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涙たちの物語11 『旅の軌跡』
- 1 :(・ω・):08/01/10 23:34:02 ID:90JPAtUQ
- ヴァナディールを舞台にした物語を語るスレです。
あなたの中にあふれる物語を聞かせてください。
前スレ:
涙たちの物語10 『旅の行き先』
http://yy10.kakiko.com/test/read.cgi/ff11/1147126955/
倉庫等(現役稼働中):
(Wiki)http://kooh.hp.infoseek.co.jp/
歴代スレや旧倉庫は>>2あたりを参照。
次スレは、400k越えたあたりで、宣言→立て→告知を願います。
※この板の転送量限界は512kなので、早めに対応しましょう。
- 2 :(・ω・):08/01/10 23:37:37 ID:90JPAtUQ
- 歴代スレ(新しい順):
涙たちの物語10 『旅の行き先』
http://yy10.kakiko.com/test/read.cgi/ff11/1147126955/
涙たちの物語9 『旅の果てに』
http://yy10.kakiko.com/test/read.cgi/ff11/1123780223/
涙たちの物語8 『旅の始まり』
http://yy10.kakiko.com/test/read.cgi/ff11/1105231828/
涙たちの物語7 『旅の終わりは』(仮板からログ移転)
http://yy10.kakiko.com/test/read.cgi/ff11/1088379577/
【したらば@FF(仮)板】
涙たちの物語6 『旅の途中で』
http://jbbs.shitaraba.com/bbs/read.cgi/game/6493/1077148674/
【したらば@マターリ板】
涙たちの物語5『旅が続いて』
http://jbbs.shitaraba.com/game/bbs/read.cgi?BBS=6493&KEY=1069286910
涙たちの物語4 『旅は道連れ』
→http://hyakuyen.nce.buttobi.net/FF11log2/1064882510.html
涙たちの物語3 『旅の流れ』
→http://hyakuyen.nce.buttobi.net/FF11log2/1058854769.html
涙たちの物語2 『旅の続き』
→http://hyakuyen.nce.buttobi.net/FF11log/1054164056.html
涙たちの物語 『旅は終わらない』(避難先)
→http://hyakuyen.nce.buttobi.net/FF11log/1048778787.html
(※↑ログ消滅のため【過去ログ図書館】にリンク)
【xrea】
初代 涙たちの物語 『旅は終わらない』
→http://mst.s1.xrea.com/test/read.cgi?bbs=ff11&key=042463790
(※↑見れるときと見れないときがあるらしい)
倉庫等
(Wiki)http://kooh.hp.infoseek.co.jp/
(新)http://f12.aaacafe.ne.jp/~apururu/
(旧)http://www.geocities.co.jp/Bookend-Soseki/4886/index.html
- 3 :(・ω・):08/01/10 23:39:09 ID:90JPAtUQ
- ここも姉妹スレ?
今はいないフレンドへの手紙3通目
http://yy10.kakiko.com/test/read.cgi/ff11/1140264545/l50
- 4 :BeniBana:08/01/10 23:57:40 ID:90JPAtUQ
- 『尊敬』と『望郷』の者です。
スレ立て替えと同時に、新作投下したいと思います。
三作目の投下に伴い、シリーズ名を『BeniBana』とすることにします。
それでは、BeniBana.3 『拳骨』 を楽しんで頂ければ幸いです。
- 5 :BeniBana.3『拳骨』:08/01/10 23:59:23 ID:90JPAtUQ
- 「僕はひとりぼっちだ・・・僕は何も偉くない、何も特別じゃない!
なのに誰も彼もが僕に頭を下げるんだ。頭を下げて、誰も僕を見ない
んだ」
言い終えた瞬間に頭を拳骨で殴られた。火花が飛び散るとはこういう
事かと思っていると、殴った本人の顔が目の前にあった。間近にある年
上の少女の顔にどぎまぎする。
「みんながそんな人じゃない。少なくとも私は違うわ。ちゃんと貴方
を見てくれる人はどこかにいるの。忘れないで。誰も見てくれないんじ
ゃない。貴方が見過ごしているのよ」
そう言って抱きしめられた。鼻の奥が痛い。それを見ていたおじいさ
んが笑って僕の頭をワシャワシャとかき回した。
僕は声を上げて泣いて・・・・そして笑った。
- 6 :BeniBana.3『拳骨』:08/01/11 00:02:15 ID:L0P3Dvl6
- 解放された大ホールの窓から春の夜風が入り込む。入れ替わりにホール内の
大燭台に灯された光が、外の闇に漏れ消えていく。
それだけでなく、このホールに集った賓客達の談笑する声も、夜の闇に消え
ゆく。
集まった人々をカリウィスはざっと眺めていく。サンドリアの主立った貴族
や役人がもっとも数が多い。ほかにはバストゥークの大使を筆頭とする使節団。
タルタル族の姿も見える。ウィンダスから招待された使節達だろう。小さな彼
らの為に専用のテーブルも用意されており、料理を取るのにも不都合無いようだ。
この宴は、サンドリアとバストゥークの捕虜交換の成功を祝う記念式典だった。
招待客はそれぞれに談笑し、共に知人を紹介し合い、人脈の輪を広げ情報を交換
していく。外交に携わる者にとってはもちろん、宮廷で生きる貴族達にとっても
人脈は力であり情報は武器だ。
公爵家の嫡男であるカリウィスにとってもそれは同様だ。矢と魔法の代わり
に視線と談笑が飛び交い、盾の代わりに礼節で身を守り、剣のごとき鋭さを隠
した穏やかな言葉で斬り結ぶ。外交という戦場をカリウィスは泳ぐ。
とは言え、彼は大洋に住む泳ぎ続けなければ溺れてしまうググリュートゥーナ
とは違う。少しばかり泳ぎ疲れ、軽く料理を取り休息していた。
- 7 :BeniBana.3『拳骨』:08/01/11 00:04:52 ID:L0P3Dvl6
- 「失礼、テンパランスヒル公爵公子。すこしよろしいですか?」
料理を食べ終え一息ついた頃にそう話しかけられた。視線を向けると見覚え
のある人物が軽く頭を下げた。
「これは、鉄石伯」
カリウィスはそう答えると、彼に向き直った。鉄石伯と呼ばれた人物は苦笑
して訂正する。
「その名は父の功績に対して贈られた物です。私は家督は継ぎましたが、父
が立てた功績を自分の物と思うほど勘違いはしていませんよ。どうぞ、シメオ
ンと呼んでください」
そう言って、シメオン・ハグドアグド伯爵は笑った。騎士として恵まれた体
躯のカリウィスに比べ、彼は線が細く穏やかな印象を与える。歳はカリウィス
よりいくつか上だろう。なでつけられた金髪と、眼鏡ごしの眼差しに宿った知
性の光がいかにも学術者という風情だ。
「では、私の事もカリウィスと。・・・・お会いするのは二度目ですが、前
回はこのように穏やかな話ではありませんでしたから、きちんと話が出来る事
は嬉しいですね」
「ええ、私もそう思います」
シメオンは少し顔を伏せた。彼は自らの父が犯した悪行を知っている。北の
収容所から帰ったカリウィスが幾つかの証拠品と共に話したのだ。話を聞いた
シメオンは驚愕のあまりしばらく茫然自失となったが、事実を隠蔽し鉄石伯の
名誉を守り伯爵家を安堵すると聞き、伯爵家の跡取りとしての自覚を取り戻し
た。
彼はカリウィスに丁重に礼を言い、速やかに鉄石伯の葬儀を行うと同時に家
督を継いだ。突然の領主の戦死に動揺する領民を素早く安心させ、各地の親戚
に挨拶をし自らの家督の継承を承認させ、その地位を確固たる物にした。
幸いにして、ほかに家督を争う親戚もおらず、突然の世代交代はスムーズに
進んだようだが、それでもここしばらくは目も回る忙しさだったろう。
だが、表面上はそんなことを微塵も感じさせず、シメオンは穏やかに話す。
- 8 :BeniBana.3『拳骨』:08/01/11 00:07:25 ID:L0P3Dvl6
- 「ですが、このように捕虜交換が成功し、祝賀式典が無事に行われて
よかった。戦死した捕虜たちや・・・・父に顔向けできます」
「・・・・・お父上のことは・・・・残念です」
「いえ、戦場でのこと。覚悟は常にしておりました。亡骸を無事に連
れ帰っていただいただけで十分です。・・・・ですが、あの収容所につ
いては、もう必要がないので放棄しようと考えています。ですが、あれ
だけの砦、そのまま捨て去るにはもったいない。もしよろしければ、そ
ちらの騎士団に譲渡しようと考えているのですが、いかがです?」
シメオンの申し出にカリウィスは少しばかり考える。
「しかし、捕虜達に採掘させていた鉱山はどうするのです?」
「・・・あの鉱山からの採掘量では、新たに鉱夫を雇って事業を進め
ても採算があいませんので閉鎖しようと考えています。ですが、またオ
ークどもに狙われる可能性もありますので、そちらも騎士団に管理して
いただければと」
もちろんこれは嘘だ。アダマン鉱とオリハルコンの出る鉱山なら、採
算は十分すぎるほどにとれる。言外に持たせた意味は明白である。新し
いハグドアグド伯爵は、東王派から袂を分かち、テンパランスヒル公爵
に恭順を申し出ているのである。
カリウィスはニコリと笑ってうなずいた。
「なるほど、わかりました。とはいえ、私は騎士団の一騎士に過ぎま
せん。団長に話しておきましょう。それでよろしいですか?」
カリウィスの所属する辺境騎士団の一つ、緋楯騎士団はテンパランス
ヒル公爵を団長とする在郷騎士の集団である。公爵の発言力に比例して
その勢力は大きく、先日の収容所奪還のように、辺境の治安活動を行う
こともある。
「はい、よろしくお願いします」
シメオンは頷き、これでこの話はひとまず終了となった。
その後も談笑を続ける二人に、近づく女性の姿がある。二人が自分に
気がつくと、彼女は軽く一礼した。
- 9 :BeniBana.3『拳骨』:08/01/11 00:10:16 ID:L0P3Dvl6
- 式典パーティらしくドレスや宝石で美しく着飾った女性がほとんどの
中で、その女性は紋章官の制服を隙なくきっちりと着込み、長い黒髪を
じゃまにならないように後ろでまとめている。その毅然とした姿には、
ほかの女性にはない怜悧でスマートな美しさがあったが、この場ではい
ささか浮いているのは否定できない。
「失礼します。シメオン様、ただいま到着致しました」
外見に違わぬ硬質な声。しかし、対するシメオンはどこかがっかりし
た声だ。
「アメリー・・・・ちゃんとドレスは用意しておいただろう?」
「・・・・お戯れが過ぎます。私はあなたの家臣としてこの式典に招
かれているのです。下級貴族の娘としてではありません」
半ば予想していたことなのか、シメオンはわかったよ、と両手をあげ
て降参した。そして、カリウィスに向き直り彼女を紹介する。
「紹介します。彼女はアメリー・カバネル。当家の紋章官ですが、鉱
山業務を統括する優秀な事務官として頼りにしている女性です」
だが、その紹介は必要なかった。カリウィスは懐かしそうにアメリー
に笑いかけたのだ。
「久しぶりですね、アメリー先生」
「はい・・・8年ぶりです。ご立派に成長なされましたね、カリウィ
ス様。もうアメリー先生はお止めください」
アメリーの祖父は領地を持たぬ下級貴族であったが、エルヴァーンに
しては商才に恵まれ、一代にして富を築いた資産家だった。そして引退
し事業を息子に譲ってからは、貴族の子弟相手に教師として第二の人生
を歩んだのだ。
数年前に亡くなり、彼の教え子達はその死を悼んだ。そのうちの一人
にカリウィスが居たのだった。
テンパランスヒル公爵家に彼が来たのは12年前。カリウィスは8歳
だった。12歳で騎士団に入るまで、カリウィスは『カバネル先生』の
教えを受けた。七つ年上のアメリーは、祖父の助手をしながら紋章官の
勉強をしてきた頃だ。
- 10 :BeniBana.3『拳骨』:08/01/11 00:13:05 ID:L0P3Dvl6
- 「カバネル先生達にはいろいろな事を教わりましたよ」
「それは知りませんでした。・・・アメリー、どうして話してくれなかった
んだ?」
「・・・・大旦那様が亡くなってから、二人とも忙しく、まともに会話する
のもままなりませんでしたし、私事ですから・・・特に問題はありませんでし
ょう?」
「・・・ごもっともだけど・・・・まぁいいか」
アメリーの氷の視線に貫かれ、シメオンは苦笑しながら降参したが、腑に落
ちないという表情だった。
「変わらないなぁ・・・。シメオン殿。彼女は昔からこんな調子で、大変厳
しい先生でした。その後無事に紋章官に成られたと聞いて、彼女なら問題ない
だろうと思っていましたよ」
紋章は騎士にとって個人を特定する名札のようなものだ。その為、同じ物は
二つとない。膨大なその数を管理するために、専門の役職として紋章官がある。
記憶力に優れる彼らは、だいたいが事務官としても有能であり、貴族家に仕え
る紋章官には事務官として領地の運営に携わる者もいる。
「・・・・ええ、父が突然亡くなって、彼女にはどれだけ助けられたかわか
りません」
「私だけではありません。家臣一同、よく働いたと評価しています」
「そうだね。そんな彼らをこれから私が養っていくのだと思うと、気が引き
締まるよ」
シメオンの表情に陰が差す。だが、それは課せられた重みを理解し、何とか
克服しようとあがく男の顔だった。
「自覚を持って頂けるのは助かります。その調子で、屋敷に帰りましたら書
類の決裁をお願いします」
「今日かい!?」
「おそらく帰る頃には日が代わっておりますので、明日です」
よどみなく答えるアメリーにシメオンは頭を抱える。
「はは・・・アメリーには敵わないな。さて、私の頼もしい頭脳も帰ってき
てくれたことですし、私もパーティを楽しんでくることにします。また、お会
いしましょう、カリウィス殿」
「失礼致します」
- 11 :BeniBana.3『拳骨』:08/01/11 00:15:08 ID:L0P3Dvl6
- 立ち去っていく二人を見送りながら、カリウィスは新たなハグドアグド伯爵
については心配なさそうだと判断していた。
式典パーティはまだまだ続く。先ほどはホールの上座にサンドリア国王グラ
ンティール陛下が立ち、招待客達に挨拶を行った。それに答える形で各国の使
者がそれぞれの主の親書と謙譲の品をを携え祝いの言葉を返す。
その後は音楽だ。ホールはたちまち舞踏会の用意が調えられる。若い貴族の
子弟達は、それぞれが見初めた相手を踊りに誘い、音楽の輪の中へ連れ立って
加わっていく。さて、自分も誰かを誘って踊るべきか、とカリウィスが思案し
ていると会場の端に見覚えのある女性を見つけた。
「ソレイユ殿、いらしていたのですね」
「あら、カリウィス様。ええ、ちょうどタブナジアからこちらに来ておりま
したので」
見事な金髪を結い上げ、刺繍とレースで華やかに飾られた白いドレスを纏っ
た姿は、若く軽やかな印象でよく似合っていた。素直にそのようにほめるとソ
レイユはにっこりとほほえんだ。
「そうそう、紹介しますわね。・・・・こら、何隠れてるの」
ソレイユに促されおずおずと現れたのは、彼女と同じ年頃の女性だった。漆
黒の髪をソレイユと同じように結い上げ金の鮮やかな簪を指している。薄い緋
色のドレスには飾り気がないが、足下の深紅から胸元の薄緋色までのグラデー
ションが見事な一品だった。
「この子は、私の親戚でエジェリーと申しますの。今までサンドリアに来た
ことがなくて、今回つれてきたのです」
「・・・よ、よろしく・・」
内気な性格なのか、初めて来たサンドリアで落ち着かないのか、それとも自
分の身分に臆しているのか、目を合わせずにか細く言う彼女にカリウィスは苦
笑した。緊張をほぐそうとソレイユとの談笑の中で何度となく話しかけるが、
うまくはいかなかった。
ふと、気がつくとそろそろ流れる曲が終わりに近づいていた。
- 12 :BeniBana.3『拳骨』:08/01/11 00:17:24 ID:L0P3Dvl6
- 「ソレイユ殿、次の曲は私と踊って頂けませんか?」
カリウィスの誘いに快く応じようとしたソレイユは、ふと何かを思いついた
のか、エジェリーを見てクスクスと笑った。その笑顔に、カリウィスはいつか
