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涙たちの物語10 『旅の行き先』

1 :(・ω・):06/05/09 07:22:35 ID:38OC3SEF
 ヴァナディールを舞台にした物語を語るスレです。
 あなたの中にあふれる物語を聞かせてください。
 
 前スレ:
  涙たちの物語9 『旅の果てに』
   http://yy10.kakiko.com/test/read.cgi/ff11/1123780223/
   
 倉庫等(現役稼働中):
 (Wiki)http://kooh.hp.infoseek.co.jp/
 
 歴代スレや旧倉庫は>>2あたりを参照。
 次スレは、400k越えたあたりで、宣言→立て→告知を願います。
 ※この板の転送量限界は512kなので、早めに対応しましょう。

387 :冒険者たちの再会 :07/06/13 22:56:43 ID:lkI83lFH
384です。短いですが序幕だけとりあえず載せてみます。

序幕:元冒険者

朝日が昇り、一日が始まろうとしている。
窓から明かりが差し込み、寝ているヒューム女の顔を照らし出す。
日の光から逃げ出すように顔を布団へとうずくめる。
「起きなさい!!」
部屋の扉が勢いよく開き、ヒューム女の眠りを妨げた。
「お願い〜もう少しだけ〜……」
扉を空けた主が、布団へと近づき、一気にかけているものを
取り払った。ぶるっと、体を震わせ閉じていた目を少しずつあけた。
部屋に差し込んでいる朝日が眩しく、目は半開きの状態だ。

「おはよう、エリス」
体を起こし、髪をくしゃくしゃかきながら視線を下へと向ける。
「エリスひどい顔と髪してるよ〜」
くすくすと笑いながら、顔をじっと見ていた。
「ノックくらいして部屋に入ってきたらどう?」
「してもしなくても、どうせ寝てるんだからあんまり変わらないじゃない」
「女の子の部屋に入ってくるんだから、それくらいのエチケットが
あってもいいんじゃない?」
「大丈夫、私も女だし」
しれっとした表情で言った。どうにも勝てない……

「ほーら、さっさと服に着替えて!朝ごはんできてるよ」
小さな手でエリスの手を引っ張る。
「セレナ〜面倒だから私を担いでいってくれない?」
冗談半分で言うと、引っ張っていた手を離し少し距離を置いた。
手を伸ばし、印を描く。にぱっと笑顔をエリスに向ける。
「ちょっと痺れるけど、加減するから大丈夫」
印を描き終わった手を下ろし、目を閉じ集中する。

それを見たエリスの顔が一気に青ざめた。
「ちょっと待ちなさいよ!!」
体を一気に起こし、部屋の隅へと逃げた。
「起きたから!歩いていくから!だから、サンダーIVの詠唱止めてーー!」
悲痛な叫び声が部屋にこだました。


388 :冒険者たちの再会 :07/06/13 22:57:28 ID:lkI83lFH
その声を聞いたセレナは、目を開け詠唱を中断させた。
「なーんだ、担ぐの無理だからサンダーIVで気絶させて
トラクタで運んであげようと思ったのに」
つまらなそうに、ちぇっと小声でいい地面を蹴った。
「あんたね、私を殺す気?」
「だから、加減するっていったじゃない」
「タルタル族の魔力たっぷりなサンダーくらって、生きていられるとは
思えないわね」
「まぁ、そうなった時はそうなった時よ」
相変わらずというか、タルタル族のこの考えだけは
エリスには未だに理解できなかった。

「それじゃ、先にいってるね」
そう言い残しセレナは部屋から出て行った。
はぁーとため息をつき、その場に座り込んだ。
「今日も平和な一日の始まりね」
ふと見上げ部屋に飾ってある、昔使っていた装備品に向かって呟いた。
今は使うことがなくなったけど、大切な思い出の品として
いまでも飾ってある。
「今日でちょうど1年目か……」

時に戦士として時に忍者として、世界中を駆け巡っていた頃が
脳裏をよぎる。たくさんの仲間と出会い、別れて
その度に新しい発見があった。でも冒険者はやめた。未練はない。

「さてと、早くいかないとまたセレナに何かされそうね」
腰を上げ、部屋を出ていった。扉を閉めるとそ突風が部屋に入り
その風で飾ってあった装備品のひとつが床に落ちた。
水色に輝く小さな玉が、コロコロと転がり落ちて
壁際で止まった。

輝きがまし、まるでエリスを待っているかのようであった。


389 :冒険者たちの再会 :07/06/13 22:58:14 ID:lkI83lFH
街中に警報が鳴り響いた。
「蛮族だ!マムージャたちが来るぞ!」
一人の兵士が声をあげて、街中を走っている。
武器を手に取り戦闘の準備をする者。荷物をまとめて逃げる者。
慌しく街が動いていた。
「こちら偵察部隊、間もなくマムージャ軍が人民区に到達。
 繰り返す、間もなくマムージャ軍が人民区に到達」
外で待機している部隊から伝令が入る。

アルザビ出入り口の堅い扉が閉められ
甲冑に身を包み、自身の身長と変わりない大剣を
地面に刺し、正面に堂々と立っているエルヴァーンが叫んだ。
「皇国の未来は、諸君の双肩にかかっている!」
手を空にあげ、力の限り叫んだ。
「勝利の栄光を聖皇さまに捧げん!!」
これからの戦闘に参加する者たちも各々の武器を空へと掲げた。

その参加者のうちの一人。ヒュームの男が小さな玉を握り締めていた。
(駄目だ、全然連絡がとれない)
想うだけで会話が出来るリンクパールで他の仲間と連絡を取っていた。
(もう1年だよ〜、さすがに常時もってないでしょう)
女の声が聞こえた。
(こっちはマムージャが攻めて来ていてそっちにまで手が回らない。
 シルフ、一旦パールを外す。引き続きエリスに連絡を)
(了解。魔笛、しっかり守ってね。……それと生き残って……)
(ああ、まだ死ぬつもりはないさ)
パールを外し、持っている杖を構えた。
その瞬間、扉がぶち壊され大量のマムージャたちが街へと入ってきた。

「エリス、君の力が必要だ」
そう呟いたヒュームの男は敵に向かって走り出した。
長い戦いのはじまりであった。

390 :(・ω・):07/06/14 11:51:17 ID:8cPbHIL9
>>384
いいよいいよー!
文体はすっきりしてるのに、情景が脳裏にうかぶ。
書き方うまいねぇ。
続きに期待してるぜぇ!!


391 :(・ω・):07/06/14 12:23:16 ID:Q/Vf1hqP
ドウナルンダー!
ツヅキヲー!(゚∀゚)

392 :冒険者たちの再会 :07/06/14 23:58:03 ID:tA9523rE
第一幕:再び
部屋を出て廊下を歩いていると、いい匂いが漂ってきた。
茶の間につくと、テーブルには朝食が並べられていた。
「おはよう、エリス」
朝食の支度が終わり、すでに食事を始めていたタルタルの女が
笑顔で言った。その隣にはセレナが座っていた。
「おはようございます、おば様」
笑顔でエリスも返した。自分の席へと座り、朝食を口にした。

「おば様の料理はいつも美味しいわ」
「そうかい?どうしたんだい急に、いつも食べてるじゃないか」
不思議そうに聞いてきた。
「毎日こんな美味しい料理作ってくれて感謝してる」
急に改まったエリスの態度にやや困惑しつつも、朝食の時間は過ぎていった。

「ご馳走様でした」
エリスが立ち上がり部屋に戻ろうとした時、小母がふと聞いてきた。
「また行くのかい?」
心配そうに見つめる小母に向かって
「まさか、もう世界は十分みたわ」
そういい残し、茶の間をあとにした。そのあとをセレナも追いかけた。


393 :冒険者たちの再会 :07/06/14 23:58:51 ID:tA9523rE
「ねぇエリス」
足をツンツン突き、エリスの足を止めた。
「今日は何しようか?」
少し考え込み、言った。
「適当にどっかブラブラしようか、目の院にいるシャルを
からかいに行くのもいいわね」
この国に暮らすようになってから、タルタル族の思考や行動が
すっかり身についてしまっている。何事も適当にという考え方である。

「着替えて準備するから先に外で待ってて」
部屋に戻り、扉を開けると何かが転がる音がした。
音がする方を見てみると、小さな玉が落ちていた。
「リンクパール……」
かつて冒険者だった頃、共に世界を回った仲間たちと作ったものだ。
パールを拾い、握るとかつての思い出が蘇ってくる。
よく見ると、パールは輝いていた誰かいるかもしれない。
そう思うとぎゅっと握りしめ、声を出してみる。

(誰かいる?)
その声にすぐさま反応があった。
(エリス!)
声の主は女だった。
(シルフ、久しぶりね〜元気にしてた?)
懐かしい友との再会に思わず声が高ぶる。
(それどころじゃないよ、こっちは!もう大変なんだからさぁ〜
 時間がないから率直に言うよ。エリス、アトルガン皇国に来て
 あんたの力がどうしても必要なんだ。)

突然のことに困惑する。言葉を失い返す言葉が見つからない。
(え?どうしたの?一体何が?)
(ごめん、今敵に追われてるんだ。落ち着いたらまた連絡するね
 だからリンクパールは持っておいて!)
(ちょっと、説明してよ!シルフ?ねぇ!シルフ!!)
名前を呼んでも、シルフからの返事は返ってこなかった。
パールの輝きは消え、連絡がとれない状態になった。
状況は全く把握出来なかったが、一つだけ言えることがあった。

かつての仲間が助けを求めている。

エリスの気持ちが揺らいだ。行くべきか否か。
答えを出すまでの葛藤が始まった。

394 :冒険者たちの再会 :07/06/14 23:59:26 ID:tA9523rE
「オラオラオラオラァーーー!!!」
鎧のように堅い鱗に包まれているマムージャに
拳で殴りかかった。一瞬ひるんだ隙を見逃さず一気に技を叩き込んだ。
マムージャはその場に崩れ落ち、二度と立ち上がることはなかった。

「アレン!大丈夫か?」
声を張り上げ、傷ついた仲間の名前を呼ぶ。
「すまないユーイチ」
目を閉じ、傷ついた場所に手を当て祈った。
手をかざした場所の傷が癒えすっかり元通りになった。

「くそっ!やつらいつになったら撤退しやがる!」
エルヴァーン族のモンク、ユーイチが大通りにいる敵を見ながら言った。
「戦闘開始7時間といったところか」
アレンが静かに言った。
「やつらも必死だな。特に最近は攻めてくる数が半端じゃない」
「ああ、本腰入れて魔笛を奪いにきてるって感じだな」

状況は皇国軍側が有利であるが、長期戦によりじりじりと
追い込まれていた。
「魔力が底をついた、少し休む」
アレンはしゃがみこみ、祈るようにして静かに目を閉じた。
「やつらのボスが現れたぞ!」
その声を聞いた周囲にいる傭兵たちが一斉に、その敵に集中攻撃を仕掛けた。
「大通りにまたやっかいなのがきやがった、応戦してくるぜ!」
そういうとユーイチは一目散に走り出した。

アレンはふと、リンクパールを取り出し握り締めた。
(シルフいるか?)
……応答はなかった。
パールをしまい、回復に集中した。

「おい!見ろよ!敵が撤退していくぞ!!」
その声を聞いてはっと顔をあげると、敵が帰っていく姿が見えた。
その瞬間、歓喜の声が街中にあふれかえった。

「諸君、よくやった。聖皇さまに我らの勝利の雄叫びを捧げよう!」
戦闘開始時に叫んでいた、エルヴァーンが大剣を空高く掲げ叫んだ。

「今回はなんとかなったな……」
アレンは立ち上がり、傷ついてる者の回復に走り出した。
「次は防衛できるかどうか……」
日が徐々に沈みだし、間もなく夜を迎えようとしていた。

395 :(・ω・):07/06/15 19:41:41 ID:SqnUW6Fd
おー続き来てたのね。
ゆっくりで良いから、続き楽しみにしてます

396 :セロとラグ:07/06/20 04:40:02 ID:4DgbQhq9
昔書いた小説ですがupしてみます。
俺の名前はラグル・マルル。タルタル族だ。
仲間内では合ってないとか言われたがナイトをやっている。
で…俺は今、目の前のヒュームの吟遊詩人…(セロニアスとか言ったか…)
に猛烈に敵意を抱いている。

**********************************

コトの始まりはコイツが俺の彼女 コロロ・マロウを抱きしめて座っていた事だ。
その事を彼女のモグハウスに行き、問いただしたら
イキナリ平手打ちされた。まあ言い方が悪かったんだと思う…。
「アイツの腕の中は温かかったか?」
まあこれはいくらなんでも言いすぎたと後で後悔した。
で…今はコイツの歌を聴きながら、LV上げにいそしんでいる。
正直コイツの歌に助けられるなんてマッピラだ。そう思ってわざと
戦闘終了時のバラード(魔力を回復する歌だ)を聴かなかった。
そしたら…コイツは…
「ゴメン。ナイトさん バラ聴きに来て^^;」
なんて野郎だ。いけしゃあしゃあと言いやがった。
あまりにもムカツイタので耳のピアスをいじり個人連絡用のパールに
切り替えた。
「おい」
「はい?」
歌を歌う時と同じような澄んだ声が耳元のパールから聞こえる。
「お前、俺の彼女に何しやがった?」
かなり怒気を含んだ声で
脅すかのように聞いた。
「彼女?……ああ!コロロさんの事?キミが彼女の彼氏さんだったんですね」
「そうだよ…!ナニしやがった…?!」
ナニブン戦闘中だ。
ヤツは歌っているから、途切れ途切れに会話が進行するまだるっこさに
イライラしながら…。
「コロロさん悲しんでましたよ?」
そうかそうか…悲しんでるコロロにあんな事やこんな事を…!
骸骨のモンスターを切りつけている片手剣の切っ先をその首に
突き立ててやりたい…そんなどす黒い欲望が体中を駆け巡った。
「出会った時の記念日を全然覚えてないって。」

……は?

