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涙たちの物語10 『旅の行き先』

1 :(・ω・):06/05/09 07:22:35 ID:38OC3SEF
 ヴァナディールを舞台にした物語を語るスレです。
 あなたの中にあふれる物語を聞かせてください。
 
 前スレ:
  涙たちの物語9 『旅の果てに』
   http://yy10.kakiko.com/test/read.cgi/ff11/1123780223/
   
 倉庫等(現役稼働中):
 (Wiki)http://kooh.hp.infoseek.co.jp/
 
 歴代スレや旧倉庫は>>2あたりを参照。
 次スレは、400k越えたあたりで、宣言→立て→告知を願います。
 ※この板の転送量限界は512kなので、早めに対応しましょう。

103 :(・ω・):06/09/24 01:01:23 ID:oItUgLMR
またうまく纏めたなぁw

>>102
【君にこれをあげましょう】

ヒロインズコンバット1戦目
ttp://ktkr.vip2ch.com/upload.cgi?mode=dl&file=4054
ヒロインズコンバット2戦目
ttp://sneg-kuma.ddo.jp/cgi-bin/up/upload.cgi?mode=dl&file=803
ヒロインズコンバット3戦目
ttp://ktkr.vip2ch.com/upload.cgi?mode=dl&file=4063
アサルト1戦目
ttp://ktkr.vip2ch.com/upload.cgi?mode=dl&file=4061
アサルト2戦目
ttp://ktkr.vip2ch.com/upload.cgi?mode=dl&file=4062

104 :(・ω・):06/09/24 15:41:44 ID:gNsGSxY+
>>103
見られないのだが

105 :The Phantom Pain:06/09/24 21:11:24 ID:7utj8uK7
毎度、失礼いたします。
先ほど、wikiさんに「The Phantom Pain」最新36話をupして参りました。

>>66=白き〜作者様
お久しぶりです。
ご無事だったようで、という表現が相応しいかちょっと悩みますが、
何よりです。後ほど続きを読ませていただきますね。

>>81=ガルカのコックさん
読めたようですね、良かった。
そして、いつもながら読んでいただいて、感謝々々なのです。

では、よろしければ、こちらで。
http://kooh.hp.infoseek.co.jp/?page=The%A1%A1Phantom%A1%A1Pain


106 :(・ω・):(・ω・)
(・ω・)

107 :ヴァナディール紀行:06/09/27 09:21:09 ID:qwCv7SiD
聖地ジ・タ

聖地ジ・タ
そこは深い霧と年月を経た巨木がうっそりと茂る土地。
「本当にこっちで良いのか?」
ルークの言葉にミストは頷く。
「ん」
空が見えないほどそそりたった樹々を見あげた。
冷たいシンとした空気が胸の奥から身体を綺麗にしてくれるようだった。
太古の匂いのする、土地。
「ちょっとボヤーダ寄って行こう」
ミストの言葉にルークは頷く。
「別に良いけどよ」
のんびり歩く風景は昔チョコボで走り回った時とは違い
ただ、ひたすらにのどかで静かだった。
ふっと視線を移すと、栗色の髪の女性が岩場に座っていた。
透けるように白い肌。
小柄な体、冒険者とは思えない軽装。
女性はルークとミストを見てにこりと笑んだ。
「こんにちは、はじめまして」
「よ」
「こんにちは」
二人はいぶかしげにしながらも、頭を下げた。
「すごい所ですね」
綺麗な女性の感嘆のため息にミストは頷く。
「本当に。
ヴァナディールの自然の記憶が古くから残ってる場所
って感じですね」
「こちらに来て少しお話していただけませんか?」
にこっとそこだけ、
花の咲いたように微笑む女性にルークとミストは顔を見合わせた。
急ぐ旅でもないし…。
二人は巨木に寄りかかり、あるいは根元に座り休む体勢をとった。


108 :ヴァナディール紀行:06/09/27 09:22:32 ID:qwCv7SiD
「あんた…何処から来たんだ?」
「ジュノからです。私の名前はリア」
「リア…ね。何でまたこんな所に?」
リアは両手を合わせて小さく笑んだ。
紫の瞳がやさしく細くなる。
「世界を、見たくて」
「ほぉ―――。お付きの冒険者はどうした?お嬢様」
ルークの目が細くなる。
リアはにっこりと笑った。
「もうじき夜露が降ります。
その夜露を集めて、アトルガン茶葉と幾つかのスパイスで煮詰めると
よいお薬になるそうですので、夜露をあつめに行っています」
「いくらアクティブな敵がこの辺はいねぇからって…安心しすぎ、だろ?
いつアクシデントが起るかわかりゃしねぇのに」
「私、別に…モンスターに襲われてもいいの」
「はぁ?!」
「?!」
ルークとミストの驚きに女性は小さく頷いた。
「私、もう治らない病気なの。
ゆっくりゆっくり死んでゆくんだって」
「………だったら」
「ベットで寝ていても、どうせ死ぬんだもの。
だったらいろいろ見てみたいじゃない?
いろんな人とお話してみたいじゃない?
だから…いままでの貯金全部崩して、旅をしているの」
リアの笑みは死を思わせるようなものではなかった。
むしろ、夢見る少女のような輝く瞳だった。
「……変わってるな」
リアは細い栗色の髪を揺らす。
「そう―?
私の両親は冒険者で、いろんな土地のお話をしてくれた。
アルテパの砂漠、ウルラガン山脈の山々…そして、この聖地ジ・タ。
時が止まったような場所だって言ってたけど本当にそのとおりね」
「両親…心配してんじゃねぇか?」
リアは天をあおいだ。

109 :ヴァナディール紀行:06/09/27 09:24:51 ID:qwCv7SiD
目眩がするほど高い木々。
「私のためにって、傭兵やって、お金稼いで…。
そして闘って戦って、死んじゃったから。
きっといまは、空の上で待ってるとおもうの」
ミストは言葉を詰まらせた。
「………あんた。それでも笑えるのか」
家族を失い、自分自身が死するさだめだと知ってなお、
やわらかな微笑を浮かべるリア。
ルークのボソリとした呟きに、リアは頷く。
「だって、旅が出来てうれしいんだもの。
いろんなものが見れて…いろんなところにいけて。
私ずっと不思議だったの。
私みたいに病で死ぬ人間は終りが見えるけど
冒険者って、終りが見えないでしょう?
いつ、命が消えるか…わかならない。
なのに、どうしてそんなに未来を信じられるの?
明日は絶対あるって信じて…明日死んじゃうなんてこと
思っても見ないで…。
みんな希望に瞳を輝かせていた。
父さんも、最期の冒険に出るまで元気いっぱいで
楽しそうだった…」
リアの言葉にルークは眉を寄せる。
「俺らだってわかってるさ。
明日死ぬかもしれないって。
本当は街にいようが荒野にいようが
いつその命がモンスターや他の生き物によって
断たれるかわかんねぇってな。
終りははっきりわからねぇが…
俺もリア、お前も一日の大切さは一緒だ」
ルークの言葉にリアは大きく頷いた。
「でしょう?やりたい事やって生きなきゃもったいないよね。
いっぱいいっぱい思い通りに生きたら、
自分の生きた意味がわかってきた気がするし」
「へぇ、すごいな。そりゃ。
いったいどんな意味だ?」
ルークは目を輝かせた。


110 :ヴァナディール紀行:06/09/27 09:26:24 ID:qwCv7SiD
リアは細い指を合わせて、高い空を見上げた。
「私はね。私が楽しむために生まれてきたの」
サラリといって、あざやかに笑うリアにミストは眩しそうに目を細めた。
「いいね」
「うん。…いいな」
ミストとルークの言葉にリアは得意げに笑う。
「いいでしょ?
はじめはね。病気だってわかった時に
苦しくて辛くて、周りの元気な人みんなうらやましいなぁ
ってずっと思っていたの。
うらやましいな。うらやましいなって。
死の心配もなく、生きてる人皆が妬ましかった。
でも、本当にそんなにうらやましいかなって気がついたの。
私のお父さんみたいに、明日死んじゃうかもしれない人が
ジュノの街にはいるし。
人をうらやむだけで人生終わらせたら、
それこそもったいないなぁって。
そんな風に思ったら、やりたいことやらなきゃって」
リアの言葉にミストは俯く。
「そんな風に…生きれたら、いいね」
ミストの言葉にリアは笑う。
「生きれるよ。自分が望めば」
「うん。そうだね」
ミストの言葉にリアは首をかしげた。
「このジ・タは聖地って言われるだけあって…
静かでいいわ。
心が、澄んでゆく」
リアの言葉にルークは目を閉じた。
「ああ…。そうだな」
遠く鳥の鳴き声と、樹の葉ずれの音だけが響き渡る。

111 :ヴァナディール紀行:06/09/27 09:29:47 ID:qwCv7SiD
「自分の生きる大事な時間。
誰かを恨んだり、
悲しみを誰かのせいにしたりしたら、辛いよね」
リアは小さく呟いた。
その声は風に消えるほどの小さな呟きだったが
リアの心には、葛藤は消えることなくくすぶっているのだと知れた。
それでも、小さく微笑むリアに、ルークとミストは元気をもらった。
「うん。リア。あんたと逢えてよかった」
ルークが手を差し出す。
リアは手を握り、笑う。
「私も…お話できて楽しかった。
またどこかで、逢えると良いね」
話は、終り。
ミストがリアの手を握り、手を放す。
抜けるように白い肌の、小柄なリア。
笑顔がきれいなリア。
ほんの少し、すれちがって心通わせた。
でも、確かに心に残る人間だった。
「また、どこかで」
ルークとミストは手を振って、ジ・タの巨木の中に分け入っていった。

追記

リアは、吐息をつく。
そして薬湯を飲む。
偉そうな事を冒険者に言ったが、
迷いはいつまでたってもリアの中にある。
でも、最後のその瞬間まで満足して生きれるように。
それがリアの目標。
「大丈夫か?」
護衛についてきてくれる冒険者は心配そうにリアを見た。
冒険者は、リアを依頼主以上の誠意を持ってつくしてくれている。
不器用な男だ。
でも、この不器用な男は、リアがいつか治るかもしれないと信じて
薬湯を処方している。
そんなやさしい男だった。
この出会いもリアが動き出さなければなかったもの。
そう考えると、心が明るくなる。
「ありがとう。次は何処を見にいこうか?」
「まずは休め。今日は疲れただろう」
冒険者は寝床を用意してくれた。
リアは目を閉じる。
いつか、その日がくるまで…
リアが前を向いて、生きることは
誰にも止められない。
「次はウルガラン山脈の夜明けがみたいなぁ
世界で一番に朝日が当たるって言われるくらい
高い山なのよね?」
リアの夢見る眼差しと明るい呟きは、ジタの濃い霧に消えた。

                  END


112 :ヴァナディール紀行:06/09/27 09:40:05 ID:qwCv7SiD
聖地ジ・タ
命を感じさせる荘厳な空間は、音楽とともにお気に入りです。
あの高い木々を主観視点にして空を見て走るのが
お気に入りでした。

さまざまなフォローと思いやりある言葉をいただき
ありがとうございます。
ミスも多いですが、楽しんでいただけると幸いです。

いろいろな書き手さんがんばってくださいませ。
シャントット先生のまとめはお見事でしたv
読み手の皆様、暖かい眼差しで見守ってくださって
ありがとうございます。
WIKI を守ってくださる方、感謝いたします。

                  N

113 :(・ω・):06/09/27 22:38:02 ID:Ga5qF4u1
てっちゃんのDS配信フラグならある

114 :(・ω・):06/09/27 22:38:19 ID:Ga5qF4u1
ごめん、誤爆

115 :(・ω・):06/09/28 12:20:36 ID:7vJ4TPQ9
ジ・タ、良いよな。
初めて訪れた時、まさに「聖地」だと思ったものだ。

116 :(・ω・):06/09/28 14:08:09 ID:yc8w5ezK
ひさしぶりに見に来た
ほっとさせてくれた紀行の人に感謝

あとシャントット様の少女時代とか思い浮かばない
たぶん生まれたときからあんな感じだと思う

117 :(・ω・):06/09/30 17:47:40 ID:FcLMpgqp
イーアルカンフー?
おれにはスパルタンXにみえたぜ

118 :(・ω・):06/09/30 17:47:51 ID:FcLMpgqp
誤爆

119 :ヴァナディール紀行:06/10/04 22:36:48 ID:kTDZV3l5
ボヤーダ樹

「何でボヤーダ樹なんだ?」
ルークの言葉にミストははにかんだ。
「花を…ここにはきれいな花が多いから
生命の源って感じがするから。ここの花好きなんだ」
ミストの言葉にルークは俯いた。
巨大な樹の内部のような空間。
天井も見えない中、薄蒼いキノコがぽぉっと輝き
ランプのように周囲を照らす。
むっとするような太古の…生命力あふれた場所。
ここは水も草花もモンスターも生き生きとしていた。