の騎乗槍試合でレティシアの悪巧みに乗った時のソレイユを思い出していた。
「カリウィス様、私の代わりにエジェリーを誘ってあげてくれませんかしら?」
「ソ、ソレイユっ! 何を言い出す・・・」
「実は、カリウィス様がいらっしゃるまではひっきりなしに殿方が踊りの誘
いにいらっしゃいましてね。先約があるからとお断りしたのですけれど・・・
・あなたが先約なら振られた殿方も納得なさいますでしょう」
エジェリーは焦ってソレイユの肩を引っ張る。
「ソレイユ、私はぁ」
「カリウィス様と踊れば、後はあなたを誘おうという人は格段に減りますわ
よ。この方と張り合おうとする人はそんなに居ないでしょうからね。一度くら
い我慢なさい。踊りだってあんなに練習してたじゃない。大丈夫よ」
言っていることは正しいが、彼女の表情は面白い遊びを思いついた子供のソ
レである。エジェリーが困る様を見て楽しんでいるのは明白だった。カリウィ
スは笑ってうなずいた。
「なるほど、貴族だろうとそうでなかろうと、引き際を知らぬ輩はおります
からな。それではエジェリー殿、私と踊って頂けませんかな?」
「う・・・むぅ・・・・・わかりました」
ソレイユに恨めしげな視線を送りながら、おずおずと差し出された手をカリ
ウィスは恭しく取り、一礼した。
始まった曲は舞踏会では定番と言えるものだった。カリウィスは手慣れた様
子でエジェリーをリードしステップを刻む。エジェリーも慣れない様子ながら、
しっかりとカリウィスについてきた。運動自体は得意であるようだ。その理由
もカリウィスは見当が付いた。
- 13 :BeniBana.3『拳骨』:08/01/11 00:19:25 ID:L0P3Dvl6
- 「剣を嗜んでおられるのですか?」
「えっ!?」
突然の言葉にギクリとステップを踏み間違えかけたエジェリーを、カリウィ
スがフォローする。
「すいません。驚かすつもりはなかったのです。手がね、教えてくれたので
すよ」
「ああ・・・」
剣を使う者の手には特有のタコができている。手を握っているカリウィスに
はそれがよくわかったのだ。しかし、このようなおとなしい女性が剣を使うと
は意外だった。
「こんな手をしている人はここにはあまり居ないのでしょうね・・・・女の
身で、剣を使うのは生意気だとお思いですか?」
上目使いにおずおずと問いかけてくる彼女に、カリウィスはほほえんだ。
「まさか。騎士団には私以上に剣を使う女性がいますよ。そのような考えは
彼女に出会ったときに捨てました。・・・・私には白粉でしか汚れたことがな
い手より、よほど貴方の手の方が良いと思います」
「! そうですか・・・よかった」
そう、彼女はステップに集中するように顔を伏せた。もちろんそれはフリだ
けで、本当は赤くなった顔を見られたくなかっただけだが。
踊り終えたカリウィスは、夜風に当たりにバルコニーに出ていた。ソレイユ
とエジェリーも誘ってみたが、エジェリーは固辞しソレイユも彼女を一人にす
るのは心配だからと言った。
春の夜風は心地よくカリウィスの頬を撫でていった。しばらく目をつむり風
の手にその身を任せる。・・・・・やがて、背後から近づいてくる気配に彼は
目を開き振り向いた。
「すこし、よろしいですか? カリウィス様」
そこにいたのはアメリーだった。まるで給仕係のように酒瓶とグラスをトレ
イに載せて持っている。
- 14 :BeniBana.3『拳骨』:08/01/11 00:21:32 ID:L0P3Dvl6
- 「アメリー先生・・・? シメオン殿はよいのですか?」
「先生も敬語もお願いですかお止めください。シメオン様はホールで踊って
おられますよ。・・・・すこしお話があるのですが」
すこし潜められた声に、カリウィスは人に聞かせられない内容だと察した。
「では、庭に降りましょうか。今なら誰も居ないでしょう」
「カリウィス様・・・敬語はお止めくださいと」
アメリーの律儀な注意にカリウィスは苦笑する。
「私にとってはあなたは怖い怖いアメリー先生ですよ。幼い頃の習いは改ま
りません。あきらめてください」
夜の庭に明かりなどはなかったが、皓々と照らされた大ホールの明かりはこ
こまで届き、空には満月が浮かんおり、不自由はなかった。
庭の片隅に設置された休憩用のテーブルにアメリーはトレイを下ろす。昼と
はまた趣の違う庭を眺めながら、カリウィスは問いかけた。
「それで先生、お話とは?」
「ハグドアグド家の混乱はシメオン様の迅速な行動によってほぼ収まりまし
た。・・・・後はシメオン様がお話になられたと思いますが・・・?」
「ええ、最初に先生と取り決めたとおり、収容所と鉱山を手放す代わりに私
達の庇護を得る。オーク共のおかげで大きく予定が狂いましたが、それは変わ
りません。今後テンパランスヒル公爵家はハグドアグド伯爵家のために助力を
惜しまないでしょう」
鉄石伯の暗躍をカリウィスの父であるテンパランスヒル公爵に伝えたのはア
メリーだ。鉄石伯は自分に忠実な古参の家臣以外にはあの鉱山を秘密にしてい
たが、領地の実務を担当していたアメリーはすぐにその動きに気が付いた。彼
女からの情報に従い緋楯騎士団が内偵を進めていたところで、今回の捕虜交換
と収容所襲撃事件が発生し、事件は予想外の形で決着することになった。
「そうですか・・・・なら、私の仕事は終わったのですね」
- 15 :BeniBana.3『拳骨』:08/01/11 00:24:03 ID:L0P3Dvl6
- アメリーはグラスに酒を注ぐと一気に呷った。貯まった何かをはき出すよう
に大きく息をつく。酒瓶を見ればかなり強い酒だ。間違っても呷るような物で
はない。カリウィスは眉をひそめた。
「無茶な飲み方を・・・・どうしたのですか?」
「私が・・・・私のせいで、旦那様を死なせてしまいました」
「・・・・・後悔を?」
アメリーはいいえ、と首を振る。
「あのままで事実が露見すればハグドアグド家は取りつぶし・・・・露見し
なければ東王派が力を取り戻し、我が国は再び内乱に戻る可能性がありました。
・・・後悔はしていません」
「その通りです。私としてあなたの行動には感謝しています。ただでさえ、
王家と貴族の間は免税特権を巡って微妙な関係なのです。鉄石伯のことは大火
に成りうる火種だった」
アメリーは再びグラスに酒を注ぐ。琥珀色に染まったグラスを掲げ、それ越
しに満月を見つめている。
「旦那様は東王派でしたが、なにも大それた事は考えていませんでした。現
王家を苦々しくは思っていても表面には出さず、領民を愛し、鷹揚な統治を行
い、同時にサンドリアを愛する穏やかな領主。・・・・小さな人でしたが・・
・その自分の小ささを旦那様は認めたくなかったのかもしれません。だからこ
そ・・・・あの鉱脈を発見したことで狂ってしまったのでしょう」
突然降ってわいた大金と言う力。とうに諦めていた夢に可能性を与える力。
いったいどれだけの人間が、その誘惑に抗えるというのか。
「後悔はしていません。でも・・・・だったら私はどうすればいいのでしょ
う? 旦那様を止める力を持たなかった自分を悔いればいいのでしょうか?
望む未来のない選択肢を与えた運命を呪えばいいのでしょうか? それとも・
・・・・・」
淡々と続けていた言葉を切り、次に出た声は殊更に平坦に響いた。
「・・・・直接手を下した貴方を憎めばいいのでしょうか?」
- 16 :BeniBana.3『拳骨』:08/01/11 00:26:02 ID:L0P3Dvl6
- アメリーの虚無の宿った視線をカリウィスは受け止めた。逡巡することなく、
答える。
「それは貴方の自由です。心は、意志は、その持ち主にしか決めることはで
きない。私はもう決めています。この手を最初に汚したときから、抗い続ける
と」
「あらがう・・・?」
まるで初めて知った言葉のようにアメリーはそれを紡ぎ、眩しそうにカリウ
ィスを見た。
「敵も味方もなく、すべての悪意に抗い続ける。それができると信じるこの
傲慢こそが、今の私を動かす全てなのです」
アメリーは手に持ったグラスをトレイに戻した。
「カリウィス様・・・・本当に立派に、強くなられましたね。それに比べて
私は・・・弱くなってしまったようです」
そう言いながら、ポケットから小瓶を取り出す。
「アメリー先生・・・・それは何です?」
「・・・毒です。一口でも飲めば、もう助かりません」
彼女は数歩後ずさる。
「なっ、まってください!!」
「近づかないでください。それ以上進めば、これを呷ります」
カリウィスは足を止めざるを得なかった。間合いが遠い。彼女があの毒を呷
る前に飛びかかるには遠すぎる。
「父は商売にかまけて私を顧みることがありませんでした。お爺さまは私を
可愛がってくれましたが、それでもどこかで父という存在を私は求めていた気
がします。この国は女が腕一つで生きて行くにはあまりにも酷な国です。・・
・・・そんな中で旦那様がくれた優しさは私にとって掛け買いのない物でした。
たとえそれが有能な家臣に対する物だったとしても・・・・それでも、私はっ
あの方を、本、当の父親だと・・・思っていました!」
よくやったな 頼りにしている おまえのような娘がいたらな アメリー、
おまえはよく気が付く娘だな
満たされなかった父親の愛情への飢え。それを満たしてくれた人はもう居な
い。
- 17 :BeniBana.3『拳骨』:08/01/11 00:28:09 ID:L0P3Dvl6
-
「また、一人に戻るのは・・・・もう嫌・・・」
「「やめるんだっ!! アメリィィィィ!!!」」
アメリーが小瓶を傾けた瞬間、その手から小瓶が弾き飛ばされた。横合いか
ら飛び出して、手にした棒きれで小瓶を打った人影が体を起こす。激しい動き
で付けていた黒髪のかつらがずれ落ち、その下から見事な紅の流れが現れる。
そうなると、緋色のドレスと相まってまるで炎が立っているように見える。そ
して、その炎は見覚えのある笑顔で振り向いた。
「危ないところだった・・・・感謝しろよ、カリウィス」
「レ・・・・レ・・・レティ!!??」
エジェリーと名乗っていた内気な少女は消え去り、そこには炎の化身となっ
たレティシアが立っていた。カリウィスは茫然自失から何とか立ち直ると、驚
きで麻痺しかけた舌を無理矢理に動かす。
「な・・なん・・・ここにっ!」
「舌が回っていないぞ・・・・それは後だ」
「そうだっ! アメリー先生!」
小瓶を弾き飛ばされて呆然としたアメリーは、後ろから誰かに抱きすくめら
れていた。驚きから覚めた彼女が振り向くとそこには、余程あわてたのだろう、
眼鏡のずれたシメオンの顔があった。
「シ・・・メ・・オン・・・・様?」
「よ・・・よかった・・・・間に合って」
シメオンは安堵のため息をつくとアメリーを離した。
「どうして、ここに・・・?」
「父上が死んでからずっと様子がおかしかったから・・・気にしていたんだ。
カリウィス殿と二人で出て行くのが見えたから、もしかしたら何かあるかと思
ってね・・・正解だったよ」
アメリーは驚いたように目を見開いた。
- 18 :BeniBana.3『拳骨』:08/01/11 00:30:11 ID:L0P3Dvl6
- 「ずっと様子がおかしい・・・ですか・・・・・ほとんど会話も出来ないほ
どお互いに忙しかったですのに」
「そうだね・・・でもなぜだかわかったんだ。君の様子は絶対に普通じゃな
かった。・・・・君が父上の事をあんな風に思ってくれていたのには全く気が
付かなかったのにね」
「聞いておられたのですか・・・・」
「立ち聞きするつもりはなかったんだけれど、そのお嬢さんに止められて、ね」
視線を向けられて、レティシアは苦笑し一礼した。
「アメリー殿が敵かどうか把握する必要がありましたので、あそこで出て行
ってもらうわけにはいきませんでした。伯爵閣下にはご無礼を」
「いや、良いんだ。むしろありがとう。おかげで私は大切な人を失わずにす
んだ」
シメオンの言葉にアメリーの体が震えた。
「アメリー・・・・もうあんな事はやめてくれ・・・。我が家には、いや私
には君が必要なんだ。私は君にとっての父親にはなれない。でも、君の孤独を
少しは癒す事が出来るようになりたい」
「シメオン様・・・・わ、たしは・・・・私は・・・・」
何かに呪縛されたように体を強ばらせるアメリーに、カリウィスが近づく。
そしておもむろに拳を振り上げると、アメリーの頭に振り下ろした。
コツン と
「貴方は一人ではない。少なくとも彼が居る。・・・・・・ちゃんと貴方を
見てくれる人はどこかにいる。忘れないでください。誰も見てくれないんじゃ
ない。貴方が見過ごしているんだ。・・・・・覚えていますか? 出会った頃、
ひねくれていたずらばかりしていた私を叱ってくれた貴方の言葉です」
驚きから理解へ、そしてアメリーの表情はボロボロに崩れ、声を上げて泣き
出した。そんな彼女の肩を、そっとシメオンが支える。
- 19 :BeniBana.3『拳骨』:08/01/11 00:32:33 ID:L0P3Dvl6
- それを見て、カリウィスはそれ以上何を言うこともなく二人に背を向けた。
「さあ、帰ろうアメリー・・・・。書類の決裁があるんだろう? 私は君が
居ないとどれにサインすればいいのかわからないよ。これからもわかるように
なるつもりはないからね」
「・・・・それは困りました・・・」
「それで、どうしてここに居たんだ? しかも変装までして」
「それはだな」
カリウィスに鉄石伯の悪事を公爵家に伝えたのがアメリーだと聞いて、レティ
シアはソレイユに彼女について聞いてみたのだ。宮廷の、しかも婦人達の情報
網は驚くほど綿密であり、その量も膨大である。ただし、あくまで噂話なので
あるが。
その中に、アメリーがどうやら鉄石伯を慕っているようだという話があった
のだ。ソレイユも実際に見てそのような印象を受けたと言った。しかしカリウィ
スの情報では彼女は鉄石伯を裏切っているのだ。
話が食い違ってくる。そうこうしている内に彼女とカリウィスが、この式典
に出ることがわかった。ちょうど良い機会でもあったので、レティシアは式典
に潜り込み二人を監視する事にしたのだった。
「騎士団の密偵もアメリーが鉄石伯を慕っているなどという情報は得られな
かった・・・・。婦人方の噂話も侮れない物だな・・・・。しかし、ちょうど
良い機会というのは?」
「それは・・・ソレイユが騎士も貴族階級の内なのだから、礼法と踊りは覚
えておかなければいけないと・・・・・ずっとレッスンを受けさせられていた
んだ。それで、その成果を試すために、今回の社交界デビューを・・・だな。
私の後ろ盾はソレイユだからその意向には逆らいにくい」
カリウィスは頭痛を我慢するように目頭を押さえた。
- 20 :BeniBana.3『拳骨』:08/01/11 00:33:59 ID:L0P3Dvl6
- 「確かに、彼女の言葉は正しい。一般騎士とはいえ、礼法と踊りを覚えてお
けば恥をかくこともないだろう。だがな、身分詐称は重罪だぞ・・・・・次か
らは私に言え。招待状を用意してやるから」
「馬鹿言え、もうこりごりだ。おまえが来るまでどれだけ男共の誘いを断る
のに難儀したことか。ソレイユとも一回だけという約束だ。それに」
レティシアは手にした棒きれを振ってみせる。
「剣を手放さなければならないのが困りものだ。腰のあたりが軽すぎる」
そんな様子を見てカリウィスはにやりと笑う。
「それは残念だ・・・・そのドレス姿はとても似合っているというのに」
「なぁっ!!?」
レティシアがのけぞる。
「踊りもたいした物だ。とても初めてだったとは思えん。頬を染めながら踊
っていたなどと騎士団の連中に話しても信じてもらえるかどうか」
「・・・・・・・ほう、それなら私も騎士団で話すことがある」
冷や汗を流しながら、レティシアが切り返す。
「敵も味方もなく、すべての悪意に抗い続ける。それができると信じるこの
傲慢こそが、今の私を動かす全てなのです、か。すばらしい決意だ。正直感動
を禁じ得ない」
「ぐぬっ!?」
今度はカリウィスがのけぞる番だった。
「わかった・・・レティ、取引といこうじゃないか」
「乗った」
こうして舞踏会機密防衛協定が締結されたのだった。
「それで、だ。レティ、今度はまじめな話だ」
「なんだ?」
カリウィスの真剣な声色に、レティシアも居住まいを正す。そんな彼女をて
っぺんからつま先まで確認して、カリウィスは口を開いた。
「その姿は本当によく似合っているぞ」
数瞬の後、木の棒が折れるような音が庭園に響いた。
- 21 :BeniBana.3『拳骨』:08/01/11 00:38:55 ID:L0P3Dvl6
- もう、完全に前回の続きです。
人が見せる姿というのは、実は相手によっていくつも存在するということで。
楽しんで頂けたなら幸いです。
- 22 :(・ω・):08/01/11 10:20:19 ID:t3etBg7f
- キター!!
