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涙たちの物語11 『旅の軌跡』

1 :(・ω・):08/01/10 23:34:02 ID:90JPAtUQ
ヴァナディールを舞台にした物語を語るスレです。
 あなたの中にあふれる物語を聞かせてください。
 
 前スレ:
  涙たちの物語10 『旅の行き先』
   http://yy10.kakiko.com/test/read.cgi/ff11/1147126955/
   
 倉庫等(現役稼働中):
 (Wiki)http://kooh.hp.infoseek.co.jp/
 
 歴代スレや旧倉庫は>>2あたりを参照。
 次スレは、400k越えたあたりで、宣言→立て→告知を願います。
 ※この板の転送量限界は512kなので、早めに対応しましょう。


2 :(・ω・):08/01/10 23:37:37 ID:90JPAtUQ
歴代スレ(新しい順):
涙たちの物語10 『旅の行き先』
http://yy10.kakiko.com/test/read.cgi/ff11/1147126955/
涙たちの物語9 『旅の果てに』
http://yy10.kakiko.com/test/read.cgi/ff11/1123780223/
涙たちの物語8 『旅の始まり』
http://yy10.kakiko.com/test/read.cgi/ff11/1105231828/
涙たちの物語7 『旅の終わりは』(仮板からログ移転)
http://yy10.kakiko.com/test/read.cgi/ff11/1088379577/
【したらば@FF(仮)板】
涙たちの物語6 『旅の途中で』
http://jbbs.shitaraba.com/bbs/read.cgi/game/6493/1077148674/
【したらば@マターリ板】
涙たちの物語5『旅が続いて』
http://jbbs.shitaraba.com/game/bbs/read.cgi?BBS=6493&KEY=1069286910
涙たちの物語4 『旅は道連れ』
http://hyakuyen.nce.buttobi.net/FF11log2/1064882510.html
涙たちの物語3 『旅の流れ』
http://hyakuyen.nce.buttobi.net/FF11log2/1058854769.html
涙たちの物語2 『旅の続き』
http://hyakuyen.nce.buttobi.net/FF11log/1054164056.html
涙たちの物語 『旅は終わらない』(避難先)
http://hyakuyen.nce.buttobi.net/FF11log/1048778787.html
(※↑ログ消滅のため【過去ログ図書館】にリンク)

【xrea】
初代 涙たちの物語 『旅は終わらない』
http://mst.s1.xrea.com/test/read.cgi?bbs=ff11&key=042463790
(※↑見れるときと見れないときがあるらしい)

倉庫等
(Wiki)http://kooh.hp.infoseek.co.jp/
(新)http://f12.aaacafe.ne.jp/~apururu/
(旧)http://www.geocities.co.jp/Bookend-Soseki/4886/index.html


3 :(・ω・):08/01/10 23:39:09 ID:90JPAtUQ
ここも姉妹スレ?
今はいないフレンドへの手紙3通目
http://yy10.kakiko.com/test/read.cgi/ff11/1140264545/l50

4 :BeniBana:08/01/10 23:57:40 ID:90JPAtUQ
『尊敬』と『望郷』の者です。
スレ立て替えと同時に、新作投下したいと思います。

三作目の投下に伴い、シリーズ名を『BeniBana』とすることにします。

それでは、BeniBana.3 『拳骨』 を楽しんで頂ければ幸いです。

5 :BeniBana.3『拳骨』:08/01/10 23:59:23 ID:90JPAtUQ
 「僕はひとりぼっちだ・・・僕は何も偉くない、何も特別じゃない!
 なのに誰も彼もが僕に頭を下げるんだ。頭を下げて、誰も僕を見ない
んだ」
 言い終えた瞬間に頭を拳骨で殴られた。火花が飛び散るとはこういう
事かと思っていると、殴った本人の顔が目の前にあった。間近にある年
上の少女の顔にどぎまぎする。
 「みんながそんな人じゃない。少なくとも私は違うわ。ちゃんと貴方
を見てくれる人はどこかにいるの。忘れないで。誰も見てくれないんじ
ゃない。貴方が見過ごしているのよ」
 そう言って抱きしめられた。鼻の奥が痛い。それを見ていたおじいさ
んが笑って僕の頭をワシャワシャとかき回した。
 僕は声を上げて泣いて・・・・そして笑った。