草の上を歩いていると、大きな影が突然ぬっと出てきた。
「え?」
「おっと…?」
ルークの小さい足を巨大なガルカが踏む。
「痛って―――!」
片手斧を振るうガルカは、慌ててよけた。
「すまんっ」
「大丈夫?ルーク」
ミストが屈み込んでとう。
ガルカは戦闘中だった。
といっても獣使いらしく、獣が闘っているのを見ながら
敵対心を調節しつつ斧を振るうという感じだったが。
ペットがスパイダーに最期の一撃を仕掛けた。
バチバチと黒くはじけるダークスポアに
スパイダー族は蜘蛛の網を残して沈んだ。
その網を拾い、ガルカは頭を下げた。
「すまんな。後ろに人がいるとは思わなくて」
「いや…戦闘中だし仕方ねぇよ」
ルークは言った。
「でもな…俺とお前さんじゃ体重差がありすぎる。
ブーツを脱いで見せてくれ」
ガルカは大きな背を丸め、ルークの足元にひざまずいた。
「大丈夫だって…」
「いや、一応傷を見ておかないと。そこに座って」
ガルカの言葉にルークは不本意ながら座ってブーツを抜いだ。
小さなルークの足の甲はうっすら赤く腫れはじめていた。
ガルカは自分の布を水に浸し、足の甲につけて冷やす。
「酷くはいためてなさそうだが…注意不足だった
すまんな」
そう言ってテキパキと手当ての準備をする。
セージの葉をもみこみ、布につけて貼る。

120 :ヴァナディール紀行:06/10/04 22:38:01 ID:kTDZV3l5
「あ。きもちいい」
ミストはその二人を見て、言った。
「ルーク、そこで休んでいて。
奥に行って来るけど、すぐ戻るから」
にこっと笑んで、ミストは身軽に歩き出した。
「あ、おい!ミストっ」
「少し休んでてね!」
ミストは叫ぶように言って、奥に消えた。
「………」
「………」
無音の世界。
モンスターが草を踏むさくさくという音だけが小さく時折聞こえる世界。
沈黙は重かった。
「あ――…」
「ん?」
手当てを終えたガルカの大きな指が丁寧にルークにブーツを履かせてくれる。
「戦闘邪魔して、ワリィな」
いう事が見つからず、とりあえずそんな事を言ってみる。
ガルカは人なつっこく笑った。
「いや」
大きな手がくしゃりとルークの髪をかきまぜる。
「おい。ガキ扱いは、するな」
ぐりぐりと子供のように撫でられるのは、ルークは嫌いだ。
その手を振り払うと、ガルカはビックリしたようにルークを見た。
「お前さん、撫でられるの嫌いか?」
「好きな奴がいるかよ」
ルークはぶすったれて言った。
「そうか。タルタル族は撫でられるのが好きなのかとおもった」
「はぁ?何でそうなるんだ?」
「俺の知っている子が…タルタルの魔道師だったんだが…―
撫でられるのが好きでな。
俺の名前は、イヴァって言うんだが
『イヴァさん撫でて撫でて』って足元によくまとわりついたもんだ」
ガルカは遠い目で呟いた。
「魔道師…ねぇ」
「ちびっちゃい女の子で、かわいいんだ」
ガルカは少し誇らしげに言った。
「ふぅん。いい友達なんだな」
その言葉に、ガルカの動きは止まった。
そして、ガルカは首を横に振る。
「俺は……その子に酷い事をした」
「ん?酷い、事?」

121 :ヴァナディール紀行:06/10/04 22:40:50 ID:kTDZV3l5
「ガルカは頑丈だ。バストゥークでも、有名だ。
炭鉱で働かされて、働かされて生きてきた」
話が急に飛んでルークは首をかしげながらも相槌を打った。
「あぁ」
「相手はタルタルの魔道師様だ。
頭もよくって高位な魔法も使える子だった。
それでも種族で分け隔てなんかしない子だった。
その子が俺と親しくなって俺のふるさとが見たいっていって
俺は彼女をバストゥークに連れて行った…」
「ふん」
「ガルカってのは横のつながりが強くてな。
みんな…ヒュムもタルタルもエルヴァーンも時の流れが早すぎて
俺たちは置いていかれる。
だから、俺たちはどうしても仲間同士が一番みたいな風潮があってな。
仲間の一人が俺とその子のことを…からかったんだ。
はじめはそんな感じだったのに、
俺が否定すればするほどそいつはムキになって…
タルタルの女なんか、信頼できない。
魔道師なんてガルカとは別世界の話だ。
他にも耳を覆うような事を言われた。
タルタルのその子はそれでも笑って許してくれた。
でも…へこまないその子に、切れたガルカの一人が
…その子が大事にしていたものを
夜の闇に隠れて、ずたずたにしたんだ。
その価値も知らず」
「ズタズタに…?」
ガルカは大きな手で頭を抱えていた。
「ナイフで切り裂かれて、用水路に捨てられてた。
とても着れるような状態じゃなかった…」
「服、だろ?
別にそんな…買ってやれば良いじゃないか」
ガルカは震える唇で呟いた。
「バーミリオクロークは、その子の宝物だった」

122 :ヴァナディール紀行:06/10/04 22:42:16 ID:kTDZV3l5
「なっ」
普通の人間には到底手の届かない高級装備だった。
「誰がやったのかわからない。
なんとなくはわかったが確定的な証拠はなかった。
俺は………どうしていいのかわからなくなった。
同族が犯した罪に、
タルタルのあの子はどう思ったのか…」
「別に、お前のせいじゃないだろ?!
犯人見つけて突き出してやりゃよかったんだ!!」
ルークの言葉にガルカは首を横に振った。
「俺ら…貧乏なんだよ。
確かに取り返しがつかない事をしちまった奴がいるけど…
弁償できる金持ってる奴なんて…いねぇんだ。
やっちまった奴も、その価値なんかわからなかったんだろう。
俺は同族の奴らが許せなくて、
その子に顔向けが出来ないくらい恥ずかしくて
どうしていいのかわからなくなって…その場を逃げ出した…」
「はぁ?!逃げ出したのかよっ。
その子に何も言わず?!」
こくりと頷くガルカにルークは深く吐息をついた。
「で、お前さんこんな所で何やってんだ?」
「裁縫のギルドに通って、金を稼ぎながら裁縫の技術を上げた。
やっとバーミリオクロークも縫える技術を身につけた。
あとは、金だ。
ここで蜘蛛の網から虹糸紡いで…金稼いでる」
「ばっ……――ばかかっ!!テメェ」
ルークは叫んだ。
ビクッとガルカが身をすくめた。
「バ…馬鹿…?!」
「不器用にもホドがあるってんだ。
何年かけてるんだ?!」
「え…と、一年と半年…位か。でもまだまだ金は…」
「一年半も?!その子に連絡はしてねぇのかよっ」
「だって…だって…あわせる顔、ないだろ?」

123 :ヴァナディール紀行:06/10/04 22:43:33 ID:kTDZV3l5
小さくなってゆくガルカと態度が大きくなるルークは対照的だった。
「合わせる顔?
こんなでかい顔してんのになに考えてんだ、ぼけっ!!
その子が弁償しろっていったのか?」
ガルカは慌てて首を横に振る。
「そんなこと…
……―きっともう、あの子は口もきいて…くれない」
「あのなぁ、その子は大事な装備を失ったかもしれねぇ。
それは痛手だ。
でもな、お前が逃げ出した事によってその子は
装備だけじゃなく、大事な友達まで失ったんだぞ?!
二重の痛みだっ」
ガルカは、はっと顔をあげる。
「逃げ出した?彼女が口をきいてくれない?
お前が逃げでどうするよ。
非難だろうが、なんだろうがしっかりそのでかい身体で受け止めろよ。
ったく。信じられねぇな。このでくの棒は」
「でも…でも」
「でももなにもねぇだろう!!
仲がよかったんだろ?その魔道師と。
なんで話し合わなかった?何でそのままバッくれた?
その子のことなんか、お前なにも考えてねぇだろ?
自分の事だけしか考えてないだろ?」
ミストと言うストッパーのないルークの言葉はきつい。
グサグサとガルカの胸に刺さった。
「あ…でも、じゃ、どうすれば…」
「やるこた、一つだ。
まずその子の所いって土下座だな。
許すか許さないかはその子が決める事だ。
お前が決める事じゃねぇ。
でも、許すも許さないもその子が決める前に
お前が逃げ出してたんじゃ…
最低だ」
「あぁ…でも…でも…」
「こんな所で悠長に蜘蛛狩ってる場合じゃねぇだろ。
お前さんの言うとおり時の流れが違う。
ガルカには長いときでも、
俺らはガルカにくらべればあっというまに生を終える。
その大事な時間を浪費させんなっ」
「許すか許さないかは…あの子しだい…」
ガルカはゆっくりとルークがいった事を反芻する。

124 :ヴァナディール紀行:06/10/04 22:51:19 ID:kTDZV3l5
「そうだよ。テメェで勝手に決めてんなっ。
判断あおいで、それでも許されねぇてんなら…
改めて金ためりゃイイだろうが。
相手もテメェも生きているのに、
やりようはいくらでもあるのに
何で一番遠回りな道を選ぶ?
傷つきたくなくて逃げてるのは、テメェだろ?!」
「うぅ…」
ガルカはがばっと顔をあげた。
「どうした?ん」
「いってくる・・・ウィンダスへ」
ガルカは呟いて、駆け出した。
「おぅ!がんばれよ――」
ルークは手を振って、天を仰いだ。


しん、とした空間が戻ってくる。
ルークはぽつりと俯いた。
「ったく、贅沢だってんだ。
生きてるんならいくらでも償いなんか出来るじゃねぇか」
ルークの泣きそうな、
辛そうな呟きは、ボヤーダ樹の中に消えた。



125 :ヴァナディール紀行:06/10/04 22:53:04 ID:kTDZV3l5

追記

汗にまみれたガルカが、息を切らして小さな家の前にたつ。
ウィンダスの水の区。
ここまでボヤーダからニ昼夜かけて走ってきた。
走ってきたが、ここで止まってしまった。
家は知っていた。
でも、ノックが出来ない。
戸惑って…戸惑って…。
やっぱりダメだときびを還した瞬間、何かを踏んだ。
「あ…」
「きゃ!!」
一年半の時をへての再会は、足を踏むというものだった。
「イヴァさん!!!!」
少女は座り込んだまま昔のままの笑顔でガルカの巨体を見上げた。
「あ…その。あ…ごめん」
腰には斧、獣の衣装。
網をかついで、何をしに来たというのか。
いまさらに恥ずかしくなったガルカは、駆け出そうとした。
その前を小さな体いっぱい広げて立ちはだかる、タルタルの少女。
「イヴァさんもう逃がさないからね。
まったくこんなに長い間音信不通で…どこにいっていたの?」
「あ……」
相方の不器用さを知るタルタルの少女は、
小さな手で大きな手を握り締めた。
「逃がさないから…。一年半分のお話、聞かせて?」
くんと小さな手に力が入り、家へ誘う。
ガルカは逆らうすべもなく、少女の家に入っていった。

暖かなウィンダスティを前に
タルタルの少女はガルカの長い長い話を聞いて、
家の奥から荷物を出してきた。
小さな手に広げられた光沢のある織物。
ダマスクの織物三枚。
「最近ずっとこれを名入りで縫ってくれる職人さんを捜していたの。
お願いできるかな?イヴァさん」
「え…俺が?でも…」
「職人さん、中々いないし。
リスク高いからみんな嫌がっちゃって…。
お願い」
見あげるタルタルにガルカは小さく頷いた。
ガルカの瞳に輝くものが浮んでいたが、
それが何かは語るまでもないことだった。

                 END





126 :ヴァナディール紀行:06/10/04 23:06:57 ID:kTDZV3l5
今日はボヤーダです。
ボヤは獣さんの聖地なので、獣さんの話にしようと思っていました。
ガル獣さん好きです。

秋の夜長、ちょっとした楽しい時間になってくれれば幸いです。
読み手のみなさま、お声いつもありがとうございます^^
書く支えになります。
書き手の皆様、新作楽しみにしています

                N


127 :(・ω・):06/10/05 09:39:29 ID:DX6+KwXl
ガル獣の{岩}さんに見えて笑ってしまったり。
まったりまったり・・(*´ω`) いい話や・・

128 :ヴァナディール紀行:06/10/11 12:59:30 ID:E9Dzzekd
ロ・メーヴ

サイレントオイルを使い、二人はゆっくりと歩き出す。
どんなに強い者も、モンスターにはかなわない。
そう思わせてくれる、場所がここだった。
たとえレベルが高くても、オイルが切れたら…
ひやりとさせられる場所だ。