今回も楽しいお話だったであります。
- 23 :(・ω・):08/01/12 14:35:11 ID:KPAwy6Ej
- 毎回引き込まれる文章で楽しみにしています。
しかしカリウィスは美味しい役どころだなぁw
- 24 :(・ω・):08/01/12 14:36:04 ID:KPAwy6Ej
- 上げちまったorz
- 25 :(・ω・):08/01/12 19:12:51 ID:dRSB95MO
- 登場人物かっこよすぎだろjk・・・
相変わらず楽しませて頂きました。
- 26 :(・ω・):08/01/12 19:46:28 ID:dRSB95MO
- あと今気づいたが、
王様の名前ってグランテュールじゃなかったっけ?
違ってたらスマソ
- 27 :BeniBana.3『拳骨』:08/01/12 20:52:54 ID:4zpFBwbf
- ありがとうございます。
感想は物書きを動かす燃料ですハイ。
引き込まれますか? 今後もダイ○ンのような物をがんばって書きます(ぉ
よく考えたら、カリウィスは毎回おいしいところを持って行っているような気がします。
はい、グランテュールでした・・・orz
知っているのに間違えた。脳内修正お願いします。
いい加減エルヴァーンばかりなので、次はもうすこし考えてみます。
- 28 :(・ω・):08/01/15 10:08:44 ID:w9VP9sLH
- >引き込まれますか?
何というか、話の展開と台詞の構成が上手い。
読んでいて引っかかるところがないのが良いです。
- 29 :GoVD:08/01/18 10:12:01 ID:8hQz0gLv
- 新年明けましておめでとうございます(遅
Gangs of Vana 'Diel @ 涙たちの物語 on Wiki
#14 "教会にて"
うpしますた
- 30 :(・ω・):08/01/21 10:01:36 ID:HhaGm0oG
- >>29
読んでキター!
相変わらずの緊迫感がたまらんです。
しかし、この・・・良いところで終わってる具合が・・・。
早く続きのうPを!!
- 31 :GoVD:08/01/21 15:25:06 ID:Km1suQXR
- Gangs of Vana 'Diel @ 涙たちの物語 on Wiki
Episode15 "ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい"
うpしますた
>>30
今回はわりとすぐ上げられましたw
時間があればすぐ書けるんですけどねぇ。。。
- 32 :(・ω・):08/01/23 12:03:27 ID:woOHMxTb
- >>31
読んできた!
うん、面白い。
続きを〜!!
- 33 :(・ω・):08/01/30 22:24:35 ID:PNJqja+Q
- >>31さんに勝手に絵を張らせてもらいました。
無許可の上に絵と内容があってない、さらにサイズが微妙
という逸品なので邪魔くさかったら消します。(ノ∀・)タハー
- 34 :GoVD:08/01/31 16:17:02 ID:oq/rNd6k
- >>33
わお、ありがとうございます。
目が怖い・・・エルヴァーンでしょうか。
#14から15のカフィはこんな感じかもしれませんねぇ。
そういえば、以前さる絵師の方にキャラ絵を描いてもらったものがあるので、
ちょろっと張っていこうかと思います。
とりあえず#1。。。っと
- 35 :BeniBana:08/02/01 00:01:35 ID:aeBADxs3
- うぉー
イラストいいなぁ ウヤマシス
- 36 :(・ω・):08/02/01 08:17:52 ID:j8VtvgO3
- >>35
あれだ、シリーズの名前付けた方が良いかもね。
- 37 :(・ω・):08/02/01 11:22:16 ID:kn1DAF0O
- >>36
>>4 にこう書いてあるぽ
三作目の投下に伴い、シリーズ名を『BeniBana』とすることにします。
- 38 :(・ω・):08/02/01 17:36:56 ID:j8VtvgO3
- >>37
お?
気が付かなかったよ。
ところで、レティシアの英文字綴りはなんだろう?
- 39 :(・ω・):08/02/01 18:49:13 ID:g1vIXKvk
- >>34
勝手に張ってホント申し訳ない。
張る前に聞けばよかった…w
今後の物語もも楽しみにしております。
>>35
いつも楽しく読ませていただいてます。
実はレジィを勝手に描いてたり…ラフで止まってますが。
ttp://imepita.jp/20080201/673530
- 40 :BeniBana:08/02/01 19:26:52 ID:aeBADxs3
- 英文字ですか・・・?
レティシア・レギーネ
Laetitia・Reginae
で・・・たぶんおかしくないと思うのですが、当方日本語以外は不得手でして。
- 41 :BeniBana:08/02/01 20:35:13 ID:aeBADxs3
- >>39
むむ? 入れ違いで気が付かなかったかな?
こ・・・これは!? かっこいぃ!
レジィ・・・・レティシア・・?
いや、もしかして、隣のミスラから察するに本編の方のリジィですか?
- 42 :(・ω・):08/02/01 21:24:28 ID:g1vIXKvk
- 名前間違うとかorz
お察しの通り本編のリジィのつもりです。
- 43 :(・ω・):08/02/02 02:25:23 ID:0kKJyiA1
- >>39
うきゃーFFっぽくてカッコイイな。。。
100回保存しますた
- 44 :BeniBana:08/02/02 18:37:44 ID:NybVE6T7
- ここで本編のイラストが出てくるとは思いませんでした(w
本編読んでくれてる人もいたんだなぁ。
自分のキャラが形になるのは、とても嬉しいものですね。
- 45 :(・ω・):(・ω・)
- (・ω・)
- 46 :BeniBana.4『叙勲』:08/03/09 16:15:02 ID:4+SN/7+n
- わずかに夏の香りが混じり始めた海風が、白く薄いカーテンを撫でている。
手元の本から視線をはずし、彼は波打つカーテンをぼんやりと眺めた。
(レティの髪も、あんな風になびいていたっけ)
長くのびたアッシュブロンドの髪の奥で、彼の瞳はそこにいない彼女を幻視
する。彼は自身の領域であるベッドから立ち上がった。
もうすぐ二十歳になろうという彼は、それに反してあまりにも細い輪郭だった。
長身のエルヴァーンであるが故に、その痩身・・・いや細身が際だつ。
彼は窓辺に近寄り、海風を吸い込んで少しむせた。彼は窓を閉めて苦笑する。
このタブナジアで生まれ育って、潮の香りでむせるのはきっと自分だけだろうと。
控えめなノックの音が閉ざされた部屋に響いた。返事をすると、聞き慣れた
執事の声が来客を告げた。彼はわずかに弾んだ声ですぐに通すように伝える。
幼なじみが伝える彼の騎士の話。それが彼、アルバ・オーガスタの数少ない
楽しみの一つだった。
- 47 :BeniBana.4『叙勲』:08/03/09 16:17:20 ID:4+SN/7+n
- アルバは死神に足を掴まれて生まれてきた。貴族でなければ成長する事はな
かっただろう。成長は普通の子供に比べて極めて遅く、一度体調を崩せば死の
淵を彷徨う。彼は生まれてから物心つくまで、ベッドから離れることは無かった。
やがて、自分の脆弱さを理解するようになると、少年の心には当然のように
虚無が宿るようになった。どうせ長くは生きられない。どうして自分は生まれ
てきたのだろう、と。
そんな彼を不憫に思った両親は、私財を投じて様々な分野の著名人を招き、
アルバと会わせた。彼らの普通とは違う経験から出る言葉が、息子の心を救っ
てくれるかもしれないと信じて。
また、著名人を招く際は、近隣の貴族の子弟も招待した。皆、アルバと同年
代の子供達である。そうすることで、アルバに友達が出来れば、と考えたのだ。
両親の試みはまず半分は成功した。アルバは著名人達の言葉には興味を示さ
なかったが、友達は出来たのだ。赤みがかった金髪のお嬢様と、腰に木の剣を
差した深紅の髪をもつ少年のような少女の二人だった。
「初めまして、わたくしはソレイユ。彼女はレティシアですわ。本日はお招
きありがとうございます」
ベッドで半身を起こし、本を読んでいたアルバは彼女らを一瞥し、かすれた
声で返した。
「僕が招いた訳じゃない。・・・・今日は『お話』の日だったか。・・・僕
にかまわなくていい。先生はじきに来るだろうから、それまでその辺で遊んで
なよ」
この頃の彼は誰に対しても仏頂面で最低限の受け答えしかせず、本を読むか
窓の外を見ているかだった。当然、初めて来た二人にも同様の態度だった。ソ
レイユ達は驚いた顔を見合わせ、どちらともなくにやりを笑った。
「あら、よろしいのかしら?」
「ああ、好きにしててくれ」
アルバがそう言った瞬間、彼のベッドが大きく揺れた。
- 48 :BeniBana.4『叙勲』:08/03/09 16:19:38 ID:4+SN/7+n
- 「!!??」
目を白黒させる彼の足下で、ベッドに寝そべった金髪の奥の蒼い瞳と、深紅
の向こうの黒い瞳がいたずらっぽい光を放っていた。
「じゃあ、この辺で遊ぶことにしよう。一緒にな」
レティシアと呼ばれていた少女が木の剣をベッドに立てかけながら言う。
アルバは不躾に接してくる二人に面食らっていた。今まで招待されてきた子
供達は、アルバのことを病人としてしか扱わず、共に遊べない彼をけして輪に
加えようとはしなかったのだ。
「・・・僕みたいな病人と遊ぼうなんて・・・変なの」
「うふふ・・・貴方は知らないから」
ソレイユの楽しそうな声に、アルバは少し悔しそうな顔をする。部屋に籠も
らざるを得ない自分が世間知らずであることを、彼は自覚していた。
「・・・僕が何を知らないって?」
「私達はこれでも有名人なのだけどね?」
「・・・僕は、会ったことのある人の事しか知らないよ・・・」
「じゃあ、改めて自己紹介をしよう」
ソレイユはタブナジア侯爵家に近しい家系の娘である。家の権勢はタブナジ
アだけではなく、サンドリアの宮廷でも強く、当然ソレイユもそれ相応に扱わ
れる。一方レティシアは特別な身分を持たない平民である。そんな二人が姉妹
のように共に育った理由は、彼女らの親にあった。
ソレイユの父は貴族でありながら交易商であった。タブナジアといえばサフ
ムルグの真珠と呼ばれる海洋貿易で栄える都。 一攫千金の夢も立身出世の夢も、
すべての夢を受け入れてもなお余りあるほどに、輝かしき隆盛を誇るとまで言
われ、多種多様な人種が入り乱れる場所だ。
- 49 :BeniBana.4『叙勲』:08/03/09 16:22:23 ID:4+SN/7+n
- 嫡男ではなかったソレイユの父は、己の生きる場所を船上に決め、あらゆる
海に乗り出していった。アトルガン皇国は当然、さらにその先、東の国へも乗
り込んでいったと言う。
その彼を運ぶ船の船長がレティシアの父であった。困難な航海の中で、当然
のように貴族の商人と頑固な航海士は固い友情で結ばれることになった。やが
て、子供を授かった彼らは、自分たちの子供同士も親友となってくれることを
望んだのだ。
同じ年に生まれた彼女たちは、姉妹同然に育てられた。しかし、彼女たちが
生きるのは身分など誰も気にしない大海原の真ん中ではない。タブナジアで高
位の貴族令嬢であるソレイユと平民でしかないレティシアの関係は、宮廷では
あり得ない物であり、二人は浮いた存在となったのだった。
「ですから、なかなかわたくし達と遊んでくださる人は居ないの。平民の方
はわたくしが居ると畏まってしまって、本気になってくれないし」
「貴族の方は、私には近づいてこない」
「やっかいな物ですわ、身分って」
不満そうに口をとがらせる二人。アルバはレティシアを見て言った。
「君は平民だったのか」
「平民が、自分のベッドで寝ころんでいるのは気に入らない?」
アルバは開いていた本を閉じると、レティシアの眼差しに自分のそれを重ねた。
「君は走るのは得意?」
「え・・・・? う、うん、今まで大人以外には負けたことはない」
「木登りは出来る?」
「レティはとっても木登り上手よ。この部屋より高い枝から木の実を取って
きてくれたこともありますわ」
「そう・・・・どちらも僕には出来ないことだ。だから、君は僕なんかより
よっぽど優れた人だよ。身分なんか、たいしたことじゃない」
そう言って、アルバは窓の外へ視線を送った。言ってから後悔した。弱音を
吐いてしまった。哀れみを乞うてしまった。そんな物欲しくないのに、健康な
彼女達に嫉妬して、自分の不幸を振りかざした。
- 50 :BeniBana.4『叙勲』:08/03/09 16:24:46 ID:4+SN/7+n
- アルバは奥歯を噛みしめた。彼女達の方を向くことが出来ない。向けられて
いるだろう哀れみの視線を受け止めることが怖い。ずっとその視線を向けられ
てきた。その視線が彼の小さなプライドを引き裂き、彼をさらに弱くしてきた。