6 :BeniBana.3『拳骨』:08/01/11 00:02:15 ID:L0P3Dvl6
 解放された大ホールの窓から春の夜風が入り込む。入れ替わりにホール内の
大燭台に灯された光が、外の闇に漏れ消えていく。
 それだけでなく、このホールに集った賓客達の談笑する声も、夜の闇に消え
ゆく。
 集まった人々をカリウィスはざっと眺めていく。サンドリアの主立った貴族
や役人がもっとも数が多い。ほかにはバストゥークの大使を筆頭とする使節団。
タルタル族の姿も見える。ウィンダスから招待された使節達だろう。小さな彼
らの為に専用のテーブルも用意されており、料理を取るのにも不都合無いようだ。
 この宴は、サンドリアとバストゥークの捕虜交換の成功を祝う記念式典だった。
招待客はそれぞれに談笑し、共に知人を紹介し合い、人脈の輪を広げ情報を交換
していく。外交に携わる者にとってはもちろん、宮廷で生きる貴族達にとっても
人脈は力であり情報は武器だ。
 公爵家の嫡男であるカリウィスにとってもそれは同様だ。矢と魔法の代わり
に視線と談笑が飛び交い、盾の代わりに礼節で身を守り、剣のごとき鋭さを隠
した穏やかな言葉で斬り結ぶ。外交という戦場をカリウィスは泳ぐ。
 とは言え、彼は大洋に住む泳ぎ続けなければ溺れてしまうググリュートゥーナ
とは違う。少しばかり泳ぎ疲れ、軽く料理を取り休息していた。


7 :BeniBana.3『拳骨』:08/01/11 00:04:52 ID:L0P3Dvl6
 「失礼、テンパランスヒル公爵公子。すこしよろしいですか?」
 料理を食べ終え一息ついた頃にそう話しかけられた。視線を向けると見覚え
のある人物が軽く頭を下げた。
 「これは、鉄石伯」
 カリウィスはそう答えると、彼に向き直った。鉄石伯と呼ばれた人物は苦笑
して訂正する。
 「その名は父の功績に対して贈られた物です。私は家督は継ぎましたが、父
が立てた功績を自分の物と思うほど勘違いはしていませんよ。どうぞ、シメオ
ンと呼んでください」
 そう言って、シメオン・ハグドアグド伯爵は笑った。騎士として恵まれた体
躯のカリウィスに比べ、彼は線が細く穏やかな印象を与える。歳はカリウィス
よりいくつか上だろう。なでつけられた金髪と、眼鏡ごしの眼差しに宿った知
性の光がいかにも学術者という風情だ。
 「では、私の事もカリウィスと。・・・・お会いするのは二度目ですが、前
回はこのように穏やかな話ではありませんでしたから、きちんと話が出来る事
は嬉しいですね」
 「ええ、私もそう思います」
 シメオンは少し顔を伏せた。彼は自らの父が犯した悪行を知っている。北の
収容所から帰ったカリウィスが幾つかの証拠品と共に話したのだ。話を聞いた
シメオンは驚愕のあまりしばらく茫然自失となったが、事実を隠蔽し鉄石伯の
名誉を守り伯爵家を安堵すると聞き、伯爵家の跡取りとしての自覚を取り戻し
た。
 彼はカリウィスに丁重に礼を言い、速やかに鉄石伯の葬儀を行うと同時に家
督を継いだ。突然の領主の戦死に動揺する領民を素早く安心させ、各地の親戚
に挨拶をし自らの家督の継承を承認させ、その地位を確固たる物にした。
 幸いにして、ほかに家督を争う親戚もおらず、突然の世代交代はスムーズに
進んだようだが、それでもここしばらくは目も回る忙しさだったろう。
 だが、表面上はそんなことを微塵も感じさせず、シメオンは穏やかに話す。


8 :BeniBana.3『拳骨』:08/01/11 00:07:25 ID:L0P3Dvl6
 「ですが、このように捕虜交換が成功し、祝賀式典が無事に行われて
よかった。戦死した捕虜たちや・・・・父に顔向けできます」
 「・・・・・お父上のことは・・・・残念です」
 「いえ、戦場でのこと。覚悟は常にしておりました。亡骸を無事に連
れ帰っていただいただけで十分です。・・・・ですが、あの収容所につ
いては、もう必要がないので放棄しようと考えています。ですが、あれ
だけの砦、そのまま捨て去るにはもったいない。もしよろしければ、そ
ちらの騎士団に譲渡しようと考えているのですが、いかがです?」
 シメオンの申し出にカリウィスは少しばかり考える。
 「しかし、捕虜達に採掘させていた鉱山はどうするのです?」
 「・・・あの鉱山からの採掘量では、新たに鉱夫を雇って事業を進め
ても採算があいませんので閉鎖しようと考えています。ですが、またオ
ークどもに狙われる可能性もありますので、そちらも騎士団に管理して
いただければと」
 もちろんこれは嘘だ。アダマン鉱とオリハルコンの出る鉱山なら、採
算は十分すぎるほどにとれる。言外に持たせた意味は明白である。新し
いハグドアグド伯爵は、東王派から袂を分かち、テンパランスヒル公爵
に恭順を申し出ているのである。
 カリウィスはニコリと笑ってうなずいた。
 「なるほど、わかりました。とはいえ、私は騎士団の一騎士に過ぎま
せん。団長に話しておきましょう。それでよろしいですか?」
 カリウィスの所属する辺境騎士団の一つ、緋楯騎士団はテンパランス
ヒル公爵を団長とする在郷騎士の集団である。公爵の発言力に比例して
その勢力は大きく、先日の収容所奪還のように、辺境の治安活動を行う
こともある。
 「はい、よろしくお願いします」
 シメオンは頷き、これでこの話はひとまず終了となった。
 その後も談笑を続ける二人に、近づく女性の姿がある。二人が自分に
気がつくと、彼女は軽く一礼した。