パーティ会話で言ってしまったらしい。メンバーが全員怪訝な顔で
こっちを見た。

397 :セロとラグ2:07/06/20 04:41:03 ID:4DgbQhq9
「ごめん。誤爆w」
謝罪の言葉を述べ、アイツの次の言葉を聞く。
「抱きしめていたってのは半分正解ですかね…?そうしないとリボンが結べなかったんですよ。」
リボン…リボンって…??俺の頭の中でぐるぐると思考が回る。
俺の混乱している頭にかまわずアイツは話を続けた。
「コロロさんに相談されたんですよ。ラグさんとの記念日だから、彼が家に
入って来たらすぐ気づくようにしたいって。で…ボクは余ってたリボンを
彼女に結んであげたんです。」

なんだ…そうだったのか…そういえばリボン巻いてたっけ…

「ごめwミスwwwww」
また誤爆してしまった。ていうかラグって…慣れなれしい奴だ…。
俺の名前縮めて呼びやがった…
「モグハウスに帰られたら謝ってあげて下さいね。」
クスクス笑いが混じる声で言われた…
言われなくても…そうする…
「それにしても…コロロさんみたいな彼女がいるアナタが羨ましいです。」
こんな台詞がいきなり聞こえた。正直言って自分の彼女誉められて
悪い気はしない。
口の辺りがニヘという形に開くのを我慢しながらセロニアスと
色々な話を続けた。途中かなり誤爆をしてパーティメンバーに
突っ込まれもしたが…

ランベールの墓…ジメジメした雰囲気を吹き飛ばすようなコイツの歌を俺は
だんだん気に入り始めていた。

キャンプを張り夜。(といっても洞窟なので時間で測るしかないが)
パーティの皆と語り合った。ガルカモンク達の武勇伝、白魔道士エルヴァーンの人助け
黒魔道士ヒュームの失敗談
そしてセロニアスの穏やかな歌…皆の話の邪魔をしない程度に。やさしく流れるそれは
いつのまにか皆を眠りにつかせるのに十分だった


398 :セロとラグ3:07/06/20 04:41:54 ID:4DgbQhq9
男同士というのは簡単なモノだ。ついさっきまで憎い相手だと思っていたが
こんなに簡単に仲良くなれる。

「フレ登録お願いしていいですか?」
狩場に来て数日、そろそろ解散しようか…
というころセロニアスからこんなTellが来た。
俺としても友人が増えるのは嬉しい。二つ返事でOKした。

「そろそろラストチェーンにしましょうか?」
「は〜い」
「おk−」
「ういさー」

セロニアスの提案に、皆の返事もしっかり返ってきた
さすがにこの埃っぽい場所から早く帰りたくなってきていたトコロだ。
俺は狩りの見納めになるであろう虚ろな瞳を持った骸骨を叩き割った。

「おつかれさまでした^^」
「おつかれ〜^^」
「楽しかったねー」
「MP回復したらエスケしますねー」

俺も最後の敵の必死の抵抗にあい、かなり消耗していた…

「疲れた〜…セロ、ジュノ帰ったら酒飲みにいかないか?」
ヒーリングしてる時間待ち、楽しくパーティできたコイツと
誤解で勝手に恨みをぶつけていたきまり悪さに、せめてお返しをしようと
思ってこう言った。
「構いませんが、コロロさんと仲直りした後にしてくださいね?
彼女にまでヤキモチ妬かれるのはイヤですからw」
セロニアスの言葉にパーティの皆が笑いあう
「なっ!バカヤロっ!」
反動で飛び上がった瞬間…俺は安全地帯だった段差から
滑り落ちてしまった…
「ラグ!」セロが叫ぶ
ヤバイ…まわりの骸骨共が体力を消耗している俺をみのがすはずがない…
クケケ…と舌の無い口を震わせ俺に何体も襲い掛かってくる…!


399 :セロとラグ4:07/06/20 04:43:07 ID:4DgbQhq9
「ラグ!すぐに昇って!黒さん泉でエスケお願い!」

ソウルボイス…!
周りの空気さえ震えるような力強い歌声…その瞬間骸骨共の動きがピタリと止まった
ララバイだ…子守唄と名のつくこの歌は死者をいとも簡単に眠らせる事ができる

「ラグ!はやく!」
セロの差し出した手を掴み俺は段差をようやく登れた。
一緒に走り、脱出呪文の有効範囲まで行く…
俺がホッと安堵した瞬間……

グシュッ…!

嫌な音が隣から聞こえた…
セロニアスの腹から刃が飛び出している…
アレ…?という顔のセロニアス
次いでゴプッと口から血が零れ落ち、俺の白い鎧に赤く染みをつける

セロニアスの身体は本当にゆっくり…ゆっくり崩れ落ちた…
後ろから姿を現したのは睡眠から回復した骸骨、勝ち誇ったようにカラカラと歯を震わせ
死神の鎌にも似た刃をゆっくり振りかぶる…
黒魔道士のエスケプ発動と二度と聞きたくない音が聞こえたのはほぼ同時だった…

ランベールの墓の入り口…言葉を交わす者は誰一人いなかった…一人を除いて。
「おい!セロ!セロ!返事しやがれ!コラ!」
そう、俺だ。
「レイズ…行こう…」
白魔道士のエルヴァーンがぼそっと呟いた。
「でも…解ってるね…?あまりにも肉体の損傷が激しいと……」
そうなのだ。それは俺も知っている。俺も何度もみている…モンスターの
怒りが収まらず何度も何度も弄られ…蘇生不可能になること…
ソウルボイスとララバイなぞ使われた骸骨共、その怒りは頂点に違いない…
俺は歩く速度を速めた。

400 :セロとラグ5:07/06/20 04:43:42 ID:4DgbQhq9
最初は夢かと思った。赤く濡れたソコに有るのはまるで壊れた人形のようで…
白い肌とどす赤くこびりついた血の塊が変な斑模様を作っていて…
手足は捻れ、あらぬ方向に曲がっていて…
あきらかに怨みのさめやらぬモンスター共に嬲られ、踏みにじられた形跡…

「                    」

俺は言葉にならない叫び声が…自分の内側から聞こえるのを感じた…
「レイズしてみるから、ナイトさんちょっとどいて。」
白魔道士の声が遠くで聞こえた。俺はすがるように、白魔道士を見つめ、
セロの躯から離れた。
高位の蘇生魔法…大神官クラスしか許されない魔法…レイズ3の詠唱を頭の横で
流しながら、俺はアルタナの女神と星の御子に願った…

詠唱の完了と共にセロは蘇生した。

「−−−−−−−−−−−−−−−!  ぁーーーー!」

ダメだ…前が見えない。声にならない声をあげ、 泣きながらセロニアスの身体に
抱きついた。
「ラグ…重い…w」
セロニアスの声が聞こえる…俺は泣き顔を見られたくないので
そのまま奴の体に抱きついたまましゃくりあげた。
「おかえりー^^」
「だいじょうぶだった?」
「安心したよー」
パーティメンバーから安堵の気配と共に皆から おかえり と言葉をかけられる。

セロはゆっくりと微笑んで…答えた

「ただいま…」

401 :セロとラグ6:07/06/20 04:45:05 ID:4DgbQhq9
泣きじゃくる俺の頭と背中を撫でられながら、それがあまりにも心地よくて…
コロロもこんな感じだったのかな…何処か頭の遠くの方で感じた。

涙とそれに伴う呼吸困難が収まりだした頃
「じゃ 今度こそエスケいくよー」
黒魔道士のヤレヤレといった声が聞こえる。
ふと皆を見まわしてみると、やっぱりこれまたヤレヤレといった顔をしている
そしてセロは、というと…いまだに俺の頭と背中を撫でている
「セロ…もういい…」
俺は恥ずかしさから少しぶっきらぼうに言った。
「ん?ああ、ごめんwじゃあ帰ろう…」
さっきと同じ微笑を浮かべたままセロは答えた。

黒魔道士のエスケプが発動したが、セロはずっと俺を抱きしめたままだった…

***********************************
とりあえず第一話はここまでです。

402 :(・ω・):07/06/20 08:02:58 ID:e7eH9ChP
ほー。
ちと毛色の違ったストーリーだけど、いい感じだね〜。
続きを期待。

403 :カカシ・マスター:07/06/27 19:19:02 ID:MXiaTrIp
〜ウィンダス・森の区〜

「はぁ……。」
「ソンナニ☆オチコマなク テモ」
ネテロモトロは憂鬱な日々を送っていた。
(…ああ…朝に……報酬は…払え…ません…)
脳裏に、あの歯切れの悪い鼻の院の研究者の、
失望感あふれる言葉がよぎる。
その度に、ため息が漏れてしまう。
「おい、元ボウケンシャ。マヌケにも寄り道して
任務に失敗して自分の馬鹿さ加減に絶望したからっつって、
サボってんじゃねーぞ?」
横から同僚のボイゾナイゾが追い討ちをかける。
「ぐぬ……。」
ボイゾナイゾは口が悪い。
口は悪いが腕は確かな手の院の職人だ。
ネテロモトロとは違い、生粋の職人であった。
その職人に教わりながら、ネテロモトロは
破損したカーディアンの修復作業に当たっていた。
「ホレ、そこ違う。それじゃ左右逆に動いちまうぞ。
ったく、ぶきっちょな奴だなー。」
「ぐぬ……。」
戦闘の腕には自信のあるネテロモトロであったが、
カーディアン技術については飲み込みが悪く、
ボイゾナイゾにはとてもかなわない。

ガチャ。

工房のドアが開くと、一人のタルタルが入ってきた。
「…あの…」
鼻の院の研究者であった。
「あー?」
「…あの…」
「あぁー?(イライライラ)」
「…あの…」
「ケナパケッパてめー、いいかげんにしろよ?何の用だよ!!」
ハッキリしない鼻の院の研究者に、ボイゾナイゾがキレた。
「…あの…助けて…」
「「!!?」」
「…アットワで…みんな…取り残されて…」


404 :カカシ・マスター:07/06/27 19:20:09 ID:MXiaTrIp
鼻の院は動植物の研究を手がける、
五院の中でも特に変わり者の多い組織であった。
どうやら、珍種の植物を採取しにアットワ地溝へ向かった一団が、
危険な奥地で身動きが取れなくなっているらしい。
「ふむ。カーディアンならあそこのガスも抜けられるな…。」
ボイゾナイゾが右手を顎に持って行き、考える。
「よし。俺が指揮すっから、早速向かうぜ。
院長いねーから独断で動くけど、まー問題ねーだろ。」
そう告げると、ボイゾナイゾはカーディアン数体を呼び集め、
編成し始めた。

「おい元ボウケンシャ、おめーも付いて来いや。
俺、戦闘はダメだから、護衛しやがれ。
おめーはどう見ても実戦向きだしな。」
ボイゾナイゾはニヤリとしてみせた。
戦闘はダメとか言いながら、どこか嬉しそうだ…。
神経を尖らせてのカーディアン修復作業に
ほとほと疲れていたネテロモトロにとっても、
これは願ってもない任務であった。
「了解っす!テンも連れてっていいかい?」
「おう。おめーらはペアだからな。」

かくして、即席の救出チームが完成した。
ジャック・オブ・ダイアモンズ、
テン・オブ・ダイアモンズ、
トゥー・オブ・ダイアモンズ、
テン・オブ・クラブス、
そして手の院職員二名。
「…あの…」
「あー?」
「…お願いします…」
ケナパケッパがペコリと頭を下げる。
「わーかってるよ。任せとけって。
あーそうだ。おめーらのリンクパールくれ。
迷子どもの場所をつかんでおきたいしな。」
一行は不安そうに見つめるケナパケッパを残し、
渇きの大地、アットワ地溝へと急いだ。

  ─・─・─・─・─・─☆─・─・─・─・─・─



405 :カカシ・マスター:07/06/27 19:20:53 ID:MXiaTrIp
〜アットワ地溝〜

降水量が極端に少なく、いたる所で地割れの
痕が見られる乾燥地帯…。
さらにその地割れからは猛毒の黒いガスが噴出し、
侵入者の行く手を阻む。
一呼吸で肺を焼くこのガスのせいで、
この一帯は天然の巨大迷路となっていた。
しかしそんな過酷な環境にもかかわらず、
この地に適応し、生活している者達がいる。
有毒ガスを吸って育つ植物ガスポニアや、
割れた地面に潜んで獲物を狩るアントリオン等が、
その最たる例と言えよう。
「なるほど…。鼻の院の連中が泣いて喜びそうな場所だよ。」
「まったくな。ホント命知らずの奴らだぜ。
お守りするハメになる周りの人間の身にもなれってんだ。」
そんな愚痴を漏らしつつも、ケナパケッパから預かった
リンクーパールを使って、鼻の院の一団の居場所を絞り込む。
と、その時。

ゴッフォオオン!!