それから身を守るために彼は仏頂面の仮面を被り、偽りの慰めを拒絶してきた
のだ。
「借りるよ」
その声と同時に、手の中から本が奪われた。驚いて振り向くとレティシアが
適当に開いたページを眺めている。次第にその表情が難しそうな物に変わって
いく。
「半分くらいしか読めない・・・・ソレイユは読めるか?」
差し出された本を受け取り、ソレイユも目を通す。
「読めますわよ・・・・でも、何が書いてあるのかは全くわかりませんわ・・・・」
「・・・・・それは魔法書だよ」
それは初歩の神聖魔法を記した書物だった。神聖魔法は光を操る魔法。白魔
道士とナイトが得意とする魔法だ。
「魔法書・・・? アルバは魔法が使えるのか?」
「え? 本当ですの?」
二人の期待に満ちた視線がアルバに注がれる。
「ちょ・・・ちょっとだけなら」
「「使って見せて!」」
目を輝かせて迫ってくる二人に怯みながら、アルバはコクコクと頷く。深呼
吸すると、アルバは気持ちを落ち着かせて周囲の魔法力に気を向けた。漂う魔
法力に意志を伝え導き現象へと変える。胸の前に構えた両手の間に光が生まれ
た。その小さな光はゆっくりと天井へ向かって上っていき、ある程度でパンッ
と弾け、きらきらとした粒子をまき散らして消えていった。
少女達は喝采をあげる。
- 51 :BeniBana.4『叙勲』:08/03/09 16:27:08 ID:4+SN/7+n
- 「すごい、すごいアルバ! 私にも魔法を教えてくれっ」
「ああ! ずるいですわ。わたくしにも教えてくださいませっ」
歓喜と好奇心に満ちた四つの瞳。そこには哀れみなど欠片もなかった。初め
てだった。真っ正面から自分を普通に見てくれる。アルバはドキドキと高鳴る
鼓動を抑えて、声がうわずらないように答えた。
「いいよ。・・・・・でも、一つだけお願いがあるんだ。僕と友達になってよ」
レティシアとソレイユは顔を見合わせ、にっこりと微笑んだ。
「「いいよっ」」
こうして、レティシアとソレイユの二人はアルバの部屋によく訪れるように
なった。アルバの両親は明るくなる息子に喜び、レティシアとソレイユに感謝
した。
清潔な部屋に穏やかな風。そこに響く子供達の笑い声。どこにでもあるべき
幸せな光景だった。
そんなある日の事。この日は招かれた客がアルバ達に話をしていた。客は大
柄な体躯の騎士で、すこし癖のある黒髪を無造作にのばしている。名はイヴォ
ン・ボナール。
「・・・・こうして、ロンフォールにてギョホンベール王はランペール王に
敗れ、百年の長きにわたったサンドリアの内戦は終わったってわけだ」
アルバ達3人の前で、そのギョホンベール王に仕えていたという騎士は話を
締めくくった。実際にそこにいた彼の口から語られる、臨場感あふれる最後の
決戦【二王会戦】の様子に、子供達は聞き入り、夢から覚めたような面持ちだ
った。
「一つ聞いてもいいか? 師匠」
レティシアの声に、師匠と呼ばれた中年の騎士は頷く。戦後、タブナジアに
逃れてきた彼は、ソレイユの家の私兵とレティシアに剣を教えていた。
- 52 :BeniBana.4『叙勲』:08/03/09 16:29:47 ID:4+SN/7+n
- 「・・・負けたら悔しいよね。特に男は負けず嫌いだ。私に剣術で負けた男
達は、まるで仇でも見るように私を見る。でも師匠も負けたはずなのにまるで
そんな様に見えない。どうして? ランペール王が憎くはないの?」
イヴォンは楽しそうに、豪快に笑った。
「君に負けた少年達と俺もそう変わらんさ。俺がもし少年で君に負ければ、
同じように君を憎んだかもしれん」
そう言いつつ、イヴォンはレティシアに歩み寄り、その手を取った。その手
の平は毎日の稽古でマメだらけだ。
「もっとも、この手を見ればそんな憎しみは消え去るだろう。ああ、自分は
負けて当然だったと納得できるからね」
「そうですわ。レティシアの努力も知りもしないで、まぐれだの、女に本気
にはなれないなんて! 情けないっ!!」
ソレイユの憤慨にイヴォンは笑い、レティシアはくすぐったそうに手を引っ
込める。
「もうそろそろ二王時代は終わらせなければならないという思いは、ギョホ
ンベール王もランペール王も同じだった。だけれど、百年も争い続けた両者が
そのまま仲直りすることはもうできなかったんだ。どうしてもちゃんとした勝
敗を付けなくれはならなかったのさ。勝者はサンドリアの未来を背負い、敗者
はただ黙って消えゆくのみ。両王とも、それを覚悟した決戦だった。だから、
私はランペール王を憎んではいないよ」
「ギョホンベール王は負けて・・・・納得して亡くなったからですか・・・?」
それまで黙っていたアルバが突然口を開いた。イヴォンは迷い無く頷く。
「そう、全身全霊を賭け、正面から戦い、それでも敗れた。結果、訪れた死
も王は甘んじて受け入れた。私の復讐心などで、その死を汚すことはできん」
「・・・・・・」
- 53 :BeniBana.4『叙勲』:08/03/09 16:32:01 ID:4+SN/7+n
- アルバは黙って天井を見上げた。その胸中は煩悶としていた。ギョホンベー
ル王の死に様への羨望と嫉妬。意味のない死への恐怖。どうにもならない自分
への苛立ちと絶望。
「アルバ、どうした?」
「ううん、なんでもないよ。長い話だったし興奮したから、ちょっと疲れた
かなぁ」
それらを全て心の底へ押し殺し、アルバは笑う。せっかく得た普通に接して
くれる友達。その目に哀れみの光が宿ることだけは耐えられそうにないから。
こうして、この日はお開きとなった。
数日後、アルバの元をレティシアが一人で訪れた。彼女の表情はどこかぎこ
ちなく、なにか緊張しているようだった。
「レティ? 一人でなんて珍しいね。どうしたの、ソレイユとケンカでもし
た?」
「ちがう。私とソレイユはケンカなんかしない」
「じゃあ、どうしたの?」
レティシアは、なにか気まずそうにアルバから目をそらした。
「私が一人で来てはいけないか? アルバは私が嫌いか?」
「そ、そんなことないよ」
「じゃあ、好きか?」
「えぇっ!!? きゅ、急にどうしたのさ!?」
あまりに意外な言葉にアルバはベッドの端まで後ずさった。ベッドに膝を載
せ彼に詰め寄るレティシア。その目は冗談を言っている雰囲気ではなかった。
「どっちなんだ?」
アルバの心臓は生まれてから今まで、かつてない速さで脈打つ。目まぐるし
く回る血液に同調するように思考も回転する。どっちなんだ? と。見る間に
顔が紅潮していった。
- 54 :BeniBana.4『叙勲』:08/03/09 16:34:39 ID:4+SN/7+n
- 「そりゃ・・・好きか嫌いかって言われたら・・・・好き」
「やった!」
視界が、レティシアの満面の笑みに塞がれる。
「じゃあ、結婚できるな」
「け、ケコ!?」
「私に剣で負けた奴が言うんだ。平民は騎士に成れないって。でもアルバと
結婚したら私も貴族だろう? 結婚は好きな人同士でするんだろう? 私もア
ルバの事が好きだから大丈夫だ」
「あ・・・ははっ、そう言うことか」
無邪気に笑うレティシア。騎士に成りたい・・・は彼女の口癖だった。その
為に剣を習い、神聖魔法も勉強しているそうだ。たしかに平民の彼女が騎士に
成るのは難しいだろう。しかし、ソレイユも居る。レティシア自身が目標を見
失わなければ、きっと大丈夫。
(・・・・・でも、その時、僕は生きているだろうか・・・・レティは僕の
事を覚えていてくれるだろうか)
図らずも、先ほどの問答でアルバは自覚してしまった。どうにか大人になっ
た自分と美しく凛々しい騎士となったレティシアが結ばれる、そんな夢を見て
しまった。
叶うはずのない夢。だが、せめて、そんな夢を二人で見たという事は彼女に
覚えていて欲しい。たとえ、彼女が騎士になるその時に、自分が居なくなって
いたとしても。
「レティ・・・・だったら僕が君を騎士にしてあげるよ」
アルバはそう言って、驚くレティシアに笑って見せた。
叙勲式のまねごとはすぐに済んだ。アルバも正式なやり方など知りはしなか
った。ただ、跪いたレティシアの肩に彼女の木の剣を置き、告げる。
「我は汝に望む。清廉であれ、強固であれ・・・・・えーと、良い騎士であれ」
「はいっ」
「我、アルバ・オーガスタはここに、レティシア・レギーネを騎士として認
める。今は、我しか認める者が居なくても、汝は今、騎士となった。騎士の名
に恥じぬように・・・がんばれ」
「わかった」
アルバは木の剣を差し出す。受け取ったレティシアは誇らしげにそれを腰に
差した。
たわいもないごっこ遊び。だが、この思い出は二人の記憶に色あせぬ物とし
て残り続けることになったのだった。
- 55 :BeniBana.4『叙勲』:08/03/09 16:36:49 ID:4+SN/7+n
- 執事に案内されて通されたソレイユは、今や宮廷に燦然と輝くとされる笑顔
を見せた。
「しばらくぶりですわね、アルバ」
「やあ、ソレイユ。捕虜交換成立祝賀会はどうだった?」
ソレイユは誇るように胸を張った。
「絢爛たる大戦果ですわよ。レティにドレスを着せてあげましたわ」
「それは、にわかに信じられない・・・・あんまりレティをいじめないように」
「あら、失礼ですわね・・・・わたくしは貴方に負けないくらいレティを愛
しているというのに」
「僕と君とじゃあ方向性が違うと思うなぁ、愛情の」
あれからレティシアは順調に実力を付け、ソレイユの後押しもあり、サンド
リアの緋盾騎士団に騎士見習いとして入団。騎士登用試験に見事合格し、昨年
若干17歳にして正式な騎士となった。
アルバは何度か寝込み、生死の境を彷徨うことはあったが、なんとか今も生
きている。今は容態も落ち着いており、父親の仕事を手伝うこともあった。
ソレイユは淑女として美しく成長し、サンドリアとタブナジアを往復する日
々を送っている。社交界の支配を目論んでいるに違いないというのは、レティ
シアの言だ。
そんな美しき野心家がもたらした彼の騎士の近況を、アルバは楽しそうに聞
いていた。しかし、最後に彼女が切り出した知らせに、アルバは紅茶の杯を取
り落とす。
「イヴォンさんが王家に反逆して・・・・彼をレティが討っただって!?」
ソレイユは硬い表情で頷き、目を伏せた。
- 56 :BeniBana:08/03/09 16:49:22 ID:4+SN/7+n
- しばらくぶりです。
今回登場するアルバは、レティ、カリウィス、ソレイユの運命に大きく関わる
人物です。
40年後の本編では断片的な情報しかない彼の生きた姿を楽しんで頂けたら幸いです。
あと、紅花では初めて引いてしまいました。
話は出来てますので、次はもうすこし早く出来ると思います。
- 57 :(・ω・):08/03/10 11:40:30 ID:zVyjs8fZ
- 待ってました!
続き楽しみにしてますヽ(´ー`)ノ
- 58 :(・ω・):08/03/12 12:06:50 ID:cMYkLjXx
- キター!
また良いところで・・・。
続きに期待!!
- 59 :(・ω・):08/03/14 23:43:25 ID:a02kOuDQ
- ヴァナ紀行のNさん書くの辞めちゃったのかな。
定期的に書いてくれてたから、かなり心配。
最後まで主人公達を冒険させてあげれるのは、作者様達だけなので
途中で止まってる物語もダルメルになって続き待ってます!!
- 60 :(・ω・):08/03/15 00:23:19 ID:+KsmEKkl
- うっはw
>>59書いてから、作者様達どのくらい来てないんだろ、と
前スレを開いたら・・・
すたんぷらりーキテタ━(゚∀゚)━!
しかも、完結してたorz 今まで気がつかなかったよ(ノД`)
すたんぷらりーの作者様とても楽しめました。
ありがとうございました!
そして、クピピ姉様ワロタwww
- 61 :BeniBana.5『約束』:08/03/23 20:52:47 ID:ePGdSK9w
- 「君はどうして騎士に成りたいんだい?」
夕暮れの中、私は熱心に木の剣を振る弟子に尋ねた。弟子は振る手を休め、
少し考えて答えた。
「カッコイイから」
幼い弟子のシンプルな言葉に、私は笑った。この子には才能がある。剣の才
能ではない。人並みはずれた集中力と忍耐力だ。今後、どのような道に進んだ
としても、この子なら大成するだろうと思える。
「師匠はどうして騎士に成ったの?」
逆に質問を返された。
「私の場合はただ家業を継いだだけだな。幼い頃から騎士に成るべしと育て
られ、そう育っただけだ」
「う〜ん・・・・じゃあ、どうして今も騎士なの?」
意外な質問に、私は目を見張った。
「・・・・どうして、とは?」
「師匠は戦いに負けてここに来たって言ってた。護るべき王様ももう死んじゃ
った。私みたいに成りたいと思って成った騎士じゃないなら、もうやめちゃっ
てもいいんじゃないの?」
考えもしなかった言葉だった。騎士をやめる・・・・? そうだ、なにも不
自然な事ではない。かつての部下達はとうに剣を置き、新しい生活を始めてい
る。私もそうしても良かったはずだ。なのに、今だ・・・タブナジアの貴族に
身を寄せてまで騎士であろうとし続けているのはなぜだ?