9 :BeniBana.3『拳骨』:08/01/11 00:10:16 ID:L0P3Dvl6
 式典パーティらしくドレスや宝石で美しく着飾った女性がほとんどの
中で、その女性は紋章官の制服を隙なくきっちりと着込み、長い黒髪を
じゃまにならないように後ろでまとめている。その毅然とした姿には、
ほかの女性にはない怜悧でスマートな美しさがあったが、この場ではい
ささか浮いているのは否定できない。
 「失礼します。シメオン様、ただいま到着致しました」
 外見に違わぬ硬質な声。しかし、対するシメオンはどこかがっかりし
た声だ。
 「アメリー・・・・ちゃんとドレスは用意しておいただろう?」
 「・・・・お戯れが過ぎます。私はあなたの家臣としてこの式典に招
かれているのです。下級貴族の娘としてではありません」
 半ば予想していたことなのか、シメオンはわかったよ、と両手をあげ
て降参した。そして、カリウィスに向き直り彼女を紹介する。
 「紹介します。彼女はアメリー・カバネル。当家の紋章官ですが、鉱
山業務を統括する優秀な事務官として頼りにしている女性です」
 だが、その紹介は必要なかった。カリウィスは懐かしそうにアメリー
に笑いかけたのだ。
 「久しぶりですね、アメリー先生」
 「はい・・・8年ぶりです。ご立派に成長なされましたね、カリウィ
ス様。もうアメリー先生はお止めください」


 アメリーの祖父は領地を持たぬ下級貴族であったが、エルヴァーンに
しては商才に恵まれ、一代にして富を築いた資産家だった。そして引退
し事業を息子に譲ってからは、貴族の子弟相手に教師として第二の人生
を歩んだのだ。
 数年前に亡くなり、彼の教え子達はその死を悼んだ。そのうちの一人
にカリウィスが居たのだった。
 テンパランスヒル公爵家に彼が来たのは12年前。カリウィスは8歳
だった。12歳で騎士団に入るまで、カリウィスは『カバネル先生』の
教えを受けた。七つ年上のアメリーは、祖父の助手をしながら紋章官の
勉強をしてきた頃だ。


10 :BeniBana.3『拳骨』:08/01/11 00:13:05 ID:L0P3Dvl6
 「カバネル先生達にはいろいろな事を教わりましたよ」
 「それは知りませんでした。・・・アメリー、どうして話してくれなかった
んだ?」
 「・・・・大旦那様が亡くなってから、二人とも忙しく、まともに会話する
のもままなりませんでしたし、私事ですから・・・特に問題はありませんでし
ょう?」
 「・・・ごもっともだけど・・・・まぁいいか」
 アメリーの氷の視線に貫かれ、シメオンは苦笑しながら降参したが、腑に落
ちないという表情だった。
 「変わらないなぁ・・・。シメオン殿。彼女は昔からこんな調子で、大変厳
しい先生でした。その後無事に紋章官に成られたと聞いて、彼女なら問題ない
だろうと思っていましたよ」
 紋章は騎士にとって個人を特定する名札のようなものだ。その為、同じ物は
二つとない。膨大なその数を管理するために、専門の役職として紋章官がある。
記憶力に優れる彼らは、だいたいが事務官としても有能であり、貴族家に仕え
る紋章官には事務官として領地の運営に携わる者もいる。
 「・・・・ええ、父が突然亡くなって、彼女にはどれだけ助けられたかわか
りません」
 「私だけではありません。家臣一同、よく働いたと評価しています」
 「そうだね。そんな彼らをこれから私が養っていくのだと思うと、気が引き
締まるよ」
 シメオンの表情に陰が差す。だが、それは課せられた重みを理解し、何とか
克服しようとあがく男の顔だった。
 「自覚を持って頂けるのは助かります。その調子で、屋敷に帰りましたら書
類の決裁をお願いします」
 「今日かい!?」
 「おそらく帰る頃には日が代わっておりますので、明日です」
 よどみなく答えるアメリーにシメオンは頭を抱える。
 「はは・・・アメリーには敵わないな。さて、私の頼もしい頭脳も帰ってき
てくれたことですし、私もパーティを楽しんでくることにします。また、お会
いしましょう、カリウィス殿」
 「失礼致します」


