い鱗もない。
でも、人はその賢さで、群れ戦うテクニックを磨き
武器や防具を作り、強大なモンスターと戦うことが可能になりました。
HNMハンターはその最先端を行っていると自負しています。
ですが…。
HNMハンターのチームがやられるということは…
モンスターの台頭を意味します。
人が優位だった世界がくずれ
モンスターが力を蓄え、獣人の支配を広めるでしょう。
最近のコンクェスト…みていますか?」
ルークとミストは眉をきつく寄せた。
「冒険者がアトルガン皇国に流れている。
アトルガン皇国は、周囲の獣人に押され頻繁に市街戦を行い
冒険者も多量に必要です。
でも…コンクエストを見ればわかります。
最近は、このジュノ周辺も…獣人支配に落ちる事が多い。
獣人が力をつけているのです。
そんな時に、HNMハンターが狙われ、
人はさらに力を弱める。
偶然ですかね?そこに策略はないと思いますか?」
ルークとミストはぞわりと鳥肌を立てた。
見えない何かが、地下でうごめいている気がして…。
「一介の冒険者にそんなこと、語られてもな」
ルークは肩をすくめた。
「冒険者だから、逃げてはいけないとは思いませんか?
我々は一般の街人より闘う力がある。
その力は、世界のために使うべきだとおもいませんか?」
「ちょ…まってくれ。
あまりに話が壮大すぎる…」
「HNMハンターの大きいLSは
ほとんど打撃を受けています。
わかりますか…?
大げさではなく、何かが動いています
そして、今のうちに手を打たないと、取り返しがつかない事になるかもしれない」
ルルヴァルの言葉にルークは眉を寄せた。


194 :& ◆b36X4LzTSc :08/08/07 21:21:55 ID:Qmlina7u
ミストは淡く、嘲笑う。
「どうして、そんなに力で解決しようとするの?」
「ミスティアノリアさん?」
「戦うとか、力とか…。
敵が何を考えてるかルルヴァルさんはわかるのですか?
すべてが貴方の憶測でしかない。
貴方一人の憶測で世界の未来を語られても、僕には信じられない。
それに、戦えば憎しみが生まれる。
双方に傷が残る。
そして憎しみは恨みを、恨みは憎しみを。
永久に終わる事の無い紅蓮地獄だ。
人かモンスターか…どちらか完全に叩き潰すまで終わらない戦いになる。
戦う以外の道はないのかな?
本当に貴方のいう事は正しいのかな?
僕にはルルヴァルさん。貴方の言葉に納得しきれないものを感じます」
ミストの言葉にルルヴァルは苦笑する。
「中々の、論客ですね。ミスティアノリアさん」
「どういたしまして。自分達の憎しみを正当化して
世界のためにとか言う人は申し訳ないけど信じられないのでね。
まだ私利私欲で戦ってくれたほうが
僕にはすっきり納得できます」
ミストの言葉にルルヴァルはふっと吐息をついた。
「なるほど。奇麗事語り過ぎましたか」
「そうですね」
「でもね。ミスティアノリアさん。
僕が言ったことは事実です。
勿論私怨もあります。
でも…何故HNMハンターが襲われるのか。
その事をちゃんと考えたほうがいい」
「確かに、それは軽視できませんが、ね」
「ごいっしょには行動していただけませんか?
貴方のような聡明な方が、そばに欲しい」
ルルヴァルはミストを見て首をかしげた。
「あいにく。まだ我々は旅をし足りないので…」
「もったいない。本当にもったいない。
それだけの知識と力と智恵をもつお二人が
一介の放浪者でいるなんて人材の無駄づかいです」
「それこそ余計なお世話です。ルルヴァルさん」
ルルヴァルは笑って小さなリンクシェルを差し出した。
「気が向いたら、連絡をください。
荷物の隅に入れておいてください」
「………」
「お二人に仲間になっていただきたいですが
今すぐと、無理強いはしません。
必要なときは我々は無償でお二人に力も貸します。
クラウンがあなたたちのバックにあると思えば
荒野の旅も少しは安心でしょう。
何より…我々も情報が欲しいですし、
お二人に情報を差し上げる事も出来ます」


195 :& ◆b36X4LzTSc :08/08/07 21:24:26 ID:Qmlina7u
「いらねぇ」
「頼ったら高くつきそうだしね」
2人の呟きにルルヴァルはこれだけは譲れないというように
ミストの手に小さなリンクシェルを握り締めさせた。
「お願いします。持っているだけでいい」
「…」

「では失礼します。
気が向いたら、その気になったら、
我々はいつでもお二人を歓迎いたします
ミストさん、ルークさん」
にっこり笑ってルルヴァルはガルカとエルヴァーンを引き連れ
ジュノに帰っていた。
小さなリンクシェルと苦い後味が、ミストとルークには残った。


追記


「奴らのいう事…本当だと思うか?」
ルークの言葉にミストはうなずく。
「うん。
大きな何かが動いているのは事実だと思う。
コンクェストも確かに…獣人支配が増えているし
人は追い詰められ始めているのかもしれない。
もう、戻れない破滅へのノーリターンポイントは近いのかもね」
ノーリターンポイント。
歴史の分岐点であり、その先にすすめば修正はきかない未来となる。
未来を変えるには、今が大切なのかもしれない。
「ミスト…」
「でも、僕らが協力するかどうかは別物だよ」
「いいのかよ…」
「いいんだよ。僕ら二人がどうこうしたって
亡びる時は亡びるよ。人は栄えすぎた。
そうおもうよ」

ミストは優しすぎる男だから…
人間の非に自らの死をもってつぐなうくらいは
わけもなくしそうだ。
ミストの言葉にルークは雲に澱んだ空を見上げた。

「なぁ…
青い空が、見たいな」

「そうだね」
ミストは立ちあがる。
「滝でも見にいこうか」
「おう」
二人は重い空気を振り払うように、歩き出した。

                  END




196 :& ◆b36X4LzTSc :08/08/07 21:41:36 ID:Qmlina7u
あとがき

たくさんのお言葉と歓迎を下さりありがとうございました。

今回のお話ははじめましての方にはさっぱりわからないかと思います。

もしご興味をいただきましたら、WIKIにあげてくださったお空あたりのお話を
参照していただければおぼろげながらにお話がつながるかと思います。
すみませんっ。お手間のかかるお話になってしまって。
改めてWIKIを守ってくださる皆様に感謝をささげます。


『いつか桜の咲くころに』の作者様
うれしいお言葉をありがとうございました。
私のほうこそ素敵なお話を拝読させていただけて幸せでした。

>184様

私のお話には、私のLSメンバーが名前を少し変えて出ております。

私はヴァナディールを普通に旅する普通くらいの理解度の冒険者ですが、
フレンドでとてもヴァナの歴史や文化世界に詳しい方がいて
わからないときにはいつもフレンドに聞いております。
それでも、理解が甘いことが多々あるのですが…
歴史的事件はそれとして、ヴァナの風を感じられる物語がかけたらいいなぁと
漠然と思っております。

読んでくださる皆様に感謝を。
ありがとうございました。

暑い日々ですが、夏ばてや熱中症などに気をつけてお過ごしくださいませ。

N 拝

197 :(・ω・):08/08/13 01:32:20 ID:CT7CEB9x
紀行の作者さんきてるー!
今回も楽しく読ませていただきました。
何やら話しもきな臭さが出てきましたね〜。
ミストとルークの活躍も読みたいですが、彼等に平穏をとも思ってしまいます。
次回も楽しみにしてますが作者さんもお体大事にして下さいね。