「師匠?」
弟子の声に黙り込んでいた事に気づく。
「ああ、なんでもないよ。・・・・・そうだなぁ・・・私はもう長いこと騎
士であり続けたから、もうそれ以外には成れないと思うよ」
「そんなこと無いよ。人は成りたいと思ったものに成れるんだよ。父さんは
そう言ったよ」
人は、成りたいものに成れる。本当にそう望みさえすれば。その方向へ歩い
てさえいれば。
「はは、そうか。・・・・わかったよ、レティシア。私は騎士でいたいんだ」
「そうなの? なんで騎士でいたいの?」
- 62 :BeniBana.5『約束』:08/03/23 20:54:57 ID:ePGdSK9w
- 「カッコイイからさ」
親指を立てて笑ってみせる。レティシアは吹き出して笑った。
「自分で自分をカッコイイって言うのは、ナルシストって言うんだ。ソレイ
ユが言ってたよ」
「うむぅ・・・・」
気恥ずかしくて頭の後ろを掻く。
「じゃあ、師匠は騎士だけれど、今は護るべき人が居ないんだよね」
「そうだなぁ、それが問題だ」
「じゃあ、お願いがあるんだ。師匠はサンドリアを護ってよ」
さっきから、この弟子には驚かされてばかりだ。
「サンドリアとはまた大きいな。どうしてだい?」
「だって、私はタブナジアを護りたいんだ。でも、サンドリアあってもタブ
ナジアだってソレイユは言うんだ。私が大人になるのはまだ先だから、それま
で師匠に護って欲しい」
私は弟子のまえに跪き、彼女の頭に手を載せた。
「サンドリアの騎士・・・・・か。なかなか大変そうだが、よしわかった。
君の師匠をやめた後はそうしよう」
深紅の髪の毛をかき回してやる。レティシアは悲鳴をあげて笑った。笑いな
がら私に『約束』する。
「ああ・・・・・その時まで、待っているよ」
その二年後。イヴォン・ボナールはタブナジアを旅立った。次にその姿が確
認されたのはサンドリア王都だった。
その夜は満月だった。そして王都上空にはその満月を覆い隠すほどの巨大な
影があった。闇に滲むようなそれは黒龍ヴリトラ。凱旋広場に降り立った黒龍
は大いに暴れ回り、王都は大混乱に陥った。
そんな中、突然の出来事に右往左往する兵を一喝でまとめ、指揮し、民の避
難に大きく貢献した騎士がイヴォンだった。
黒龍が去った後、イヴォンは王城へ出頭し、ランペール王の前に跪いた。
イヴォンは東王の配下でもっとも精強と謳われた『回廊騎士団』の団長であ
った男だ。
- 63 :BeniBana.5『約束』:08/03/23 20:57:44 ID:ePGdSK9w
- 王座へ至る回廊を護る騎士団として名付けられたほどの戦闘集団の長。戦後
も彼の力は危険視され、国外追放を言い渡されていたのだった。しかし、彼は
無断で国内へ入ったことを詫びるどころか、こう言った。
「ご用命があろうかと愚考致しまして、罷り越しました」
「ほう、わしがおぬしに何を望むと?」
「黒龍の住処・・・・突き止めてご覧に入れましょう」
「! ・・・・して、おぬしは何を望む?」
「今一度、サンドリアの盾と成ることを。黒龍討伐の折りには末席に加えて
頂けますよう・・・」
イヴォンは見事黒龍の住処を見つけ出し、討伐の際にもその剣で貢献した。
その功績を認められ、国外追放は解かれることになった。しかし、黒龍と同時
に帰還したことで、黒龍を王都へ導いたのはイヴォンだとする噂が流れること
になった。
ランペール王はその噂とイヴォン自身の東王派への影響力を危惧し、彼にあ
る特別な称号を授けた。あるいは特別な刑を科した。
『囚縛将軍』イヴォン・ボナール
彼は王の囚人にして近臣。刑罰として王の側で仕えることを義務づけられた者。
- 64 :BeniBana.5『約束』:08/03/23 21:01:03 ID:ePGdSK9w
- 「師匠が・・・・反逆など! 信じられるものかっ!!」
緋盾騎士団の詰所にレティシアの怒号が響く。しかし、カリウィスは表情を
全く動かさなかった。
「ボナール将軍が王の許可無く王都を離れ、かつての回廊騎士団の手勢を集
め、バタリアに向かったのは確かだ。ギョホンベール王の墳墓に向かったのだ
ろうな」
サンドリアとバストゥーク間の融和交渉は進んでいる。国同士が友好を持と
うとすれば、当然人の行き来が活発になる。つまり、新たな商売の芽を求めて
商人の動きが変わるのだ。
また、両国の政策がそれを後押しする。バタリア・ジャグナーを経由する陸
路の関税が大きく引き下げられ、両国の商人には荷車に乗せれるだけの荷を積
んで、陸路を往来する者が増えるようになった。また、バストゥーク側から建
設されているヘヴンブリッジが完成すれば、さらに陸路の往来が容易になると
いう見通しが、その動きに拍車をかける。
しかし、急激な動きには反動が伴う。それが、今回の囚縛将軍の反逆である。
商人の往来する陸路のすぐ側にギョホンベール王の墳墓があることがいけなか
った。王の眠る地をヒュームの商人共が騒がせる事が許せぬと、イヴォンはグ
ランテュール王に申し立てた。彼は陸路の変更を望んだが、それは却下された。
「この意見はどう聞いてもボナール将軍側に理はない。ただの感傷と一蹴さ
れて当然だ」
「それが、すでに信じられない。師匠がそんなことを言うなど・・・・」
「歳をとって視野と了見が狭くなった」
「なんだとっ!」
「・・・・と、王都では言われている。落ち着いてくれ、レティ。私もそん
なことを信じている訳じゃない・・・・無論、この事態には裏があるのだ」
「なにか知っているのか!」
レティシアがカリウィスの首を絞めんばかりに詰め寄る。いや、実際に絞め
上げる。
「ぐぇ・・・・ちょっとまて、レティ・・・・うぉっとと」
「うわわっ」
カリウィスがバランスを崩し、背中から倒れる。レティシアも引っ張られそ
のまま彼の上に乗る形で倒れた。ちょうどその瞬間、ノックと共に詰め所の扉
が開かれる。
- 65 :BeniBana.5『約束』:08/03/23 21:03:02 ID:ePGdSK9w
- 「ボス〜。お客さんを連れてきたわょおっととぉ? あら〜お取り込み中?
ごめんなさいねぇ〜時間をおいてくるわぁ」
ドアの隙間から整ったひげ顔がのぞかせた。低い声のオカマ言葉を残してド
アを閉じようとする。
「まて、アドリアンっ! 変な誤解をするなっ!!」
レティシアがあわてて制止する。その下でカリウィスが呻いた。
「誤解を解きたいならどいてくれ、レティ・・・・重い」
「な、なんだとう!!」
レティシアの肘がカリウィスのみぞおちに突き刺さる。
「ボス・・・それは女性に対しては禁句よ。馬鹿なことやってないで、ちゃ
んとレティを納得させなさいね」
「ぐぅ・・・・・・・すまない、アドリアン。半時間ほど待ってくれ」
「やれやれ・・・ね」
ドアを閉じて、アドリアンと呼ばれた男は苦笑した。
「騒がしい事だな」
その後ろで巨大な人影がつぶやく。サンドリアでは珍しいガルカだった。
「飽きなくて良いわよ? ウチはみんな個性が強くって」
そう言って笑うアドリアンを見て、ガルカは嘆息した。
「そのようだ」
半時間後。詰所には、レティシア、カリウィス、アドリアン、そして客のガ
ルカが顔を合わせていた。
「師匠を・・・ボナール将軍を追うのに相当規模の軍の派遣は認めないと言
うのか?」
「そうだ」
バストゥークから派遣されてきたガルカ、ダブルギアは静かに頷いた。詰所
の椅子を二人分占拠して座るその姿は、まるでオークのようだ。ひげを生やし、
それぞれのパーツが大きい顔も結構な迫力だが、タブナジア出身のレティシア
はガルカを見慣れている。まっすぐに見返した。
「なぜだ? 貴方達からしてみれば、陸上貿易を妨害する彼らを一刻も早く
除外したいはずだろう?」
- 66 :BeniBana.5『約束』:08/03/23 21:05:31 ID:ePGdSK9w
- 「我らが今最も危惧することは、討伐軍がバタリアでボナール将軍の軍と合
流し、そのままジュノへ侵攻することだ」
現在、両国は捕虜交換と共に取り付けた条約により、国境付近への派兵を大
きく制限されていた。そして、ボナール将軍が向かった墳墓はこの国境付近の
エリアに含まれる。もし、将軍の反逆が狂言であり、討伐軍と併せてジュノに
侵攻するような事になれば、ジュノはたやすく陥落するだろう。そして、それ
はバストゥークにとって致命傷に成りかねない事態だ。
「ヘヴンブリッジの建設はまさに国運を賭けた事業だ。国外的に見れば台頭
してきたタブナジア海商へ対抗するための陸路の開発。内政的には、国内の大
規模工事が終了した事による我らガルカの石工達の職を確保するため・・・・
・もし、今この事業を潰されることがあれば、我が国は大きな痛手を負うこと
になる」
「馬鹿な・・・・我らがそのような小細工を労して、ジュノへ攻め入るなどっ」
レティシアが声を荒げるが、ダブルギアの表情にはさざ波も立たない。
「・・・・ここ最近、橋の石工達が数人変死している。どれも真夜中に刃物
で斬りつけられて殺害されていた。エルヴァーンのような影が夜中にうろつい
ていたという証言もある・・・・すまないが、この状況では信用することはで
きん」
淡々とダブルギアは繰り替えす。国境付近への軍の派遣は認められんと。レ
ティシアは黙り込んだ。
「事情はわかったけど・・・・じゃあ、どうするの? まさか放っておけと
言うわけではないでしょ?」
アドリアンの言葉にカリウィスが、当然だ、と頷いた。
「そこで、我が騎士団に陛下から勅命が下った。少人数の精鋭を編成し、ギョ
ホンベール王の墳墓へ突入、ボナール将軍を討てとな」
室内に緊張が走る。
「少人数って、どれくらいかしら?」
「最大で18人。アライアンスだ」
「相手の人数は?」
「30から40。ほぼ倍と見て良い。だが、かつては精強で知られた『回廊
騎士団』とは言え彼らは平均年齢50の老兵だ。しかも、一線を離れて20年
も経っている。十分に勝てるはずだ」
- 67 :BeniBana.5『約束』:08/03/23 21:07:47 ID:ePGdSK9w
- レティシアがカリウィスをにらみつける。
「無論、その18人に私は含まれているのだろうな?」
「もちろんだ。・・・・これで異存はありませんか、ダブルギア殿?」
ガルカは重々しく頷いた。
「それならば問題無い。墳墓近くまでは私も同行させて頂く事になるが?」
本当に少人数かどうか、そしてボナール将軍を討ち取れたかどうかの監視役
と言うわけだ。レティシアが俯き拳を握りしめる。それを横目にカリウィスは
頷いた。
「当然ですね。承知しております」
時代はすでに新たな世代の物だ。
我らが魂を燃やし、得た熱もすでに冷めた。
だが、だからこそ今、我らが立たねばならない。
我らが仕えた王を、王と共に眠る戦友の高潔を! 踏みにじる事を許すわけ
にはいかぬ!!
我らは過去の時代を引きずった反逆者として、人々に記憶されるだろう。だ
がそれでも! あの戦いを生き残った者として、護るべき矜持がある。
魂の燃えかすをかき分けよ! ここに集った我らならば、あるはずだ。くす
ぶり続けてきた熱が、あの日々の残滓が!!
もう一度、火を起こそう。もう一度我らの芯鉄に火を入れよう。我らの刃は
綻びても、今だその芯まで折れてはいないのだから。
・・・・さあ、行こうか諸君。回廊騎士の本分を果たすために、王の元へ。
遙かな昔、人間種族が女神によって創られた後、初めて降り立ったのがバタ
リアとされている。信仰厚き者は、長き巡礼の果てにこの地で最後を待つと言
う。
その為、かつての古エルヴァーン族が築いたコヴェフ墳墓群には、今も新た
な墓地が築かれている。
それら墳墓群のはずれに、ギョホンベール王の墳墓がある。ギョホンベール
王は熱心な女神アルタナの信者だった。そのためバタリアで眠ることを望み、
自らの墳墓を生前から建設していた。建設途中で二王会戦が起こり、ギョホン
ベール王は戦死したが、ランペール王は東王派に配慮して墳墓を完成させたの
だった。
「そのランペール王も、最晩年は自らの王墓の建設に執心したのよね。やっ
ぱり、ライバルには死んでも負けたくないって思ったのかしら?」
- 68 :BeniBana.5『約束』:08/03/23 21:10:32 ID:ePGdSK9w
- アドリアンの軽口にカリウィスが返す。
「・・・王などという位は自分のことを特別だと信じなければ、全うできる
物ではないのだろう。そんな自分への信仰が、最後にはああいった墓を求める
のかもしれんな」
小山のような墳墓。その地上部分の横腹に鋼鉄の扉が張り付いている。よく
見れば最近開いた後があった。その前にレティシアともう一人、黒い鎧の騎士
が立っていた。ダレン・バレスターである。
二王会戦後、生き残った回廊騎士団は解散したが、その多くは新たに開墾さ
れた開拓地に流れ、新たな人生を歩み始めた。そして二王会戦で功を立て、そ
の開拓地を預けられたのがバレスター家だったのだ。
今回、ボナール将軍の呼びかけに応えた元回廊騎士は、ほとんどがその開拓
地の者達だった。ダレンにとっては、騎士としての先達達であり、武芸の師で
あった者もいる。彼らの人柄を知るだけに、今回の暴挙を信じることが出来ず、
勅命を受けた緋盾騎士団に同行を申し出てきたのだ。それに・・・・
「将軍に賛同した騎士達の中に一人だけ、年若い娘がいるのだ。彼女は騎士
達が拾った孤児で、彼ら全員を父として育った様な娘だ。どうしても彼女だけ
は助けたい・・・・。どうか、某(それがし)の同行を認めて頂きたい」
そう言って、ダレンは頭を下げた。カリウィス達としても、将軍配下の情報
が得られ断る理由は無かった。最終的に、カリウィス・ダレン・レティシアを
始めとするナイトや、騎士団所属の戦士や修道僧のモンクなどの前衛が10人。
アドリアンを始めとする騎士である赤魔道士や、騎士団所属の白魔道士が8人
という編成になった。
レティシアとダレンの二人は入り口の前で並び、一言も口をきく事もなく古
墳を睨んでいる。
「では、我らはここまでだな」
サンドリアからここまで同行してきたダブルギアがチョコボを引いて近寄っ
てきた。その背後では彼の部下のヒュームが二人、すでに騎乗している。
「言えた義理ではないが、無事を祈っている」
「まぁ、確かに十分な戦力を出すことを認めないでおいて無事を祈るなんて、
おかしな話よねぇ」
アドリアンの揶揄程度では、ガルカの鉄面皮には傷も付かなかった。
- 69 :BeniBana.5『約束』:08/03/23 21:12:43 ID:ePGdSK9w
- 「つまらないことを言うなよ、アドリアン。・・・そちらの事情も理解して
いる。貴方は命令に従っただけだろう。もともとこちらの不始末だ。気にされ
ることはない」
「感謝する・・・・では」
ダブルギアは頷くと、チョコボにまたがりジュノの方向へと駆けていった。
その姿を見送って、アドリアンはカリウィスへ向き直った。
「どう思う、ボス? 彼は・・」
「どちらにしても、ここまで何も動きがなかった以上は同じさ、外交上はな。
・・・・バストゥークも我が国との良好な関係を望んでいる・・・・今は」
カリウィスは墳墓に向き直ると、指揮官として令を発した。
「さぁ! 監視役は居なくなった。迅速に墳墓に突入する。レティシア、先
鋒として突入し入り口付近の安全を確保しろ。ダレン殿もレティに付いてくれ」
「待ちかねたぞ」「承知した」
レティシア達は剣を抜き放つ。部下達が墳墓の扉に手をかける。重々しい音
と共に扉が開かれ、地下へと続く暗い穴蔵が口を開いた。
「行くぞ。目が慣れるまでは足下に注意しろ」
冷静に指示を出しながら、レティシアは墳墓へと降りていった。
ギョホンベール王の墳墓の構造は単純だ。中央に広間があり、その広間を囲
むように回廊がある。広間の入り口は階段の反対側にあり、長い回廊を通らな
ければ到達できない構造だ。広間にはさらに下に降りる階段があり、その先は
同様の構造となっている。地下三階まであり、三階の広間が王が眠る玄室とな
る。
あらゆる小細工を否定し、立ちふさがる者を全て倒さなければ最深部へ到達
できない愚直な構造。
「まるで要塞ですな」
ダレンの感想にレティシアも頷いた。
「おそらく、そう利用できるように造ったのだろう・・・・もしバストゥー
ク、あるいはウィンダスが侵攻してくれば、ここは重要な拠点として使える・
・・・自らの墓すらも国の為に、か」
会話しながらも、二人は油断なく歩を進める。まっすぐな回廊に足音と鎧の
擦れる音が響く。進入はとっくに気づかれているはずだが、迎撃に出てくる兵
は居ない。
- 70 :BeniBana.5『約束』:08/03/23 21:14:27 ID:ePGdSK9w
- 「まぁ、向こうの方が数は多いのだ。迎撃してくるならば広間であろうな」
「・・・・・・」
レティシアは答えない。ただ歩を進める。
「レティシア殿、そろそろ本隊を呼んだ方が良い。先鋒だけで広間に行くべ
きではないぞ」
レティシアは首を振る。歩む速度を落とすこともなかった。
「恐らくは大丈夫だ」
ダレンが訝しげにレティシアを見下ろす。
「どういう事ですかな?」
「行けば・・・・わかる」
レティシアも彼女の部下も、けっして歩む歩を止めようとしない。その決然
とした態度にダレンは口を閉じ、後に続いた。やがて、広間へと続く扉が現れ
た。躊躇うことなくレティシアが扉を開くように命じる。部下が取り付き、扉
を押し開いた。流れ出す空気。それに乗って漂うそれは。
(死臭!?)