11 :BeniBana.3『拳骨』:08/01/11 00:15:08 ID:L0P3Dvl6
 立ち去っていく二人を見送りながら、カリウィスは新たなハグドアグド伯爵
については心配なさそうだと判断していた。


 式典パーティはまだまだ続く。先ほどはホールの上座にサンドリア国王グラ
ンティール陛下が立ち、招待客達に挨拶を行った。それに答える形で各国の使
者がそれぞれの主の親書と謙譲の品をを携え祝いの言葉を返す。
 その後は音楽だ。ホールはたちまち舞踏会の用意が調えられる。若い貴族の
子弟達は、それぞれが見初めた相手を踊りに誘い、音楽の輪の中へ連れ立って
加わっていく。さて、自分も誰かを誘って踊るべきか、とカリウィスが思案し
ていると会場の端に見覚えのある女性を見つけた。
 「ソレイユ殿、いらしていたのですね」
 「あら、カリウィス様。ええ、ちょうどタブナジアからこちらに来ておりま
したので」
 見事な金髪を結い上げ、刺繍とレースで華やかに飾られた白いドレスを纏っ
た姿は、若く軽やかな印象でよく似合っていた。素直にそのようにほめるとソ
レイユはにっこりとほほえんだ。
 「そうそう、紹介しますわね。・・・・こら、何隠れてるの」
 ソレイユに促されおずおずと現れたのは、彼女と同じ年頃の女性だった。漆
黒の髪をソレイユと同じように結い上げ金の鮮やかな簪を指している。薄い緋
色のドレスには飾り気がないが、足下の深紅から胸元の薄緋色までのグラデー
ションが見事な一品だった。
 「この子は、私の親戚でエジェリーと申しますの。今までサンドリアに来た
ことがなくて、今回つれてきたのです」
 「・・・よ、よろしく・・」
 内気な性格なのか、初めて来たサンドリアで落ち着かないのか、それとも自
分の身分に臆しているのか、目を合わせずにか細く言う彼女にカリウィスは苦
笑した。緊張をほぐそうとソレイユとの談笑の中で何度となく話しかけるが、
うまくはいかなかった。
 ふと、気がつくとそろそろ流れる曲が終わりに近づいていた。


12 :BeniBana.3『拳骨』:08/01/11 00:17:24 ID:L0P3Dvl6
 「ソレイユ殿、次の曲は私と踊って頂けませんか?」
 カリウィスの誘いに快く応じようとしたソレイユは、ふと何かを思いついた
のか、エジェリーを見てクスクスと笑った。その笑顔に、カリウィスはいつか
の騎乗槍試合でレティシアの悪巧みに乗った時のソレイユを思い出していた。
 「カリウィス様、私の代わりにエジェリーを誘ってあげてくれませんかしら?」
 「ソ、ソレイユっ! 何を言い出す・・・」
 「実は、カリウィス様がいらっしゃるまではひっきりなしに殿方が踊りの誘
いにいらっしゃいましてね。先約があるからとお断りしたのですけれど・・・
・あなたが先約なら振られた殿方も納得なさいますでしょう」
 エジェリーは焦ってソレイユの肩を引っ張る。
 「ソレイユ、私はぁ」
 「カリウィス様と踊れば、後はあなたを誘おうという人は格段に減りますわ
よ。この方と張り合おうとする人はそんなに居ないでしょうからね。一度くら
い我慢なさい。踊りだってあんなに練習してたじゃない。大丈夫よ」
 言っていることは正しいが、彼女の表情は面白い遊びを思いついた子供のソ
レである。エジェリーが困る様を見て楽しんでいるのは明白だった。カリウィ
スは笑ってうなずいた。
 「なるほど、貴族だろうとそうでなかろうと、引き際を知らぬ輩はおります
からな。それではエジェリー殿、私と踊って頂けませんかな?」
 「う・・・むぅ・・・・・わかりました」
 ソレイユに恨めしげな視線を送りながら、おずおずと差し出された手をカリ
ウィスは恭しく取り、一礼した。


 始まった曲は舞踏会では定番と言えるものだった。カリウィスは手慣れた様
子でエジェリーをリードしステップを刻む。エジェリーも慣れない様子ながら、
しっかりとカリウィスについてきた。運動自体は得意であるようだ。その理由
もカリウィスは見当が付いた。