目の前で、大量の砂煙が凄まじい轟音を立てて舞い上がった。
それは、アントリオンの狩りの瞬間であった。
黒く巨大なアゴは獲物であるトカゲの胴体を
ガッチリと捕らえており、あわれなトカゲは
体を左右に振りもがき抵抗しながらも、
そのまま地中へと引きずり込まれてしまった。
その様子を目の当たりにし、二人のタルタルは
ゴクリと唾を飲み込まずには居られなかった。
「ウハァ。初めて見た…。」
「奴等はここいらの生態系じゃあトップだからな。
注意して進もうぜ。虫の餌にだけはなりたくねー。
全員、スニークかけるんだ。」
「「リョウカイ☆デス」」
カーディアン達が一斉にスニークを唱え出す。
目の見えないアントリオンは獲物の足音を感知して
奇襲をかけるため、音さえ遮断してしまえば、
安全に回避する事が出来る。


406 :カカシ・マスター:07/06/27 19:21:36 ID:MXiaTrIp
「ところで、ジャック達はともかく、
なぜトゥー・オブ・ダイアモンズを連れてきたんだい?
ここのモンスターが相手じゃ、戦力にならないんじゃ…。」
「トゥーか?こいつは特殊でな。まー、保険みたいなもんさ。」
「ふーん。」
「それより、そろそろ連中がマヌケにも道に迷って、
小便ちびりながらガタガタ震えてる場所に近いぞ。」
「あはは…。」
リンクパールからの情報と地図を頼りに、
岩とガスの迷宮を少しずつ進んでいた一行は、
ついには研究者達と目と鼻の先といった距離の所までたどり着いた。
その頃には日もすっかり暮れ、
荒れ果てた大地とは対照的に、美しい星々が夜空を彩り始めていた。

その美しい星空を、首を直角に曲げて見上げる者達がいた。
「ほら、見てごらん。キレイな夜空だよ。」
「ホントですね〜。食べちゃいたいですね〜。」
「うむ。きっと甘くて美味しいに違いない。」

グウゥゥゥゥ…。

「…お腹が減りすぎて倒れそうです…。」
「そうだな…。救助の人達早く来ないかな。
帰ったらアップルパイをたらふく食べたいものだ。」
そんな彼らの視線の先にあった星空を遮るように、
彼らの6、7倍はあろうかと思われる、
背の高い人物の顔がヌッと現れた。
「あ!救助の人だ!」
「おお!ついに来たか!…ん?でもちょっと顔色が悪くないか?」
「と言うか、顔がありませんね?」
ゴシゴシ。
「う〜ん。これは…もしかして…」

「…カタカタカタカタ…」

「「コースだーーーー!」」
研究者達はそろってパニックし、
その場でくるくる回り出した。
そこへ、コースは容赦なく攻撃を繰り出した。


407 :カカシ・マスター:07/06/27 19:22:05 ID:MXiaTrIp
ボコッ!!

鈍い音がしたが、研究者達はまだ無事なようだ。
コースの打撃は、ジャック・オブ・ダイアモンズの両手棍が受け止めていた。
「間に合ったか。おめーら!防衛モードだ!
俺達が回り込むまでそのマヌケどもを死守!いいな!」
「了解★です」
「テン、お前も行くんだ!」
「ワカリ★まシタ アバレテ★きマス」
テン・オブ・クラブスは頭上で棍をクルっと回すと、
有毒ガスを抜けて、戦いの場へと車輪を転がした。
「ワレワレが★盾となル クラブスのキミは★攻撃ヲ」
「リョウ★カイ」
コース対カカシ。
鼻の院研究者達を守る戦いが、始まった。

「俺達も急ごう。」
「ああ、そうだな。ホントに小便チビっちゃかわいそうだもんな。」
生身の人間にとって、アットワ地溝の地形は相当やっかいであった。
抜け道を見つけた、と思ったら地下から猛毒ガスが噴出する…。
コースはアントリオンと並び、この辺りでは特に危険なモンスター。
純粋な戦闘ならともかく、
無力な研究者達を守りながらの戦いでは、分が悪い。
ネテロモトロ達は、急いで加勢する必要があった。
「くっそ!ここもダメか。」
二人には、徐々に焦りが出はじめていた。
研究者達は、カーディアン達は無事だろうか…。
しらみつぶしに抜け道を探したものの、
合流するためには大分遠回りをするハメになってしまった。

「テン!みんな!大丈夫か!?」
短剣を両手に構え、ネテロモトロが駆け込む。
しかしコースはすでに地面に沈んでおり、
辺りには溶け始めの氷塊や砕け散った岩石が散乱していた。
カーディアン達はというと、円陣を組んで
研究者達を守っていたようだ。
円陣の中心には、トゥー・オブ・ダイアモンズが居た。
皆一様に、無言であった。
「!?」
その様子を見て、ボイゾナイゾが駆け寄る。
「トゥー、おまえ…。」
トゥー・オブ・ダイアモンズの動きが止まっていた。
生命活動そのものが、である。
「し、死んでる…!?一体何が…。」


408 :カカシ・マスター:07/06/27 19:23:30 ID:MXiaTrIp
ネテロモトロは驚きを隠せない。
破損したカカシなら今までにもたくさん見てきた。
しかし、目の前のトゥー・オブ・ダイアモンズは、
ざっと見る限り大きな破損は無い。
にもかかわらず、動力源である星月の力が全く感じられないのだ。
それはすなわち、カーディアンにとって「死」を意味していた。
「禁呪を…使ったんだな…」
ボイゾナイゾがボソリとつぶやいた。

ガタガタと震えながら、鼻の院研究者達が口を開いた。
「コースが、恐ろしい範囲魔法を使ったんです…。
そしたらこの魔動兵がいきなり光り出して…。」
「…うむ。虹色の光だった。それが私達を守ってくれたんだ。
コースの魔法を何度も何度も跳ね返してくれた。」


・・
・・・

ウィンダスへの帰路についた一行を、重たい空気が包んでいた。
トゥー・オブ・ダイアモンズの遺体は、
生き残った他のカーディアン達が運んでいた。
そんな中沈黙を破ったのは、救出された鼻の院研究者であった。
「…あの…すみませんでした。
私達のために魔動兵が犠牲になってしまって…。」
その言葉に、先頭を歩いていたボイゾナイゾが立ち止まり、
キッと振り向いた。
「フン。こいつらは仮モノの命を吹き込んだ人形なんだ。
おめーらが謝る必要はねーよ。」
そう告げると、ボイゾナイゾは前へ向き直り、
再び歩き出した。
「…だがな、おめーらの命は代えが効かねーんだ。
大事にしやがれ。」
一筋の涙がボイゾナイゾの頬を濡らしたようだが、
それに気付いたのはネテロモトロだけであった。
ネテロモトロは、アプルル院長の言葉を思い出していた。

 カーディアンは、星の力を借りて生まれた命、
 私達と同じ、天から降りてきた命を持つ存在。
 だから忘れてはいけない。
 カーディアンの命は、私達が作った命じゃない。
 私達はただ、この地に呼んだだけ。

手の院に入り、最初に教わった事だった。


409 :カカシ・マスター:07/06/27 19:24:03 ID:MXiaTrIp
ボイゾナイゾはカーディアンの事を「人形」と呼んだが、
ただの人形ではない事は、手の院の職員誰もが理解している。
彼らはカーディアン一体一体を、心を込めて作り、育てる。
そうして完成するカーディアンには、それぞれ人格もあるのだ。
しかしその一方で、戦場においてカーディアンは常に
人間の盾となるべく戦い、傷つき、壊れて行く存在である事もまた、
呑み込まなくてはならない現実であった。

 死んで泣くくらいなら作らなきゃいんだ
 
ボイゾナイゾの口癖だ。
愛を持って命を吹き込んだカーディアンを、
分かっていながら死地へと送り出す…。
手の院の職員達は、毎日この矛盾と背中合わせの状態で、
カーディアンの作成や、整備に当たっているのだ。

ネテロモトロは相棒のテン・オブ・クラブスを見て、考え込んだ。
俺に危機が迫った時、こいつは
さっきのトゥー・オブ・ダイアモンズのように
命を賭して守ろうとするだろう。
いつも行動を共にしているから、それは分かる。
もしそうなった時、平気で居られるだろうか。
止める事ができるだろうか。
できたとして、止めるべきなのだろうか。

ネテロモトロが答えの出ない問いを自分自身に投げかけているうちに、
一行はシャクラミの迷宮を進み、タロンギ大渓谷へ抜けようとしていた。
迷宮へ注ぎ込む朝日が見えて来た頃、背後から涼しい風が吹きぬけた。
優しく、爽やかな風であった。
その風の中に、彼らは確かに星の声を聞いた。

ミンナ

ブジデ

ヨカッタ




一つの命が、今、星に帰った。

410 :カカシ・マスター:07/06/27 19:41:17 ID:MXiaTrIp
久しぶりの投稿です。
日に日に蒸し暑く、
過ごしにくくなって来ましたね。

今回は、カーディアンが全動力を放出したら、
きっとすごい事が起こるに違いない!
そんな妄想をふんだんに含む内容です。
本来の設定とはかけ離れているかも知れません。
【許してください。】

ではまたいずれ!

411 :(・ω・):07/06/28 00:29:39 ID:sFMZiB3z
待ってました!
今回も面白かったです!
いつでも続きお願いします〜。

412 :(・ω・):07/06/28 07:59:43 ID:DB8GRanE
イイヨイイヨー!
魔力放出って考えが出るのが凄い。
設定と違ったとしても、そう言う妄想から、物語ってのは出来て来る
もんだと思う。

413 :暁のひとみ4:07/07/01 02:39:12 ID:IAl1He0B
 曇天から、大粒の水滴が降ってくる。
 そのうちの一つが目に入って、チョコボのたづなを取っていたローファルは
空いたほうの手を上げ目元をぬぐった。
 ロンフォールの森を抜けて王都へと続く街道は、降りだした雨に生い茂る木々も
あいまって、昼なお暗く視界が悪い。はりつく前髪をかきあげて、ローファルは
黒土の踏み固められた道の奥を見透かした。朽ち葉の匂いと雨粒を含んだ風を
ほおに受け、小柄なチョコボを牽いて進む。
「……おい、リピピ」
 その鞍上に乗せた娘がずいぶんと前から黙りこんでいることに気がついて、
ローファルは小さく声をかけた。チョコボの鼻面をかるくたたいて、その歩みを
止めさせる。
「もうすぐ街につくぞ。…大丈夫か?」
 雨よけのフードを深く降ろしたリピピが、チョコボの首もとに埋めていた顔を
わずかに上げた。
「あ……はい。すみません、ちょっと、うとうとしてたみたいで」
「……あのなあ、そんなシヴァみたいな青い顔して言っても全然信憑性ないってんだよ」
 やり取りが聞こえたのか、少し先行していたミシェルがチョコボの首を返し、
隣にやってきた。その鞍上には彼女に背を抱かれるような格好でタチナナが同乗している。
「あの、ローファルさん」
「ああ?」
「このペースだと、街に着くころには日が暮れていると思うのですが。それから宿の
手配をするのも大変でしょうし…よろしければ、我が家においでいただけませんか」
 遠慮がちに問われて、ローファルはちらりとリピピを見やった。いまだ本調子では
ない彼女を連れて面倒なレンタルハウスの手続きをすることを思えば、ありがたい
申し出だろう。
「そうだな、ちょっと待ってもらえるか……タキ!」
 ほどなくして遅れて後ろを歩いていたタキとその友人が追いついてきた。
「なんです、ローファル?」
「今晩なんだが、彼女が実家に俺たちを泊めてくれるって話でな。どうする?
特に当てがないなら、俺は厚意に甘えたいと思うんだが」
「そうですね…ありがたいお話ですが、ちょうどいまフェッロとも宿の相談をして
いたところなんですよ」

414 :暁のひとみ4:07/07/01 02:41:46 ID:IAl1He0B
 タキの視線を受けて、黒髪の吟遊詩人が後を継いだ。
「赤魔道士のお嬢さんのほうは、そのまま教会へ連れていっちゃどうかと思ってね。
 たとえ今晩すぐ看てもらうのが無理だとしたって、寝床くらいは貸してくれるだろ。
 ただ、まあ、あんまり大所帯だとさすがに嫌がられそうだからなあ」
「あなたたちだけでもミシェルさんのご厄介になれるなら、そのほうがいいかも
しれませんね」
「しかしお嬢さんの家に、突然他国者の冒険者なんかを連れてっても大丈夫なのか?
 見たところ、けっこういいとこの娘さんに見えるんだけどな」
「どうぞ、お気遣いなさらないでください。これだけお世話になったのにお招きも
しなかったとあっては、私が叱られてしまいます。それでなくとも姉は…ああ、
我が家の主は姉なのですが、冒険者の方たちにはよく私事の依頼をしていますし、
他国の情勢にも興味があるようなので、歓迎してくれると思います」
「こう言っちゃなんだが、この国でそいつはめずらしいな」
 フェッロのあけすけな言いように、ミシェルは気を悪くした様子もなく笑った。
「変わり者の多い家系なのかもしれませんね。親戚のなかには、バストゥークの
彫金ギルドで学ぶために一族を離れている子もいますし、従姉妹には冒険者に
なった人だっていたくらいですから」
「その人は今でも?」
 鞍上の彼女を見あげて、ローファルは尋ねた。わずかにミシェルの表情がくもる。
「いえ、二年ほど前に…仲間を守っての、立派な最期だったと聞いています」
「仲間を守って、か」