けれど薬品を使えばあっけないほど簡単に抜けられる道でもある。
不思議な、白い建造物。
集合住宅のような…装置のような。
きれいな幾何学的な白い道が続いている。
風に削り取られ角のなくなったゆるやかな階段を上がろうとして
「キキッ」
という、モンスターの声に振り返った。
誰かが、モンスターに見つかった。
ルークとミストが振り返ると、そこにはタルタル族が立っていた。
「うわっ」
群がるモンスター。
「救援っ」
ルークが叫び、ミストがメリーのホルンでララバイを奏でる。
モンスターの動きが止まり、眠りにつく。
「立てるか?」
ひざまずいたタルタルの手にサイレントオイルを握らせ、立たせる。
「行こう。そんなにもたない」
ミストは呟いて、すでに駆け出していた。
夜。
満月の月が明るく皆を照らす。
オイルを振り掛けて、白い回廊を駆け出す三人。
背後から追って来るモンスターを何とか振り切り、神々の間に3人は飛び込んだ。
「ふぅ」
「無事?」
「あ……ありがとう」
タルタルは立ち上がって頭をぺこりと下げた。
「ピーアン歌おうか」
ミストのピーアンに癒され、タルタルは顔をあげた。
「奥で休もうぜ」
ルークの引く手に、タルタルは首を横に振った。
「ここには、いたくない」
タルタルは小さく呟き
そして、ロ・メーヴにでる。
「おい!!!!」
慌ててルークとミストは後を追った。

129 :ヴァナディール紀行:06/10/11 13:00:42 ID:E9Dzzekd
タルタルは月光の下、二人を手招いた。
「大丈夫です。ここのロボたちは、魔法を使わなければ…襲ってきません。
さっきは奥までいっちゃいましたけど…この広場なら」
「おまえっ」
「こっちに来て見てください。
幸い今日は満月。満月の泉が満たされる夜です」
タルタルの言葉にルークとミストがついてゆくと、
白い窪みの中に清水がたたえられ、水の底がなんともいえない輝きを放っていた。
「大丈夫なのか?お前」
怪我はないかと問う二人に、タルタルは頷く。
「お二人が、助けてくれましたから」
タルタルは、水に手を浸して、笑った。
「こんな危険なところで、何してるんだ?お前」
「・・・・・・・・・」
「どうかしたの?」
タルタルの装備にルークは目を細めた。
輝くように白い装備は、ナイトの服。
アーティファクト2と呼ばれる、アーティファクトのさらに上を行く装備。
押し殺されたタルタルの呟き。
「どうして…
タルタルは…タルタル族はどうしてこんなに脆弱なのでしょうか」
「あ?脆弱?!」
ルークの眉がぴくんとはねる。
タルタルは自嘲する。
「わかっているんですよね。
自分でも、体力ないって。
エルヴァーンにも、ガルカにもまったくかなわない。
僕には、なれないんです。
『神々の背中を守るもの』といわれたHNMの聖騎士のようには…」
タルタルは顔をあげ空を見上げた。
「泉の輝きも、天にある月も、手が届きそうなのに届かない。
あの輝きを持つような人たちには、わからない。
見えるのに、輝いてるのに手が届かないって…
まるで凡人を嘲笑ってるようで…」
言いかけたタルタルの頬をルークが握り拳で殴った。
タルタルは突然の衝撃に、え?というようにルークをみる。
「うっせぇ。凡人?良いじゃねぇか。
背負ってるものはみんな一緒だ。
テメェの言う月には月の、泉の輝きには泉の輝きの
人にいえねぇ苦しみがある。
テメェ一人悲劇の英雄気取ってんじゃねぇよ。
男のくせに」
「大丈夫?」
ミストはいそいそとタルタルを抱き上げ、
その頬を泉で浸した布でぬぐった。
口の端が、少し切れていた。

130 :ヴァナディール紀行:06/10/11 13:02:11 ID:E9Dzzekd
地の底を這うようなくらい呟きがタルタルの口から漏れる。
「あんたに、何がわかる?」
タルタルの言葉にルークは胸を張って答えた。
「わかんねぇよ。
テメェの痛みなんか、わかってたまるか。
でもお前もわかんねぇだろう?
他人の痛みを。
輝いてる所だけ見て、
遠くからうらやんでるだけなら気楽でいいよな。
限界ギリギリまで戦って、それでもダメで…
輝いている?!そんなもん他人から見たら、だろ。
自分じゃいっぱいいっぱいだったりするんだよ」
「……―」
タルタルは頬を押さえて泣きそうな顔でルークを見あげた。
ミストはやさしく語りかけた。
「もしかしてさ。
君は空で四神と戦うつもりでここに来たんじゃないのかな?
でなきゃ、君がここに一人でいるのは不自然だ」
タルタルは、うなずく。
深い森の静謐な空気が、心を満たす。
タルタルはうつむいた瞬間に、涙がぼろっとこぼれおちた。
「リンクシェルの奴が…タルタルが盾だと…ナイトだと
危険が増すって…。俺がガルカならよかったのにって…。
種族なんて、どうにもならないだろ?
俺はそれでも守りたくて、皆を守りたくてナイトを選んだんだ!!
でも、確かに言うとうり危険だ。
仲間守りきれてないって…自分で思う
俺はやっぱり、ナイトになんかなっちゃいけなかったんだ」
ルークは肩をすくめる。
言葉は何処までもそっけない。
「言う相手が、違うだろ。お前」
ルークはしゃがんで、泉の光を見下ろした。
「…」
「仲間の元に、帰れよ。まってるぞ、みんな」
「……―」
「確かにタルタル族はナイトにゃ不利だ。
不利だってわかってナイトを選んだ。
マイナスからの出発だ。
でもお前は聖騎士になった。
それほど、仲間を守りたかったんだろ。
そのために戦ってきたんだろ?
神に力を与えられてない分、
逆に必死に自分の力で頑張ってきたんじゃないのか?」
すくいあげる透明な水は、キラキラと月光に光りながら
ルークの手からこぼれおちた。
「お前にまだ、守るものがあるなら。
こんなとこでうろうろしている時間なんかねぇだろが」
「…」
タルタルの俯く表情。
握り締めた震える拳。

131 :ヴァナディール紀行:06/10/11 13:03:10 ID:E9Dzzekd
ルークはその姿をみて呟く。
「守るものがあるってのは、騎士にとったら最高の幸せだ。
それは、絶対失っちゃいけねぇんだ。
お前が一人欠けたせいで、もし失っちゃいけないもの失ったらどうする。
空では、戦いがもうすでにはじまってるかもしれねぇぞ」
顔をあげた、タルタル。
その瞳には、決意があった。
そして、神々の間から駆け出してくるエルヴァーン。
ノーブルチュニックを着込んだ女性は、タルタルに手を振った。
「お迎えが、来たね」
「仲間ってのは良いもんだ」
ルークはタルタルの背中をとんっと軽く、押す。
タルタルは、一瞬二人を振り返り、
そして大きく頷きノーブルのエルヴァーンの元へかけていった。
タルタルの後姿に二人は手を振る。
タルタルは振り返ることなく、神々の間に入っていった。
月光だけが静かに二人を見守っていた。

追記

「いう事の重みが違うね」
「あ?」
ルークは怒気をこめてミストをみた。
「『神々の背中を守るもの』のリクルクさん」
ミストの言葉にルークの眉がピクンと跳ねる。
「うっせ。『アルタナの慈悲を受け継ぐ者』
なんて呼ばれたミスティアノリア様には言われたくねぇな」
ルークがミストの大腿を叩く。
「お互い、空が近くて興奮しているみたいだね」
「久し振り…だからな。あの地に行くのは」
遠く、見あげる。
はるか上空にある地上とは別世界。
「そうだね…ずっと、いけなかったから」
ミストは白銀の月を見て呟いた。
ふかい深い森。
人の手の届かない神々の住む場所に
再び彼らは足を踏み入れようとしていた。

                 END

132 :ヴァナディール紀行:06/10/11 13:09:38 ID:E9Dzzekd
こんにちわです。
ルークとミストの本名とジョブがわかる場所になりました。
お空はキーポイントになりそうですし、
ちょっとしたおまけも描けたらと思います。

にしてもルークは短気すぎで困ります。
書くたびに怒っているような・・・・

コメントありがとうございます。
そのまんま・・・名前考えるの苦手ですみませんっ。
読み手の皆様、いつもありがとうございます。
書き手の皆様、新作楽しみにしています。

             N




133 :(・ω・):06/10/11 13:51:49 ID:cgCQWS7w
(*´ω`*) イイヨーイイヨー!
がんばれ樽ナ・・ありがとうNさん


134 :(・ω・):06/10/12 12:33:29 ID:vAni2vRB
ガルナの俺にとっては、タルナは羨ましいけどな〜。
まあ、PTメンを絶対守ると言う意志と、自分の種族にあった戦い方をすれば、種族どうのと
卑下するようなことはない、とルークは言っているような気がする。
ルークの怒りっぽいところとか好きだな〜、ミストと良いコンビだ。
俺としては、ミストがちとなよっぽい方が困りもののような。

135 :(・ω・):06/10/12 17:03:34 ID:Pu8PfG7l
ときどきエル♀ってことで脳内補完している。完璧だ。

136 :(・ω・):06/10/12 18:23:38 ID:vAni2vRB
その手があったか!?

137 :ヴァナディール紀行:06/10/18 09:59:13 ID:rb3BMESx
神々の間

朽ちた白亜の廃墟。
神々の間と呼ばれる、空間。
誰が作ったのか、いつからあるのか。
ミストとルークは知らない。
天上から包み込むような静かな曲が流れ
水をたたえる荘厳な神殿。
巨大な彫刻はかの神話の世界の像だと聞いた。

昔々。
神々と人が近しかった頃
神々が眠りについた。
その隙を見計らい、人は神に近づこうとした。
目を覚ましたプロマシアは怒りを覚え
人々を海の底に沈めた。
それではあまりにかわいそうだと涙を流した女神アルタナの
五粒の涙が、今の種族に変わったという。

神々しい女神アルタナ
そして、長いロープに捕われたプロマシア。
その二人の間にたたずむ巨大な彫像。
あきらかに現代のヴァナデールの科学力ではない何かに
造られ、そして風化せずに残る
神々の遺跡。

ミストはかつりと足音を立てた。
「誰?」
振り返る小さな姿に、ミストとルークは逆に驚いた。
「あ、おどかしてごめんね。
こんな所に人がいるなんて…めずらしくて」
青い長い髪をさらりと揺らし、少女が振り仰ぐ。
青い大きな瞳が印象的だった。
ノーブルチュニックのあざやかな青い服が、少女の青い髪によく映える。
「いいえ。こんにちは」
にこりと、花がほころぶように微笑む。
ルークが軽く口笛をふいた。
「可憐なお嬢さん。こんな所で何やってるんだ?
ここはまぁ、安全地帯っちゃ安全地帯だが」
「お祈りを…」
首をかしげて、ぎこちなく振り返る。
その視線のやり方。
巨大な彫像を見あげるでもなく、何気なく振り返る。
「あのよ」
ルークの言葉に少女は顔を戻す。
が……ルークもミストもわかってしまった。
視線が合わない。
なんとなく声のほうを見ているが…きれいな青い瞳が
ルークの視線と絡むことはなかった。
この少女は、目が…見えない。
言わずとも、わかった。

138 :ヴァナディール紀行:06/10/18 10:01:03 ID:rb3BMESx
「はい?」
「祈るって…神様に、か?」
「はい」
不思議そうに首をかしげた。
「なんで、祈るんだ?」
彼女の祈りの対象はアルタナではなかった。
「何故…?」
質問に質問で返され、ルークは面食らった。
「祈れば、世の中どうにかなるのか?」
ルークの言葉に少女は首を横に振った。
「いいえ…」
「だよなぁ。
自分で何とかするならわかるが祈るだけで世の中変わるわきゃない。
なのに、お前さん、こんなとこで何をそんなに熱心に祈ってんだ?」
少女は桜色の唇を開いた。
「人が…ヴァナデールのすべての生き物が
仲良くなれたら…仲良く生きれたらっ…て」
少女は夢見るように俯いた。
「すべての生き物かよ?人じゃなく?」
ルークの言葉。
人ですら種族間で様々な争いを繰り広げているのに。
少女は頷いた。
「獣人族も人も…仲良く暮らせる未来が、いつかくるように。
私の力で、出来る事ではないから…。
だから、せめて心にあることを祈りたいのです
神々に」
目を伏せ、小さな指を組む。
薄淡い光さす神々の間でひざまずく少女。
その姿は神々しくすらあった。
「ミストと同じ人種か」
ルークが肩をすくめる。
「え?」
「こいつも、人と獣人の共存なんて馬鹿げた夢を見てる奴なんだ」
くいっと指差すルークに苦笑するミスト。
「酷いな。ルーク。馬鹿げたなんて」
「だってそうだろ?もうお互いの恨みなんて積もり積もって
どうしようもない所まで来ているんだ。
なのに、それでも和解したいと望んでる。
面白い事を考える奴がこの世の中に何人もいるなんて
驚きだよ。俺には」
腰に手を当てルークは笑う。