13 :BeniBana.3『拳骨』:08/01/11 00:19:25 ID:L0P3Dvl6
 「剣を嗜んでおられるのですか?」
 「えっ!?」
 突然の言葉にギクリとステップを踏み間違えかけたエジェリーを、カリウィ
スがフォローする。
 「すいません。驚かすつもりはなかったのです。手がね、教えてくれたので
すよ」
 「ああ・・・」
 剣を使う者の手には特有のタコができている。手を握っているカリウィスに
はそれがよくわかったのだ。しかし、このようなおとなしい女性が剣を使うと
は意外だった。
 「こんな手をしている人はここにはあまり居ないのでしょうね・・・・女の
身で、剣を使うのは生意気だとお思いですか?」
 上目使いにおずおずと問いかけてくる彼女に、カリウィスはほほえんだ。
 「まさか。騎士団には私以上に剣を使う女性がいますよ。そのような考えは
彼女に出会ったときに捨てました。・・・・私には白粉でしか汚れたことがな
い手より、よほど貴方の手の方が良いと思います」
 「! そうですか・・・よかった」
 そう、彼女はステップに集中するように顔を伏せた。もちろんそれはフリだ
けで、本当は赤くなった顔を見られたくなかっただけだが。


 踊り終えたカリウィスは、夜風に当たりにバルコニーに出ていた。ソレイユ
とエジェリーも誘ってみたが、エジェリーは固辞しソレイユも彼女を一人にす
るのは心配だからと言った。
 春の夜風は心地よくカリウィスの頬を撫でていった。しばらく目をつむり風
の手にその身を任せる。・・・・・やがて、背後から近づいてくる気配に彼は
目を開き振り向いた。
 「すこし、よろしいですか? カリウィス様」
 そこにいたのはアメリーだった。まるで給仕係のように酒瓶とグラスをトレ
イに載せて持っている。


14 :BeniBana.3『拳骨』:08/01/11 00:21:32 ID:L0P3Dvl6
 「アメリー先生・・・? シメオン殿はよいのですか?」
 「先生も敬語もお願いですかお止めください。シメオン様はホールで踊って
おられますよ。・・・・すこしお話があるのですが」
 すこし潜められた声に、カリウィスは人に聞かせられない内容だと察した。
 「では、庭に降りましょうか。今なら誰も居ないでしょう」
 「カリウィス様・・・敬語はお止めくださいと」
 アメリーの律儀な注意にカリウィスは苦笑する。
 「私にとってはあなたは怖い怖いアメリー先生ですよ。幼い頃の習いは改ま
りません。あきらめてください」


 夜の庭に明かりなどはなかったが、皓々と照らされた大ホールの明かりはこ
こまで届き、空には満月が浮かんおり、不自由はなかった。
 庭の片隅に設置された休憩用のテーブルにアメリーはトレイを下ろす。昼と
はまた趣の違う庭を眺めながら、カリウィスは問いかけた。
 「それで先生、お話とは?」
 「ハグドアグド家の混乱はシメオン様の迅速な行動によってほぼ収まりまし
た。・・・・後はシメオン様がお話になられたと思いますが・・・?」
 「ええ、最初に先生と取り決めたとおり、収容所と鉱山を手放す代わりに私
達の庇護を得る。オーク共のおかげで大きく予定が狂いましたが、それは変わ
りません。今後テンパランスヒル公爵家はハグドアグド伯爵家のために助力を
惜しまないでしょう」
 鉄石伯の暗躍をカリウィスの父であるテンパランスヒル公爵に伝えたのはア
メリーだ。鉄石伯は自分に忠実な古参の家臣以外にはあの鉱山を秘密にしてい
たが、領地の実務を担当していたアメリーはすぐにその動きに気が付いた。彼
女からの情報に従い緋楯騎士団が内偵を進めていたところで、今回の捕虜交換
と収容所襲撃事件が発生し、事件は予想外の形で決着することになった。
 「そうですか・・・・なら、私の仕事は終わったのですね」


15 :BeniBana.3『拳骨』:08/01/11 00:24:03 ID:L0P3Dvl6
 アメリーはグラスに酒を注ぐと一気に呷った。貯まった何かをはき出すよう
に大きく息をつく。酒瓶を見ればかなり強い酒だ。間違っても呷るような物で
はない。カリウィスは眉をひそめた。
 「無茶な飲み方を・・・・どうしたのですか?」
 「私が・・・・私のせいで、旦那様を死なせてしまいました」
 「・・・・・後悔を?」
 アメリーはいいえ、と首を振る。
 「あのままで事実が露見すればハグドアグド家は取りつぶし・・・・露見し
なければ東王派が力を取り戻し、我が国は再び内乱に戻る可能性がありました。
・・・後悔はしていません」
 「その通りです。私としてあなたの行動には感謝しています。ただでさえ、
王家と貴族の間は免税特権を巡って微妙な関係なのです。鉄石伯のことは大火
に成りうる火種だった」
 アメリーは再びグラスに酒を注ぐ。琥珀色に染まったグラスを掲げ、それ越
しに満月を見つめている。
 「旦那様は東王派でしたが、なにも大それた事は考えていませんでした。現
王家を苦々しくは思っていても表面には出さず、領民を愛し、鷹揚な統治を行
い、同時にサンドリアを愛する穏やかな領主。・・・・小さな人でしたが・・
・その自分の小ささを旦那様は認めたくなかったのかもしれません。だからこ
そ・・・・あの鉱脈を発見したことで狂ってしまったのでしょう」
 突然降ってわいた大金と言う力。とうに諦めていた夢に可能性を与える力。
いったいどれだけの人間が、その誘惑に抗えるというのか。
 「後悔はしていません。でも・・・・だったら私はどうすればいいのでしょ
う? 旦那様を止める力を持たなかった自分を悔いればいいのでしょうか? 
望む未来のない選択肢を与えた運命を呪えばいいのでしょうか? それとも・
・・・・・」
 淡々と続けていた言葉を切り、次に出た声は殊更に平坦に響いた。
 「・・・・直接手を下した貴方を憎めばいいのでしょうか?」