198 :BeniBana:08/08/17 15:20:36 ID:6xRSGyxM
ヴァナディール紀行、全部読みましたー
こういうあっさりした短編の連作ってなかなか書けなくて、尊敬します。
続きを楽しみにしています。


え、紅花? ハハハ、途中まで書いて、納得いかなくて書き直し中です・・。
いつになるやら・・・・すいませんですはい。

199 :BeniBana.7『真実』:08/08/26 00:58:15 ID:e6/3PdTb
 その人は常に黒いドレスを身に纏う。深い夜のように静かに佇み、深い闇の
ような深淵を抱える。その淵まで悲しみを湛え、喪服のようなドレスで立つ。
 一目見たときから、その姿が強烈にまぶたに焼き付いた。その歌声を聴いた
ときには、もう心は囚われていた。そして、考えられぬ行動に出ていた。
 「そこの人、出ていらっしゃい。・・・くすっ、その柱に貴方の大きな体を
隠すのは難しいわ」
 王女が一人になる時間を調べ上げ、彼女の部屋まで完璧に忍び込んでおきな
がら、わざと見つかるように柱に隠れる。そんな男が可笑しかったのか、彼女
は笑っていた。
 今更ながら自分の所行に、俺は顔を赤くしながら出て行った。ノルバレンの
とある城。そのテラスでのたった一度の・・・・・忘れ得ぬ記憶。
 「あら、貴方でしたの。お仕事のお話かしら、商人さん?」
 そう言われて本当に気恥ずかしくなって、俺は頭を掻いた。
 「いや、実は・・・・貴方の唄に誘われたというか・・・・・個人的に話が
したかったのだ」
 語尾がしぼんでいく俺の言葉に、王女は目を丸くして、そして笑い出した。
 「バストゥークのエージェントに仕事を忘れさせるなんて、私の唄もなかな
かのモノね。お世辞でも嬉しいわ」
 「いやっ、本当だ。・・・・ただ・・・」
 逡巡する俺に王女は首をかしげて言った。
 「ただ?」
 「・・・・・貴方の唄はとてもすばらしいが、悲しそうだ。俺は貴方の幸せ
な唄が聴いてみたい」
 不躾な男の不躾な言葉に、彼女は再び驚いて目を見開き、笑って首を振った。
 「・・・・・もう忘れてしまいました。私の唄は多くの騎士を死地へ追いや
った唄。自分で選んだ道ですけれど、私は背中に向かって唄いすぎたのかもし
れません・・・・あら?」
 彼女の語尾が震える。深い心の淵を乗り越え、涙が頬を伝う。
 「あら・・・あらあら・・・・ごめんなさい・・・どうしたのかしら」
 俺はポケットから純白のハンカチを取り出し、差し出した。黒ばかりの彼女
だからこそ、その白が際立つ。


200 :BeniBana.7『真実』:08/08/26 01:00:03 ID:e6/3PdTb
 悲しみに心が麻痺し、己が落とす涙に戸惑うこの女性が悲しかった。麻痺し
た心からあふれているのは彼女の唄ってきた想い。呪歌の呪いが聞き手の背中
を押して、彼女の想いは彼らに追いつけない。
 ・・・・・救いたい。そう思った。
 「ありがとう・・・・」
 頷いて彼女を見る。彼女は微笑んでハンカチを畳んでいた。
 「差し上げる」
 無骨なバストゥークの物ではなく、タブナジアの製品なので使って頂ければ
・・・・と俺は告げた。
 「タブナジア・・・貴方は世界中を飛び回っているのですね」
 俺は再び頷いた。バストゥーク商務省のエージェントとして、彼はいろいろ
な任務をこなしてきた。バストゥークという国で這い上がるために、いろいろ
な出来事の裏を見てきた。
 「イヴォン・ボナールという人をご存じですか?」
 無論、その名も今の彼の動向も把握していた。国外追放となり、タブナジア
に滞在する彼は、ナフィベール王子の武装蜂起に対し何の行動も起こしていな
いという報告だ。
 「あの人は・・・今・・・・・・・いえ、お元気なのでしょうか?」
 「タブナジアで知古の貴族に身を寄せていると聞いている。若い戦士達に剣
を教える毎日だとか」
 「そう・・・あの人は、新しい生き方を見つけられたのでしょうか・・・・」
 彼女は口元を押さえ、うつむいてしまった。その瞳が潤んでいるのも、その
頬が赤いのも、先ほど流した涙の仕業ばかりではあるまい。
 ならば、俺のすることは−−−−−−−




201 :BeniBana.7『真実』:08/08/26 01:02:17 ID:e6/3PdTb
 「なぜだっ!! なぜナフィベール殿下の声に応じてくれない!?」
 目の前に佇む、元回廊騎士団長イヴォン・ボナールに俺は声を荒げ問いかけ
た。昨年起こった『二王会戦』により東西サンドリアの争いは決着したが、東
サンドリアの残存勢力は諦めていなかった。ギョホンベール王の遺児であるナ
フィベール王子を担ぎ上げ、ノルバレンにて独立蜂起を行ったのだ。
 「東サンドリアは敗れたとは言え、その勢力は未だ健在。ナフィベール殿下
が起ち、一戦し勝利すれば、同調する者は必ず現れるはず。そうすれば−−−−」
 「再びサンドリアは分裂し、まとまりかけた国は乱れ、いらぬ血が流れるだ
ろう。・・・・・あのロンフォールでの戦いはまさしく決戦だった。そして、
我々は敗れたのだ。敗者には敗者の守るべき矜持がある・・・・・今の私が守
るべきものは、それだけだ・・・・・ゆえにっ!!」
 イヴォンの視線に俺は慄然と凍り付く。底冷えのする怒りが視線に宿ってい
た。
 「グサヴァー・・・・と言ったな。私がお前達バストゥークの思惑に乗るこ
とはない。回廊騎士達も同様だ」
 「だが、マルグリット王女は貴方を待っているっ!」
 「貴様っ!」
 イヴォンの腕が俺の胸ぐらを掴み締め上げる。反射的に俺も彼の腕を掴んで
はずそうとするが、まるで動かなかった。
 「貴様がっ、貴様らバストゥークがそれを言うのか!! 彼女を再び戦いへ
追いやった貴様らが!!!!」
 イヴォンが上げる怒りの声は当然だった。しかし、そんなことは関係ない。
 「ぐっ・・・バストゥークなど・・・・関係ない。確かに、俺は・・・・サ
ンドリアに再び内乱の芽を植える為に派遣された。だが、もうそんなことは・
・・・関係ないのだ」
 「なに?」
 イヴォンの腕を、満身の力を込めて引きはがす。ギリギリと骨が軋んだ。
 「マルグリット様を助けてくれ・・・・・まるで、唄う事が罪を重ねる事の
様に、心を削って唄うあの人を救ってくれ」
 「貴様・・・・」
 イヴォンの腕から力が抜けた。しかし、俺はその腕を放さず懇願する。