415 :暁のひとみ4:07/07/01 02:42:09 ID:IAl1He0B
 思わず、眉が寄った。
 冒険者が命を落とすのは、単独行動をしている時の事故によることが圧倒的に多い。
 パーティを組んでいながらほんとうに取りかえしのつかない事態にまで至って
しまうことは稀だった。理由は簡単で、よほどの重傷を負っても、回復魔法、場合に
よっては蘇生魔法の使い手がいれば大抵は何とかなるからだ。彼女の従姉妹はよほど
運が悪かったのだろう。
「……なあ」
 途中から黙っていたフェッロが、ふと声を上げた。
「今さらなんだがお嬢さん、あんたの氏を聞いてもかまわないか? 上の名前しか
聞いてなかったよな」
 ミシェルはわずかに顔を赤らめた。
「あ…そうでしたね。お招きしようというのに、家の名も申し上げずに失礼しました。
 修道院に入ってからは名乗ることもなかったものですから」
 そう言って彼女の名乗った家名は、もともとその方面への興味がうすかった
ローファルには聞き覚えのないものだった。
「それで、どうされますか? 私の方は、何人いらしても大丈夫ですが」
「そうですね、リピピもタチナナも、仲間のだれかはついていたほうが安心ですから…
ローファル、リピピといっしょにミシェルさんのところへ行ってくれませんか?
 俺はフェッロといっしょに教会へ……フェッロ、聞いてますか?」
「ん、あ、悪い。…ちょっとぼうっとしてた。何だって?」
「あなたとタチナナと俺で、教会へ行こうかと思って。かまいませんか」
「ああ、それでいいんじゃないかね。……それにしても、うっとうしい雨だな」
 つぶやくと、男はローファルの脇をすりぬけ足早に歩きはじめた。

416 :暁のひとみ4:07/07/01 02:54:46 ID:IAl1He0B
お久しぶりにお邪魔いたします。
昨今はアトルガンディスクで様々なコンテンツが追加され、背を追い立てられる
ように戦ってばかりの日々だったのですが。「アルタナの神兵」特設サイトを見て
ヴァナディールそのものへの思い入れがぐぐっと盛り上がってしまいました。
なかなか前に進んでいかない遅筆ぶりですが、自分が納得できるかたちに仕上げるべく
これからもじわじわ進んでいく所存です。
それでは、今度はもう少し間を開けずにお邪魔できればと思っております。

417 :(・ω・):07/07/01 03:00:21 ID:IAl1He0B
カカシ・マスターの新作、素敵でした…!
ボイゾナイゾがいかにも彼らしくて!
アプルル院長のことば、確かに一度聞いたことがあるものなのに、物語と
相まってやたら涙腺にじわっと来ました。そうか、そういうことなんですよね。
主役コンビが生き生きとしていて、大好きです。続きを楽しみにお待ちしています。

418 :(・ω・):07/07/03 10:02:03 ID:vRnYtmPf
おおっと、暁がキター!

419 :尊敬 〜槍試合〜:07/07/16 12:03:00 ID:plENCqY3
 天晶歴838年 初春 王都サンドリア

 チョコボの鳴き声と騎士の雄叫びが響く。掲げられたランスは穏やかに照り
つける日差しを反射して輝きはしない。木製だからだ。
 木製のランスを掲げ相対する二人の騎士。それぞれに蒼と白の意匠を凝らし
た甲冑に身を包み、ただ時を待つ。その意識はランスの切っ先にのみ注がれて
いる。
 息をのむ観客達の意志を、審判者が告げる。引き絞られた二本の矢の楔を立
つ言葉を。

 「さあ、闘えっ!!」

 撃ち出されるように、二人の騎士が突進する。
 一息で詰まる距離。
 ランスが刹那の交錯の果てに砕け散る。
 沸き起こる歓声。
 砕けたランスを持ち、白の騎士は決闘場を駆け抜け、観客の賞賛をその身に
浴びる。蒼の騎士は物言わずただ地に倒れ伏すのみ。主人を失ったチョコボの
悲痛な鳴き声のみが、その耳に届くだろう。

420 :尊敬 〜槍試合〜:07/07/16 12:05:10 ID:plENCqY3
 ジュースティング(騎兵槍試合)
 甲冑を着込んだ騎兵が互いに向かい合い、すれ違いざまの一瞬の攻防で勝敗
を決める戦いである。1試合につき、撃ち合いは3回。木製で切っ先に特殊な
保護をしている模擬槍を使用するため、死者は希である。
 相手の腰から首の間を突き、模擬槍が砕ければ1ポイント。
 兜に当てて槍が砕ければ2ポイント。的が小さく滑りやすい為に砕けにくい
からだ。
 相手をチョコボから突き落とせば3ポイントである。

 選手が控える厩舎には、荒っぽい男達の笑い声が響いている。騎士とはいえ
荒事に身を置く男達だ。強面の男達が下卑た話題で盛り上がっているのは当然
のことだった。
 だが、厩舎にもどった白騎士を迎えたのは、その場に全く似つかわしくない
少女の声だった。
 「なかなか良い戦いぶりだったぞ、カリウィス」
 「レティシアか」
 赤い騎士服に身を包んだレティシアは、その服よりもさらに赤く輝く髪が目
を引く。少しツリ気味の力強い瞳と、周りと比べればあまりにも華奢なその姿
は、知らない者が見れば、狼の中に牝鹿が迷い込んでいると思うだろう。
 だが、ここにいる者は皆、すべて実態を知っている。今、手ぬぐいを差し出
しているこの小さな手が剣を握れば、どれほどの働きをするのかを。
 カリウィスは兜をはずし、受け取った手ぬぐいで汗を拭いた。こちらも身に
纏った鎧よりもなお白い白銀の髪が目を引く。肌が褐色であるエルヴァーン故
に、その白銀は鮮烈に映るだろう。


421 :尊敬 〜槍試合〜:07/07/16 12:07:21 ID:plENCqY3
 「1回目は相手の兜に当てて2ポイント。2回目はチョコボから叩き落とし
て3ポイント。3回目を待たずに決めてしまうとはな」
 「いや・・・・私の前の試合を戦った彼ほどの余裕はないからな。決められ
る時に決めただけだ」
 「黒騎兵・ダレン男爵か。一、二回目ともに相打ち・・・・三回目で相手を
叩き落として勝ち上がったな。観客は大喜びだった」
 「見事な演出だと言える。狙った相打ちだとは、観客は誰も思っていないの
だろうな」
 カリウィスの言葉にレティシアは笑って肩をすくめた。次いでその視線が動
き、意外そうな表情を作る。
 「噂をすれば・・・・・か。どうやらお前に話があるようだな」
 カリウィスが振り返ると、漆黒の鎧を纏った男がこちらに向かって近づいて
きていた。
 「お初にお目に掛かる、騎士カリウィス殿。某(それがし)はダレンと申す」
 ダレンは30歳ほどに見える男だった。黒髪に手入れをされた口ひげを生や
しており、その声も低く剛胆な迫力に満ちていた。カリウィスは差し出された
手を握り返し、微笑んだ。
 「こちらこそ、よろしくお願いします、騎士ダレン殿。一回戦の勝利、おめ
でとうございます」
 「ハハハッ、それはそちらもだ。お若いながら、相手を圧倒的にねじ伏せて
の勝利、お見事だった」
 「いえいえ、まだまだ未熟を痛感している所です。余裕がないのでついつい
勝負を急いでしまう。その点、貴公は存分に、余裕を持って楽しんでおいでだ」
 カリウィスの言葉に、ダレンはにやりと笑った。


422 :尊敬 〜槍試合〜:07/07/16 12:09:09 ID:plENCqY3
 「ほぅ・・・・いや、やはり未熟とは謙遜がすぎますな。貴公も十分に楽し
んでおられるようだ」
 ダレンの視線がレティシアに向いた。
 「美しい花に勝利を捧げるおつもりなのだろう? うらやましい事だ。しか
しお嬢さん、こんな所まで入ってきてはいけないな。ここは神聖な騎士の厩舎
だ。女性が足を踏み入れるような場所ではない」

 瞬間、厩舎内の空気が凍り付いた。

 「ダ・・・・ダレン殿。彼女は私の同僚で、歴とした騎士だ。この場にいる
ことに何ら不足はない」
 「なんとっ? これは失礼した。ハッハッハ、お恥ずかしい。このダレン、
田舎騎士故に女だてらに騎士を名乗る者が居るとは知りませなんだ」
 周りの空気など全く気にならないようで、黒騎兵はレティシアに頭を下げる
と豪快に笑った。カリウィスは周りの視線が自分たちに向いているのをひしひ
しと感じていた。レティシアには怖々と、様子をうかがうような視線。ダレン
には、呆れと哀れみの混じった生温かい視線。自分には、
 (おいっ! 何とかしろっ!!)
 と言う、無茶な視線だ。
 (何とかったってなぁ・・・・)
 内心ぼやきながら、カリウィスが最悪の事態に備えて身構えたその時、沈黙
していたレティシアが動いた。
 「ダレン殿、私は騎士の叙任を受けたときに女であることを捨てました。女
だてらになどと言われるのは心外です」


423 :尊敬 〜槍試合〜:07/07/16 12:11:08 ID:plENCqY3
 「おっと、まださらに口を滑らせていたか。これ以上はやぶ蛇ですな。退散
させて頂くとしよう。では、カリウィス殿。勝ち上がっていたら決闘場でまみ
えましょうぞ」
 あっけにとられていたカリウィスは、その言葉に頷くことしか出来なかった。
ダレンが去った後、その場には不気味な沈黙のみが残っていた。
 「・・・・なんだ、バカのような顔をして」
 カリウィスに向き直ったレティシアが呆れたように肩をすくめる。
 「いや・・・・なんだって・・・・・おまえ、私の時は問答無用でぶん殴っ
た上に剣まで突きつけたじゃないか!?」
 「あの時は騎士見習い同士のケンカですんだろうに。今、同じ騎士とは言え、
平民出身の私があの男爵を殴ったら面倒なことになるのくらいわかる」
 「「おお〜〜」」
 レティシアの言葉に感動したように周りから拍手が起こった。
 「お前達を殴るのに遠慮はしないぞっ!!」
 レティシアが拳を振り上げると周りにいた騎士達は蜘蛛の子を散らすように
逃げていった。
 「まったくっ、バカ共め・・・・こら、何を笑っている。私はあの女を嘗め
きった髭に何もしないとは言っていないぞ?」
 「どうしようと言うんだ?」
 「お前には、あの髭に試合で勝ってもらう」
 「・・・・・正直無理だ。騎兵の腕は彼の方が数段上だろう」
 レティシアはニヤリと笑った。
 「正しい判断だ。私もあの髭とまともに戦って勝てるとは思わない。だから
二人がかりで倒そう」


424 :尊敬 〜槍試合〜:07/07/16 12:13:04 ID:plENCqY3
 槍試合は続いていき、やがて再び黒騎兵の順となった。相対するのはタブナ
ジア候国貴族の騎士と紹介された。小柄ながらチョコボに跨るその姿は凛とし
ており、確かな実力を感じさせる。
 試合開始の合図を待つ二人の騎士を、カリウィスは貴賓席から一人の淑女と
共に眺めていた。
 「良かったのですか? ソレイユ殿。ご自分が連れてきた騎士と偽ってレティ
シアを試合に出すなど・・・・・発覚すれば名誉に関わりますよ」
 カリウィスはそう言いながらソレイユに目を向けた。タブナジア社交界で燦
然と輝く見事な金髪を結い上げ、行楽用のある程度動きやすいドレスに身を包
んだ彼女は、クスクスと笑う。
 「レティを私の家が後見しているのは本当ですもの。大丈夫、バレる様なこ
とはしないはずですわ」
 「だったら良いのですがね」
 「カリウィス様。ご心配なさらなくともレティと私の悪巧みは今まで失敗し
たことがありませんのよ」
 「・・・・・それはそれで、別の頭痛がしてきますよ」
 「あらあら」
 レティシアとこの淑女が、幼なじみで親友である理由を垣間見た気がするカ
リウィスだった。