16 :BeniBana.3『拳骨』:08/01/11 00:26:02 ID:L0P3Dvl6
 アメリーの虚無の宿った視線をカリウィスは受け止めた。逡巡することなく、
答える。
 「それは貴方の自由です。心は、意志は、その持ち主にしか決めることはで
きない。私はもう決めています。この手を最初に汚したときから、抗い続ける
と」
 「あらがう・・・?」
 まるで初めて知った言葉のようにアメリーはそれを紡ぎ、眩しそうにカリウ
ィスを見た。
 「敵も味方もなく、すべての悪意に抗い続ける。それができると信じるこの
傲慢こそが、今の私を動かす全てなのです」
 アメリーは手に持ったグラスをトレイに戻した。
 「カリウィス様・・・・本当に立派に、強くなられましたね。それに比べて
私は・・・弱くなってしまったようです」
 そう言いながら、ポケットから小瓶を取り出す。
 「アメリー先生・・・・それは何です?」
 「・・・毒です。一口でも飲めば、もう助かりません」
 彼女は数歩後ずさる。
 「なっ、まってください!!」
 「近づかないでください。それ以上進めば、これを呷ります」
 カリウィスは足を止めざるを得なかった。間合いが遠い。彼女があの毒を呷
る前に飛びかかるには遠すぎる。
 「父は商売にかまけて私を顧みることがありませんでした。お爺さまは私を
可愛がってくれましたが、それでもどこかで父という存在を私は求めていた気
がします。この国は女が腕一つで生きて行くにはあまりにも酷な国です。・・
・・・そんな中で旦那様がくれた優しさは私にとって掛け買いのない物でした。
たとえそれが有能な家臣に対する物だったとしても・・・・それでも、私はっ
 あの方を、本、当の父親だと・・・思っていました!」
 よくやったな 頼りにしている おまえのような娘がいたらな アメリー、
おまえはよく気が付く娘だな
 満たされなかった父親の愛情への飢え。それを満たしてくれた人はもう居な
い。


17 :BeniBana.3『拳骨』:08/01/11 00:28:09 ID:L0P3Dvl6

 「また、一人に戻るのは・・・・もう嫌・・・」

 「「やめるんだっ!! アメリィィィィ!!!」」

 アメリーが小瓶を傾けた瞬間、その手から小瓶が弾き飛ばされた。横合いか
ら飛び出して、手にした棒きれで小瓶を打った人影が体を起こす。激しい動き
で付けていた黒髪のかつらがずれ落ち、その下から見事な紅の流れが現れる。
そうなると、緋色のドレスと相まってまるで炎が立っているように見える。そ
して、その炎は見覚えのある笑顔で振り向いた。
 「危ないところだった・・・・感謝しろよ、カリウィス」
 「レ・・・・レ・・・レティ!!??」
 エジェリーと名乗っていた内気な少女は消え去り、そこには炎の化身となっ
たレティシアが立っていた。カリウィスは茫然自失から何とか立ち直ると、驚
きで麻痺しかけた舌を無理矢理に動かす。
 「な・・なん・・・ここにっ!」
 「舌が回っていないぞ・・・・それは後だ」
 「そうだっ! アメリー先生!」
 小瓶を弾き飛ばされて呆然としたアメリーは、後ろから誰かに抱きすくめら
れていた。驚きから覚めた彼女が振り向くとそこには、余程あわてたのだろう、
眼鏡のずれたシメオンの顔があった。
 「シ・・・メ・・オン・・・・様?」
 「よ・・・よかった・・・・間に合って」
 シメオンは安堵のため息をつくとアメリーを離した。
 「どうして、ここに・・・?」
 「父上が死んでからずっと様子がおかしかったから・・・気にしていたんだ。
カリウィス殿と二人で出て行くのが見えたから、もしかしたら何かあるかと思
ってね・・・正解だったよ」
 アメリーは驚いたように目を見開いた。