139 :ヴァナディール紀行:06/10/18 10:03:40 ID:rb3BMESx
その笑みにミストは肩をすくめた。
「仲良く、出来るよ。人と獣人は。
ゴブリン族だってヤグード族だって
人と共に生きようとしている者達はいるもの。
諦めたらそこで終り。
諦めなければいつだって可能性はゼロじゃない」
ミストの言葉に少女は顔をあげた。
「そうっ!…そうですよね」
すがるような言葉にミストは大きく頷く。
「そうだよ」
「博愛主義者ねぇ。
でも、何でまた獣人と仲良くなんて、願うんだ?」
ミストはわかるが、普通の人はそんな事願わない。
「お友達が…獣人、だから…」
はにかむ少女の手をミストは取る。
「素敵だね」
少女は大きく、頷いた。
「ありがとう…。
そんな風にいってくれた人ははじめて。
ありがとう…
嬉しい、です」
「お前さん、名前は?
俺はルークでこっちはミスト」
「私はポロルルといいます」
優雅にちょこんとお辞儀をして会釈をする。
その愛らしさにミストの瞳はなごんだ。
「何かお菓子でも食べる?
コインクッキーくらいしかないけど」
ミストの差し出すクッキーをポロルルは受け取った。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
「あの…変な事を聞いていいですか?」
少女は首をかしげてミストを見あげた。
「なんでも、どうぞ」
ルークも聞く体制をとり、地面に座る。
「あやまちを犯した者は、
永遠に許されないのでしょうか?」
その言葉にミストは、一瞬言葉を失った。
ルークがミストの様子を見て、ポロルルの質問を取る。
「いんや。許されないあやまちなんて…ないと思いたいね。
どんな罪も…長い時をかければいつか許される。
それがいつかわわからないが…
許しのない世界では、生きていたくはねぇな」
ルークの言葉をポロルルは噛み締めるように受け止めた。

140 :ヴァナディール紀行:06/10/18 10:08:13 ID:rb3BMESx
「ありがとう…。
そう言ってももらえると…うれしい、です。
いつか…いつか許される日がくるなら…
いえ、許される日がこなくても…
それでも前に進むしかないのだけど。
…――何故人は、憎みあうのでしょう。
何故人は、他者を排除するのでしょう。
受け入れあえば、それで皆が幸せになれるのに…」
「まだ、人間って種族に
すべてを受け入れる度量がねぇんだな。
きっと。
でもよ、いつかミストやポロルルみたいなのが増えていけば…
世界は変わってゆくかもしんねぇな」
ルークの言葉に少女は笑う。
「いつか…。いつかが来ると、いいですね」
その瞳の色は、ビビギー湾の海の青。
ルークの頬に朱色が差す。
「なぁ。えっと ポロルル」
「はい?」
「また、逢えるかな?」
ルークの問いにポロルルは悲しげに首を横に振った。
「私。旅、しているから…」
「国があるなら、どこか連絡先がわかれば。
ポストが使えれば送るから。
その、何か面白いもんがあったら…ポストに送るし…」
リークの言葉は尻つぼみだった。
めったにないことに、ミストは驚いたようにルークをみて微笑む。
「私はポスト…は、使えない、から」
首を横に振るポロルル。
青い髪が波のように揺れた。
「え。と。んと、じゃ」
かばんの中を慌てて探る。
「これ。よかったらもらってくれ」
「これ…なぁに?」
手に受け取って眼の見えないポロルルは首をかしげる。
「平穏のピアス…ラピスラズリの使われているピアスだ。
大して高いもんじゃないけど」
それは、ルークの名入りの青いピアス。
ラピスラズリは持ち主に幸いをもたらすといわれている。
ポロルルは自分のピアスを取って、その耳につけた。
そして、そのピアスを差し出す。
「変わりにもらってください」
ルークはそのピアスをぎゅっと握り締める。
「サンキュ。な。必ずまたどこかで逢おう。
俺らも旅暮らしだから、きっと逢えると思う」
その言葉をさえぎるように、影が見えた。
「いくぞ」

141 :ヴァナディール紀行:06/10/18 10:10:31 ID:rb3BMESx
小さな姿が叫ぶ。
目深にかぶったフードでタルタルの顔はわからない。
だがミストはその声に眉をひそめた。
どこかで聞いた事があるような…それも、最近。
でも、思い出せない…。
「では。ルークさん。ミストさん。
失礼いたします」
優雅にお辞儀をして、ポロルルは影の方に歩いていった。
少女は小さな杖を持っていたが、その足取りはしっかりしていて
神々の間に過去に来た事があるのだという事を
ルークたちに教えてくれた。
「かわいい子だったね」
ミストの言葉にルークはふいとそっぽを向く。
そして、その頬をさらに朱色に染めた。
「儚げな子だったけど、芯は強そうだね」
「弱きゃ、眼の見えない奴が
こんなとこまでこれるかってんだ」
「だね。でも、ウィンダスにもちょっといない
独特の雰囲気を持った子だったね」
神々しい、というのか。
孤高というのか。
そう、こんな風にたとえるのはとてもおこがましいが
強いて言うのならば、星の神子様に似た雰囲気を持つ少女だった。
「いい…な」
ルークの感情に暖かなものが、芽生えた。
それは久しく感じていなかった、感情だった。


142 :ヴァナディール紀行:06/10/18 10:12:07 ID:rb3BMESx

追記

「兄さま…?」
「ん」
黒い影が振り返る。
ポロルルには見えない。
でもだからこそ、感じる。
血の、匂いを。
「兄さま…何をしてきたの?」
兄と呼ばれたタルタルの言葉は、そっけない。
「聞いてお前に話したことが、あったか?
お前は何も心配しなくていいんだ」
「でも!」
「それより天王のピアスはどうした?」
ポロルルの耳にタルタルはふれる。
「あ…」
「こんな安いピアスを…何処の馬鹿からもらった?
エンジェルストーンのほうが、お前には似合っているのに」
「兄さま。やめて。
初めて人からもらったものなの…。
見えないけど、青い石なのですってね。
私の瞳と同じ色なのでしょう?」
「まぁいい。
また新しいいいピアスがあったらやるから
ポロルルつけておけよ」
「兄さま!」
「宝石も、アクセサリーも、装束も!!
すべてお前の身を守るためのものだ。
最高級品をそろえてやる。
人が何をしたか、お前だって覚えているだろう。
俺もお前も、傷つけられ…殺されかけ…
お前から光を奪ったのも、人だ」
「兄さま…やめて!!
そうだけど…そうだけど。でも。
憎しみからは、何も生まれない」
フードを目深くかぶった青年は、首をかしげる。
「何故、許す?ポロルル。
この世界の最大の悪は人だ。
争い、けものの土地を奪い、
獣人の本拠地にすら忍び込み謀略の限りをつくす。
狩り、殺し、自分達の豊かさのために人が何をしているのか
お前の見えぬ瞳にも、映っているだろう」
「兄さま…。やめてください。
ポロルルは、半分は、人です」
その言葉に青年は自嘲した。
「だからこそ、俺はその半分の血すら憎いがな。
行こう。もうここでの仕事は終りだ」
音もなく気配すらなくよってくる、
黄色いフードのトンベリ達が
二人を守るように、囲む。
ポロルルは空をあおぎ、小さな唇で祈りを刻む。
この世界が、平穏であるように。
そして、兄が人に恨まれる行為を行なわぬように。

                 END

143 :ヴァナディール紀行:06/10/18 10:18:04 ID:rb3BMESx
こんにちわです。

ミストが実はエルヴァーン女性だったとは!
書き手も知らない事実が判明しました!!

今回は神々の間ということで、キーポイントの一つになります。

お楽しみいただければ幸いです。
書き手の皆様、新作楽しみにしています。
読み手の皆様、コメントいつもありがとうございます。

                           N

144 :(・ω・):06/10/18 16:22:01 ID:Ha4NFQep
>>143
ずーっとエル♀と思ってたけど、143コメント見て読み返してみたら「女」と言及してるところって無いですね。
1人称が「僕」なので、ボクっ子だと思ってますた。
空はカンストして長い私でも、神威とジラミ最終章のとき以外行ったこと無い(空に縁が薄いですorz)ので
これからどういうことになるか興味有ります。

145 :(・ω・):06/10/19 13:10:01 ID:y5fMkAn1
アルテパ砂漠編の追記で、ミストが「僕って、女顔?」と言って
呆然とする場面があるんだが……さて、どう解釈したものか?

146 :(・ω・):06/10/20 16:19:40 ID:liXO2Ys9
なんだろう、どっちの性なのか、元はどんな人物だったのか
そこらへんはN氏のインスピレーションにまかせてただ受身に
読み進めていくのが楽しくてしょうがない。

オススメ。

147 :(・ω・):06/10/21 19:22:25 ID:8jmCFdaM
>>134
俺としては、ミストがちとなよっぽい方が困りもののような
>>135
ときどきエル♀ってことで脳内補完している
に対して
>>143
ミストが実はエルヴァーン女性だったとは!
書き手も知らない事実が判明しました!!
だと思うのだが?

148 :ヴァナディール紀行:06/10/25 22:08:01 ID:NGoeKt1o
ヴェ・ルガノン宮殿

なんとなく、足が向かなかった。
あの地には。
だからこそ、なのか…
ルークは沈んだか顔を隠しきれないミストをいたわるように
手をひいた。

「懐かしいなぁ」
ルークは呟く。
小さな声なのに、高い天上にはよく響いた。
ヴェルガノン宮殿。
何度も何度も、ミストとルークはここに通った。
その時にはいつも多くの仲間たちがいた。
ミストはミスティアノリアと呼ばれ、
ルークはリクルクと呼ばれていた頃の話だ。





「あんたも様になってきたね。リクルク」
LSリーダーの女狩人。
エルヴァーンのトウカに言われて、ルークはちょっと得意そうに笑った。
「まぁな。そりゃ伊達に戦い潜り抜けてねぇよ」
「ミスティアノリアも、おどおどしっぱなしで
最初は本当に大丈夫かって思ったけど。
まぁ、一通りこなせるようになって、後輩の指導まで出来るようになるとは
あんた達、飲み込み早いし、技術も上がってきてるし。
何より努力家で向上心が高い。
いいこった」
ミストは俯いてはにかんだ。
「そんな…。僕なんかまだまだです」
「なにいってんだい。いまや、パーティの守護神とまで言われる
神速の状態異常回復術を持ってるくせに」
「そんなっ。
まだまだ遅いです。
ゼファーやカトゥーの空蝉の術を妨げる敵の攻撃は
即解除したいのに、一昨日も詠唱中断一回させちゃいましたし」
トウカは肩をすくめた。
「一日中戦って、詠唱一回位別にいいだろうに…」
ミストは力いっぱい首を横に振った。
「だめです!!
HNM戦ではそれが命の取りになります。
昨日だって…アーヴィさんを、怪我させちゃって…
パーティの癒し手として…怪我人を出してしまうのは
やはり白魔道師としての力不足です。
怪我人を出さない事が、白魔道師の務めです」
ミストの言葉にトウカは笑う。

149 :ヴァナディール紀行:06/10/25 22:09:56 ID:NGoeKt1o
「おいおい。あんたぁ何処までのぼりつめるつもりだぃ?
他のHNMLSと比べると、死者がうちは段違いなんだよ。
それもこれも、パーティを守る魔道師さま達の腕が良いからだ」
「トウカの姉御。盾の腕はどうでもいいのかい?」
ルークの言葉にトウカは笑う。
「こいつぁ失礼。そりゃ、盾の腕も必要だ。
リクルクみたいなタルナはキッツイかとおもったが、なかなかどうして。
ブーガのおっさんが怪我して退いてから
あんたはうちにゃなくてはならない、一級の盾だ」
トウカの言葉にルークはへへっと笑った。
「タルタル族でナイトなんか
どうかしてるよなぁたぁおもうけどよ。
でも、やっぱ、やりてぇから。
まもりてぇから…。
それに最前線で敵と戦うときは、ほんっとゾクゾクすんぜ」
ミストはその言葉にちょっと不快気な視線を向けた。
「ありえないよ。ルーク。
あんな大きなモンスター相手に、身一つで立ち向かうなんて…。
それこそ簡単に飛ばされて終りな感じするし」
ミストの言葉にルークは笑う。
「はじめはだれだってそうだろうよ。
でも、装備整えて、技術身につけて、戦略おぼえて
ちゃーんと外堀埋めていけば、
そんな怖がる事なんかねぇんだよ。
それにミストはわかってねぇな」
ルークは首を横に振り、ふっと吐息をついた。
「え?」
ミストが顔をあげる。
「身一つで戦ってるわけじゃねぇ。
ちゃんとパーティがあって、仲間は後ろにいるから
安心して俺は敵の前に立てるんだ。
そうでなきゃ、あんなモンスターに突っ込めるかってんだ
お前らいなきゃ、フラッシュなんかできねぇよ」
ルークの言葉にミストははにかむ。
みんなの力になれているんだ、と。
それはそれは幸せそうに、ミストが笑む。
トウカはぱんっと手を叩いた。