202 :BeniBana.7『真実』:08/08/26 01:04:18 ID:e6/3PdTb
 「お願いだ。あの人を死なせないでくれ。あの人の悲しそうな唄を止めてく
れ。俺に幸せそうに唄うあの人を見せてくれ。あの人の本当に唄を! 聴かせ
てくれっ!!」
 恥も外聞もなく、俺は頭を下げた。しかし、イヴォンは俺の手を振り払う。
硬質な声が響いた。
 「それは、私には出来ない。私はここを動けない」
 「なぜだ!? なにもしないと言うのか!?」
 俺の非難がましい声に、イヴォンは瞳を閉じ顔を伏せた。
 「・・・・どのみち、もう遅い。ランペール王は甘い人物ではない。あのエ
ルパラシオンとヴォルダインが、反乱鎮圧に派遣されたそうだ。武装蜂起は瞬
く間に鎮圧されるだろう・・・・・逆に利用されたな」
 竜騎士エルパラシオンと神殿騎士ヴォルダイン。この二人が反乱鎮圧に派遣
された事には理由があった。
 この時、ランペール王自身は王都を離れることが出来なかった。彼は王都に
入ってまだ日が浅く、その足下は今だ危うい。王都を護ってきた神殿騎士団は
向背がはっきりせず、治安も安定しない中で王都を空けるわけにはいかなかっ
たのだ。
 そこで彼は、ナフィベール王子の起こした反乱を逆手に取った。神殿騎士で
あるヴォルダインを、長年の忠臣であるエルパラシオンと同等に扱うことによ
り、神殿騎士団の地位を安堵する態度を示したのだ。
 さらに、東サンドリアの反乱を神殿騎士に鎮圧させることにより、神殿騎士
団自身に東王との決別を内外に示させたのである。
 これにより、ランペール王は神殿騎士団を掌握し、王都での足下を固めるこ
とに成功するだろう、とイヴォンは語った。さらに−−−
 「ランペール王は、私と回廊騎士が反乱に参加しない事を条件に、王子達の
助命を約束された。無論、その中にはマルグリット様も含まれる。・・・・故
に私は動かぬ。・・・・動くわけにはいかぬ」
 その言葉に、俺は全身の力が抜けていくのを感じた。呆然とする尻目に、イ
ヴォンは踵を返した。
 「これでもはや、サンドリアが分裂することはない。もう、王女が戦場に立
つ必要もないだろう。今後どうするのかは、王女の自由・・・・。もし、その
気があるのなら、あの人を支えて差し上げてくれ」
 背中越しにそう告げ、彼は去っていった。




203 :BeniBana.7『真実』:08/08/26 01:06:23 ID:e6/3PdTb
 俺は走っていた。ノルバレンの城は戦場の音に包まれていた。怒声、剣戟、
魔法の轟音、扉や建物が破壊される音。もはや、ここが落ちるのは時間の問題
であり、それはナフィベール王子の反乱が潰えることと同義であった。
 エルパラシオンとヴォルダイン。二人の優秀な騎士は、たった三ヶ月で反乱
を鎮圧してしまったのだ。あまりにも見事な手腕だった。
 愛用の片手斧を持ち、俺は彼女の部屋の前にたどり着いた。
 イヴォンが彼女達の命を救うために動けないでいた事を、俺は彼女に話さな
かった。話せなかった。いつか来てくれると信じている彼女から、光を奪うこ
とが怖く、それほど彼女に愛されいるイヴォンが憎かった。
 取っ手を掴み、彼女の部屋の扉を開いた。彼女が避難させた使用人の姿もな
く、護衛の騎士も最後の抵抗に討って出ており、居ないのは確認済みだった。

 バストゥーク本国はすでに王子の反乱に見切りを付けており、俺は仕上げの
任務を完遂し帰還せよとの命令を受けていた。

 開け放たれた扉の奥から歌声が聞こえてきた。弱々しく、寂しげな歌声。い
つもの歌声だった。戦場では厚く、張りのある声で騎士を鼓舞する彼女が一人
で唄う歌はいつも、儚げで悲しかった。
 俺は部屋に足を踏み入れた。
 部屋の中央、大きな背もたれの椅子が、その背を向けている。その背の向こ
うから唄だけが聞こえていた。
 「マルグリット王女。お別れのご挨拶に参った」
 俺の声に彼女の唄がとぎれた。
 「ここに、敵兵が来るのも時間の問題だろう・・・・・もう、貴方の戦いは
終った」
 彼女はなぜかほっとしたように溜息を吐いた。
 「そうね・・・・これで東サンドリアは本当に終わり。もう大きな反乱を起
こす力は残らないでしょう。・・・・私の役目も終わりました」
 その言葉に、俺は得心した。
 「貴方は、この反乱を成功させるつもりなど無かったのか。東サンドリアの
最後の力を奪うために、あえてこの反乱を起こさせて、そして失敗させたのか」
 「ふふ・・・・そんな大仰な事を考えてたわけではありません。ただ、成功
しないだろうと思っていただけ。貴方達バストゥークに援助をお願いしたのも、
この反乱に成功する目があると、負けを認められない諸侯に思わせる為だったの」
 東サンドリアの諸侯もバストゥークも、この歌姫に踊らされたのだ。
 「してやられたな。貴方は東サンドリアとバストゥークを手玉に取った」
 俺は賞賛の言葉を投げるが、彼女の声は沈んだままだった。


204 :BeniBana.7『真実』:08/08/26 01:09:03 ID:e6/3PdTb
 「・・・・そんなに気持ちの良いことじゃないわ。兵士達を勝てるはずのな
い戦に送り込んだのですもの。・・・・・でも、もう終わり。彼らには向こう
で謝る・・・わ」
 尻すぼみに消えゆく彼女の声。心臓に氷杭を打たれたような怖気が走る。俺
はあわてて彼女の正面に回った。
 「! ・・・・マルグリット王女!!」
 彼女は焦点の合っていない瞳で俺を見た。その手首には一筋の傷。動脈には
達していないのか、流れ出た血の量はたいしたことはない。だが、その傷を付
けたであろう落ちたナイフを手に取り、その不自然に曇った刃を見て俺は呻い
た。
 「毒をっ・・・・」
 「斬られる・・・痛みを知って・・・死のうと思ったの・・・・ですけど・
・・・・駄目ね・・・・やっぱり痛くて・・・・それに頼ってしまいました」
 エルヴァーン特有の褐色の肌が赤みを帯びている。その様子からもはや助か
らないと、俺はわかってしまった。膝の力が抜け立っていられない。彼女の前
に跪き、俺は座る彼女と目線を合わせた。
 「どうして・・・・貴方の戦いはやっと終わったと言うのに! 貴方も新し
い生き方を出来るはずだったのにっ!! そう、明るい歌を唄って生きていく
ことも出来た・・・」
 彼女は微笑んだが、それはどこか自嘲を含んでいた。
 「・・・・私はもう・・・・誰かが側にいると唄えなくなっているの・・・」
 その言葉は落雷の様に俺を打ち据えた。思い返してみれば、彼女はいつも一
人で唄っていた。俺は隠れて聴いていたのだ。俺に気がつけば、彼女は唄うの
をやめていた。
 「・・・・この唄で、私は・・・・人を殺しすぎたのね・・・・・私の唄は
穢れてしまった」
 「そんなことは!! ・・・・・・そんな・・・・ことは・・・・・」
 声が震える。頬を熱い滴が流れ落ちた。彼女の手が伸ばされる。その手には
見覚えのあるハンカチ。そっと、彼女の手が俺の涙を拭った。俺はその彼女の
手を取った。
 「ありがとう・・・・泣いてくれて・・・・・」
 「マルグリット王女!!」
 俺は彼女の名を叫んだ。しかし、彼女の目はもはやなにも見ていない。その
口から漏れる言葉もうわごとに近かった。
 「イヴォン様・・・・ああ・・・・・もう一度だけ・・・会いたかった」
 俺は彼女の前で跪き、彼女の手を取ったまま身じろぎすることなく、彼女の
呼吸が止まるのを見届けた。
 そして戻るつもりの無かった本国へ戻り、サンドリアでの最後の任務、マル
グリット王女の暗殺が完了したことを報告した。