425 :尊敬 〜槍試合〜:07/07/16 12:14:38 ID:plENCqY3
 やがてレティシアとダレンの試合が始まった。レティシアが自分で認めたよ
うにダレンの方が腕前は上である。
 一回目、ダレンの槍はレティシアの肩に当たり砕け散り1ポイント。レティ
シアの槍はダレンの脇腹をかすめるに終わった。
 二回目、ダレンはレティシアの兜を狙ったがこれは芯に当たらず槍が砕けな
かった。だがレティシアの槍も再びダレンの脇腹をかすめるに終わる。
 三回目、ダレンの槍がレティシアの胸に命中。あわやチョコボから落ちるか
と思われたがすんでの所でレティシアは堪えた。
 結果、2−0でダレンの勝利となった。だが、小柄な体で黒騎兵の突撃をま
ともに受けてチョコボから落ちなかったレティシアに、観客は惜しみない拍手
を送っていた。

 「やはり、強いな。技術も気迫も一級だ」
 ダレンとカリウィスの試合が近づいている。厩舎で準備をしているカリウィ
スの元に甲冑を脱いだレティシアがやって来た。
 「怪我はないだろうな?」
 「そんなヘマをするものか。まぁ、あのまま落ちていたらこぶくらいはでき
たかもしれん」
 そう胸を張るレティシアにカリウィスは苦笑するしかなかった。
 「で、細工は?」
 「流々。脇腹にあったランスレストは千切れた。三回目に体のど真ん中を狙
ってきたのは確実性を取ったからだ」


426 :尊敬 〜槍試合〜:07/07/16 12:16:57 ID:plENCqY3
 ランスレストとは長大かつ重いランスを扱いやすくするために鎧に付けられ
るフックだ。騎兵はランスを小脇に抱える際にそのフックに引っかけて安定さ
せる。それが無くなればランスは安定性を失い狙いがぶれるのである。
 「だが、それでも油断するな。ランスレストを失った三回目の突撃・・・踏
み込みの速さが尋常じゃなかった。細かい狙いは付けてこない代わりに力で倒
しに来るぞ」
 「技術じゃなく、力勝負なら私は負けない」
 兜をかぶり、カリウィスはチョコボに跨る。白銀のプレートメイルが日に輝
いた。騎乗するチョコボにも同じ白銀のフェイスプレートを被せており、その
姿はまさしく白騎兵である。
 「突き倒してこいっ! カリウィスっ!」
 レティシアの檄に白騎兵はランスを掲げて答えて見せた。



 「ははっ・・・・まったく、恐ろしい奴だ」
 カリウィスは頭を振って、いまだ反響する衝撃を打ち消そうとした。兜への
突きを受けたのだ。
 一回目は互いの胴体への一撃で相打ちとなった。だが、カリウィスの突撃の
鋭さはダレンを賭けに踏み切らせてしまった。
 二回目、ダレンはランスレストを失った代わりにランスを両手で持ったのだ。
だが、それは諸刃の剣である。突きの精度は上がるがチョコボから落ちる危険
が倍増する。しかしダレンは見事な騎乗技術でそれを補って見せた。結果、ダ
レンのランスはカリウィスの兜を突き砕け、カリウィスのランスは空をきった。
 現状、得点は3−1だ。カリウィスが勝つにはもはやダレンを突き落とすし
か無くなっていた。


427 :尊敬 〜槍試合〜:07/07/16 12:18:35 ID:plENCqY3
 「だがそれが私に出来るのか・・・・」
 ダレンの踏み込みの鋭さはカリウィスの予想を超えていた。彼よりも速く踏
み込むか、それともあの突きをかわして自分の槍を突き入れるか・・・・・途
方もない作業に思えた。
 その時、三回目の開始位置に着こうとしていたカリウィスのチョコボが突然
足を止めた。
 「む・・・・どうした?」
 カリウィスは進むように促すが、チョコボは全く言うことを聞かない。いや
いやと首を振り、カリウィスに何かを訴えるように鳴いた。そして、決闘場の
柵に顔をこすりつける。
 「まさか、そのフェイスプレートをはずせと言っているのか?」
 カリウィスがフェイスプレートに手を伸ばすと、チョコボは心得たように動
きを止めた。留め金をはずすとフェイスプレートはするりと地に落ちる。顔に
直に風が当たるのが気持ちいいのか、チョコボは盛んに顔を振り、次いで大き
く鳴いた。
 「お前・・・・」
 いつの間にか、チョコボは開始位置に着いていた。その目はすでに後ろなど
気にしていない。ただまっすぐに、前を睨んでいる。
 突撃用のチョコボはただまっすぐに、最高速で走り抜けることを徹底して訓
練される。彼らの中には勝ちも負けもない。ただ、速く、前へ、のみだ。
 「く・・・・はははっ よし、私もお前に倣おう! 勝ちも負けも関係ある
ものか。ただまっすぐに、前へ、貫き通すのみだっ!!」
 「カリウィーーーーーースっ!!!」
 観客席からレティシアの声が聞こえた。探すまでもなく、その赤い姿はよく
目立つ。隣にはソレイユの姿もあった。


428 :尊敬 〜槍試合〜:07/07/16 12:20:09 ID:plENCqY3
 (そうだ、私は・・・・あいつに負けぬと言ったのだ)
 カリウィスはランスを掲げ吠えた。チョコボもまた続くように鳴き声を上げ
る。観客も彼の覚悟を感じ取ったように歓声を上げる。黒騎兵も答えるように
鬨の声を上げた。

 三回目、開始の声が響く。
 チョコボの爪が土をえぐり、後方へ吹き飛ばす。
 それに合わせて、自ら甲高い伴奏を奏でつつ甲冑が踊る。
 だが、その音は騎士の意識には届かない。
 すべてが後方へ流れていく。
 その世界で、ただ鏡に映った影のように迫り来る姿。
 切っ先が吸い込まれる。

 「はああああああああっ!!!」「ぉぉぉぉおおおおおっ!!」

 交錯・・・・・衝撃も砕けた槍の破片も、すべてが後方へ流れていく。



 耳に歓声が追いついてくる。痺れる腕の中で、槍はずいぶんと軽くなってい
た。
 走りゆく乗騎の上でゆっくりと振り向く。
 走り去っていくチョコボ・・・・その背に黒い騎兵の姿は・・・・・・・な
かった。

 観客席に視線を走らせる。互いに手を叩いて歓声を上げるレティシアとソレ
イユが見えた。折れた槍の柄を投げる。放物線を描いたそれはしっかりとレティ
シアの手に収まった。


429 :尊敬 〜槍試合〜:07/07/16 12:22:12 ID:plENCqY3
 「なんと? 某のランスレストを壊したあの騎士が、あのお嬢さんだと言わ
れるのか?」
 試合後の晩餐会でカリウィスはダレンを連れ出し、宴から少し離れた位置で
二人で話していた。
 「貴公の物言いが腹に据えかねたようでね。一泡吹かせようと画策したので
すよ」
 「うむむ・・・」
 ダレンは信じられないというように唸った。
 「ダレン殿。あなたなら槍試合でランスレストを狙って突撃するのがどれほ
どの技量を要するかお分かりのはずだ。彼女は騎士団の中で、女であること、
平民出であることで侮られぬ為に、常にそれだけの力量を示してきたのです」
 「なるほど・・・・・知らぬ事とはいえ、彼女には失礼なことをしていたの
だな、某は」
 後悔の滲む声色で言うダレンに、カリウィスは微笑んだ。
 「特に貴公だったから、彼女も余計に侮られたままで居るのが嫌だったので
しょう」
 「? 某が・・・?」
 「貴公の本質が男爵ではなく生粋の武人だからですよ。初対面の時も今も、
貴公は私を一人の騎士として扱っている。公爵公子としてではなく、ね。そん
な貴族は王都では珍しい」
 ダレンは少し居住まいを正した。
 「武を競う場なれば、そこは戦場も同じ。宮廷の序列など持ち込んで競技な
どできるものか」
 カリウィスは嬉しそうに頷いた。
 「そんな貴公の気質とその騎兵の腕を彼女は尊敬したのでしょう。誰しも尊
敬する人物には認めてもらいたいものですから」


430 :尊敬 〜槍試合〜:07/07/16 12:23:31 ID:plENCqY3
 「・・・・・なるほど・・・それはよくわかる」
 ダレンにも思うところがあるのか、彼は深く頷いた。その時、二人に近づい
てくる足音があった。その軽いが規則正しい足音はレティシアだ。
 「歓談中に失礼。カリウィス、そろそろ戻ってもらわないと、主役が居なく
ては宴がしらけるぞ」
 「ああ、すまない。もう戻る」
 カリウィスの返事を聞いて踵を返したレティシアをダレンが呼び止めた。
 「待たれよ」
 「む? なにかご用か」
 ダレンはレティシアと正面から向かい合うと、軽く頭を下げた。
 「改めて名乗らせて頂く。某の名はダレン・バレスター。貴公の名を教えて
もらえまいか?」
 レティシアはカリウィスとダレンの顔を交互に見比べ、事情を察したのかに
っこりと笑って答えた。

 「私はレティシア・レギーネ。よろしく、騎士ダレン殿」



 これが、後に英雄ヴァルキリーと称される少女と、その旗下で黒鉄騎兵と恐
れられる男の出会いであった。


431 :尊敬 〜槍試合〜:07/07/16 12:29:39 ID:plENCqY3
長々と失礼しました。
こちらに書き込むのは初めてです。よろしくお願いします。

この「尊敬」は私のサイトで書いているFFXI小説の外伝として書いたものです。
これからも、短めのモノはこちらにも載せたいと思います。
書き上げてから、これFFらしい部分どこにもねぇな、と思ったのは秘密。

432 :(・ω・):07/07/16 14:08:20 ID:nC9ECoji
いや、そんなことないよ。
面白かった!
また書いてくれ。よろしく!

433 :(・ω・):07/07/17 15:46:03 ID:SLLJngLo
読んで一言、「おもしれ〜」と思った。
面白いじゃなく、「おもしれ〜」と思ったのは久しぶり。
またうPをお願いします。

434 :(・ω・):07/07/19 22:57:12 ID:eQLqp/hJ
どこかに貼ろうと思っていたけど貼りそびれていたのを貼りますた

いきなり最終回 in 18鯖 @ 涙たちの物語 on Wiki

もう4年位前のだけど。。。

435 :(・ω・):07/07/31 09:12:42 ID:8FTCpwlv
>>434
こういうのに弱いんだよ俺。
通勤途中なのに目から汗が……。

あと、4年前ならではって箇所がいくつかあるね。
当時からやってる人はニヤリとしましょう。

436 :(・ω・):07/07/31 12:28:37 ID:cae/U64W
>>434
読み応えあった〜。
内藤の部分はいらない気もしたけど、面白かった。
そいやジュノ下層はよく「出てけ」メッセージが流れたよなぁ。
今じゃ普通に動ける。

437 :(・ω・):07/08/01 01:54:08 ID:uDo9jxXB
>>434は、
UOの某有名フラッシュをFFに当てはめて書いてんだね。
原作フラッシュはまぢで震えた。
FF版でもユーザーの手で事態を収めてほしかったなぁってのと、
内藤の部分が残念な感じ。

438 :434:07/08/01 04:21:21 ID:vH7zYNRN
UOやってた頃、WarやらPvPに明け暮れて、元ネタとなるBand of Brothers(?)だっけ、あのフラッシュ見て強く印象に残ってた。
フラッシュの中で唯一覚えていたイメージは「おい、なんかうちの鯖、えらいことになってるんだと」という一言が書き込まれた掲示板。
あーこれFFだとどうなるんだろうなーと想像しながら&当時流行してた内藤の風味で書いたのがコレでした。
で、だいぶ前にプレーヤー側で収束させるストーリーでリメイクしようかと思ったときに、何かそういう作品をちょうど他の人が作ったって話だったのでやめましたw
そっちも内藤ものだったのかな。
内藤なし&プレーヤーで収束、というルートならありかなぁ。

#今は長編(50話ものくらい・・・)を少しづつ書いてはミクシィに上げていってますわ〜

439 :(・ω・):07/08/01 13:58:42 ID:ZOTffBZa
ああ、むかーし内藤スレで出てたね似たようなの…
・ジュノでビシージ
・戦闘不能=キャラデリ
・1人また1人と息絶えて行くプレイヤー達 的な

あれ元ネタあったのか

440 :434:07/08/01 22:42:16 ID:6tvWFKXX
ビシージがなんなのかイマイチ判然としないくらいのオールドタイプな俺だけど。。。
そんなものなのかもしれません。
思い出した。「絆はここにあるか?」というタイトルの作品だった。
面白い作品だったなぁ。

441 :(・ω・):07/08/05 12:14:24 ID:AlbQUr0Z
>435
懐かしかったですな。無限連携とか、他にも色々w

>434
とても面白かったです。涙腺ゆるみました。
「絆はここにあるか?」もいい作品でしたが、あれとの兼ね合いでオチを変更されたのが
とても惜しいくらい。ミクシィは入れないので、今書いておられる長編も、気が向かれたなら
またwikiに上げていただければ嬉しいです。

442 :434:07/08/06 00:12:42 ID:mVqk1Qsx
>>441
えと、リメイクするのをやめただけで、もともとこういうオチで発表していたものです。。。

えーと、ではボチボチWikiにも乗せていきます。<長編
使い方がいまいちよくわかってないので、見苦しいところがあれば編集してくださいまし。

443 :434:07/08/06 01:02:33 ID:mVqk1Qsx
Gangs of Vana 'Diel @ 涙たちの物語 on Wiki
よかったらどうぞ。

444 :(・ω・):07/08/07 15:08:05 ID:J1c9hv5L
>>443
読んできた。
面白いね〜、「鎧」と「盾」とかがサンドらしい隠語でイイネ。
続きを希望。

ただ、登場人物が多いので、タルタルだけでもタルタルらしい名前でも良かった
んじゃないかなぁ、と思った。

445 :(・ω・):07/08/16 16:05:37 ID:h+fL5YAl
Gangs of Vana 'Diel @ 涙たちの物語 on Wiki

9話前編をうpしますた

446 :(・ω・):07/08/24 08:23:00 ID:gn67gVHb
>>445
読んできた。
何というか、中途半端イクナイ。
早く続きをうpしてくれい、気になって仕方がない。

447 :(・ω・):07/08/26 14:08:47 ID:wWuHjZfY
期待あげ

448 :GoVD:07/08/27 19:56:08 ID:wT2hRBiQ
Gangs of Vana 'Diel @ 涙たちの物語 on Wiki

9話後編をうpしますた

>>446
中途半端でごめんよ〜


449 :(・ω・):07/09/05 01:06:24 ID:JSsZI6ed
GoVDの作者さんは、危機感を盛り上げていくのが上手い人なのかな。
うまく言えないけど、俺はすごくハラハラしながら読んでる。
10話も楽しみー!