18 :BeniBana.3『拳骨』:08/01/11 00:30:11 ID:L0P3Dvl6
 「ずっと様子がおかしい・・・ですか・・・・・ほとんど会話も出来ないほ
どお互いに忙しかったですのに」
 「そうだね・・・でもなぜだかわかったんだ。君の様子は絶対に普通じゃな
かった。・・・・君が父上の事をあんな風に思ってくれていたのには全く気が
付かなかったのにね」
 「聞いておられたのですか・・・・」
 「立ち聞きするつもりはなかったんだけれど、そのお嬢さんに止められて、ね」
 視線を向けられて、レティシアは苦笑し一礼した。
 「アメリー殿が敵かどうか把握する必要がありましたので、あそこで出て行
ってもらうわけにはいきませんでした。伯爵閣下にはご無礼を」
 「いや、良いんだ。むしろありがとう。おかげで私は大切な人を失わずにす
んだ」
 シメオンの言葉にアメリーの体が震えた。
 「アメリー・・・・もうあんな事はやめてくれ・・・。我が家には、いや私
には君が必要なんだ。私は君にとっての父親にはなれない。でも、君の孤独を
少しは癒す事が出来るようになりたい」
 「シメオン様・・・・わ、たしは・・・・私は・・・・」
 何かに呪縛されたように体を強ばらせるアメリーに、カリウィスが近づく。
そしておもむろに拳を振り上げると、アメリーの頭に振り下ろした。

コツン と

 「貴方は一人ではない。少なくとも彼が居る。・・・・・・ちゃんと貴方を
見てくれる人はどこかにいる。忘れないでください。誰も見てくれないんじゃ
ない。貴方が見過ごしているんだ。・・・・・覚えていますか? 出会った頃、
ひねくれていたずらばかりしていた私を叱ってくれた貴方の言葉です」
 驚きから理解へ、そしてアメリーの表情はボロボロに崩れ、声を上げて泣き
出した。そんな彼女の肩を、そっとシメオンが支える。


19 :BeniBana.3『拳骨』:08/01/11 00:32:33 ID:L0P3Dvl6
 それを見て、カリウィスはそれ以上何を言うこともなく二人に背を向けた。

 「さあ、帰ろうアメリー・・・・。書類の決裁があるんだろう? 私は君が
居ないとどれにサインすればいいのかわからないよ。これからもわかるように
なるつもりはないからね」
 「・・・・それは困りました・・・」


 「それで、どうしてここに居たんだ? しかも変装までして」
 「それはだな」
 カリウィスに鉄石伯の悪事を公爵家に伝えたのがアメリーだと聞いて、レティ
シアはソレイユに彼女について聞いてみたのだ。宮廷の、しかも婦人達の情報
網は驚くほど綿密であり、その量も膨大である。ただし、あくまで噂話なので
あるが。
 その中に、アメリーがどうやら鉄石伯を慕っているようだという話があった
のだ。ソレイユも実際に見てそのような印象を受けたと言った。しかしカリウィ
スの情報では彼女は鉄石伯を裏切っているのだ。
 話が食い違ってくる。そうこうしている内に彼女とカリウィスが、この式典
に出ることがわかった。ちょうど良い機会でもあったので、レティシアは式典
に潜り込み二人を監視する事にしたのだった。
 「騎士団の密偵もアメリーが鉄石伯を慕っているなどという情報は得られな
かった・・・・。婦人方の噂話も侮れない物だな・・・・。しかし、ちょうど
良い機会というのは?」
 「それは・・・ソレイユが騎士も貴族階級の内なのだから、礼法と踊りは覚
えておかなければいけないと・・・・・ずっとレッスンを受けさせられていた
んだ。それで、その成果を試すために、今回の社交界デビューを・・・だな。
私の後ろ盾はソレイユだからその意向には逆らいにくい」
 カリウィスは頭痛を我慢するように目頭を押さえた。