 「ご苦労だった。下がってよろしい。エージェント・ダブルギア」

 常に無機質なヒュームの上官の声が心地よく聞こえ始めたのは、この時から
だった。
 グサヴァーというガルカの青年は、無機質な組織の歯車へとその姿を変えた
のだった。


205 :BeniBana.7『真実』:08/08/26 01:11:57 ID:e6/3PdTb
 クォン・ミンダルシアの両大陸を結ぶ『ヘヴンブリッジ計画』
 その第一段階として、バタリア丘陵とロランベリー耕地を結ぶ橋梁が、着工
して三年、遂に繋がった。まだまだ完成とは言えないが、橋としての機能には
もはや不備はない。ロランベリーと海運業で都市国家と呼べるまでに成長した
ジュノを経由する、サンドリアとバストゥークの新たな交易路が完成したのだ
った。
 初夏の日差しの中、橋の上を、大柄な影が歩いている。バストゥークの役人、
ダブルギアだった。
 「ふぅ〜・・・・」
 彼は息を吐くと、橋からジュノ海峡を眺め、手を掲げて輝く太陽から目を守
りながら空を見上げた。そして自分が歩いてきた後を振り返った。所々に着飾
った上品な人物達が、珍しそうに橋を見ている。新たな交易路の完成と、サン
ドリアとバストゥークの友好を記念した式典が今日開かれるのだ。
 ダブルギアもまた、バストゥークの商務省の役人として『ヘヴンブリッジ計
画』に携わっている。だが、式典には参加しない。彼の役割は常に裏方。この
ように日の光を浴びる舞台は、ヒュームの上役の仕事だった。
 彼は、何度も工事の進捗状況を見るために訪れた橋の上で、海峡に架けられ
た新たな道の上で、眩しそうに目を細めた。
 そうして感慨にふけった後、彼は前に向き直り、橋から海峡を眺める招待客
の一人に話しかけた。
 「良い眺めだと思わないか?」
 「絶景ですね。海峡の真ん中まで、自分の足で来る事があるとは思っていま
せんでした」
 そう言ってダブルギアに向き直ったのは、太陽に輝く白銀の髪をもつエルヴ
ァーン。カリウィスだった。
 「たしか、式典参列者には、貴殿の代理としてあのアドリアンという男が来
ていたはずだが・・・・・・なぜ、ここにいて、その上、俺を呼び出す?」
 「心配ご無用。アドリアンならば、私よりも式典を盛り上げてくれるでしょ
う」
 確かに、あの赤毛髭の騎士は、ボナール将軍の反乱を鎮圧した部隊の騎士と
して、招待した側の意図に十分に応えていた。普段のオカマ言葉はナリを潜め、
低い声での語り口は他の招待客の耳を捉えて話さない様子だった。だが、
 「そういうことでは無いのだが・・・・まぁいい。用件を聞きたい」
 「よけいな会話は時間の無駄ですか。ガルカというのは見た目通り、質実剛
健なのですね」
 ダブルギアは応えず、腕を組んだ。その様子にカリウィスは苦笑し、前髪を
掻き上げた。
 「貴方なら知っていると思いましてね。キリリさんの居場所を」


206 :BeniBana.7『真実』:08/08/26 01:14:41 ID:e6/3PdTb
 キリリは古墳での戦いが終わった後、人知れず姿を消していた。古くからの
仲間を失った後の失踪に、ベルナデットなどは気が狂わんばかりに心配してい
た。
 「・・・・・彼女を捜してどうするというのだ?」
 「もう一度、自分の耳で確かめたいのです、真実を。私は父から聞かされた
だけなのでね」
 「そっとしておこうとは思わないか?」
 「それでは、残された者はどうなると思います? 私は死者よりも、今生き
ている者を尊重したいのでね」
 ダブルギアとカリウィスの視線が交差する。全てを知り諦観を宿した老いた
瞳と、進むべき未来を見据えた若い瞳が。
 ダブルギアは苦笑を刻んだ。
 「・・・・いいだろう。チョコボを用意しよう。ついて来ればいい」
 「どこへ行くのです?」
 「・・・・墓参りだな」



 起伏の激しいバタリア丘陵だが、二人が騎乗するチョコボは難なく踏破し、
風を切り走っていた。サンドリア騎士であるカリウィスがチョコボの扱いに長
けているのは当然として、その手綱さばきにダブルギアも難なく合わせていた。
二騎のチョコボは見事に併走し、丘陵を駆け抜ける。
 「今の内に、私が父から聞いた話をしますから、なにか思い違いがあったら
教えてもらえませんか?」
 「・・・・わかった、いいだろう」

 ナフィベール王子の反乱『三月王国事件』後、バストゥークに戻ったダブル
ギアは、何かに取り憑かれたように働いた。ガルカが出世するのが難しいバス
トゥークで、気がつけば商務省で『ヘヴンブリッジ計画』に携わるガルカ労働
者を統括する立場に成っていた。
 三年前にジュノに来てから、彼はそれまで足を向けなかったマルグリット王
女達が眠る墳墓に通うようになった。20年近い歳月を経て、やっと過去に向
き合えるようになった結果であった。
 墳墓に墓参りに通うようになって、彼はキリリと出会った。二人とも直接会
った事は無かったが、相手のことは知っていた。細作、諜報員、工作員にとっ
て、最も警戒するべきは同業者なのだったから。
 しかし、二人ともすでにその道からは引退した身だ。同じ裏の世界を歩いた
者同士、互いに敬意を持って死者に花を手向けるのみだった。
 心地よい無言、不干渉・・・・・墳墓はいつも静謐な時間が流れていた。
 だがある日、その静謐が破られた。


207 :BeniBana.7『真実』:08/08/26 01:16:53 ID:e6/3PdTb
 わずかに漂い始めた、二人にとって嗅ぎ慣れた匂い・・・・死の匂い。それ
は日増しに強くなり、やがて墳墓を覆い始めた。
 死者は未練によって蘇る。死の匂いの元凶をたどったダブルギアとキリリが
辿り着いたのは・・・・・マルグリット王女の棺だった。

 −−−イヴォン様・・・・ああ・・・・・もう一度だけ・・・会いたかった−−−

 「どきなっ! ダブルギア!! 蘇る前にもう一度滅さなくちゃあ、大変な
ことになるのがわからないのかい!!」
 「断る。俺は今度こそ、彼女の願いを叶えなければならん」
 マルグリットの棺の前で二人は戦った。