450 :GoVD:07/09/06 15:09:18 ID:lc5gswWI
読んでいる人がいた!w
10話はウィンダスがいよいよ動きだす予定です。
果たしてこの世界は幸せな未来を手に入れられるのでしょうか。
期待しないで続きをお待ちくださいませ。

451 :(・ω・):07/09/06 16:05:25 ID:/RB5auAA
んー?
読んでるよ〜。
反応ない様に見えて、読んでる人は結構いると思う。

9話は話が主役というか、焦点があっちこっち飛んでて把握に時間がかかった
かな〜。
もう少まとめられると、もっと中に入って行けと個人的には思う。
>449氏の言うとおり、危機感の盛り上げは上手いね〜。

452 :(・ω・):07/09/06 18:52:51 ID:2ixXlJnl
このスレの皆はクーデレだからな。
観ていない様で、しっかり観て楽しんでる

453 :(・ω・):07/09/06 23:06:25 ID:6TLigGBE
クーデレの一人です。
ストーリーの壮大さがイイ!
作者さんがWikiでコメントしているように、推理しながら楽しんでる。
いまはGoVDしか投稿ないし、ひたすら期待して待ってます。

454 :(・ω・):07/09/06 23:07:43 ID:6TLigGBE
Ageちまった。。。砂丘で死んできます。

455 :GoVD:07/10/02 19:01:15 ID:Hotk2qcW
お待たせです

Gangs of Vana'diel #10 ”二人の”
@ 涙たちの物語 on Wiki

うpしますた

456 :(・ω・):07/10/02 20:33:25 ID:cxC11v5+
ktkr!!

457 :(・ω・):07/10/03 12:15:52 ID:KREeHOdW
読んできた!
面白かった〜。
次回両軍激突か!?

458 :GoVD:07/10/03 13:05:38 ID:5zs4aw9v
自分の遅筆への戒めとして、次回予告を書いておいたほうがいいかもしれませんねw

次回 Episode11 "ジュノ落日"

お楽しみに

459 :GoVD:07/10/10 16:36:09 ID:FIh6lMRP
Gangs of Vana'diel #11 ”ジュノ落日”
@ 涙たちの物語 on Wiki

うpしますた

460 :(・ω・):07/10/10 21:06:38 ID:rQHmGRVB
ktkr!

461 :(・ω・):07/10/11 16:59:30 ID:gSPR64ky
>>459
掲載されているもの、全て読ませていただきました。
ところどころ把握に時間がかかりましたが・・・凄い。他の方も仰られてますが、緊迫感をかもし出すための文章の
運びがとても上手だと思います。本当に参考になりました。
続きも楽しみにしてます。

462 :(・ω・):07/10/12 08:18:09 ID:bSGCK5ls
>>461
うん、把握に時間がかかる事があるけど、緊迫した感じは凄いよね。

しかし、守護天使長が遠征軍について行くものなのだろうか、と言う疑問が・・・。
神子様の護衛ってわけじゃないのかな。
まあ、兄貴止められるのはセミくらいか。師匠だったら火に油を注ぐだろうしね〜。

463 :GoVD:07/10/12 13:55:43 ID:/jxMRNtA
GoVD外伝
 
 Episode11.1 ソロムグの幕舎にて

ズゴーン
ブンッ

夜の帳が下りたテントの中から魔法が炸裂する音と長剣を振り回す音が聞こえてくる。

アジド「だ、だから把握に時間がかかる点はすまないと思っている!」
セミ「アジド、誰に言っているのですか?それに、そんな偉そうな言い方ではまた人望を失いますよ!」
アジド「じ、時間がないんだ!ところで守護天使はこんなとこにずっといていいのか!」
アジドがファイガ詠唱の構えをとる。
セミ「み、神子さまのお許しがあるからいいのです!」
セミが剣の柄でアジドの横腹を突き、詠唱が止まる。
アジド「ぐっ、加減しやがれ。。。」
小さなタルタルは悶絶した。
相変わらず仲が良いのか悪いのか不明なタルタルとミスラである。
テントの外にはもう一人のミスラが星を眺めていた。
ナナ「あーあ。またやってるよ。しっかし、いつになったらジュノに戻れるのやら。」
まだ冬の風は冷たかった。遠くでビークの泣き声がしている。ぶるっ、すこし震えてナナは自分のテントに戻っていった。

464 :(・ω・):07/10/12 17:19:28 ID:bSGCK5ls
>>463
ワロタ。

変に考えるより、崩さないでそのまま突っ走って欲しいと思います。
読み応え十分、頑張って下さいな。
次回も期待してます。

465 :(・ω・):07/10/13 18:14:14 ID:1QjbYfdY
どうも、こちらに投稿させていただくのは初になります。
GoVDさんの作品を始め、wikiに掲載されている多くの方々のSSに触発され、拙作を手懸けてみました。
良ければお茶請け代わりにお読み下さい。


466 :ででんが伝々:07/10/13 18:17:21 ID:1QjbYfdY
 告白する。
 これほどの窮地を、俺は臍の緒切って以来味わったことがないと。
 説明すれば、ある日突然とんでもねえ怪物が俺の下にやって来て、そしてそいつが今、俺の目の前にいやがる。
 どれだけ逃げても駄目だった。こいつの前じゃ、ありとあらゆる隠密の術は何ら意味を為さない。
 参った。どん詰まりだ。
 実力行使にでも出れば当面の危機は回避されるだろうが……それによるリターンは計り知れない。下手を打てばこいつは、また別な形で以って俺を陥れるだろう。
 時間がない。決断までのタイムリミットは着実に迫っている。
 地位も名誉もかなぐり棄ててこの怪物を追い払い、束の間の安息を求めるか。はたまたこの厄介者を背負い込んで、鎬を削る日々に舞い戻るか。
 どちらを取っても百害あって一利なし……万事休すだった。なんだってこんな事になっちまったんだ。
 抱えた頭をもたげ、向かいの席で鮒の旨煮をパクついてる怪物を眇め見ると――目が合った。
 一体全体、怪物は俺の視線をどう勘違いしたのか。 奴は怯え食器を取り落とすどころか、その小さな手でフォークとナイフをカチャカチャと鳴らしたあと、あろうことか肉片の刺さったナイフをずいっと差し出してきたのだ。

「ホラ、アンチャンも食べれ! あーんするさ、あーん!」
 
 満面笑顔だった。 
 あ〜、と大口を開けつつ、尻尾を振り振り猫耳をおっ立て身を乗り出してきてる怪物仔ミスラは、そりゃもう小憎らしいほど晴れやかに笑っていやがった。

467 :ででんが伝々:07/10/13 18:19:43 ID:1QjbYfdY
「うーん……知らないなぁ。院の魔法人形だったら、一目でそうと分かるんだがねぇ」
 顎に手添え、雑貨屋の店主は小首を傾いだ。
「う、わー! アンチャンこれこれー! アメジストのお守りだってさー! きっれー!」
「……人形が最後に来るよう命令されてたのがこのお店なんですよ。出入りするお客や近所の人達との間で、そんな話が出ませんでしたか?」
 その店主と、カウンター越しに正対する男。 彼は足元から聞こえてくる声の一切を無視していた。
 ……上着の裾をグイグイ引っ張られようと、ひたすら無視。
「それもなかったなぁ、うん。魔法人形なんて珍しい物、もし近くで見かけた人がいたら格好の話題の種になりそうなもんだけど」 
 ガクガク体を揺すってこうようとも無視。店主は些か苦笑気味だが、男が無視を決め込んでいるようなので何も言わない。
「はあー! これもすんごいきれーさー! まん――? まん……まん……かがみ? なぁアンチャンアンチャン、これなんて読むさあ?」
「……そうですか」
「? なぁー、アンチャンー?」
「それじゃあ、今後もしそのような話を耳にされたりしたら――」
 腰にしがみついてこようがなにしてこようが断固として無――
「なぁーなぁーあぁーーーーーー! アァーーーーーンチャンーーーーーッ!」
「だああぁーーーーッ! もううっせえぞお前、さっきからぁ!! ちょっとは大人しくしてろっての!」
 耳元で、それも大声でがなり始めたガキンチョに、男の堪忍袋の尾もとうとう切れた。 いつの間にか首元までよじ登ってきているではないか。
「……むー」
 表情も険しく捲くし立てると小娘はぶぅーっと剥れ、そのまま何を言うとも無く背中から飛び降りる。
 が。ようやっと大人しくなったかと胸を撫で下ろす間もない。
 仔ミスラは再び脇目も振らず、商品の陳列棚の方へと駆けて行ってしまったのだ。
 今度は何持ってくるつもりだ…… 長い尻尾が物陰に隠れ見えなくなるまで、男はその後姿を辟易顔で見送る。
「ははは……元気なお連れさんですねぇ」
 店主のタルタルの愛想笑いに、男はえぇ、と力なく応じた。

468 :ででんが伝々:07/10/13 18:24:12 ID:1QjbYfdY
 お子さん、妹さん、と言われてもおかしくなさそうな年齢差があるが、何せヒュームとミスラだ。目鼻形に髪の色も違うし、まぁ「連れ」ってのは
客観的に妥当な言い回しなんだろう。主観からすれば「厄介者」って方が数倍しっくりく……
「にゃらーッ!? なんこれえぇー!?」
「――じゃあお忙しいところお邪魔してすいませんでしたどうもありがとうございました」
 店の奥から欣喜声が響くと同時、男は一息にそう言いつつカウンターにあったビスケットを礼代わりと手早く一つ買うや、くるりと踵を返した。
「いえいえ、またのお越し……」
「ああぁーッ!? アンチャン置ってくなぁーッ!」
 只でさえ財布がうすら寒いってのにこれ以上出費増やしてたまるか、足早も足早に扉へと向かう男。 扉を潜り抜け陽光を身に浴びたときには、
思わず胸を撫で下ろしていた。 
 なんとかガキンチョが馬鹿でかいぬいぐるみを引き摺ってくるより先に、脱出することができた……、と。
「ううぅ〜……こ、これ大きすぎさー。持ちにか〜〜っ!」
 ドアベルのカロンカロンという軽音と重なって、そんな不穏当極まりない発言が聞こえてくるまでは。
 直感で嫌な展望を予期し、思わず顔を上げてみればそこには、
「なんで外まで持ってきてんだアイツ……」
 ドアに挟まったカーディアン人形を引っ張り出そうと、うんうん奮闘する一匹の仔ミスラがいるではないか。
 遠目に見えるその光景に、男は思わず呆気にとられる。 数秒の後、人形は無事にスッポ抜け仔ミスラも元気良くシリモチをついたが、今度は雑貨屋の店主が
泡食ってご登場だ。 ガキンチョのそれ以上の進行を食い止めようと、飛びつくようにして人形の右足に食いかかっていく。
「えっ!? ちょっとアンタッ、なにすんさ! 離せぇー!」
 思いも寄らぬ邪魔者に、ガキンチョはあらん限りの金切り声を上げた。
 一仕事終えたって顔でアンチャンの下に走り寄ろうとした矢先、せっかくここまで運んできたぬいぐるみに謎のチビ助が突如、猛然と掴みかかってきて、そればかりか
自分から人形を無理矢理引っぺがそうとしているのだ。 こんな横取り許しちゃおけんさー! と、彼女が眦を決して抵抗するのも、実に最もだった。