眼前に広がる第一層の広間。そこは戦場跡だった。魔法で焼けこげた跡、凍
り付いた跡、そして横たわる騎士達の亡骸。
「これは!!?」
ダレンがもっとも近い騎士の亡骸に走り寄る。俯せに倒れていた彼を抱き起
こし、絶句する。
「ダミアンッ・・・・」
見知った顔に呻く。
「生存者を捜せ! それから、本隊へ伝令。第一層の広間までの安全は確認
したとな」
的確に指示を出し、レティシアがダレンの側に立った。
「どういう事なのだ!? レティシア殿! 彼らはいったい誰と戦ったのだ!?」
レティシアは膝をつき、ダミアンとダレンが呼んだ亡骸を見た。その死に顔
は全てを成し遂げ満足したように晴れやかな物だった。
「許せ、ダレン殿。バストゥークの者が居たため話せなかった。本隊が来る
まで時間がある。話そう。なぜ回廊騎士達が反逆しなければならなかったのか
を」
- 71 :BeniBana.5『約束』:08/03/23 21:16:49 ID:ePGdSK9w
- 始めにそれを発見したのは、かつて回廊騎士団の一員であり、イヴォン・ボ
ナールに個人的に仕えている細作(忍び)だった。細作はイヴォンの命により
ギョホンベール王の墓を定期的に参っており、その時も備える花を用意して古
墳を訪れていた。
古墳の入り口に立った途端、細作は異常を感じ取った。内部から漂う暗い死
者の気配。信じられぬ思いと細作としての勘がせめぎ合った。細作は術を使い
己の気配を殺すと、古墳の内部へと足を踏み入れた。そして、見たのだ。二王
会戦で倒れたかつての仲間が、そして何よりも自分たちが使えた王がアンデッ
ドとして蘇っているのを。
そして、彼らの前に立つ、黒いローブの何者かを。
細作はすぐにその場を後にした。詳細は掴めなかったが、生きて帰って報告
しなければならない。
細作は元回廊騎士が多く住むバレスター家の開拓地に戻り、仲間にイヴォン
への伝令を頼み、自分は古墳の監視に戻った。結果、奇妙なことがわかった。
古墳の亡霊達は基本的に外に出ることはないが、時折、月の陰る夜に数人でジュ
ノへ赴きガルカの石工を狙って暗殺を行ったのだ。そして、その時には必ずあ
の黒いローブの者が側にいた。
亡霊達はその者に蘇らせられ、使役されている。それがイヴォンの下した判
断だった。イヴォンは怒り狂った。かつて仕えた主君が、そして戦友達が、安
息の眠りを妨げられ使役されているなど、耐えられるわけがない。
また、サンドリア首脳部としても、東王が蘇り使役されているなど放置でき
るわけがなかった。東王派に知られれば反乱の火種になる。それに、彼らを使
役する犯人は明らかにバストゥークに害を成している。明るみに出れば、最悪
第二次コンシュタット会戦以来の直接戦争に、そこまで行かなくても両国の融
和交渉は大きく後退する。それは避けねばならなかった。
蘇った東王達を倒し、黒いローブの犯人を抹殺しなければならない。だが、
軍の派遣は結んだばかりの条約が許さない。首脳部はジレンマに陥った。
「だから、師匠は・・・・ボナール将軍は、回廊騎士は立ったのだ。反逆者
の汚名を被ることになろうとも、東王の誇りとサンドリアを護るために」
「そうか・・・・そうだったのか・・・・」
- 72 :BeniBana.5『約束』:08/03/23 21:19:28 ID:ePGdSK9w
- ダレンは抱きかかえるダミアンの死に顔を改めて見た。晴れやかな微笑。使
役され望まぬ戦いを強いられた、かつての戦友と剣を交える。それはどれほど
つらい物だっただろう、どれほどの悲しみだっただろう。だがそれでも、成し
遂げて倒れたその顔には、ただ満足だけを湛えて・・・・騎士達は散っていっ
たのだ。
「やはり、貴方達は、某が目標とする騎士だった・・・・」
ダレンは彼をゆっくりと横たえると立ち上がり、静かに敬礼した。
第一層の広間には生存者は居なかった。一様に晴れやかな死に顔をした彼ら
を、程なく到着した本隊に任せ、レティシア達は第二層へと進んだ。
第二層には、通路にも倒れ伏す回廊騎士の姿があった。どの顔もどこか満足
げであり、レティシア達は一人一人に敬礼をし、先ヘ進んだ。皆、口を開くこ
ともなく、自然に敬礼をしていた。それぞれに思うことがあり、そうしなけれ
ば居られなかった。
やがて、第二層の広間に到着する。そこもまた激戦の後が生々しく残り、死
臭が漂う戦場だった。しかし、騎士達の亡骸は整然と並べられ、その前に小さ
な人影が一つ、立っていた。
「キリリさん!? 無事だったのか!」
「ダレン坊やかい・・・・あいにく生き残ったよ」
駆け寄るダレンにそう笑ったのは、タルタル族の女性だった。三頭身ほどの
体躯に蒼い髪を頭頂部でしばり、前髪をそろえて切っている。おかっぱ頭の少
女にしか見えないが、タルタル族は年齢で見た目が変わらない。ダレンと彼女
の態度を見るに結構年上のようだ。二本の短刀を提げ、鎖帷子に身を包んだそ
の姿は、東洋の忍者の物だった。
「ベルナデットは!? 無事なのか・・・?」
膝をつき尋ねるダレンに、キリリはあきれたように嘆息した。
「いきなりそれかい? まぁ、あんたはあの子を助けに来たんだろうしね。
安心しな、あたし達があの子を危険に晒すと思ってるのかい? あの子は団長
と一緒に下さ」
安堵のため息をつくダレン。レティシアは二人に近づくと、ダレンと同じよ
うに膝をついた。
「お怪我はありませんか?」
キリリはにっこりと笑って胸を叩いた。
- 73 :BeniBana.5『約束』:08/03/23 21:21:57 ID:ePGdSK9w
- 「あたしは大丈夫さ。やっぱり女の子は気遣いが違うねぇ。ダレン坊やはウ
チの馬鹿共に似て、そう言う細かいところがからっきしだからねぇ」
ウチの馬鹿共、と言いながらキリリの視線は整然と横たえられた騎士達に向
けられた。
「上で・・・生き残った奴は居たかい?」
レティシアは黙って首を振った。キリリは耐えるように目を伏せた。
「そうかい・・・・結局あたしだけかい・・・・・あんたがレティシアだね?」
「はい」
「下で団長が待っている。ダレン、あんたはベルナデットが待ってる。・・
・・悪いけどここから下は二人だけで来てくれるかい?」
「わかりました」
部下に本隊と共にここで待つように指示し、レティシア、ダレン、キリリは
階段を下りていった。
「黒ローブは確かに倒したよ。ただ、アレはただの使い魔みたいな物だった
みたいでね、本体には手が届かなかった」
第三層の広間へ居たる道中、キリリは回廊騎士団の戦闘の顛末を話した。
「それでは!?」
逃がしてしまう、と言いかけたレティシアはキリリの視線に口を閉ざした。
「逃がしゃしないさ・・・・。手がかりはちゃんと掴んだ。どんなことをし
たってこの落とし前は必ずつけさせる。でもそれはあんた達の仕事じゃない」
心の底を殺すような暗殺者の視線。それは、手を出すな、出せばオマエもも
ろとも殺す、と語っていた。
「あんた達は、自分達のするべき事をしな。さしあたっては−−−−」
「キリリ母様っ!!」
「ムギュぅ!」
通路の角から飛び出してきた人影にキリリが抱きしめられる。人影はエルヴァ
ーンの少女だった。収まりの悪い髪をベレー帽でまとめ、竪琴を持っている。彼
女がベルナデットなのだろう。
「母様、母様! 良かった・・・生きてる・・・」
「吟遊詩人だってのに・・・馬鹿力・・・・死ぬ・・・」
思い切り抱きしめられて、キリリが苦しげにもがいている。
「ベル・・・」
ダレンが呼びかけると、彼女の腕の力が抜けた。その隙を逃さず、キリリは
彼女の腕から逃れる。だが、ベルナデットはそれにも気づかない様に、怖々と
ダレンの方へ振り向いた。
- 74 :BeniBana.5『約束』:08/03/23 21:23:35 ID:ePGdSK9w
- 「ダレン様・・・・・」
そのまま、二人とも見つめ合ったまま固まってしまった。
「レティシア」
息を整えたキリリがレティシアの膝を叩いた。
「あんたは先に行きな。・・・・早く行って、あの人の戦いを終わらせてお
くれ」
レティシアの方を見ずに、キリリは言った。
「あの人との約束を、果たしておくれ・・・・たのんだよ」
「・・・・・わかりました」
泣いているような小さな背中に背を向け、レティシアは駆けだした。角を曲
がり、後は広間までまっすぐに。
枷をはずしたように走る。イヴォンの覚悟を知ってから押さえつけてきた想
いが、あふれ出す。
−はは、そうか。・・・・わかったよ、レティシア。私は騎士でいたいんだ−
−サンドリアの騎士・・・・・か。なかなか大変そうだが、よしわかった。
君の師匠をやめた後はそうしよう−
(覚悟をさせたのは私だ)
今になってあの言葉の重みに歯を食いしばる。たわいもない、子供との約束
だった。だが、あれは誓いだった。騎士の誓いだったのだ。
彼は果たした、誓いを果たした。黒龍と戦いサンドリアを護った。敵意だら
けの王宮で虜囚に甘んじながらも騎士であり続けた。
そして今、反逆者の汚名を被ろうとも、サンドリアを守り抜いた。
「私は」
走る。まっすぐに。彼が待っていてくれる。もうすぐそこだ。
「私はっ」
重い扉に手をかける。満身の力を込めて押し開いた。
「私は、レティシア・レギーネ! 約束を果たしに参った!! 騎士イヴォ
ン・ボナァァァル!!」
- 75 :BeniBana.5『約束』:08/03/23 21:25:16 ID:ePGdSK9w
- 第三層、大広間。王の玄室たるその部屋で、中央に鎮座する王の棺の前で、
跪いていた騎士が立ち上がる。ゆっくりと振り向いた。
黒々としていた髪は灰色に変わり、背中に届いている。かつては無かった髭
を蓄え、かつてよりも深い皺が刻まれている。
だが、その目は変わらない。深い意志を映した優しい眼差し。その目を細め、
彼は笑った。
「待っていたぞ、騎士レティシア・レギーネ」
−私が騎士になって、師匠より強くなったら、私が師匠の跡を継ぐよ−
レティシアは剣を抜き放ち歩み寄る。イヴォンもまた剣を抜き放ち歩み寄る。
レティシアの頬は紅潮し、心臓は早鐘の様に拍動する。イヴォンは穏やかだ。
間合いが徐々に詰まっていく。互いの剣と剣が触れ合える距離まで。どちら
からともなく切っ先を差し出し、交差。剣で山を造る。剣を合わせる前に必ず
行っていた儀式。
かつてはレティシアの方へ大きく傾いていた山は、今はまっすぐに天を指し
ていた。
イヴォンは口を開く。
「語りたいことは多い。だが、口にするのは無粋」
レティシアも応える。
「ならば、鋼鉄に語ってもらおう」
イヴォンは瞳を閉じた。レティシアも同様に瞳を閉じる。大きく息を吸い、
吐いた。鼓動を落ち着かせる。触れ合う切っ先から伝わる穏やかな剣気に自分
の剣気を絡ませる。
懐かしい感覚に、目頭が熱くなる。穏やかで厚く、そして底が見えない。イ
ヴォン・ボナールという男の剣気。それを感じる。
レティシアは心構える。積んできた修練により体の一部と化した剣に、神経
を張り巡らせる。目を見開き、そして声を発した。
「いざっ」
イヴォンもまた目を見開き、声を返す。
「応っ」
打ち合わされた鋼鉄が、約束の時を告げた。
- 76 :BeniBana.5『約束』:08/03/23 21:27:28 ID:ePGdSK9w
- レティシアから仕掛ける。斬り下ろし、斬り払い、突き抜ける。ほとんど同
時に見えると評される三連撃。イヴォンから教えられた基本となるコンビネー
ションだ。イヴォンはそれを受け流すがその目は驚嘆を表していた。
レティシアは自分に剣の才能が無いことを知っていた。カリウィスと出会っ
てから思い知った。振るう度に千差万別。次々に新しい剣筋を組み合わせるカ
リウィスのセンスと、その一撃の重さ。自分にはその両方が無いことを。
だからこそ基本にこだわった。すがりついたと言っても良い。何百、何千、
何万と繰り返し、速さと精度を求めた。その結晶がこの三連撃なのだ。
しかし、彼女にそれを授けたのはイヴォンである。そして、彼はレティシア
に初めて見せた。本気の剣を。
レティシアは辛くも受けきった。一気に冷たい汗が滲み出る。実際には三連
撃だった。しかしレティシアは七撃受けたように感じる。三連撃中に四つのフェ
イントを織り交ぜたコンビネーション。
(これが師匠の本気・・・)
「よく受けた。速さでは君に分があるようだ。さあ、続けていくぞ」
イヴォンが剣を振るう。フェイントだろうと本気の殺気がのっている。無数
の斬撃の中から実のみを見分け、受ける。相手の殺気を読むのではなく、確実
に自らに迫る死の香りを嗅ぎ分ける能力が無ければ防げようもない攻撃。
しかしレティシアはそれを捌ききった。訓練だけでは到底身に付かぬ戦場の
感覚。それがなければすでに勝負はついている。
「その若さで・・・・ずいぶんと無茶をしてきたようだな!」
イヴォンが振り下ろした上段からの斬撃をレティシアは受け止めた。受け流
すことが出来なかった。
(重・・い!?)