 「・・・・正直、あの時は死ぬだろうと思っていた。現役の頃もだが、今で
も彼女と俺とでは技量に大きな差がある。本当ならば到底敵わぬはずだった」
 ダブルギアの言葉に頷き、カリウィスは話を進める。

 だが、ダブルギアは死ななかった。キリリの動きは大きく精彩を欠いていた。
彼女は迷いの中に沈んでいたのだ。決着はつかず・・・・やがてキリリは刃を
下ろした。
 「できない・・・・許せない・・・・」
 キリリはクナイを握りしめ、うつむいて涙を落とした。絞り出すように呟く。
 「あの人が・・・・団長が、病に殺されていくなんて許せない・・・・・そ
んな姿は見たくない」
 この時、イヴォンは本人も知らされていなかったが、死に至る病に冒されて
いた。食欲不振と倦怠感。寄る年波には勝てないなとイヴォンは笑っていたが、
彼を診察した医師は、彼の腹心とも言えるキリリにのみ、事実を告げていた。
 キリリは悩んでいた。このままでは、彼が常々語る弟子との約束すら果たす
ことはできないだろう、と。
 マルグリット王女達、東王の騎士達の復活は、彼の最後の戦いとして、約束
を果たす舞台としてこの上ないものに思えた。

 こうして、ダブルギアとキリリ、二人の利害は一致したのだ。

 ダブルギアは、蘇った王女を騙した。貴方達を蘇らせたのは自分だ。ここで
待っていれば、イヴォンは必ず来る。そう騙すことで、彼女たちが暴走するこ
とを防いだ。


208 :BeniBana.7『真実』:08/08/26 01:19:05 ID:e6/3PdTb
 キリリは、イヴォンと回廊騎士達を騙した。亡霊騎士達が誰かに操られてい
ると報告することで、義憤に駆られた回廊騎士達が自ら討伐に向かうように仕
向けたのだ。当然、亡霊騎士がガルカ労働者を殺したという話も嘘である。
 状況も二人に味方した。サンドリアもバストゥークも、条約でうかつに軍を
派遣できない。全てを秘密裏に収めるには、イヴォンと回廊騎士の暴走にして
しまうのが最も良かった。
 キリリは、イヴォンや回廊騎士達には真実を隠した。だが、緋盾騎士団団長
であり、カリウィスの父であるテンパランスヒル公爵には全てを話した。ダブ
ルギアとマルグリット王女の関係、イヴォンの約束と病について。
 そして、イヴォンの願いにより、国王から騎士団に回廊騎士討伐の勅命が下
った時には、レティシアを含めた部隊を派遣して欲しい、イヴォンに約束を果
たさせて欲しい、と助力を請うた。

 「父は、彼女の願いを了承しました。断る理由はありませんからね。たいし
た労もなく、反乱を討伐した騎士団として名声を得て、さらに王家に恩を売る
ことも出来るのだから。そうして、私達は出陣し、レティシアは約束を果たす
ことが出来ました。私が知る真実は以上です」
 「その通りだ。何も間違ってはいない」
 ダブルギアは、まっすぐに前だけを見て、カリウィスに応えた。カリウィス
は彼の横顔をしばらく伺ってから、前に向き直った。
 「そうですか・・・」
 それからは無言で二人は駆けた。やがて、二騎のチョコボは目的地へと到着
した。





209 :BeniBana.7『真実』:08/08/26 01:21:06 ID:e6/3PdTb
 バタリア丘陵の街道沿い近く、ギョホンベール王の墳墓を見下ろせる小高い
丘の上に、40本近い剣が突き立つ場所がある。使い古され、激戦をくぐり抜
けたそれらは、折れていたり、刃が欠けていたり、まともな物はほとんど無い。
 しかし、一本の剣を中心に整然と突き立てられた剣達は、己の主達の戦いを
物語る碑石として、雄々しく佇立していた。
 その中心に立つ剣の前に、タルタルの忍者は佇んでいた。
 「・・・・すまないねぇ、ダブルギア。結局生き残っちまったよ。あんたの
手を煩わせる事になった」
 チョコボを降り立ったダブルギアの前で、キリリはホッとしたように言った。
 「待たせたようだな・・・。橋の完成までどうしてもジュノを離れることが
できなくてな。・・・・それに俺もすまないと言わねばならん。一人ではない
のだ」
 ダブルギアの言葉を聞いて、初めてキリリの視線が彼の隣に立つカリウィス
に向いた。
 「なんだい・・・公爵公子。今更あたしに何の用があるんだい?」
 諦観と無気力が宿った瞳が、カリウィスの姿を写した。嫌な予想がカリウィ
スの脳裏をよぎる。
 「キリリさん・・・どうしてベルナデットさんの前から姿を消して、ここで
ダブルギア殿を待っていたのです?」
 カリウィスの言葉に、キリリは呆れたように笑った。・・・暗く疲れた笑い
だった。
 「そんなことを聞きに来たのかい? なぁに・・・・約束だったからさ」
 「約束?」
 答えたのはダブルギアだった。
 「もし、彼女が墳墓での戦いで生き残ってしまったら、俺が後から彼女を殺
す、そういう約束だ」
 カリウィスは顔をしかめダブルギアに振り返ったのは一瞬だった。キリリに
向き直った彼の胸に一枚の紙切れが張り付いていた。
 「呪縛の術 喝っ!」
 ビシリッ! という音を、カリウィスは体内で聞いた。身体の感覚が遠くな
り、痺れが全身を覆う。キリリを見た次の瞬間には、彼女が投擲した縄がカリ
ウィスの身体に巻き付いて動きを封じていた。忍術・呪縛と捕縄の術である。
 「くそっ」
 カリウィスはもがくが、痺れた身体ではうまく縄を外すことが出来ない。そ
れどころか、逆に絡まっていくように思えた。
 「無礼つかまつる・・・とでも言っておこうかね。ベルに頼まれてあたしを
探していたのかい? ・・・・邪魔しないでおくれよ。あの子にはもう、あた
しが居なくても大丈夫さ」


210 :BeniBana.7『真実』:08/08/26 01:23:08 ID:e6/3PdTb
 キリリの言葉に、カリウィスは首を振った。
 「ベルナデットさんに頼まれたわけではありませんよ。私は、私の用件で貴
方達二人に会いに来たのです」
 「一体、何だというのだ?」
 ダブルギアは歩を進め、キリリの隣に立った。身動きを封じられたカリウィ
スは、それでも背筋を伸ばし、まっすぐに二人を見据えた。挑戦的な眼光が二
人を射抜く。
 「この一連の事件について・・・・・貴方達は、まだ隠していることがある」
 二人は表情を変えなかった。
 「・・・・貴殿が先ほど俺に確認したのが全てだ。何もありはしない」
 「はんっ・・・・・何を根拠にそんなことを」
 その後に、さもくだらないと笑い飛ばした。しかし、カリウィスは怯まない。
 「取っ掛かりはある証言でした。キリリさん、ベルナデットさんはとても冷
静で記憶力がいい。あの戦闘のさなかでも、マルグリット王女の言葉を一言一
句覚えていたのですから」

 −−−・・・あの子の言ったとおり現れましたか、イヴォン・ボナール−−−

 「あの子、と王女は言ったそうです。ダブルギア殿。王女が貴方を『あの子』
と呼ぶとは考えられない。では、キリリさんか? 確かにタルタル族は見た目
が幼い。あり得ないとも言えない・・・が」