469 :ででんが伝々:07/10/13 18:26:02 ID:1QjbYfdY
「お、お嬢さん! これは売り物なんだよ売り物ッ! 商品なのッ! ちゃんと代金払ってくれないと――」
「キン?! なーん言ってるの、ワタシお金なんて持ってないしあったとしてもあげるわけないさー! 第一ッ、これは落っこてたのをワタシがッ、拾ってッ、持ってきたもん、
なんさあぁぁあぁぁ〜〜〜ッ!!」
 ――人形の所有権が正式な手順を踏んだ上で譲渡されたのであればの話だが。
 取得物は此れ遍く我が懐中に収むべし的ロジックを掲げる強盗仔ミスラと雑貨屋店長タルタルの綱引きは止むことなく、どころか一層ヒートアップしていく。
「あ! アンチャン助けてっさ! この人がワタシのぬいぐるみ取ろうとすっさー!」
「あ! ちょ、ちょっとあなたっ! このお連れさん、なんとかして下さいよぉ〜!」
 どういう訳かヘルプを求められているが、男には当然 店主に代金を支払った覚えも、ガキンチョに小遣いくれてやった覚えもない。
 人形を引っ張り出してから現在に至るまでの数々の言動より推察するのも、これでもう4度目。 何度考えても結論は同じ。どうやら奴には、盗みを働いたという自意識が
本気で欠落しているらしいのだ。
 呆れを通り越して頭痛がしそうだった。
「アーーーーーンチャンーーーーーーーー!!」
「お、お客さぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!」
「……あ、ありえねぇ」
 ガキンチョとは別に聞こえてくる店主の泣きそうな声。 仔ミスラの行動は到底看過できぬが、現状も当然見過ごせぬ。あのまま力一杯引っ張り続けた日にゃ、
見た目布製のあのカーディアン人形は綿を辺り一面撒き散らしながら派手に千切れとぶことだろう。 同伴者への賠償要求は必定、ガードにしょっぴかれる可能性さえ
無きにしも非ず。
 掌こめかみに当て頭を抱え、男は心の底から溜息をついた。

「ふんふふっふっふんー・ふふふーふーふーん♪」
 鼻歌混じりで、ご機嫌にあぜ道を行くガキンチョ。その体に合わぬ幅広な革ベルトには、デフォルメされた拳大の大きさのカーディアン人形が一つぶら下がっている。お値段600ギル、先の雑貨屋店主謹製のハンドメイド人形である。
 スキップする少女の歩調と合わせて、綿づめの愛らしい容姿をした人形は小気味良く揺れていた。

470 :ででんが伝々:07/10/13 18:28:00 ID:1QjbYfdY
「くうぅ……」
 しかし、仔ミスラの醸し出すその雰囲気と、後に続く男が醸し出すソレは全くの正反対。俯き加減な男は、軽くなってしまった懐の巾着をさすりつつ恨めしげな
ぼやきを吐きながら うなだれていた。
「残金……たった2100……」
 どうにか値札に0が3つも踊っていた大・カーディアン人形購入だけは免れることができたのだが、出費は出費だ。アイツと合流するにも万全を期すためとは言え、
大打撃はやっぱり大打撃だった。
 昼食だけでもあんなに使ったってのに、このまま夕食となったら一体どうなっちまうのか。考えるだけでもオゾマシかった。
「……なんだって俺にはこう、金欠を次から次ぎへと呼び寄せるような無駄なスキルがあるんだ」
 自分の巾着が現在いかに軽いかを再認して、男はまた溜息を漏らす。
「アーーーンチャーーーーン! こっちこっちー!」
 そこへやおら聞こえてくるガキンチョの雄叫ぶ声。 男は緩慢な動作で首を巡らし、その姿を捉えた。
 随分離れた広間で飛び跳ねている憎らし仔ミスラの側には、ニコニコ顔の露天商ミスラの姿。
「これ食べっさー!」
 男がふらふらと歩み寄るや否や、ガキンチョは露天商が広げるワゴンの中身をびっと指差した。
 見れば、甍を争う大小様々な篭の中には、これまた色とりどりの果実が所狭しと詰め込まれている。 こうして露天の側に立っているだけでも、果実の芳しい香りが漂ってきた。
 しばしそのアロマを堪能すると、男は小さな指が指し示す篭、柑橘系の香り漂う商品を視止め、そのまま視線を値札へとずらす――1個50ギル。
 顔を上げ、つま先でピョコピョコ跳ねるガキンチョスマイルの他に、売り子ミスラの営業スマイルをも視界に収めつつ……
「駄目だ」
「んがーーーーーーーーーーッ!?」
 即却下した。
「な、なんでさアンチャン!? なんでなんでえ!? どぉーしてぇーさあ!?」
「お前、1個食べたらやっぱりもう1個ーってな具合にどんどん増えてくじゃねーか。だから駄目だ。夕方まで我慢しろ」
 そう、こいつは食う……とんでもなく食うのだ。それも底無しに。
「ええぇぇーーーーー!! だってホラぁ! これッ、すんごいイイ匂い! すっごいおいしそうさ! アンチャンの分も買って良いかっさぁー! 
なぁなぁー!」

471 :ででんが伝々:07/10/13 18:31:35 ID:1QjbYfdY
訳分からん言い分だが、これ以上余分な餌を与えるわけにはいかん。こいつが一度食い始めたら止まらない以上、間食なんぞ間違っても食わせるわけにはいかないのだ。
 男は、こんな大飯喰らいの怪物は広きヴァナ・ディールにもアイツ一人だけだろうと高を括っていた頃の自分を羨んだ。せめて夕食まで、せめて夕食まではと懐の小さな巾着を掻き抱く。
「お願いお願いお願いぃ〜〜! いいじゃないっさー、一個ぐらいぃーー!! アンチャンにもほんのちょびっと分けてあげっからぁーーーー!!」
「だーかーら駄目だっつーの! 晩飯まで我慢っ!!」 
 駄々をこね喚き続けるガキンチョが腰にひっついたままだが、構わずさっさと待ち合わせ場所に向かおうと一歩を――踏み出した、その時。
「――どうして買ってあげないんだ、ディオン」
 有り得ない声が。いる筈の無い声が聞こえてきた。
 何の手違いか、今から向かう先で聞く筈であった声が、噴水前で落ち合う筈であった声が、すぐ背後から、剣呑な響きで以って流れてきたのだ。
「あぁ〜〜〜ッ!!」
 いや、それ自体は感情も抑揚もない声だったが、ある特定の人物に対しては間違いなく剣呑たる響きがあった。ガキンチョはしかめっ面から一転、パッと顔を綻ばせ
声の主の下へと駆け寄っていくが、男の場合、引き攣った顔が油の切れたぜんまい仕掛けのような動きをしていて、カクカクとやけにゆっくり背後を振り返ろうとしている。
 嗚呼、見間違える筈もない。 果たして、そこに立つ小柄な少女は、身の丈よりも大きい無骨なバスターソードを背負っていたのだ。
 男物の枯草色のルダンゴット、立てた襟から流れる砂色のウェーブ髪、白い肌。モノクロのようなセピアのような、彩りのなさ故に深い存在感を放つその姿を誰か見間違えようか。
 男が出会った1匹目の大飯喰らい怪物にして、このガキンチョの面倒を見るはめになった元凶……
「ア、ッド姉ぇ〜〜〜〜!」
「…………!」
 嬉々として抱きつくガキンチョ。
 飛び掛られた側は一瞬驚いたようだったが、しかしその後 少女は本当に小さく、はにかむような、けれど心底嬉しそうな微笑みを浮かべ仔ミスラをそっと抱き寄せる。
「……良い子にしてた? アシ」

472 :ででんが伝々:07/10/13 18:32:11 ID:1QjbYfdY
「おう、アド姉! すっごく良い子にしてたさー! ――あ、そうだホラ! これ見ね! ジャッキーン!」
「…………!」
 目の前にデフォルメ・カーディアンがかざされ、またもピクッと強張る少女。今度は眼を丸くして、人形にずいっと見入っている。
「にゃぁははーッ。どうさ! まぶいっしょー!」
「うん……かわいい、すごく」
 何やら両手を物欲しげに漂わせながら、真顔で頷いていた。
「だしょー! アンチャンがな、さっき買ってくれたっさー!」
 へへへ、と嬉しそうに笑うガキンチョと、その言葉にはたとして、視線を男へと転じる少女。
 ……笑ってない。
 日頃から無表情な奴だが、それに輪をかけてもアレは全ッ然、笑っていなかった。目は口ほどにものを言うのである、人形は買ってあげたのに露天のフルーツ1個は駄目なのか後できっちり事情話してもらうぞ――。
 男はただただ引き攣った笑みを浮かべ、突っ立っているしかなかった。

473 :(・ω・):07/10/13 18:35:34 ID:1QjbYfdY
ここで区切りです。最後まで目を通してくれた方、どうもありがとうございます。

何分、某所で2レス程度の単発SSばかり書いていたので……長編にするかこのまま短編にするかも未定です。
つか、正直構想はあるんですが長編書いていけるほど持つ気がしませんw
次回投稿がいつになるかは分かりませんが、どうぞ気長にお待ち下されば幸いです。
お粗末でした。

474 :GoVD:07/10/16 13:08:39 ID:kWwBnOik
>ででんが

仔ミスラ萌・・・いや、楽しく読ませていただきました。
場面はウィンダスかジュノか・・・。想像してみると楽しいですね。
アドのツンデレに期・・・いや、構想に基づいた続きに期待します。
カーディアンのマスコット、ちょっといいかも。

475 :GoVD:07/10/23 17:50:09 ID:avw5SvPf
Gangs of Vana'diel #11 ”橋”
@ 涙たちの物語 on Wiki

うpしますた


476 :(・ω・):07/10/23 20:28:34 ID:Ohms0AcX
ktkr!

477 :(・ω・):07/10/24 10:06:39 ID:b+LS586X
>475
ウィン贔屓かなぁと思っていたけど、作者がウィン出身だったかw


478 :GoVD:07/10/24 17:54:56 ID:de1r75Vg
>>477
なぜばれたんでしょう。。。w
ちなみに作者自身は国別ミッションはウィンダス、サンドリアを修了しています。
現在は、というか4年位前にバストゥークのミッションを8くらいまでやって中断・・・w

479 :(・ω・):07/10/25 14:33:23 ID:lJP/kUQt
>>478
わかっているくせにw

自分もウィン出身の現在サンドのランク10です。
バスは・・・何かやる気がおきないのでやってません。

480 :望郷 :07/10/28 15:00:11 ID:6IIza+uy
 「ククク・・・・クカカカカぁ・・・・我の負けダ。とどめを刺すがイイ」
 出血と疲労でもはや足に力が入らない。我は膝をつき、眼前で斧を掲げる勝
者を見上げた。我らオークの野営地に現れ、並み居る剣闘士を次々打ち破った
者。その体躯は小さい人間種族としては大きく、我らオークと比べても遜色が
ない。確かガルカと言ったか。
 「必要ない。・・・・約定を守ってもらえればな」
 ガルカの戦士は斧をおろし、我を見据えた。なにも感じさせない、ただ淡々
とした眼差し。そこには勝利の喜びもない。ただ、成すべき事を成しただけ・
・・・そう物語っている。
 「わかっタ。・・・・・・・次は負けぬゾ」
 「フ・・・わしもだ・・・・生きて還るまでは負けぬ」

481 :望郷 :07/10/28 15:02:17 ID:6IIza+uy
 吹雪・・・・と言うほどではない雪が舞う。背の高い針葉樹の林を白く染め
る雪。防寒対策を施しているとは言え、やはり
 「寒い」
 白い外套の上に積もった雪を払いながら、レティシアが何回目になるか解ら
ない呟きを漏らした。タブナジア出身の彼女には、この気候は堪えるのだろう
。その燃えるような紅い髪も、今は雪がちらついて燻っているようだ。
 「まったく・・・だったら外套を重ね着するか、鎧の下にもっと着込めばよ
かったのだ」
 「そして、あんな風に膨れろと? 冗談ではない」
 隣をあるくカリウィスの言葉に、レティシアは憤然と背後を指さし言い返し
た。今は行軍中であり、背後には黙々と歩を進める兵の姿が連なっているが、
その中に豪奢な外套の壮年の騎士が一人居る。貴族であろうその騎士は、何十
にも防寒着を着込んでいるようで、チョコボに乗っていなければ歩くのもまま
ならないのではなかろうか・・・という有様だった。
 考え事をしているのか、こちらの動きには気がつかない。この行軍が始まっ
てからずっとあの調子だった。
 「はっはっは。この程度で音を上げるとは、少々情けないですぞ、レティシ
ア殿」
 騎乗からそう言うのは、黒騎兵ダレン・バレスター。その姿は普段と全く変
わりなく、黒い甲冑に外套も纏っていない。
 「言ってはなんだが、黒騎兵殿。貴公は変態だ」
 「ははっ・・・・」
 げんなりしたレティシアとカリウィスなどお構いなしに、ダレンは槍を掲げ
る。
 「この程度の寒さなど、某(それがし)の戦を前に燃え上がる意気の前には
、ラテーヌ高原のそよ風と変わらぬわ! はっはっはっは!!」
 「ええい! 身も心も寒いというのに、暑苦しい!!」
 レティシアは頭を抱え、周りの兵達も苦笑するかあきれ顔である。ただ、カ
リウィスだけが、そんなダレンに感心するように頷いていた。
 そう、もうすぐ戦が始まるのだ。