150 :ヴァナディール紀行:06/10/25 22:11:42 ID:NGoeKt1o
「さて。またトリガー取り頑張ろうか。
そろそろポップする時間だし、それまで雑魚やりながらまとうか」
「おぅよ。姉御」
ルークは立ち上がり、剣をすらりと引き抜く。
ミストはライトスタッフを背負い、立ち上がる。
その身には青い衣が輝いていた。
「気がつけば…私らいつのまにかに
ヴァナデールで最強の一つといわれる
ハイノートリアムハンターになっちまったね」
トウカの言葉にミストは笑う。
「気がつけばって…前から僕はあこがれてましたけど」
「ふふ。
でも、私はそんな強くなろうとか別に思ったことなかったけどねぇ。
それが、いつのまにかに、ジュノに帰ればいつも凱旋騒ぎさ」
ルークはトウカを見あげる。
「そりゃそうだろう?
俺らが帰れば、競売に高級素材が並ぶからな」
ルークはクッと前を見る。
「んじゃ、行こうか」
「おぅ!」
「やるべな」
「いっくぜー」
口々に漏れる仲間の言葉。
男達の鍛えられらた剣が鋭く振られる。
魔法の詠唱が口々に囁かれ、精霊魔法が敵を襲う。
堅い鎧に、重い攻撃がのしかかる鈍い音が響く。

この頃は、まだはるか未来にある痛みを
ルークもミストも知らなかった。
若い瞳は、ただ前だけを見つめいていた。

未来の惨劇は…彼らの時代を、壊した。
彼らのすべてを、一瞬にして奪い去った。


追記

「なつかしいね」
ミストは、小さくはにかむ。
かつんっという2人の靴音だけがやけに響いた。
白い空間に、ただ敵だけがいた。
「よくここいらで、トリガー取りもやったなぁ。
あんときゃ、若かった」
周囲を見渡すルーク。
「なにいってるのさ。ルーク。
今だって十分に若いくせに」
ミストの突っ込みにルークは肩をすくめ苦笑する。
「だな」
けれどその苦笑は人生の苦渋を知る、
痛みを経た男の顔だった。


         END



151 :ヴァナディール紀行:06/10/25 22:21:31 ID:NGoeKt1o
こんばんわです。
今回は短めです。

本編になるのか・・・・過去編です。
はじめにすみません。
当方お空はまったくもって縁のない生活を送ってまして
LSの方にお空の戦いを見せていただいたり
歩き回りましたが、不備がありましたらすみませんです。

お楽しみいただければ幸いです。
書き手の皆様、新作楽しみにしています。
読み手の皆様、いつも楽しいためになるお声をありがとうございます。

             N

152 :(・ω・):06/10/26 00:14:11 ID:eyWYnwBS
>ヴァナディール紀行の人
今回も楽しかった

>ファントムの人
読み返したら、ため息が出た。これからどうなるの?

153 :(・ω・):06/10/26 11:13:23 ID:ObBOrbNT
ヴァナディール紀行の人へ。

今回の話、個人的にすごく経験ある世界だったので
涙出そうになりました。なんでしょうね。。
よい物語をありがとうございます。

引退して放浪してるのもそっくりだ (´;ω;)

154 :(・ω・):06/10/31 12:23:42 ID:V2gi8Ygs
そろそろ名無しの話が読みたい・・・

155 :(・ω・):06/11/01 00:23:17 ID:szt+9R8P
age

156 :ヴァナディール紀行:06/11/01 12:38:23 ID:glPfLhoh
ル・アビタル宮殿

めずらしく、ワープは一回ですんだ。
こんな時だから、とその皮肉さに笑みが浮んだ。
ボヤーダ樹で摘んだ花を捧げるルークとミスト。
がらんとした空間。
モンスターすらいない、広い広い空間でミストはひざまずき祈りを捧げた。
「変わらない…なぁ。
血の跡すらねぇや」
ルークの呟きにミストは困ったように微苦笑した。
「…そうだね」
目を閉じる。
思い出す。
痛みは今も胸にあった。


麒麟との戦闘。
慣れている戦いだった。
いつもどおり順調に、モンスターと戦っていた。
白虎、朱雀、青龍、玄武を倒す。
多少崩れる事もあったが、
修正は簡単だった。
怪我人は下がり。
白魔道師はケアルを詠唱し
黒魔道師はエアロを詠唱し
召喚師はディアボロを召還し
盾と呼ばれるナイトや忍者が敵の注意をひきつけ戦う。
言葉はいらなかった。
言葉を交わさなくても、意思の疎通が出来る。
そんな仲間だった。



157 :ヴァナディール紀行:06/11/01 12:39:44 ID:glPfLhoh


「余所見すんなっつってんだよっ!」
麒麟にフラッシュを詠唱するルーク。
ターゲットが移った瞬間、仲間のダメージを予想し
ケアルの詠唱準備に入るミスト。
キリリッと弓をひくトウカ。
空蝉の術を唱えるゼファー。
敵の範囲にタッと飛び込みエアロの詠唱を開始するマゥロロ。
バラードを奏でるミノアノ。
リフレシュをルークに詠唱するアーヴィ。
完璧だった。
順調だった。

なのに、その流れがふいに壊れた。
盾役のガルカ忍者のカドゥルが、崩れた。
「え……」
ミストのそばでヒーリングをしていたルークは顔をあげた。
「リクルクっ。すまない。サブ盾に入ってくれ!!」
トウカの指示に戦線に駆け込むルーク。
ミストはルークを視線で追っていると、不意に不吉な声がした。
「くぁっ…ー!」
振り返ると、頭を綺麗にそったヒュム白のキェインがひざまずいていた。
「キェイン?」


ミストがケアルを詠唱する。
ふいにミストにかけられた魔法にミストは戸惑う。
声にしていたはずの、詠唱が不意に止まった。
声が出ない。
詠唱したいのに…固まってしまった咽喉。
ミストにかけられた魔法は、沈黙の魔法サイレスだった。
何故?
誰が?
考えるまもなく、荷物からやまびこ草を取り出し口にふくむ。
麒麟が目前であばれている。
ケアルが入らなければ。
グラビデが入らなければ。
麒麟は目の前で、その力を振りかざし人を襲う。
獣と人、
彼らは今、命をかけた戦いをしているのだ。
ルークが必死に敵対心をあげるが、白魔道師のケアルが入らなければ…
盾役の忍者やナイトが怪我を負う。
倒れる。
そして麒麟の血に濡れた鋭い爪は、後衛に襲い掛かる。
「やべぇ」
額から血を流したルークが、ケアを自分に詠唱する。
ミストもルークにケアルを詠唱するが、スタンでとめたものがいた。
ミストは固まる。
え?
振り返る。
多くの仲間にまぎれてわからなかったけれど。
飛び交う魔法の中…ありえないことが起きていた。

小さな…タルタル族の魔道師が、
人に―仲間にむかい、魔法を詠唱していた。


158 :ヴァナディール紀行:06/11/01 12:40:41 ID:glPfLhoh

何故ー?
どうしてー?
そんな事をしたら、どうなるか…わかっているのか?

戦いはとても危険だ。
気心の知れた仲間と、そして冒険者の最高峰といわれるスキルが無ければ
この空といわれる地に立つ事は出来ない。
人は弱い。
だからこそ完璧に計算している。
敵の行動、味方の役割。
そのすべてを仲間が把握して初めて成り立つ戦い。
人より巨大で強い生き物に剣を向けるとは、そういうことだった。

だが、これはあきらかな…そして過去に無い計算外だった。
誰かが、戦闘中に仲間に対し攻撃魔法を行なうなど…。
「なにを…」
している?!
ふつり、とミストの腹のそこから湧く怒り。
麒麟との戦闘は、高スキルな彼らでも死者が出る危険があるくらい危険なものなのに。
予期せぬ事態に戦闘は混乱し
そして…事態を理解せぬまま戦線は崩れていった。
「ミスティアノリア!ケアルXだ!!」
肩をざっくり抉り取られ、血にまみれたトウカの叫びに
ミストは視線を動かし、茫然とした。

仲間達に襲い掛かる麒麟。
その爪は仲間の血に濡れ赤かった。
多くの仲間が倒れ伏している。
みんなが、血を流している。
苦痛に顔を歪ませて。
ぐったりと横たわり、あるいは
苦悶に血の海で転げまわっている。
一度崩れたものを立て直すのは難しい。
腕を失ったものもいる。
足をえぐられたものも…
周囲すべてが怪我人の中で
誰に、ケアルをすればいいというのか…?
ミストはたっと前に駆け出した。
もう、皆を一気に回復するにはケアルガしかない。
戦線を建て直すには…。
しかし、ミストの足を止める、何者かの魔法バインドがミストの足に絡みついた。
前線にいくことすら許されない、体。
ミストは舌打ちをし、イレースの詠唱を行なう。
あいつを睨む間すら、惜しい。
その間も、血飛沫が飛び、麒麟の牙が仲間に襲い掛かる。
倒れてゆく…。
アーヴィが…マゥロロが。
麒麟の足に踏まみにじられ、その爪に裂かれる。
医術に精通したミストだからこそ…わかる。
倒れた彼らの魂が…その身体からはなれようとしているという事を…。


159 :ヴァナディール紀行:06/11/01 12:41:52 ID:glPfLhoh

間に合わない。
守りたいのに…。
守りたいのに…。
守りたいのに…。
血が滲むほど唇を食い縛ったミストの咽喉から
倒れ伏す仲間達に、吐き出される想い。
「女神の…祝福!!」
ぱぁ…っとミストの周囲がやさしい空気に包まれる。
輝く光の中。
ルークの小さな体がミストの前に飛び出してきた。
「バカ野郎っ!!!!!!」
ミストに襲い掛かる巨大な麒麟を目前に
ミストをかばい、インビンジブルを発動させるルーク。
その小さな背中を、ミストは見ていた。
かばわれる自分が情けなかった。
その瞬間、トウカは最後の力を振り絞り、イーグルアイを叩き込んだ。
もう…無理だとわかった。
崩れたパーティで勝てる相手じゃない。
仲間達は地に伏せている。
麒麟の爪に引っ掛けられ、ルークとミストは空を吹っ飛んだ。
「退却しろっ!!逃げれる奴は逃げろっ!!!」
トウカはその細身の体で麒麟の攻撃を空蝉で避けながら叫んだ。
空蝉の切れたトウカの細い身体は、麒麟の腕に振り飛ばされ、
壁にバンッと叩きつけられた。
ずるずると崩れ落ち、意識を失うLSリーダー。

ミストの意識も遠のく。
目が、霞む。
もう、駄目…なのか…。
死ぬのか?
この凄惨な…地獄のような光景の中
耳を疑うような、声を聞いた。

「みんな…死んでしまえばいい…
薄汚いハイノートリアスハンターなんか…
世界を乱す、悪だ。
死ね…死んでしまえ」

憎しみに満ちた低い低い声は、
ローブを着たタルタルから発せられていた。
タルタルの周囲の空気は
モンスターにも似たどす黒い憎悪で固められていた。
胸が悪くなるほどの…目をそむけたくなるほどの、憎しみ。
タルタルはゆっくりと振りかえる。
そしてワープポイントから消えた。
その口元には、笑みが刻まれていた。