 −−−あなたは、確か・・・キリリ・・・・でしたね。ありがとう−−−

 「キリリさん、貴方に刺された王女は、こう言った。古い知り合いを思い出
すように、ね。貴方も『あの子』ではない」

 −−−私だけが・・・明確な意志を保っていたのは・・・・・そう、望まれ
たから・・・・『彼』がそう望んだから・・・それだけで、ほかの者達と私は
・・・・変わらない。国王を要とする・・・・軍であることは同じ・・・・父
上を倒して・・・・・そうすれば・・・・全て、終わる−−−

 「この『彼』はダブルギア殿の事でしょう。貴方が復活した王女の側にしば
らく居たことは間違いないし、王女が意志を持っているように望んでいたのも
貴方だ。だが、これもおかしい。亡者は未練、恨みなどの情念で蘇る。たとえ
表面的にはまともな人格があるように見える場合でも、その存在の源は強い想
い。故に行動は衝動的です。理屈で衝動を抑えられる存在ではない。それをす
るには、亡者を操る術を知らなくてはならない」


211 :BeniBana.7『真実』:08/08/26 01:25:38 ID:e6/3PdTb
 話しているうちに呪縛の術の効果が薄れてきた。カリウィスは身じろぎすると、
身体に巻き付いた縄を解く。対してまったく身じろぎしない二人に彼は問いか
ける。

 「『あの子』とは誰です? 貴方達二人が戦ったその時、本当は誰かもう一
人居たのではないですか? そして、その誰かこそが、マルグリット王女達を
蘇らせ、操った張本人ではないのですか!?」

 カリウィスの問いかけに、ダブルギアは止めていた息を大きく吐いた。
 「そんな些細な事から、そこまで推察するとはな。だが、それを聞いてどう
するのだ? この先は、知ったところでどうにもならない荒唐無稽な話だ」
 「それでも、知っておかなければなりません。どれほど無茶であり得ない話
でも、この事件を引き起こした原因を知らずに居ることは、出来ないのです」
 (これから先も、あらゆる悪意と戦い続けるために)
 カリウィスの胸中のつぶやきは聞こえなかっただろうが、ダブルギアは頷き、
話し始めた。事件の発端を。キリリは何も言わなかった。



 墳墓に漂い始めた死の匂い。その元凶を追ったダブルギアとキリリ。辿り着
いたマルグリット王女の棺の前に、その影は佇んでいた。
 エルヴァーンの長身痩躯。しかし、細すぎる体つきは少年のものだ。漆黒の
ツヤを放つ外套と、ただ深い漆黒の髪。金色の双眸の下には、ひび割れのよう
な入れ墨が頬を走る。紅の入れ墨は癒えぬ傷のようにも、おぞましい微笑みの
様にも見えた。
 紅笑の少年はゆらりと振り向き、その金色の双眸でダブルギアとキリリを睥
睨した。
 「何者・・・いや、何だ、お前は」
 身構え、片手斧に手をかけたまま、ダブルギアは問う。紅笑の少年は口の端
を吊り上げて笑った。
 「私は、アーケィック。渇望する者に手をさしのべる者」
 その表情にも、その声にも、悪意も嘲笑もない。ただ、事実をそう告げる言
葉。その彼の前で、王女の棺は暗い闇に包まれ始めていた。
 「あんたは・・・・王女に何をしたっ!」
 「まだ、なにも・・・・私はお前達を待っていた」
 クナイを構えたキリリに、アーケィックは平坦に答え、王女の棺を指さした。


212 :BeniBana.7『真実』:08/08/26 01:27:33 ID:e6/3PdTb
 「この者は、今まさに蘇ろうとしている。この墳墓に眠る者達の未練、情念
が集まって、仮初めの命を得ようとしているのだ。この者を筆頭に、やがて墳
墓の全ての死者が目覚めるだろう。皆、戦で死んだ者ばかり。満たされぬ想い
を抱えて死んだ者が多い」
 「なんてことだ・・・・・マルグリット王女・・・・」
 ダブルギアは棺を見据えて顔をゆがめた。
 「この者の未練が最も強い。故に、他の未練や情念を集めて最初に目覚める
だろう。それに連動して、他の者も蘇る。・・・・私にはこの者の声が聞こえ
る。自分に集まってくる情念を恐れている。自分と皆が、満たされぬ想いを抱
えて徘徊する哀れな亡者として長く苦しむことを恐れ、助けを求めている。そ
の声と、何よりこの者の尽きぬ未練と渇望が私を呼んだ」
 キリリはクナイを握りしめ、棺に向かって歩き始めた。ダブルギアはその背
に向かって分かり切った事を問いかける。
 「何を・・・する気だ、キリリ!」
 「決まってるだろう? 蘇る前に、もう一度滅するっ! ・・・・あんたが
マルグリット王女を慕っていたのは知ってる・・・・やれとは言わないよ」
 「くっ・・・・」
 ダブルギアはキリリの背中に何かを言おうとして・・・何も言えず、膝を床
に落としてさらに拳を叩きつけた。キリリはダブルギアの拳の慟哭を背に、一
切振り返らず、アーケィックに相対する。
 「邪魔するかい?」
 「いいや、それを選ぶのならば、私は邪魔しない。だが、私はこの者の未練
を、他の亡者の情念を晴らせるかもしれない選択肢を、そしてお前達の渇望を
満たす事が出来るかも知れない選択肢を、示すことが出来る」
 「何・・?」
 ダブルギアが伏せていた顔を上げ、アーケィックを見る。黒衣の少年は何で
もないことに様に告げた。
 「私は、この者を生前の意識を持たせて蘇らせることが出来る」
 ダブルギアは目を見開いた。それはつまり、

 −−−イヴォン様・・・・ああ・・・・・もう一度だけ・・・会いたかった−−−

 彼女を彼に会わせることが出来ると言うこと。ダブルギアは反射的に手を伸
ばした。棺の前に立つ小さな背中に。
 「待て、待ってくれ、キリリィッ!!」
 「馬鹿! こんな怪しい奴の言うことを真に受けるんじゃないよっ!」
 しかし、キリリの怒声を一考だにせず、ダブルギアは立ち上がり、棺の前に
立ちふさがった。