482 :望郷 :07/10/28 15:04:59 ID:6IIza+uy
 サンドリア王国領北方。『北壁』も程近い地域にハグドアグド鉄石伯の所領
がある。鉄石伯はその名のとおり、多くの鉄鉱石の鉱山を所有する貴族として
有名であり、北から迫るオークの軍勢に臆することなく王国に鉄鉱石を供給し
ている。
 「その鉄石伯の管理する捕虜収容所が先日オーク共に強襲、占拠された」
 騎士隊詰め所で、カリウィスが淡々と語る。同席しているのはレティシアと
ダレンの二人だけ。指揮官となる正規の騎士のみである。
 レティシアが真っ先に問いかける。
 「捕虜達の安否は?」
 「収容されていたのはバストゥークの捕虜だ。知ってのとおり、今は我が国
とバストゥークの間で大規模な捕虜交換が行われている。お互い食わせるのが
大変だからな。その一環でこの収容所でも捕虜をバストゥークに移送していた
のだが、その最後の一団が残っていた・・・・収容所の守備兵共々全滅したそ
うだ」
 なんてことだ・・・・とレティシアが呟く。地図上には収容所の位置にコイ
ンが一枚置かれている。
 「オーク共はなぜ収容所などを襲ったのであろうか? 見たところ戦略、戦
術的に要地という訳でもない。まぁ、だからこそ収容所なのであろうが」
 ダレンは眼前に広げた地図を睨みつつ武人らしい疑問を口にした。捕虜の反
乱で失うかもしれない拠点を要地に置く訳がない。
 「鉄石伯が言うには、収容所のすぐ近くに捕虜に採掘させていた鉄鉱石の鉱
山があるそうだ。それを狙ったのだろう。知ってのとおり、北からやってくる
オーク共は軍団であり開拓団だ。有用な資源は狙ってくる」
 そう言いながら、カリウィスは収容所のコインの上に駒を置く。オークを象
った黒い駒だ。そして、収容所から近い山中に銀貨を一枚置いた。鉱山という
事だろう。


483 :望郷 :07/10/28 15:06:45 ID:6IIza+uy
 「それで、どう攻める?」
 「無論、ここに隊を進める」
 カリウィスの指は、騎士鎧を象った駒を銀貨の上に置いた。
 「収容所は立派な砦だ。馬鹿正直に攻める必要はない。鉱山手前の林に布陣
し、オーク共を引きずり出す。面子を潰された鉄石伯は収容所攻めを執拗に主
張したがな・・・・・オーク本隊を蹴散らした後で、収容所の確保を彼の隊に
任せる事で納得させた。よほど自分の手で取り戻したいらしい」
 カリウィスは軽く嘆息したが、次の瞬間には表情を改めた。
 「私とレティの隊が鉱山前に布陣する。ダレン殿の騎兵隊は大きく迂回して
、敵の背後を突いてほしい。緋色の加護を」
 「緋色の加護を!」
 カリウィスの敬礼にレティシアとダレンは頷き敬礼を返した。



 「来ましたっ!! オーク共の本隊ですっ!!!」
 兵の間に戦慄が走る。連なってそそり立つ針葉樹の柱を縫うように、一つま
た一つとズングリとした影が見えてくる。申し訳程度の皮の鎧に大きく発達し
た上半身を包み、前のめりの体を支えるように後ろに伸びた尻尾は太い。手に
持つ思い思いの得物、あるいはその拳を打ち鳴らし、奇っ怪な雄叫びを上げて
いる。
 サンドリアの仇敵、獣人オークである。
 レティシアは剣を引き抜き、檄を飛ばす。
 「サンドリアの兵士! グリフォンの子供達よ! 戦場に名を刻むときだ!!
 剣を抜け! 盾を掲げよ!! そしてっ!!」
 踏み出す 雪散らし 駆ける まっすぐに前へ
 「我に続けっ!!!」
 振り返らずにレティシアは走る。オークの巨体が迫る。振り下ろされる無骨
な斧が耳元を通り過ぎる。ヒヤリとする恐怖も一瞬で彼方。右手に握る長剣を
繰る。脇腹から心臓への一撃。背後で倒れるオークを一瞥もせず、その目は次
の敵の睨み、真っ直ぐに立つその姿。
 「行け、グリフォンよっ!! たとえ倒れても、その屍に接吻してやろう」
 その脇を怒号と共に兵が駆け抜けていく。


484 :望郷 :07/10/28 15:09:24 ID:6IIza+uy
 「一人で戦うな。訓練通りにやれ。必ず敵一人に2,3人で当たるのだっ!」
 カリウィスの声が響く。混乱する戦場にその声は良く通った。戦場の熱気に
熱くなりすぎた兵に、その声は冷静さを与える。横に伸びすぎていた戦線が縮
小し、厚みが増した。だが、その前に突破してきた一体のオークがカリウィス
に迫る。
 濁った怒声を上げ、オークは人間種族が両手で扱う様な剣を片手で振り回す。
横薙ぎの一撃が細長いカリウィスを捉えた。側にいた従騎士が悲鳴を上げる。
 「・・・・・その程度か、獣人」
 そそり立つ針葉樹すら切り倒せそうな一撃も、この騎士の盾を砕く事は出来
ない。小揺るぎもせずそこに立つカリウィスに、オークの顔が信じられないと
ゆがんだ。
 「我が炎の花弁を受けよ」
 剣技レッドロータス。騎士の剣が炎を巻く。雪が消え去り蒸気が舞った。振
り下ろされた斬撃は刻みつけた傷口から渦巻く炎を吹き出す。後には焼けこげ
たオークの屍が転がるのみ。
 「後ろは気にするな。目の前のオークにのみ集中せよ」



 鉄石伯は後方で護衛と共に戦いの推移を眺めていた。引き連れてきた兵の大
半はカリウィスに預けている。ほぼ無理矢理騎士団の方から同行を押し切られ
た男だったが、見る限り実力は確かなようだ。自分だけでは収容所を無理に攻
撃し、無用な被害を出していただろう。
 鉄石伯は背後を振り向く。雪に埋もれた岩肌に、鉱山の入り口がぽっかりと
開いている。
 「これならば無事に取り戻せるか・・・。誰にも手出しはさせんぞ」


485 :望郷 :07/10/28 15:13:40 ID:6IIza+uy
 諸撃のぶつかり合いが過ぎれば、次第に戦況が動いてくる。剣戟と怒号、攻
撃魔法の爆音と回復魔法の光が入り交じる戦況は、じりじりとサンドリア側に
有利な展開となっていった。レティシアの勇猛果敢な進撃が敵陣を切り裂き、
カリウィスの粘り強い指揮が敵の進撃を押しとどめ、突出したレティシアを包
囲させない。まさしくレティシアは剣であり、カリウィスは盾として機能して
いた。
 だが、その状況は容易く破られる。突如としてカリウィスの布陣の一角が打
ち崩されたのだ。なぎ払われ吹き飛ばされる兵。人垣を文字通り打ち崩してい
るのは、ほかのオークよりも二回り以上も大きな巨体だ。レティシアの胴ほど
もありそうな幅広の剣を二本持ち、怪物は笑う。
 「クカカカカッ!! サンドリアの腑抜け騎士共にしてはやるではナイカ。
だが、我には通じヌ!! のけイ!! 我が用があるのは、貴様らの後ろで震
えている、あやつダケヨ!」
 群がる兵の槍と降りかかるファイアの炎も意に介さず、二本の豪刃は血しぶ
きを生み出す。強靱な眼光は目の前の兵など気にもとめず、後方の鉄石伯へと
向けられていた。その圧倒的な姿に『ノートリアス・・・・』と誰かが呟いた。
兵の間に恐怖が走る。それを敏感に感じ取り、カリウィスは舌打ちした。たっ
た一人の『悪名高き』強兵が戦の流れを変える。戦場の英雄とはそう言った力
を持っているのだ。これ以上、あのノートリアスに兵をやらせては全体の士気
に関わる。
 「そのオークに構って隊列を乱すな! そいつの相手は−−−−」

 「私がする!! 来るが良い、デカブツ!」

 いつの間にか、ノートリアスの前にレティシアが立ちふさがっていた。深紅
の髪を振り乱し、白い外套を返り血で汚した姿は、雪に染まった風景にくっき
りと浮かんで見えた。
 「矮小な人間ガッ! 砕け散レ!」
 ノートリアスは無造作に豪刃を振り下ろした。当たればレティシアを言った
とおり粉々に出来る一撃だ。どう避けようと、すぐにもう一振りの豪刃が襲い
かかる。だからレティシアは避けずに一歩踏み込んだ。


486 :望郷 :07/10/28 15:15:50 ID:6IIza+uy
 「ヌウ!」
 ノートリアスの肩から血飛沫が舞う。空を斬った豪刃は雪をまき散らし、斜
め前に踏み込む事でそれをやり過ごしたレティシアの剣が肩を切り裂いたのだ。
 振り払った切っ先の血で雪を汚しながらレティシアが振り返る。兵から歓声
が上がった。
 「振り回すしか脳のない力馬鹿め。私が剣技という物を教えてやる」
 「クカカカカカッ!! 言いよるワ。ならば、我の剣舞を見るがイイ!!」
 ノートリアスが大きく息を吸い、吠えた。二本の豪刃がまるで竹の棒か何か
のように空を斬る。剣風で雪煙が巻き起こった。巻き込まれたが最後、何者も
細切れを免れない死のバトルダンスだ。
 「く・・・ぁ・・・・ああっ」
 豪刃を捌ききれなくなったレティシアが一撃を受けた。何とか間に盾を挟ん
だが、大きく吹き飛ばされ針葉樹に背中から激突する。
 「ああっ」「レティシア様っ!!!」
 兵の悲鳴がこだまする。前のめりに倒れ駆けたレティシアはとっさに剣を地
に突き立て体を支えた。豪刃を受けた左腕は感覚がない。だらりと垂れ下がり
盾が地に落ちた。アバラも何本か折れたようだ。回復魔法を使おうと息を吸い
、激痛にむせ返る。
 だがそれでも、満身創痍で剣にすがり立とうとも、その視線はノートリアス
から離れていない。
 「痛みは肉に、苦しみは骨に還れ。ケアルW」
 聞き慣れた声と共に光に包まれ、体を苛んでいた痛みが消えていく。レティ
シアは背筋を伸ばし口元の血を拭う。その隣にカリウィスが立った。
 「レティシア、奴は強い。二人で退けるぞ」
 「・・・・・・不本意だ」
 「レティ!」
 「嫌だなどとは言っていない! 認める、私一人では勝てない。・・・・だ
がどう戦う?」
 カリウィスは剣でノートリアスを指し示した。
 「レティ、よく見るんだ。奴が持っているのは剣だ。剣での戦いで我らサン
ドリアの騎士が後れを取る道理は無い」
 その言葉に落とした盾を拾いながら、レティシアは呆れたような笑いを漏ら
した。
 「く・・・・はっはっは。無茶を言う」
 「これは心外だな。いつも無茶も押し通して真理にしてきたのはお前だろう」


487 :望郷 :07/10/28 15:19:37 ID:6IIza+uy
 二人の視線が交差した。
 「違いない。では、今回もそうしよう。後は任せた」
 「ああ、気にせずにやれ」
 それ以上の会話は不要だった。レティシアが先に走り出し、カリウィスがそ
の後に続く。
 「クカカカッ! 何人で来ようとも同じ事ヨ!!」
 迎え撃つようにノートリアスが豪刃を振るう。レティシアは余裕を持ってそ
れをかわした。当然、彼女の剣が届く間合いには飛び込めないが、その間にカ
リウィスがノートリアスの背後に回る。前後を挟むのは2対1でのセオリーだ。
ノートリアスは背後にも気を配らねばならず、当然それは隙となる。レティシ
アもカリウィスも一薙ぎで絶命出来る相手ではない。次第にノートリアスの体
に傷が増えていった。
 「埒があかぬナ。我が剣舞でもろとも蹴散らしてクレルワ!!」
 再び豪刃が竜巻と化す。迫り来る竜巻をレティシアは息を整えながら落ち着
いて見据えた。縦横無尽に繰り出される豪刃の嵐だが、そのリズムは一定だ。
腕を振り回しての斬撃を交互に繰り返しているに過ぎない。一撃一撃の威力と
速さがあのバトルダンスを必殺たらしめているのだ。ならば−−−−−
 「カリウィス!! 右だ!!!」
 「任せろ!!」
 レティシアの声を聞いたカリウィスは、盾を構えてタイミングを計った。ノ
ートリアスの右の豪刃が回転し、後ろに回ってきた所で体ごと盾をねじ込む。
激しい衝撃に息を詰まらせ、弾き飛ばされた。
 「無駄ダ!!」
 同時にレティシアも踏み込んでいる。耳元を冗談のような風切り音が通り過
ぎる。左の豪刃を紙一重でかわし、次の一歩で間合いに入る。だが、右の豪刃
が襲い来る。
 「捉えタゾ!!」
 豪刃がレティシアを打ち据えた。
 「・・・・・捉えたのは私の方だ」
 レティシアの盾が豪刃を鍔元で受け止めている。カリウィスが体を張って創
った刹那の隙。そこに滑り込んだ。剣である以上、その破壊力はすべて切っ先
に乗る。カリウィスが殺した威力に鍔元ならば、十分に受け止められる。
 そして体躯の違いが生み出す間合いの相違。ノートリアスの超近接距離は、
レティシアにはちょうど良い間合いだった。


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