受け流そうとして体を反らせば、そのまま押し切られる。上から押しつぶそ
うとする圧力に全力で抵抗する。ギリギリの鍔迫り合いとなった。
「ふふ・・・・やはり、無粋だが聞かずには居られない。レティシア、かつ
てと同じ事を聞こう。どうして騎士に成りたかったんだい? 女の身で、しか
も平民出で騎士になるには、相当の苦労があったはずだろう。あの頃は子供の
憧れで済んだ。だが、あれから現実を知り、それでも諦めなかったのはなぜだ?」
- 77 :BeniBana.5『約束』:08/03/23 21:29:27 ID:ePGdSK9w
- 満身の力を込めてイヴォンの剣を押し返しつつ、レティシアは口ゆがめ笑った。
「傲慢なんだ・・・・私はっ。平民だろうと、貴族だろうと立場が違うだけ
で同じ人間だと示したかった」
「人は皆、平等だと?」
「違う! アルバを覚えていますか? 彼と私達のどこが平等なものか!」
レティシアの剣が徐々にイヴォンを押し返し始めた。
「平等でなくても、人はただ一つだけ、皆が持っている権利がある」
「ぐ、ぅ・・・・それは、なんだい?」
斜めだった剣は徐々に天へ立ち上がる。互角の鍔迫り合い。しかし長くは続
かなかった。
「人は誰でも、生きている限り、戦う権利があるんだっ!!」
「ぐっ!?」
気合いと共にレティシアが踏み込む。イヴォンは抗しきれずに弾かれるよう
に下がった。
「アルバは自分の身体と、ソレイユは貴族の誇りを護るために、カリウィス
は人が生み出す悪意と、戦い続けている。だから、私も戦いをやめない。彼ら
と同じ場所に立って居たいから!」
レティシアはイヴォンに剣を向けた。まっすぐに切っ先を。
「そして私は、貴方と同じ場所にも立ちたい。名誉を失おうとも、誇りのた
めに戦った貴方達の様に・・・・私も騎士で居たいのだ!」
イヴォンは微笑んだ。
「よくわかった・・・・では、そろそろこの戦いは終わりにしよう」
ゆっくりとイヴォンは剣を握り込む。最後の一撃を放つために。
『人は、成りたいものに成れる。本当にそう望みさえすれば。その方向へ歩
いてさえいれば』
「決着を」
レティシアは自らの剣に口づけする。
『実はこれは嘘だ。人は成長し現実を知ることでこの嘘を思い知る。では、
なぜこんな嘘を親は子に教えるのか』
互いの剣気が高まっていく。最後の一撃の合図など必要ない。二人の剣気が
最高に達したその時、放たれる技こそ基本にして極意−−−−−−
『それは、誰もがこの嘘を本当にしたいと願っているからだ』
「「剣技! ファストブレード!!」」
- 78 :BeniBana.5『約束』:08/03/23 21:31:16 ID:ePGdSK9w
-
「私も、この嘘を信じたからこそ、ここまで来ることが出来た。一度は敗れ、
忘れかけていた。だけど、思い出させてくれたのは、幼い君だったよ」
仰向けに倒れ伏したイヴォンは、自分の胸にすがりついて泣く、深紅の髪を
撫でながら笑った。彼の肩から心臓にかけて、大きな斬傷が刻まれていた。即
死していてもおかしくない傷。だがそこからはなぜか血も出ていない。彼はとっ
くに・・・レティシアと戦う前から死んでいたのだ。
「ありがとう・・・・・・約束は果たされた」
穏やかな成就の言葉と共に、イヴォンは闇に包まれた。
- 79 :BeniBana:08/03/23 21:35:50 ID:ePGdSK9w
- こんばんわん
BeniBana.5『約束』をお送りします。
長い、長いよこれw そして終わってねぇよ。
舞台を整える為にずいぶんと行を要してしまいました。
次は、ダレンと回廊騎士達の決着。イヴォンの戦い。そして全ての決着です。
- 80 :(・ω・):08/03/24 03:51:44 ID:gbyHQCbU
- く〜〜( ̄~ ̄;)
騎士たるものの教示というか・・
読んでいて、その状況が思い浮かぶと言うか・・
とにかく、今後が気になりますね!
っと・・思わずカキコしましたが、自分、本編のファンで
此方にカキコするのは初めてですm(__)m
- 81 :(・ω・):08/03/24 10:58:33 ID:J136fMNK
- 私も思わず初カキコ
余りにも気高い騎士魂とその為に悲しい生き方しか出来なかった人々
読んでて涙が出てきました
次回作心待ちしております!
- 82 :GoVD:08/03/24 23:41:45 ID:B1bg5E8m
- Gangs of Vana 'Diel @ 涙たちの物語 on Wiki
Episode16 "歌え、喜びの歌" 前編
うpしますた
#本当は1話書き上げてから上げたいのですが、時間がたってしまったので・・・&BeniBanaさんのうpに触発され・・・。
#はやいところ後編を書こうと思います。
- 83 :BeniBana:08/03/26 01:30:51 ID:0elycp1W
- >>80 81
ありがとうございます。
BeniBanaはカッコイイ騎士を書きたいと思いついたので、それが出来ていれば
うれしいです。
うは、本編!? 長いことほったらかしですいませんです。
GoVDさん
ここに上げるときのあのドキドキはくせになるから、早く上げたいと思います
よねぇ
おまけ
ニコニコ動画にUPされているオリジナルの歌 sm2429076 の内容が
とても今回の小説の内容に合っていて面白いです。
みれる環境にある人は、見てみて欲しいと思います。
- 84 :(・ω・):08/03/27 14:58:58 ID:/vQoaoDZ
- 「白き探求者」のサイトが消えてます〜!
どなたか知りませんか?
- 85 :(・ω・):08/03/27 23:28:14 ID:FAlPcNwf
- >>84
Wikiから飛んだところ、健在に見えますが
- 86 :84:08/03/29 01:33:54 ID:FcyUhibE
- 今日覗いたら、無事にありました・・・失礼しましたっ(゜▽゜;)
- 87 :(・ω・):08/04/06 00:06:31 ID:OndLLrqS
- すたんぷらりーが前スレに来てるなんて、全然気づいてませんでした!
>>60さん、ありがとうございます!
クピピ姉様のオチには、私も、そう来るか!とw
リピピちゃんの語り口がぴったりの、やわらかくてかわいらしくて
素敵な物語でした。歌う花と同じ方だったんですね。そちらも
切ないのにやさしい文章で大好きでした。
すたんぷらりー作者様の物語を、またぜひ読ませていただきたいです。
そして相変わらずBeniBanaは格好良すぎる……!
続きを心底楽しみにお待ちしております。
- 88 :暁のひとみ 7:08/04/06 00:27:13 ID:OndLLrqS
-
石造りの通路に、どぉん、と鈍い音がひびいた。
ほこりと血にまみれ、疲労しきった体を休めていた兵士たちが顔を
見合わせあう。ゆっくりと消えていく音と入れかわるように、不安げな
空気がその場を
支配した。
「隊長……これは、おそらく」
「……ああ」
耳打ちをしてきた壮年の槍兵に、アルテュールはうなずきかえした。
実物を見たことはないが、想像はつく。攻城戦用の破砕槌でもって、
自分たちの隊が立てこもる魔防門を打ちやぶろうとしているのだろう。
資材も人員も乏しい中、王国軍の威信をかけて落成にこぎつけた
ばかりの要塞、ガルレージュ。ジュノ攻防戦の要とうたわれた、その
存在自体を揺さぶるかの
ように、不吉な振動は繰りかえされる。
アルテュールは、苦い舌打ちとともに剣の柄に手を触れさせた。
ちらりと視線を投げれば、友軍として派兵されてきているウィンダスの
魔戦士たちの多くは、こわばった表情で手に手を取り、通路のすみで
身を寄せあっている。
その、日暮れに宿る小鳥の群れを思わせる集団から一人が離れ、
こちらへ歩みよってくるのに気づいて、アルテュールはひとみをすがめた。
同じような背格好のタルタルたちは見わけがたいが、あちらの小隊の長と
名乗った者のはずだ。
「あの……少し、よろしいですか?」
「どうされた、エトト殿」
応じれば、相手は金糸で縫い取りをされたクロークのフードを払い
おとした。頭頂近くで結わえられた緋色の髪と柔和なおもだちに、
ようやくその性別を知る。
タルタル族の娘は、足下までやってくると沈鬱な声音で告げた。
「……どうやら、ヤグードたちがここまで攻め入ってくるのも時間の
問題のようですね」
一瞬返答を迷ってから、気休めは無礼になるかと思いなおす。
アルテュールはうなずいた。
「ああ、我々もそちらとまったく同意見だ」
「正直に言って、私たち魔戦隊にはこれ以上戦いを続けるだけの余力がありません」
わずかに口ごもるそぶりを見せてから、娘はひかえめに付けくわえた。
「……差し出口とは思いますが、あなたがたも同様であるようにお見受けします」
- 89 :暁のひとみ 7:08/04/06 00:31:03 ID:OndLLrqS
- 「何を……ッ!」
「よせ」
従騎士たちのうち、年若い一人が気色ばむのを、アルテュールは片腕を
伸ばし制止した。
「このありさまでは否定できまい。それよりも、エトト殿。なにか算段が
あっての云い様か」
緊張した面持ちで、娘は暗く沈む通路の先を見つめた。
「お願いがあるのですが……みなさんを連れて、撤退の指揮を執って
くださいませんか?」
唐突な提案に、思わず眉根が寄った。
「己の部下を放って、貴卿はどうするつもりだ」
「できるだけ敵を引きつけながら、反対の方向へ逃げてみます」
「な……」
思いがけない答えに絶句したアルテュールをどう取ったのか、娘は
ことばを継いだ。
「もし囮として機能するほど持ちこたえるのかどうかを危ぶんで
おられるのなら、ご心配は無用です。これでも幻術使いのはしくれ、
それなりの時間はかせいでみせます」
「……いや」
ことばを重ねようとして、首を上げた娘と目が合った。
「私のほかは、ほとんど新兵ばかりなんです。……こんなところで
死なせたくない」
娘の決意の色濃い表情に、アルテュールは、翻意をうながす言葉を
飲みこんだ。
エルヴァーンである自分には彼らタルタル族の年齢は計りがたい。
とはいえ、少数精鋭をもって知られるウィンダスの戦闘魔導団に籍を
置く者が、見た目通りの力なき幼子であろうはずもないことはわかっていた。
そうであるならば、彼女の覚悟を、同じ軍人として受けいれるしかない。
- 90 :暁のひとみ 7:08/04/06 00:32:29 ID:OndLLrqS
- 「……わかった。貴卿の部下たちは、我が隊でたしかにお預かりする」
娘が、あからさまにほっとした顔になった。
「ありがとうございます」
胸の前で剣をささげ持ち、礼をとる。
「貴卿に武運を」
告げて、背を向けた。わずかにほほえんだ気配があって、娘は
うなずいたようだった。
「あなたも」
その声をかき消すように、ひときわ大きな破砕音がひびいた。
門が破られたのだ。
「本隊はこれより戦線を離脱、ジュノ大公国まで撤退する!」
動揺する兵たちのざわめきを払いのけ、腹の底から声を張りあげる。
「魔力の残っている者は癒しの技を! 動けぬ者には手を貸してやれ!」
両手の指で足りるほどに数を減らした部下と、自分の腰までの
背丈もないタルタルたちをせきたて、アルテュールは走りだした。
「………出でよ、聖なる光よ」
揺れる甲冑の音の合間をすり抜け、娘が精霊を呼ぶ声が聞こえた。
しばらくの間をおいて、背にしていてさえ、一瞬視界が白く染まる
ほどの閃光が届いた。
とっさに立ちどまりそうになる足を叱咤して、走りつづける。
騎士たる己が同胞を置いてただ逃げおちようとしている事実に、
知らず噛みしめたくちびるからは鉄さびた味がした。
だからこそ。
「隊長、前方に!」
先頭を行く従騎士が警告の声を上げた。風の精霊を従え、あるいは
異国の刀をたずさえ待ちかまえるヤグードたちの姿を見て、いっそ
自分は安堵したのだろう。
「……先に行ってくれ。はぐれ鳥の相手など、私ひとりで十分だ」
うそぶき、剣を抜いた。
返される答えを待つことなく、アルテュールはそのまま漆黒の
羽根を持つ異形へと突進した。
- 91 :暁のひとみ 7:08/04/06 00:34:23 ID:OndLLrqS
- 東方風の赤い鎧をまとった獣人が、その太刀を振りあげた。身を
低くして駆けるアルテュールを迎えて、白刃が空気を切り裂く。
そのふところへ飛びこみ、刀をにぎる腕を内側から盾で打ちすえる。
空いた胴体へと横なぎに片手剣を払った瞬間、獣人は骨ばった足で
地を蹴って、おおきく後ろへ飛びすさった。
黒い羽毛がちぎれて宙を舞う。
それが落ちるのを待たず踏みこみ、斬撃を重ねた。今度こそ、深く
肉を絶つ感触。
くずおれた相手を飛びこえるようにして、肩をいからせ羽を
ふくらませた小兵が間へ飛びこんでくる。
ぎぃんと耳障りな音がした。その両手にかまえられた鉄色の鋭い
小刀、空中から交差するように振りおろされた二本の軌跡をとっさに
体へ引きよせた盾で防ぐ。
押しかえす力と反動で、後方へ着地した小兵がたたらを踏んだ。
間髪入れず、体重を乗せて刺突をかける。アルテュールの剣を、体勢の
ととのわぬ相手は羽ばたくように広げた腕で迎えいれた。
抵抗なくその胸もとをつらぬいた刃に驚愕する間もなく、抱きとめる
ようにふわりと両の翼が降りた。
肩口に走った鋭い痛みに息をのむ。鎧の継ぎ目に突きたてられた刀が、
ずぶずぶと己の身に沈んでいく。
「………ッ!」
間近に見た敵兵の黒いひとみには、狂信者じみた熱が宿っている。
そうだ、彼らヤグードこそ、アルタナの民には理解できぬ教義に
命を捧げ惜しまぬ者たち……殉教をもって美徳とする種族ではなかったか。
とっさにその腹を蹴ってふりほどこうとするも、突然のかまいたちが
敵兵の痩身ごと己を包んだ。
やけどの熱にも似た痛みが四肢をおそう。一瞬、視界が、舞いあがる
黒い羽と霧のように漂う血とでふさがれる。
渾身のちからをこめて、ボロのようになった敵兵を振りはらい、
剣をかまえる。
炯々とひとみを光らせた魔道士らしきヤグードが、そのかぎ爪で
こちらをぴたりと指した。
かたわらでゆるゆると輝く風の精霊が、まとう微風を徐々に
荒々しいものへと変化させていく。
- 92 :暁のひとみ 7:08/04/06 00:35:36 ID:OndLLrqS
- 「うおおおおおお!」
吼えて、アルテュールは駆けた。ほおを、腕を、風が深く切り裂く。
力まかせに剣を振りおろした。鴉めいた悲鳴とともに、ヤグードが倒れる。
溶けるように消えた精霊を見届けた、そのとたん、肺腑の奥から
生温かいものがこみあげた。
「………ッ」
片膝をつく。ごぼりとのどが鳴った。むせ返った反動で、剣を
たよりに支えた上体がくずれ、血だまりへと崩れ落ちた。
目がかすむ、と思った次の瞬間には、すうと視界が暗くなる。
遠のきかけた意識をひきもどしたのは、遠い剣戟と、悲鳴の
ような鬨(とき)の声だった。
倒れている場合ではない。行かなければ。起き上がろうと
もがいて、ほんの少しも身体が持ちあがらないまま、のどの奥から
金臭い味がこみあげる。
ざらついた地面を掻いて、指先に力をこめた。利き手には、なじんだ
剣の感触がある。
断末魔の叫びが、また遠くでひびく。甲高い、嗚咽まじりの声が命を乞う。
その声を途中で断ち切る鈍い音。
やめてくれ。わめこうとして、のどからかすかに空気の漏れる音がした。
もう一度起きあがろうともがいたが、切り裂かれた四肢は言うことを
聞かなかった。血液とともに、力も抜けてしまったかのようだ。
抵抗する思いと裏腹に、意識はゆっくりと遠のいていった。
- 93 :暁のひとみ 7:08/04/06 00:36:35 ID:OndLLrqS
-
どれほど時が経ったのだろう。
ふたたび意識を取り戻したとき、視界は闇に閉ざされていた。
目を開こうとする。けれど、まぶたの動く気配がない。
恐慌を起こしかける精神を押さえつけ、必死に耳を澄ませる。
剣戟どころか、胸かきむしる悲鳴も絶えている。灼けつく四肢の
痛みすら嘘のようになくなっていた。そのすべてに、かえって寒気が
こみあげる。
必死に意識を凝らして、身体の状態を探ろうとする。利き手の指先に、
わずかに感覚があった。
……ただの錯覚かも知れない。
そう思いながらも、手のなかの剣の、冷たい感触にすがる。
真っ暗で何も見えない。聞こえないんだ。誰もいないのか。
教えてくれ、戦はどうなった。要塞は落ちたのか。私は、彼らの
うちただひとりでも、救うことができたのか。
誰でもいい……答えてくれ!