213 :BeniBana.7『真実』:08/08/26 01:29:12 ID:e6/3PdTb
 「どきなっ! ダブルギア!! 蘇る前にもう一度滅さなくちゃあ、大変な
ことになるのがわからないのかい!!」
 ダブルギアは両手を広げ、棺を庇った。
 「断る。俺は今度こそ、彼女の願いを叶えなければならん」
 キリリは舌打ちし、立ちふさがるダブルギアから視線を外し、アーケィック
を睨み付けた。
 「あんたは、一体何を望んでいる?!」
 「他人の望みなど、関係あるまい。ただ、己の心に聞け。己自身の渇望を。
・・・だが、一つだけ教えておこう。確かに、今はこの王女の棺に未練、情念
が集まっている。それは彼女の未練が一番強かった故に、それに引きずられて
いるのだ。だが、本来ならここに葬られた者達の情念が集まる場所は違う」
 アーケィックは床を、下を指さした。
 「本来ならば、ここに埋葬された騎士達の情念は王へ向かう。今ここで、王
女を滅したとしても、いずれ漂う情念は王へ集まり、彼らは蘇るだろう。時間
はかかるだろうが、いずれ必ず」
 キリリはアーケィックの声を振り払うように腕を振った。
 「ここで王女を滅して急場をしのぐ。それから、教会から僧侶でも連れてき
て、しっかりと鎮魂を施せばいいだけさっ」
 アーケィック然り、と頷いた。
 「そうすれば、彼らは蘇ることは無くなるかもしれん。だが、彼らの未練、
情念は残り、この墳墓にたゆたうだろう。そして、そうすることで消え去る選
択肢と可能性は確かにある。彼らが蘇ることで生まれる可能性、気づいただろ
う? ・・・・もう一度言おう。己の心に聞け。己自身の渇望を」
 ギリッ キリリは奥歯を噛みしめた。脳裏に浮かんだイヴォンの姿、そして−−−
 「どけぇっ! ダブルギア!!」
 キリリが跳び、ダブルギアに斬りかかる。ダブルギアは片手斧でクナイを受
け止め、力に物を言わせてキリリを遠くへ打ち返した。キリリは難なく着地し、
音も立てず接近してくる。放たれる手裏剣、放り投げられた紙切れがキリリの
姿になり、ダブルギアを幻惑する。熟練の忍者との戦い。勝てる要素など微塵
も見つけられぬまま、それでもダブルギアはキリリの前に立ちふさがり、吼えた。





214 :BeniBana.7『真実』:08/08/26 01:30:52 ID:e6/3PdTb
 「だけど、結局、あたしは王女を滅することが出来なかった。団長が・・・
イヴォンが病に殺されていく姿なんか見たくなかった。だから、あたしはアー
ケィックに願ったんだ。あの人の最後にふさわしい戦場を造ってくれと。あた
しが、ダミアンや他のみんなを巻き込んだ。未然に防げるはずの災厄を引き起
こし、みんなを殺したんだ! あたしのわがままで・・・・・それで、あたし
だけが生き残ってる。どうして生きていられるよ!」
 剣の丘の中心で、キリリはカリウィスを睨み付けた。剣の丘に響き渡る罪の
告発と告白。しかし、カリウィスは容赦しない。まだ、足りない。
 「そう言って、全ての痛みを飲み込んで、さっさと消えてしまうつもりです
か? 貴方は本当に嘘つきだ。・・・・ひどい嘘つきだ・・・」
 知らなくても良い真実はあるのかも知れない。知ったことで、築き上げた物
を全て失ってしまう、そんな真実が。
 だがそれでも、彼女はベレー帽を握りしめて言ったのだ。それでも、知りた
いと。
 カリウィスは懐の硬い感触を確かめた。この繋がりこそが、この母娘の最後
のライン。この小さな石の繋がる先で、彼女を真実が打ちのめすだろう。
 だが、全ての迷いを打ち払い、カリウィスは口を開いた。
 「ええ、ボナール将軍の病も、約束を叶えてあげたかったと言うのも本当で
しょう。だが、全てではない」
 キリリの顔色が変わる。痛みをこらえた泣きそうな顔で彼女は絶叫した。
 「やめろ! 言わないで!!! 関係ないのよっ!!!」

 「だが、この事件が起こらなければ成就しなかった事がもう一つある。・・
・・この事件が起こらなければ、ベルナデットさんと、ダレン殿が結ばれるこ
とは無かった」

 そうだ。この事件があったからこそ、ダレンは爵位を弟に譲り、平民である
ベルナデットとダレンが、想い合う二人が身分を越えて結ばれることになった
のだ。
 キリリは、ベルナデットの、愛する娘の想いを遂げさせる為に、この事件を
引き起こしたのだ。
 「ああ・・・」
 キリリは跪き、嗚咽した。彼女を取り囲む40本余りの剣が鈍く瞬いた様な
気がした。ダブルギアが彼女の傍らに跪き、気遣う様に彼女の背に手を置く。
 あの時もこうしたのだ。





215 :BeniBana.7『真実』:08/08/26 01:33:00 ID:e6/3PdTb
 マルグリット王女の棺の前で、ダブルギアは訝しんでいた。彼はなんとかキ
リリの攻撃を凌いでいたが、本来ならそんなことは出来るはずがない。数合で
打ち倒されるはずだった。キリリの攻撃には迷いが見え、その精彩を大きく欠
いていた。
 やがて、彼女は動きを止めると、手にしたクナイを下ろした。もう、その瞳
には戦意がまるでなかった。
 「キリリ・・・・?」
 「できない・・・・許せない・・・・」
 キリリはクナイを握りしめ、うつむいて涙を落とした。絞り出すように呟く。
 「あの人が・・・・団長が、病に殺されていくなんて許せない・・・・・そ
んな姿は見たくない・・・・それに・・・」
 キリリは糸が切れた人形のように膝をつき、座り込んだ。
 「ベルナデットに・・・・あたしと同じ思いをして欲しくない・・・・ごめ
ん・・・・・ごめんよ・・・・みんな」
 放心したように涙を落とす小さな母親。その傍らに跪き、ダブルギアは消え
てしまいそうな彼女を支えたのだった。

 やがて、二人はそれぞれの渇望をアーケィックに告げた。彼は頷き、その異
能を解き放った。

 −−−う・・・ここは・・・−−−
 「目覚めたか、マルグリット王女」
 棺から身体を起こしたマルグリットは、傍らに立つアーケィックを見上げた。
 −−−君は・・・・だれ? ああ・・・・この声は・・・君が私の声に答え
てくれた人・・・−−−
 アーケィックは頷いた。
 「お前の渇望、聞き届けた。ここで、他の亡者達を従え待つが良い」
 −−−私達は、どうなるの?−−−
 「お前達は、満たされなかった想いを満たせばよい。お前達が抱く、未来の
サンドリアへの憂い・・・・それを晴らせる者達がここに来る。イヴォン・ボ
ナールと回廊騎士達がな」
 −−−あ・・・・本当に・・・?−−−
 マルグリット王女の瞳から一滴の涙が落ちた。アーケィックは答えずに背を
向けた。
 「後は、そこの者に聞け。お前が今、意識を持っているのは彼が渇望したが
故。私はもう行く・・・・私は選択肢を与えるだけだから」
 −−−えっ?−−−
 マルグリットは背後を振り向いた。そこには、記憶にある姿と大きく変わら
ないガルカの男が佇んでいた。
 −−−グサヴァー・・・・さん?−−−


216 :BeniBana.7『真実』:08/08/26 01:34:44 ID:e6/3PdTb
 「マルグリット王女・・・・」
 ダブルギア・・・・グサヴァーは王女の傍らに跪き、その手を取った。冷た
いその手を両の手で暖めるように包み込み、ただ、涙を流した。
 −−−ごめんなさい・・・・今度は涙を拭ってあげるハンカチを持っていな
いわ−−−