20 :BeniBana.3『拳骨』:08/01/11 00:33:59 ID:L0P3Dvl6
 「確かに、彼女の言葉は正しい。一般騎士とはいえ、礼法と踊りを覚えてお
けば恥をかくこともないだろう。だがな、身分詐称は重罪だぞ・・・・・次か
らは私に言え。招待状を用意してやるから」
 「馬鹿言え、もうこりごりだ。おまえが来るまでどれだけ男共の誘いを断る
のに難儀したことか。ソレイユとも一回だけという約束だ。それに」
 レティシアは手にした棒きれを振ってみせる。
 「剣を手放さなければならないのが困りものだ。腰のあたりが軽すぎる」
 そんな様子を見てカリウィスはにやりと笑う。
 「それは残念だ・・・・そのドレス姿はとても似合っているというのに」
 「なぁっ!!?」
 レティシアがのけぞる。
 「踊りもたいした物だ。とても初めてだったとは思えん。頬を染めながら踊
っていたなどと騎士団の連中に話しても信じてもらえるかどうか」
 「・・・・・・・ほう、それなら私も騎士団で話すことがある」
 冷や汗を流しながら、レティシアが切り返す。
 「敵も味方もなく、すべての悪意に抗い続ける。それができると信じるこの
傲慢こそが、今の私を動かす全てなのです、か。すばらしい決意だ。正直感動
を禁じ得ない」
 「ぐぬっ!?」
 今度はカリウィスがのけぞる番だった。
 「わかった・・・レティ、取引といこうじゃないか」
 「乗った」
 こうして舞踏会機密防衛協定が締結されたのだった。

 「それで、だ。レティ、今度はまじめな話だ」
 「なんだ?」
 カリウィスの真剣な声色に、レティシアも居住まいを正す。そんな彼女をて
っぺんからつま先まで確認して、カリウィスは口を開いた。

 「その姿は本当によく似合っているぞ」

 数瞬の後、木の棒が折れるような音が庭園に響いた。


21 :BeniBana.3『拳骨』:08/01/11 00:38:55 ID:L0P3Dvl6
もう、完全に前回の続きです。

人が見せる姿というのは、実は相手によっていくつも存在するということで。

楽しんで頂けたなら幸いです。

22 :(・ω・):08/01/11 10:20:19 ID:t3etBg7f
キター!!
今回も楽しいお話だったであります。


23 :(・ω・):08/01/12 14:35:11 ID:KPAwy6Ej
毎回引き込まれる文章で楽しみにしています。
しかしカリウィスは美味しい役どころだなぁw

24 :(・ω・):08/01/12 14:36:04 ID:KPAwy6Ej
上げちまったorz

25 :(・ω・):08/01/12 19:12:51 ID:dRSB95MO
登場人物かっこよすぎだろjk・・・

相変わらず楽しませて頂きました。

26 :(・ω・):08/01/12 19:46:28 ID:dRSB95MO
あと今気づいたが、
王様の名前ってグランテュールじゃなかったっけ?
違ってたらスマソ

27 :BeniBana.3『拳骨』:08/01/12 20:52:54 ID:4zpFBwbf
ありがとうございます。
感想は物書きを動かす燃料ですハイ。

引き込まれますか? 今後もダイ○ンのような物をがんばって書きます(ぉ
よく考えたら、カリウィスは毎回おいしいところを持って行っているような気がします。

はい、グランテュールでした・・・orz 
知っているのに間違えた。脳内修正お願いします。

いい加減エルヴァーンばかりなので、次はもうすこし考えてみます。

28 :(・ω・):08/01/15 10:08:44 ID:w9VP9sLH
>引き込まれますか?
何というか、話の展開と台詞の構成が上手い。
読んでいて引っかかるところがないのが良いです。

29 :GoVD:08/01/18 10:12:01 ID:8hQz0gLv
新年明けましておめでとうございます(遅

Gangs of Vana 'Diel @ 涙たちの物語 on Wiki

#14 "教会にて"

うpしますた



30 :(・ω・):08/01/21 10:01:36 ID:HhaGm0oG
>>29
読んでキター!
相変わらずの緊迫感がたまらんです。
しかし、この・・・良いところで終わってる具合が・・・。
早く続きのうPを!!

31 :GoVD:08/01/21 15:25:06 ID:Km1suQXR
Gangs of Vana 'Diel @ 涙たちの物語 on Wiki

Episode15 "ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい"

うpしますた

>>30
今回はわりとすぐ上げられましたw
時間があればすぐ書けるんですけどねぇ。。。

32 :(・ω・):08/01/23 12:03:27 ID:woOHMxTb
>>31
読んできた!
うん、面白い。
続きを〜!!

33 :(・ω・):08/01/30 22:24:35 ID:PNJqja+Q
>>31さんに勝手に絵を張らせてもらいました。
無許可の上に絵と内容があってない、さらにサイズが微妙
という逸品なので邪魔くさかったら消します。(ノ∀・)タハー

34 :GoVD:08/01/31 16:17:02 ID:oq/rNd6k
>>33
わお、ありがとうございます。
目が怖い・・・エルヴァーンでしょうか。
#14から15のカフィはこんな感じかもしれませんねぇ。

そういえば、以前さる絵師の方にキャラ絵を描いてもらったものがあるので、
ちょろっと張っていこうかと思います。
とりあえず#1。。。っと

35 :BeniBana:08/02/01 00:01:35 ID:aeBADxs3
うぉー
イラストいいなぁ ウヤマシス

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