160 :ヴァナディール紀行:06/11/01 12:43:40 ID:glPfLhoh


「ぁ…」
ミストが倒れたまま手を握り締める。
手にはまだ、力が入る。
足にも。
なら、立ち上がれる。
背中から血を流し、ミストは何とか立ち上がった。
「ミスティアノリア、逃げれるか?」
隣でひざまずいていたガルカ忍者のカドゥルは呟いた。
「あぁ。なんとか」
「余力は?」
「……すこしなら」
「トウカを、頼む」
ミストは背中に意識を失ったトウカを背負わされる。
そして、そばに倒れていた血に濡れたルークを抱く。
よろめきながら、息を乱し、
血の流れる唇を食い縛ってワープポイントに向かった。
何故、ミストには手が二つしかないのか。
皆を抱えてこの場を離脱したいのに…
たった二人しか抱えられない。
足元にはいつも明るい笑顔だったヴィラルルが
ぐったりと血を流して倒れていた。
倒れ伏した仲間から目をそむけ、ミストはよろよろと歩く。
そのミストに襲い掛かる、麒麟。
「く…ぅ」
あとすこし…。
あと少しでこの部屋から離脱できるのに。
そう思ったミストの瞳には涙が滲んでいた。
自分の命なんかいらない。
背負ったトウカの命を。
抱いたルークの命を。
みんなの命を。
みんなの命を守るために白魔道師になったのに…。
こぼれ落ちる、悔し涙。
必死に歩いているつもりでも、怪我を負ったミストの歩みは遅い。
麒麟がミストに襲い掛かる瞬間、カドゥルは傷だらけの身体で挑発をした。
「こっちに来やがれ!!」
「カドゥル…ッ!!」
ミストが振り返るその先。
ワープポイントに立って、ミストがその地から消える寸前に…
ミストは、カドゥルの口元の微笑と
微塵がくれを見た。
命をかけた最期のアビリティ…。
麒麟部屋にはもう蘇生を行なえるものなどいないのに。

161 :ヴァナディール紀行:06/11/01 12:44:45 ID:glPfLhoh
「ぁ……」
滲む涙を振り払う。
ここはまだ、安全な場所じゃない。
泣いている場合じゃない。
ミストは荷物から、サイレントオイルを出す。
指がこわばって、うまく背後のポーチから取り出せなかった。
血で、滑る。
首筋を流れる血は、自分の血か、トウカの血かもわからなかった。
それでも、トウカの息遣いが。
ルークの温もりが。
生を感じさせて…ミストに力を与えた。
血の跡を残しながら、ミストはル・アビタル宮殿を後にした。


追記

「俺は意識を失ってて…あんときのことぁあまりおぼえちゃいねぇんだが」
ルークは呟く。
ミストは目を伏せる。
「うん」
「お前はその目で、全部みていたんだな」
ミストは俯いたまま小さくこくりとうなずいた。

倒れてゆく仲間たちの絶叫。
苦悶の表情。
血の海でのた打ち回る仲間たちの壮絶な光景。
目を閉じれば、今も感じられる。

ここが、ミストとルーク…
2人旅のはじまりの場所だった。

           END


162 :ヴァナディール紀行:06/11/01 13:22:20 ID:glPfLhoh
こんにちはです。
あと1話でとりあえず過去編決着つきます。
お話のストックがなくなってきたのでちょっとどきどきですが
まったりアップしてゆきます。

書き手の皆様新作楽しみにしています。
スレを守ってくださるみなさまありがとうございます。
お声うれしく拝見しました。
冒険にはいろいろな形があります。
>>153様、皆様にとって、楽しいヴァナでありますように。

                             N

163 :(・ω・):06/11/01 14:36:24 ID:DXtRJbig
(´;ω;`) ブワッ

164 :(・ω・):06/11/02 03:32:18 ID:o3AlbPyJ
ル・アビタウ

165 :(・ω・):06/11/02 07:57:08 ID:Hx/EB3zb
隊長!ただいまWikiへの追加終了しました(・◇・)ゞ

[やったー!][やったー!]以前にWikiの使い方分からずアップできなかったけど、
勉強に一週間かかったけど何とかアップできたぁ(≧∇≦)

いつもお世話になっている作者様の少しでもお役に立ててたら嬉しいです<(*´ω`)

166 :(・ω・):06/11/02 08:24:46 ID:3l74O2/L
>>165


167 :ヴァナディール紀行:06/11/08 15:02:39 ID:/Q4PuPzz
ル・オンの庭

ル・アビタウを後に二人は、外に出る。
そよぐ風。青い空。
流れる雲と、揺れる草花。
白い建造物の窪みにたまる清水。
ミストの髪を揺らす。

ミストはゆっくりと木の下に近づき、そこにひざまずいた。


だれがいうともなく、集った。
といっても、あれだけの仲間がいて…ここにたどり着いたのは
たった5人だったけれど。
傷だらけのアーヴィがハイポーションやエクスポーションを荷物から取り出す。
「ミスティアノリア、これを」
「はい」
ミストはエクスポーションをトウカの口に注ごうとする。
しかしトウカは唇を開かなかった。
首を横に振った。
いつのまにか、意識は戻っていたようだった。
身体を動かす事は出来ないが。
「あたしは…いい。
生き残れる奴を、助けな。
薬品を無駄遣いするんじゃない。
今回それでなくても…薬品が少ししか…
手に入らなかったん…だから」
きれぎれの声で語る。
今回の麒麟戦でトウカ達はなじみの錬金術師マモリに薬品を依頼していたが
今回に限って、様々な事情が重なり薬品が少なめの戦闘だった。
それでも、勝てるはずだった。
普段どおりなら…。
「トウカさん。あなたを死なせるわけにはいきません。
あなたの命はあなた一人の命じゃない。
カドゥルが何のために…微塵がくれを…」
ミストは呟く。
カドゥルの頼もしい背中と、最期の笑みが今も脳裏に焼き付いていた。
涙があふれる。
トウカはふっと笑った。
「あんた…相変わらず泣き虫だねぇ」
トウカの細い指が、ミストの頬をすくう。
こぼれる涙をぬぐわれて…。
ミストは唇を噛んで俯いた。
「あんたがやることは泣く事じゃない。
あんたは休んで、…仲間を回復させることだろ。
何のための、白魔法だ…」
苦しそうに笑むトウカにミストはコクンとうなずいた。
もう、ミストの精神力はつきていた。
それでもヒーリングして。


168 :ヴァナディール紀行:06/11/08 15:07:23 ID:/Q4PuPzz

皆が怪我人で。
みんなが血を流して。
ミストも血を流していて。

トウカの呼吸が荒くなる。
「あぁ…風がきもちいいねぇ」
この血濡れの場に不似合いな言葉が呟かれた。

ミストは魔力をためながら周囲を見渡す。
アーヴィは恋人のビィアルーンの手当てにいそがしい。
そして、ミストが唱えられるケアルはあと一度。
出来て二回だ。
それ以上は精神力が…―体力が持たない。
そして、そのケアルがあれば…ルークは助かりそうだった。
トウカはその二回のケアルでもあやしい所だ。
ルークとトウカの傷の具合をミストは見る。

ルークを選べばルークは確実に助かるが…トウカの命は…。
トウカを選べば…奇跡でも起きない限り二人は助からない。
トウカの身体はそれほどずたずただった。
肩を裂かれ、全身を強打し…骨も折れているだろう。

どちらに…
ミスト自身の傷が少なければ。
精神力が…体力があれば、
ル・アビタウに戻って仲間達のレイズも行なえるのに。
誰も、黄泉の国へなんか送らないのに。
血が流れ、ミスト自身の体の力が失われていくのが自分でもわかった。
悔しさに噛み締めた唇から、さらに血が流れた。
ミストは自分の力なさをこれほど憎んだ事はなかった。
泣いて体力の無駄遣いをしている場合じゃない。
わかっていても、涙はあふれた。
体に、少しずつ魔力に満ちてくるのがわかる。
ケアルを詠唱できる。


169 :ヴァナディール紀行:06/11/08 15:08:19 ID:/Q4PuPzz

どちらを…。

ミストが手を差し伸べる。

トウカに。

トウカの頬に指で触れ、トウカの唇に触れ。
トウカの呼吸にふれる。
ミストの血の気の失せた唇から、漏れる言葉。
「ごめんなさい…ごめんなさい。ごめんなさい」
ミストは涙をこぼしながら、呟いた。

そして
ミストはルークの口にエクスポーションを注ぎ
ケアルを詠唱した。
輝く光。
生命の命の光がルークに注がれる。
ルークの傷が見る間に閉じてゆく。
ケアルX。
高位な白魔道師のみが詠唱できる魔法。
ルークの睫が揺れる。
浅い呼吸が乱れ、深い呼吸に変わる。
もう、ルークは大丈夫。
そう察した瞬間、ミストはすべての力を使い果たし、
崩れるように倒れ、揺れる草に頬を埋めた。

「僕が…トウカさんを…」

殺してしまうんだ…。
ミストの乾いた唇が小さく言葉を刻む。
ミストの声にならない言葉。
トウカを選べなかった。
選ばなかった。
ミストはトウカを助けられたかもしれないが
それでも、確実に助かる命。
ルークを選んだ。
ミストが目を閉じる。
そこだけ熱があるかのように
熱い涙が、草の上に流れ落ちた。
さわさわと、ル・オンの庭の草花は何処までも平和に揺れていた。
「…ーばかな子だねぇ、
…自分を責めるもんじゃ、ない…のに」
トウカのきれいな指がかすかに動いて
倒れ伏したミストの頭を撫でる。
ミストにその声はすでに聞こえなかった。
力を使い果たし、ミストは意識を失っていた。



170 :ヴァナディール紀行:06/11/08 15:09:33 ID:/Q4PuPzz



ルークは目を覚ました。
小さな体が、動こうとして…
普段は感じられない鎧の重さに身動きが出来ず、
震える指で鎧の留め金をはずした。
そしてやっと身を起こす。
周囲を見渡し、表情が凍った。
「…姉ー御…?嘘…だろ…」
血に濡れてなお美しい狩人のトウカ。
口元に笑みを刻んで、トウカは呼吸を止めていた。
レイズを…。
そう思っていても、ルークの魔力もすでに空だった。
おなじように倒れ伏す、ミスト。
「なんでっ!!俺は守れなかった?!」
拳が、土に突き刺さる。
わからない。
ルークには何が起ったのか、わからなかった。
麒麟部屋の中で、崩れていった後衛。
後衛が倒れれば前衛も倒れる。
乱れる戦線。
そして、倒れる仲間と、悲痛な悲鳴。
「アーヴィ!一体何があったんだ?!」
アーヴィと呼ばれた、赤魔道師は
すでに息を引き取った恋人を抱きしめ、放心していた。
ルークはよろよろと立ち上がる。
「ちっくしょおおぉおぉぉぉ!
誰か――…!!
…誰かっ、助けてくれええエエェェ!!」
平和な空に響きわたる絶叫。
血を吐くような叫びが虚空な空に木魂した。
そしてルークはひざまずいた。









その叫びに応えた者がいた。




171 :ヴァナディール紀行:06/11/08 15:12:06 ID:/Q4PuPzz
「どうか…したのか?」
シルバーブルーの髪と
夕暮れの一番深い青い瞳を持つタルタルの白魔道師がひょっこりと顔を出す。
その背後には、ガルカナイト。
そして。暗黒騎士とエルヴァーン詩人、ミスラシーフにタルタル黒魔道師が立っていた。
「あ……」
彼らはルークたちを見て、顔を歪ませた。
「ひでぇな」
くっとガルカに顎をしゃくり、タルタルの白魔道師はレイズVをトウカに詠唱する。
ガルカは大きな身体を屈めて、ミストの傷の具合を見る。
「怪我人は…これだけか?」
「いや…奥に…。
麒麟と戦ってた所に…」
多くの仲間がまだ…そこにいる。
「わかった」
ガルカはうなずいて、仲間を率いて手当てに奔走してくれた。

「助かった奴を、デジョンで運び出してくれ。
アムスレムス」
「はいっ」
黒魔道師が、パーティを編成し始める。
「あんたがトップだ。タルナさん。
あんたがジュノに飛んで皆を手当てしてやってくれ…」
「俺はリクルクって名前が…」
白魔道師の言葉に反射的に反抗したルーク。
その言葉に暗黒騎士が口笛を吹いた。
「ひゅー。
かの有名なリクルク様ってことは、
あんたらHNMハンターのチームじゃねぇか。
それもトップクラスの」
「無駄口叩くな。さっさと手当ての準備しろ」
タルタルの言葉にへーへ―とうなずく暗黒騎士。
タルタルの白魔道師は、まっすぐにルークを見つめた。
「安心してくれ。可能な限りの蘇生は行なう。
そして…、蘇生が難しい者の弔いもやっておく。
お前さんも怪我も、相当深いからな。
今動き回れば、あんたも命がヤバイ。
ジュノで休んでいたほうがいい。
ほんとは立ってるのもやっとなはずだ」