 ダブルギアの嗚咽が響く部屋を背に、アーケィックは立ち止まった。そして、
眼前に立つキリリに一枚の呪符を差し出す。
 「なんだい、それは?」
 「亡者から身を守るための呪符だ。それを持っていれば、この墳墓にいる亡
者の攻撃を無効化できる。必要な者に渡すが良い」
 キリリは呆れたように嘆息して、呪符を受け取った。
 「ずいぶん、万全じゃないか・・・・」
 アーケィックは口の端を持ち上げた。キリリはそれが微笑だと気がつくのに
しばらくかかった。幼い顔立ちにはまるで不釣り合いな、枯れ木のような微笑
みだった。
 「長く、存在しているのでな。これくらいの機転は利く」
 「ふん・・・・ありがとうよ」
 「礼はいらぬ・・・・私はただ選択肢を与えただけ。選び行動するのはお前
達だ」
 黒衣の少年は立ち去り・・・キリリはそっと部屋の中をうかがった。涙を流
すガルカと、その涙を指で拭うエルヴァーンの王女。その姿が、駆け出しのエ
ルヴァーン貴族の騎士と、小さなタルタルの小娘に重なり・・・・・黒い鎧の
騎兵と少女の吟遊詩人に重なる。
 「あたし達と同じ轍は踏ませないよ・・・・」





217 :BeniBana.7『真実』:08/08/26 01:36:32 ID:e6/3PdTb
 これが真実だった。
 ダブルギアはマルグリット王女の未練を晴らすために、キリリはベルナデッ
トの為に、回廊騎士達の命を捧げたと言う。
 全てを語り終えた二人はどこかスッキリした顔で、剣の丘に佇んでいた。
 「これが、掛け値なしの本当のことさ。アーケィックの事はわからない。あ
いつが何者で目的が何だったのか・・・・細作としちゃ失格かもしれないけれ
ど、調べもしなかった」
 「そうですか・・・・・」
 カリウィスは特に残念そうでもなく、頷いた。黒衣の少年・・・いずれは調
べなくてはならないが、今はそれよりも大事なことがある。
 「どうするんだい? このことを・・・ベルに話すのかい?」
 カリウィスは首を振る。
 「いいえ、私が話すような事ではありません」
 「そうかい・・・・なら、もう行っておくれ・・・。最後のケリくらいは自
分達でつけるから」
 そのケリがどういう事なのかは、聞かずとも知れた。カリウィスはしかし、
それには触れず、懐から二つの宝石を取り出した。
 「これを、付けてもらえますか? 最後にマルグリット王女が残した唄を聴
いて欲しいのです」
 「マルグリット王女の・・・?」
 差し出された宝石はリンクパールだった。唄と聞いてキリリの表情は強ばっ
ている。その手にパールを握らせて、カリウィスはチョコボに跨った。
 「最近、マルグリット王女の遺品の中から出てきた楽譜だそうです。たとえ、
貴方達がどう思っても、彼女は二人に感謝しているでしょうから・・・・聴い
てください。・・・・では・・・・また」
 そう言って、カリウィスは走り去った。その後ろ姿をしばらく見送った後、
キリリは恐る恐るリンクパールを耳に装着した。ダブルギアもそれに倣う。し
ばらくは何も聞こえなかったが、やがて竪琴の音色と共に、聞き覚えのある声
が響いてきた。
 「!」「! この唄は・・・」
 二人は息を飲む。だが、それぞれの理由は違っていた。キリリは聞こえてき
た歌声に、ダブルギアはその旋律に呼吸を止めた。
 そのもの悲しく、寂しい旋律は、マルグリットがいつも一人で唄っていた歌。
儚げな歌声は、ただ深い悲しみを唄い上げる。
 だが、途中で旋律が変わる。ベースとなる旋律は同じでも、込められた感情
と、歌声の張りが変わってくる。悲しさや寂しさは成りを潜め、穏やかな暖か
さと柔らかな日差しを感じる。儚げだった歌声は希望を取り戻し、愛し愛され
る事の喜びを唄い上げる。


218 :BeniBana.7『真実』:08/08/26 01:38:03 ID:e6/3PdTb
 「この唄は・・・・本当はこんな唄だったのか・・・マルグリット・・・貴
方が唄いたかった歌はこの歌だったのか・・・・」
 ダブルギアは、剣の丘から墳墓を見下ろした。
 「聴こえていますか・・・・貴方の・・・・歌だ」
 その頃には、もうリンクパールと通さなくても歌声が聞こえるようになって
いた。キリリは顔を上げないが、歌声は近づいてくる。剣の丘の下でチョコボ
を降りる足音が聞こえた。ゆっくりと丘を上がってくる。足音が目の前で止ま
っても、キリリは顔を上げなかった。
 やがて唄は終わり、キリリは抱きすくめられた。何度も何度も彼女を包んで
きた温かさ・・・・もう二度と無いと覚悟していた温もりが。

 「捕まえた」

 キリリは涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら、拳を握りしめた。
 「ベル・・・・ごめん、ごめんよ・・・・あたしは、あたしはぁ・・・」
 ベルナデットは、キリリの背中をさすって微笑んだ。
 「・・・・母様・・・・あの日、母様と別れてから、イヴォン様は言ったわ。
恨むなら私を恨め。お前の父と母の名誉を奪ったのは私だから、って」
 キリリは首を振って否定した。もう言葉が出ない。ベルナデットは優しく頷く。
 「そう、違うわ。・・・・もちろん母様のせいでもない。みんながみんな、
誰かのためを想って選んだ選択だったのだから。それで、自分を殺すことにな
っても、誰かを傷つけることになったのだとしても、それでも、父様母様、イ
ヴォン様や、グサヴァーさん・・・・みんなが選んで行動して救われた人は確
かにいるのだから」
 「ベル・・・・ベル・・・」
 「私を見て、母様」
 ベルはキリリの顔を上げさせ、しっかりとその目を見た。
 「よく見て、母様。・・・・貴方の選択肢で救われた娘はここにいるわ。私
は今幸せよ。私の幸せのために父様達が死んだのなら、私はみんなのために幸
せになって、そして、いつか誰かの幸せのために死ぬわ」
 「ぅうう・・・うあああああああああああああああああああ−−−−」
 もう、言葉はいらなかった。辛い選択をした母と娘は抱き合い、共に涙を流
した。その光景を40本余りのつるぎ達は、その刀身に思い思いに映し出し、
静かにそこに佇立していたのだった。




219 :BeniBana:08/08/26 01:47:25 ID:e6/3PdTb
BeniBana.7『真実』をお送りします。

今回は、驚いてもらえるような話をがんばってみました。
しかし、いろいろ仕込みすぎたので、どこか破綻していないか心配です。
ここがおかしいんじゃない? という部分があれば、指摘して頂きたいと
思います。
作者は全部を分かった上で書いているので、読者に全く伝わっていない事実を、
さも既知の事の様に書いてしまいがちです。
投稿までに読んでチェックしてくれる人が居ればいいのですが、自分にはちょうど
そう言う人が居ないので。

次は、今回の事件のエピローグ的な物になります。

・・・・ええ、終わらなかったんですよ(w
主人公出てないし!


え? カリウィスが主人公? ハハハ

220 :(・ω・):08/08/26 12:18:34 ID:EI0erQr2
感動!泣けてしまいました。
感動age

221 :(・ω・):08/08/28 08:26:09 ID:dXVpQ8rF
紀行キター!
展開がきになる〜!!

紅花キター!
いい話だ。

251 KB [ 2ちゃんねるが使っている 完全帯域保証 レンタルサーバー ]

新着レスの表示

掲示板に戻る 全部 前100 次100 最新50
名前: E-mail (省略可) :