闇へ問いつづける声が音となっているのか、そうでないのかさえ
わからない。
身体のそれとともに、時間の感覚も失せていた。もう何年も
こうしているような気すらしてきている。
……私は、いったいどうなってしまったのだろう。
戦は終わったのだろうか。
サンドリアは……私の国は……
脳裏に、あざやかな森の翠がよみがえる。
涼しい葉ずれの音、木洩れ日のあたたかさを、音を拾えぬ耳、
何も感じぬ肌で思いえがいた。
虚ろに食われかけた胸のうちに、願いが灯る。
ああ、もしも叶うのならば、帰りたい。
緑なす彼の地、私の国へ……
帰りたい……。
- 94 :暁のひとみ 7:08/04/06 00:38:11 ID:OndLLrqS
-
ぞっとするような悪寒に、ローファルは毛布をはねのけ飛びおきた。
とっさに剣を身体へ引きよせようとして、背筋が冷える。手の
ひらには何の手ごたえもなかった。さきほどまでこの手ににぎって
いたはずなのに。
混乱してあたりを見まわしたところで、記憶の齟齬に気づいた。
ゆっくりと、こぶしを作っていた手を開く。薄闇の中、視線を
落とした先にあるのは、いくつもの弓だこを作った指だ。狩人を
生業とする自分が、剣などたずさえているはずもないのに。
「いまのは、……夢か?」
思わず、口に出してつぶやいていた。
凍るような暗く冷たい虚無が、妄執じみた願いが、身の内を
這いまわる感覚。ただの夢と言うにはあまりに生々しいそれに、
ローファルはわずかに身ぶるいをした。
寝なおす気にもなれず、寝台から降りる。窓にかかった薄布を払った。
夜明けが近いのだろう。二階の窓からは、白みかけた東の空がよく見えた。
扉口のランプをつけようときびすを返したところで、耳を打った鈍い
金属音に、ローファルは背筋を伸ばした。
……何だ?
外から聞こえたそれに、窓辺から暗い街路を見おろす。
音は続いていた。澄んだ剣戟ではない。不規則に、金属製の何かを
引きずるような、耳ざわりな音。
目をこらした先、視界のすみで、小さな人影が街路の角を曲がるのが見えた。
見間違いかもしれない。けれど、嫌な予感を抑えきれず、手早く着がえて
ローファルは部屋を出た。
こんな時間だ。隣室の彼女はまだ眠っているだろう。そのはずだ。
「悪い、入るぞ」
声をひそめて、扉を開ける。
まず目に入ったのは、開かれた窓。吹きこむ風に揺れるカーテン、
しわの寄ったシーツと、空っぽの寝台。
「冗談よせよ……くそッ」
思わずうめきがもれた。舌打ちをして、窓を乗りこえる。桟に手を
かけ、邸の外壁にぶらさがるようにしてから庭へと飛びおりた。
屋敷の生垣を飛びこえ、街路へ出る。そのまま、人影の消えた方向
へとローファルは走った。
- 95 :暁のひとみ 7:08/04/06 00:39:00 ID:OndLLrqS
- 焦るな。半病人の足だ、追いつける。
はやる気持ちを抑え、立ちどまって耳を澄ます。途切れ途切れの音を
ひろって、また駆けだした。
槍兵通りから裏路地へ。両脇におおいかぶさる民家は静まりかえって
いる。路地の出口近くまで来て、前方をふわふわした足取りで進む
仲間の姿が目に入った。
「おい、リピピ!」
抑えたつもりの声は、夜明け前の石畳に思ったよりも高くひびいた。
娘が立ちどまった。ふり返る。
安堵とともに、ローファルは足取りをゆるめた。
こちらを見ている彼女の表情は、表通りから差しこむ街灯の明かりを
背にして陰になっていた。
その小脇には、ほどけかけた包帯の絡んだ剣。地に引きずられた
切っ先から、長く伸びた影がローファルの足もとまで伸びている。
「どうしたんだよ、こんな時間に……」
すっと、リピピの片手が上がった。なめらかに印を切る。
「かの……に……眠りを……」
とぎれとぎれの、小さな声が届いた。
「…嘘だろ?」
唖然とするうちに呪言が完成する。唐突な睡魔に襲われ、ローファルは
ひざをついた。
体を起こしていられない。崩れおちながら必死にかすむ目を凝らす。
見つめるローファルの視線の先で、何事もなかったかのように歩き
だしたリピピは、そのまま暁闇に姿を消した。
- 96 :暁のひとみ 7:08/04/06 00:40:00 ID:OndLLrqS
- 「………おい……おい」
男の声と、ゆさぶられる振動に、ローファルは目を開けた。
「こんなところで寝るんじゃない。身ぐるみはがされてもしらんぞ、酔っ払い」
巡回兵らしき男が、倒れた自分の腕に手をかけていた。その肩ごしに
見える空はまだ暗い。
「ああ、やっと起きたか。まったく、いくら王都の治安が良いと言ってもだな…」
ひざをついていた兵士が、呆れ顔で立ちあがりかけた。
「待ってくれ」
とっさに、ローファルはその腕をつかんで問いかけていた。
「あんた、剣をひきずって歩いてる妙なタルタルを見かけなかったか」
「ああ? 剣を持ってたかどうかまではわからんが…タルタルなら、
しばらく前に西門のほうへ歩いていくのを見たな。…何かあったのか」
途中から怪訝そうな顔つきになった相手に、ローファルはあわてて
首を振った。
「いや、なんでもない。ありがとう、助かった」
半身を起こしたとたん、眩暈がした。魔法の眠りを途中で破ったからか。
ふらつかないように、ローファルはゆっくりと立ちあがった。
背後に巡回兵の視線を感じながら、焦る気持ちをこらえて歩きだす。
魔法を受けたことを、兵士に悟られるわけにはいかなかった。
正当防衛を除き、人間に対する攻撃魔法の使用はご法度だ。
それはもちろんアルタナ四国共通の取り決めだったが、強い
魔力を持つ者への畏怖や偏見が根強いこの国においては、特に厳罰が
下される傾向にある。そんなことは、リピピも重々承知しているはず
なのに、なんだってあんな真似を。
混乱を引きずったまま路地から出ると、西門前の屋台が並ぶ通りに出た。
ここからさらに東へ行けば凱旋広場だ。広場へ向かったのか、
それとも西門へ行ったか。判断に迷って、ローファルは立ちどまった。
あの室内着のようないでたちでは、門番に見とがめられるだろう。
耳を澄ませても、西門の方向でさわぎが起こった気配はない。
見切りをつけ、広場へ向かおうと走りだしかけたところで、目の
はしに映った人影にローファルは足を止めた。
- 97 :暁のひとみ 7:08/04/06 00:40:27 ID:OndLLrqS
- 門へと続く通路から少しはなれた位置に、王都を囲む防壁の
一部を切りとってぽっかりと開いた階段がある。防壁の上へと
登るためのものだ。
その入り口に立つ神殿従騎士が、不自然な姿勢で壁へよりかかっている。
そのそばへと寄って見れば、ぐっすりと眠りこんでいる様子だった。
「……おい」
声をかけても反応がない。ただのうたた寝ではない熟睡ぶりに
ひやりとしながら、肩に手をかけ身体をゆさぶった。
はっと従騎士が目を開けた。抱えていた槍を取りおとしそうに
なって危なっかしくよろめく。
「うわ、すみません隊長! 起きてます起きてます! ……って」
寝ぼけ顔でわめきかけた途中で、目の前に立つ人間を正しく認識
したらしく、男は言葉を切った。わずかな沈黙の後、顔を赤らめ
早口でつづける。
「なんだ、冒険者か。いや、その、さぼってたわけじゃないぞ。
なんだか急にありえないほど眠くなっちまって……いやいや、
寝てなかったけどな!」
こいつは、自分が眠りの魔法をかけられたことに気づいただろうか。
見さだめようと凝視する視線を、相手は勘違いしたようだった。
気まずそうな顔で問いかけてくる。
「いやあ、まあ、なんだ、……黙っててくれよな」
「ああ、告げ口なんてしやしないさ」
どうやら大丈夫そうだ。内心安堵しつつローファルが言うと、
男もほっとした顔になった。
「寒い中ご苦労さん」
かるく聞こえるように言って横をすり抜け、階段へと足をかける。
止められるかと思ったが、先ほどのやり取りのせいだろう、男は
何も言わなかった。
- 98 :暁のひとみ 7:08/04/06 00:41:18 ID:OndLLrqS
-
防壁の上を、一陣の風が吹きぬける。
夜明け前の街は、美しい青に沈んでいた。遠くには、影絵めいた
凱旋門の尖塔が見える。
通路のへり、エルヴァーンの腰の高さほどの石組みの上に、街を
見おろすようにしてリピピは立っていた。
その姿は、まるで彫像になったかのように動かない。声をかけよう
として、ローファルは息を飲んだ。
小さな身体の後ろに、背の高い男の透きとおる影が見えたのだ。
つばを飲みこみ、今度こそ声を出そうとしたその時。
東の空、街並みと接するその境目がすうっと白くなった。
こぼれだした金色の光が、朝もやに沈む王都を照らしだす。
濃紺の空が、みるみるうちにその色を淡くしていく。
あざやかな群青から、明るい青。そして透きとおるすみれ色へ。
(帰って、きた……)
風の音にも似た、かすかな声がした。
(無事だったのだ。この国は、この街は……)
立ちつくすリピピの目から、ぽろりと涙がこぼれた。あごを
伝って、はるか下へと落ちていく。
ゆっくりと顔を仰向かせた彼女のひとみが、空の色を映して、
暁のすみれ色に染まる。
(帰って……私は、かえってきた……)
ささやく男の銀色の髪が、長身が、光のなかに熔けていく。
リピピの手のなかの剣が、さあっと砂のように崩れおちた。
- 99 :暁のひとみ 7:08/04/06 00:42:13 ID:OndLLrqS
- リピピはゆっくりと目を開けた。
背中の下に、マットレスの感触がある。気だるさと鈍痛が心身の
不調を訴えた。
目に差しこむ白い陽光に、思わずつぶやく。
「まぶしい……」
ふっと目の前が暗くなった。
光がさえぎられたのだと気づいて、リピピはぼうっとまばたきを
した。誰かが自分の上におおいかぶさるようにして、こちらを
のぞきこんでいた。
背中に光を受け、その輪郭が銀のかがやきを帯びる。
ああ、とうめいた。つんと鼻の奥が痛くなる。
「……だいじょうぶ……あなたの声、聞こえましたから」
重い体を叱咤して、リピピは腕を上げた。手を伸ばす。
「帰りましょう? いっしょに……」
その手をにぎりかえされる。痛みを感じるほどの力に、ぼんやり
していた頭が動きだす。
リピピは自分をつかんでいる手を見つめた。健康的な、日焼け
した腕だ。
「…………?」
腕からたどって視線を上げていけば、見知った顔が見おろしていた。
「おい。……大丈夫か」
低く問いかけてくる、聞きなれたその声色にリピピは我に返った。
「え、……ファルさん?」
つづけて何かを言おうとしていたローファルが、飛びこんできた
影に押しのけられ視界から消えた。
「ちょっ、おまえな…」
「リピピ!」
あっけにとられたリピピを、寝台に飛び乗る勢いでのぞきこんで
きたのは、顔を真っ赤にした妹だった。
「タ……タチナナ……!」
ほんとうに久しぶりに見る、元気な姿にひとみがうるむ。
「このばか! 何考えてるのよ! ああもう信じられない!」
いきなり叱りとばされて、こみ上げた涙が引っこんだ。怒りゆえ
だったらしい赤い顔で、妹は言いつのる。
「あんたね、常識的に考えて、赤の他人にハイどうぞって身体
明けわたすとかありえないでしょ!? ほんっともうもう、もう…!」
「え、でも、あの、その……」
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