172 :ヴァナディール紀行:06/11/08 15:13:12 ID:/Q4PuPzz
白魔道師に言われてルークは膝を落とした。
首を横に振る。
「いやだ。俺も、皆の所へ…。
俺は聖騎士だ。レイズもケアルの詠唱も出来る!
みんなを守るんだ…みんなを…」
いいながら、ルークは立ち上がって
ル・アビタウ宮殿へ向かおうとするが、
すぐ膝が折れた。
その小さな身体を力強く支えるのは、暗黒騎士だった。
「あんたの命を救うために…
戦った後衛がいたはずだ。
あんたの怪我を癒した跡がある。
そこの白魔じゃねぇのか?
そいつの気持ちを、無視をするのか?」
暗黒騎士は、くいっと指で蒼白の顔色で倒れるミストを指した。
ルークは倒れたミストを見た。
ミストは眉をきつく寄せ、
最期の最期まで力を使い果たしたというように疲弊しきった表情だった。
そして、…ミストの血の気の無い頬に涙の跡を見た。
ルークだって頭ではわかっている。
ここにいても、自分が役立つ事はないと。
ルークは暗黒騎士の鎧にカシャンとすがりついた。
「…ー頼む……みんなを、みんなを頼む―」
ルークの咽喉から、絞りだされる声。
必死なまなざし。
暗黒騎士は力強く頷いた。
「あぁ、全力はつくす。約束する」
暗黒騎士の言葉にほっと息をつき、ルークは空を見あげる。
「デジョンUを、詠唱いたします!」
ルークの周囲を黒魔道師の魔力がつつむ。

ルークが見あげたル・オンの庭の空はすみわたっていて…

憎らしいほど綺麗だった。


追記。

「ここ…だよね」
ミストが、草花の中に手を埋める。
トウカが倒れていた、場所。
「多くの仲間が逝った。
でも、そばにあの有名な白魔道師がいてくれたおかげで
助かった奴も…」
ジュノではあまりに数の多い怪我人に、上層の医師は大変だった。
傷だらけで、皆が死線をさまよった。
それでも持ち前の強靭な体力と精神力で
なんとかこのヴァナディールで生き続けている仲間達もいる。
後から知った話しだが、ミスト達を救ってくれた者達は
ただの冒険者ではなかった。
メンバーが少ないのでHNMなどはやらないが、
高いスキルを持つカリスマ的なチームだった。


173 :ヴァナディール紀行:06/11/08 15:14:41 ID:/Q4PuPzz

それでも、ミストの心と体に負った傷は深かった。
守りきれなかった、命も多い。
半数以上が…この地から天に帰っていった。
そして、それは自分達の力のなさゆえだった。
二人は自分を責めた。
とくに白魔道師のミストは、自分を責めた。
白魔道師として優秀だと仲間に誉められ、そして頼られながら
実際にはこのざまだった。

ミストは異変に気がついていた。
異質なる存在。
不穏の空気。
『奴』の存在に気がついていて、止められなかった。

ミストは今もあの謎のタルタルの存在に恐怖を感じていた。
笑いながら人を殺せる、者。
人を殺そうとする、憎悪。
卑怯な手段で手をくだすことをいとわない、激しいまでの憎しみ。
あれは、誰か個人への憎しみではない。
ミストたちすべての仲間に…人に、向けられた憎しみだった。
その、恨みとも言える感情は、ミストには恐怖だった。

そして、ミストたちのHNMLSは解体した。


生き残った仲間たちや、別のLSに所属するものたちが
ミストやルークの腕を買って誘いも多かった。

けれど戦いはあの日を思い出させ、
ミストもルークも戦いの中では眠れぬ夜を過ごした。
ミストとルークは、
守りきれなかった多くの仲間の生命が重くのしかかっていた。
戦いを拒絶する心をお互いは認めた。

そして二人は名を捨て、仲間と袂を別ち、
自分のジョブを変え、街を捨てて
荒野で生きる道を選んだ。
毎日命が擦り切れるようなギリギリの戦いの日々を捨て
のんびり釣りをし、合成スキルを磨き
今日釣った魚で、腹を満たし
人と関わらず、星の下で眠る道を選んだ。


174 :ヴァナディール紀行:06/11/08 15:15:59 ID:/Q4PuPzz

静かで穏やかな時は、彼らの心の傷を癒していった。


「二年…ぶり。かな」
この地をずっと避けていた二人。
あの惨状は、あの時の白魔道師達に清められ、弔われ
そして、何事もなかったかのようにいま、綺麗な草花がここにあった。
あの悲惨な現実が、夢だったかのように。
「だな」
「もっと、早くきてあげればよかった」

ミストは、祈りを捧げる。
ルークはゆっくりと周囲を見渡す。

あの時と同じように、
空はどこまでも青く、風は涼やかに吹いていて
ル・オンの庭はどこまでも綺麗だった。

                 END



175 :ヴァナディール紀行:06/11/08 15:19:18 ID:/Q4PuPzz
こんにちわです。
過去編終了です。
ちょっとしたおまけはわかる方だけにやりとしていただければ
幸いです。

>>165様 ありがとうございます。
記録に残していただけると、私もとてもうれしいです。
感謝を。
そして、今回も誤字チェックありがとうございます。
書き手の皆様、新作楽しみにしています。
読み手の皆様、スレを守ってくださりありがとうございます。

                      N

176 :(・ω・):06/11/08 16:11:16 ID:K9n2dVuF
うはーーー、アノヒトタチキテルーーーー━━━━━(゜∀゜)━━━━━

177 :(・ω・):06/11/08 16:18:26 ID:tNO6xbz1
最初は「ちょっとしたおまけ」の意味が分からなかったが読み直して気がついたぜ! /grin

178 :( ゚Д゚) :06/11/08 20:24:02 ID:s8fzsAgS
ちょっとしたオマケ
キタ━━━━(°Д°)━━━━!!!!
キタ━━━━(°Д°)━━━━!!!!
キタ━━━━(°Д°)━━━━!!!!

179 :(・ω・):06/11/09 05:46:04 ID:azy2/FcQ
雪の彼方か
懐かしいねぇ

180 :(・ω・):06/11/09 11:49:22 ID:rJLAHddA
おいらはオマケの意味が、、、?

181 :(・ω・):06/11/09 11:51:31 ID:rJLAHddA
あ、そ〜いうことか、、、orz

182 :(・ω・):06/11/09 12:35:40 ID:ijSud5Zt
やっぱ同じ作者さんだったのね。
この前、雪の彼方を読み直して、何となくそんな感じがしたんだよなぁ。


183 :(・ω・):06/11/14 03:10:35 ID:wf3Parak
0時に…紀行チェックしにきて
おまけの意味が分からずに雪の彼方を探して読んできたら3時!!
明日起きれるかなwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

彼方も紀行もいい話だー…作者さんのキャラが、世界観が気持ちいいなぁw

184 :(・ω・):06/11/14 17:38:03 ID:Nt6Q9nqW
俺はアムスレムスでわかった(゚∀゚)

185 :(・ω・):06/11/15 11:28:30 ID:rUrWIacH
>>184
ヽ(・∀・)人(・∀・)ノ
俺もアムスレムスでわかったヽ(´ー`)ノ


書き手の皆様、無理しない程度にがんばってくらはい〜。

186 :(・ω・):06/11/16 11:49:54 ID:gFxqz2J7
アムスレムスのその後みたいなのが分かって嬉しかったぁ〜^^
もう一人で街灯ボランティアしたり、帽子で顔を隠さないでいいのね(つД`)
リノナノ達のPTで堂々とD2してる姿を思ってニヤニヤしてしまったw

Nさん今回のおまけありがとぉ(*゚∇゚*)
一つ気になったけど、リノナノのレ3受けてもミスラさんはダメだったのね・゚・(ノД`)・゚・
ミウには効いたのにぃ 神様のイヂワル・゚・(ノД`)・゚・

そしてWiki追加しておきます〜(・◇・)ゞ

187 :(・ω・):06/11/16 12:09:51 ID:gFxqz2J7
はっ 今読み返したらトウカはエル♀だった('-'ノ)ノ
何故かミスラのイメージがorz

Wiki補完しました!

188 :(・ω・):06/11/16 15:03:09 ID:tez/L5AA
狩人ってトコと、言い方、仕草からミスラって雰囲気があると思う。
実は俺も最初ミスラとイメージして読んだ口だ!(゚∀゚)

189 :暁のひとみ3:06/11/20 13:15:56 ID:yP8kV1IZ
「見つけたって……タチナナをか?」
 つぶやきが、早朝の街路に落ちてはね返った。
 安堵よりも、信じられないという思いが先に立つ。ローファルは、朗報を
もたらした男をまじまじと見下ろした。視線の先で、男は肩をすくめてみせる。
「それ以外の、だれの話をしてると思うんだ?」
 立ちならぶ建物の間から、太陽がゆっくりとその姿を見せる。ローファルの
視線の先で、男がわずかにまぶしげな顔をした。街を包んでいた霧は薄れ、
日の出とともに、ジュノはそのあざやかないろどりを取り戻しはじめていた。
「俺もまだ、当の本人を確認したわけじゃないんだが」
 男は、そう言いながらふところを探り、小さな麻布を取りだした。湿気を
嫌ってだろう、意外に丁寧な手つきで竪琴の弦をぬぐい、皮袋にしまいこむ。
「ジュノ親衛隊員で、各区出口近くのクリスタルを警護してる面子がいるだろう?
その詰め所で聞いてみたら、昨日の晩、下層に転移してきてたって話だ」
「おい、そんなことがわかるものなのかよ? 夜だけにしたってあそこに
戻ってくる奴なんて、一人二人じゃきかないだろうに」
 男が肩をすくめてみせた。
「治安維持の関係で、いちおう記録を取ってるらしいな。素性はシグネットの
波長だかで勝手に照合してるんだとさ」
「……それこそ、俺たちが聞いて、ほいほいと教えてもらえるような話か?」
「そのあたりはまあ、なに、よくまわる舌が売りの仕事なんで」

190 :暁のひとみ3:06/11/20 13:16:39 ID:yP8kV1IZ
 悪びれず言ってのけた男に、黙っていたタキが深いため息をついた。
「吟遊詩人というジョブに、誤った印象を抱かせるような発言はやめてください、
フェッロ。それに……それが本当だとして、よく似た名前の別人ってことは
ないんですか? 無事ジュノに戻ってきていたなら、リンクシェルに連絡くらい
あるでしょう」
 抑えた声が、街路の石畳に落ちる。
「……そもそもタチナナは、移動魔法を使えなかったはずです」
 タキの明るい茶の髪が、うつむいたほほに落ちかかってその表情を覆い隠した。
 フェッロと呼ばれた男は、タキに目をやり、ふっと真顔になった。
「ああ…おまえが離脱したときの話からすると、そうなんだろうな」
 無造作に切られた黒髪を指先でひっぱりながら、考え深げにつづける。
「だからって、転移ができないと思うのは早合点じゃないか? それなりに
功績を上げてる冒険者なら、ガードから帰還の呪符の交付を受けられる。あれの
いいところは魔法とちがって、使用者がどんな状態であろうと発動するって
ことだ。たとえ意識がなかろうと、瀕死の重傷だろうとね。これなら、
死体がない、本人から音沙汰もない、って話ともつじつまが合う」
 タキがわずかに眉を寄せた。
「それは、タチナナがそういう状態だと言ってるんですか」
「ああ、いや、そうじゃない、…ただ」
 そこで、フェッロがわずかに言いよどむ。
「なんというか……ちょっと様子がおかしかったらしくてな。その時の
張り番が人のいい奴で、持ち場を離れて、ほれあの、モンブロー医師の
診療所まで連れていってやったって言ってたよ。……命に別状がないってのは
たしかだと思うんだが。そいつから聞いた様子が、どうも気になってね」
 フェッロがためいきをついた。かるく両手を広げてみせる。
「ま、こんなところでああだこうだ言ってても始まらないだろう?」

191 :暁のひとみ3:06/11/20 13:17:20 ID:yP8kV1IZ
「そうですね。…とにかく、診療所へ行きましょう」
「ああ、で、そっちの兄さんはどうするね?」
「俺も……あ、いや、ちょっと先に行っててくれ」
 向けられた視線にうなずこうとして、ローファルは思い直した。
モグハウスへと引き返す。
 射し入る朝日のなか、窓辺におかれたテーブルにつっぷして、年若い
修道士はいまだうたた寝を続けていた。
「おい、ミシェル。起きてくれ」
 ローファルは、眠る娘の肩に手をかけ軽く揺さぶった。白銀の髪の間から
のぞくとがった耳が、ぴくりと動く。わずかの間をおいて、同族の娘は飛び起きた。
「す、すみません! すっかり寝入ってしまって……」
「いや、それはいいんだが、ちょっと出なきゃならなくなってな。タチナナが
見つかったらしい」
 手短に事の次第を説明すると、恐縮していた娘の表情が、安堵と感謝の
それに変わった。うつむき、小さく女神への謝辞をささやく。
「ともあれ、戻っていらしたんですね。ああ、アルタナ様……!」
 ローファルは、リピピの休む寝台へ身をかがめた。こんこんと
眠りつづける様子に、この時ばかりはほっとする。
「それで、疲れてるところ悪いんだが……」
「ええ、リピピさんの様子は私が看ています。どうぞ、行ってきてください」
「悪いな、頼む」
 しっかりとした口調で言われ、ローファルはかるく頭を下げた。


192 :暁のひとみ3:06/11/20 13:17:40 ID:yP8kV1IZ

 開診には少し早い時間だったが、開錠されていた診療所の扉を開ければ、
待合室にはすでに数名の患者の姿があった。受付の娘に用件を告げると、
奥からエルヴァーンの青年医師が顔を出す。ローファルたちを見て、その
面差しに人の良さそうな笑みが浮かんだ。
「ああ、あのお嬢さんのお仲間の方ですか。どうぞ、入ってください」
 手招かれ、診察室からさらに一つ奥の部屋へと通される。医師が扉脇の
ランプに灯をともすと、カーテンが引かれたままの室内が、やわらかな橙色の
ひかりに浮かび上がった。
 明るくなった部屋の中、壁に頭側の端をつけて三つ並べた寝台のひとつに、
半身を起こした小さな人影がある。
「……タチナナ?」
 娘のまぶたは半ばほど開かれていた。青灰色のひとみに、壁の灯りが
映り込んでいる。いつも頭の上で二つにまとめている栗色の髪こそほどいて
いたが、見間違えるはずもない、昨夜はぐれた仲間の姿だ。けれど、
なんともいえない違和感に、知らずローファルは眉をひそめた。重ねて声をかける。
「……起きてるのか?」
 動きのない彼女に、わずかにこわばった表情でタキが歩み出た。体を包む
シーツからのぞいた肩に、そっと手を触れさせる。ふり返り、後ろに控えていた
医師がうなずくのを見て、そのまま軽くゆさぶった。
「タチナナ、……タチナナ?」
 娘は何の反応も返さなかった。揺れた拍子にかすかに上向いた顔が、
ぼんやりと中空を眺めている。
 医師が寝台の脇に歩み寄り、軽くタキの肩に手を触れた。

193 :暁のひとみ3:06/11/20 13:18:02 ID:yP8kV1IZ
「外傷は足首を多少傷めていただけで、それはすでに治療済みです。
ただ……ご覧の通りの容態でして」
 医師は、わずかに言葉に迷うそぶりを見せた。
「……意識がないわけではないんです。口に水を含ませれば嚥下しますし、
手を引けばついて歩きもします。念のために覚醒レベルの検査もしましたが、
異常はありませんでした」
「それじゃ、いったい…」
「わかりません。何らかの事故に遭ったショックで、一時的な放心状態に
陥っているのかもしれませんが……」
「あの、先生」
 診察室から、受付にいた娘の控えめな声が割って入った。
「どうしました?」
「また、そちらのお嬢さんのお連れだとおっしゃる方たちがお見えに
なったんですけど、そのう…」
 歯切れの悪い様子に、医師はこちらへ目礼をひとつして、診察室へと
戻っていく。とたん、扉の向こうから、何かぶつかるような物音と、
あわてた声音が飛んできた。
「わ、ダメですってば、走っちゃ!」
「きみ、無理に動いちゃいけない! 今案内するから…」
 ただ事ではない様子に、ローファルは診察室に続く扉を開いた。
 ほぼ同時に、転がりこむようにして小柄な影が飛びこんでくる。
身を引こうとするも間に合わず、ローファルの足にぶつかった相手は、
小さく叫びを上げて床に倒れこんだ。
 転がったつば広のとんがり帽子、こぼれて散らばった黒髪に、ローファルは
ぎょっとした。

194 :暁のひとみ3:06/11/20 13:18:43 ID:yP8kV1IZ
「……リピピ!?」
 うずくまった娘のかたわらに、慌ててしゃがみこむ。
「おい、大丈夫か」
 はたして、のろのろと顔を上げたのは、休んでいたはずの彼女だった。
乱れた髪が血の気の失せたほおにふりかかって、寝台に座る彼女の妹よりも
よほど顔色が悪い。
 息を整える間があって、意外にしっかりとした声が、そのくちびるから漏れた。
「ファルさん……タチナナは?」
「……あんたな。人の心配する前に、今自分がどういう状態なのかわかってるか?」
 思わず声音に険がこもる。
「わかってます。悪くしたって命にかかわるようなことはありません」
 苛立ちを抑えようと、ローファルは息を吐きだした。
「そういう問題じゃないだろ……」
 ついてきていたミシェルが、いたたまれない面持ちで頭を下げた。
「すみません。……お止めしきれなくて」
「ミシェルさんのせいじゃ、ありません。わたしがどうしても行きたいって言ったんです」
 ローファルは舌打ちをした。床についたリピピの腕を取り、抱え上げる。
「おい、つかまれ。…タチナナならそこだ」
 寝台の横に下ろすと、すぐにリピピは妹の異常を察したようだった。
くり返された医師の説明に、顔色がなお青ざめる。
 しばらくの沈黙の後、気丈な声でリピピが問うた。
「つまり、こちらではもう…できる限りのことはしていただいた、ということですね?」
 申しわけなさそうな面持ちでうなずいた医師に、ふるえる息を飲みこみ、
リピピが頭を下げる。
「ありがとうございました…モンブロー先生。妹は、わたしが連れて帰ります」
「どうするつもりだよ」
 ローファルを、リピピが青ざめた顔色で見あげた。
「いっしょに、ウィンダスへ戻ろうと思います。精神的なショックでこんな
状態になっているのなら、しばらく腰を据えて静養することになるでしょうし。
それにもしかしたら、わたしたちの知らない重篤な呪いなのかもしれません。国に、
その筋に詳しい恩師がいるので…」

195 :暁のひとみ3:06/11/20 13:19:01 ID:yP8kV1IZ
「……なあ、ちょっといいか?」
 やわらかなテノールが、娘のことばにかぶさった。
「フェッロ?」
 タキが怪訝な声を上げた。それまですみに控えていた男が、寝台へ歩み寄り、
間近にタチナナをのぞきこんだ。
「少し、気になることがあるんだが。…そこの修道士さんはどう思う?」
 突然投げられたフェッロの視線に、ミシェルが驚いた顔をする。
「なにか、感じないか。いや、俺も正直自信がないんだよな…
めっきり、そういう方面の勘はにぶっちまったもんでね」
「フェッロ。気づいたことがあるなら、はっきり言ってください」
 思案顔でフェッロが口を開く。
「俺の知り合いで、依頼で古墳に潜ったあと様子のおかしくなっちまった
奴がいてな。最初は、気づけばぼんやりしてるくらいだったのが、だんだん
ひどくなって、しまいには戦闘中でも突然呆けるようになった。やっこさん
自身も危なっかしいと思ったらしくて、当時組んでたパーティを抜けて、
しばらくは合成でなんとか食いつないでたそうなんだが……」
 顔色の悪いまま、ゆらりと体の傾いだリピピが視界に入って、ローファルは
思わず顔をしかめた。その肩に手をかけ、寝台に座らせる。顔を上げると、
こちらを見ていたフェッロがおもしろがるような顔つきで、片眉を上げてから続けた。
「ある日、そいつはとある呪物の合成依頼を受けた。頼んだやつと
いっしょにサンドリアへ行って、免罪官のところでその合成を始めた瞬間…」
 パアン、とフェッロは両手を打ち合わせた。タキに目をやる。

196 :暁のひとみ3:06/11/20 13:19:39 ID:yP8kV1IZ
「もうオチはわかっただろ? 例の発作が出て、材料はおしゃか。
そのショックもあってか、そいつはそのまま昏倒して…そう、ちょうど
そこの彼女みたいな状態になった」
「……それで、どうなったんです?」
「結論から言っちまうと、そいつはどうやら、古墳で悪霊を拾って
きちまってたらしい。倒れた場所が、サンドリア大聖堂だったのが
よかったんだな。介抱した坊さんが気づいて祓いをやってくれたおかげで
助かった。…ま、割っちまった材料の弁償に教会への喜捨だので、
しばらくは借金生活だったみたいだが。で、そこの修道士さんに、
そういう気配がないかどうか聞いたってわけ」
 肩をすくめ、フェッロは話をしめくくった。
 タチナナのそばで膝をついていたミシェルは、迷いをのせた声音で首を振った。
「すみません……私の力量では、なんとも。この街の女神聖堂でも…あそこは、
布教と人々の日々の祈りのための場所ですから、さしてお役に立てないのでは
ないかと思います」
「ふーむ」
 あごに手を当て考え込む様子を見せたのち、フェッロはリピピの前に
かがみこんだ。目を合わせるようにして、尋ねる。
「なんだかんだ言っても、俺は部外者だからな。お嬢さんはどうしたい?」
 リピピが寝台から降りた。まっすぐにフェッロを、そして他の面々を見あげる。
「サンドリアに、行こうと思います。今の時点では、フェッロさんの推測が
一番状況に即しているように思えるんです」
 すうと息を吸って、リピピは深々と頭を下げた。
「でも、いまのわたしとタチナナでは、正直サンドリアまでの移動も厳しい
ことは重々承知の上です。ファルさん、タキさん。……手を貸してくれませんか?」

197 :暁のひとみ3:06/11/20 13:21:00 ID:yP8kV1IZ
「もちろんです。もともと、タチナナが俺をかばってくれてのことなんですから」
「あんたは遠慮しすぎなんだよ。ここまできて、あとは知るかってほっぽり出すと
思われてる方が不快だぞ」
 呆れも込めて、ローファルはためいきまじりに告げた。
「おー、いいねえ、熱いねえ」
 ちゃかすような声音に、ローファルは険をこめてフェッロを見やった。
視線の先で、にやりとフェッロが笑う。
「それじゃ、俺も、護衛ツアーにおつきあいさせてもらうかな」
 あわててリピピが首をふる。
「そんな、タキさんのお友だちにそこまでしていただくわけには……
病人連れじゃ、チョコボの足でもどれくらいかかるか」
「そんなにかからないって。ラテーヌまでは、俺がテレポで送るし」
「……あんたがか!?」
 あっさりと答えたフェッロに、ローファルは思わず声を上げた。足もとでは
リピピも目を丸くしている。
 吟遊詩人が、補助的に白魔法の修練を積むことはめずらしくない。それでも、
各種テレポとなれば話は別だ。サンドリア教会の秘儀とされるそれらの呪は、
習得の難度もさることながら、まず白魔道士として長く修行を積んだ者であっても
軽々しく授けられるものではなく、まれに競売に流れるスクロールには破格の
値が付いているような代物なのだから。
 知らず疑うように見ていたらしく、フェッロが苦笑してみせた。
「俺の古巣はサンドリアでね。修道院で修行を積んでたこともあるから、そのへんは
安心してくれていい。たぶん、彼女を看てくれる修道士も紹介できると思う」
 我に返るのは、リピピのほうが早かったらしい。
「すみません、驚いたりしてしまって。助かります、フェッロさん」
 ぺこりと頭を下げた彼女に、フェッロが笑ってかるく手をふった。
「や、そんな恐縮されるほどのことじゃないって。まあ、そういうことで
ひとつ、よろしくな」

198 :暁のひとみ3:06/11/20 13:21:37 ID:yP8kV1IZ

とてもとてもお久しぶりにお邪魔します。
背中合わせの明日 第四話「暁のひとみ3」です。
書き込んだあとでいつもあそこをああすればー!と後悔すること
しきりですが(きっと今回も)。推敲を繰りかえしていても
キリがないだろうと自分に言い聞かせつつ…

どんどん新しい要素が追加されていくヴァナディールを遊び尽くすのに夢中で、
この世界にはまっている時ほど筆が進まないというのも皮肉な話ですが。
みなさんにとっても、ヴァナが楽しく魅力に満ちた場所でありますよう。

> ヴァナ紀行様
読んでいて涙腺がゆるみました。いつもののんびりな空気も大好きですが、
臨場感と読み応えにあふれた今回もおもしろかったです。
過去編の次も楽しみにお待ちしております!

199 :(・ω・):06/11/21 12:04:28 ID:hLqnPNLz
ぬう。
またまた良いところで終わっていますなぁ。
続きをダルメルになってお待ちしていますよ。

ヴァナか・・・、しばらくインしてないなぁ。
チョコボはもう大人になっているだろうか。

200 :(・ω・):06/11/21 16:25:00 ID:XhDOkjCx
>>199
つ【カリカリクポー】

201 :(・ω・):06/11/22 00:53:19 ID:WmWHvS+6
>200
世話してもらえなくて
えさをもらえなくて
飢えてガリガリになって
それでも>199のことを待ってるチョコボを勝手に想像…





するんじゃなかった…Or2

202 :(・ω・):06/11/22 01:02:42 ID:9RPsmBwg
暁のひとみキテル〜(≧∇≦)
続き気になってましたぁ!そしてまた気になるとこで・・・w

なんだかリピピが成長したというか、すごい大人なしっかりさんになったイメージがww
一瞬古墳クエのお姉ちゃんみたいになるのかと思った・・・
赤い血滴る生肉食べる[タルタル]・・・想像すると怖っっ|゚Д゚))ガクガク
またまったりと続き待ってます!


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