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涙たちの物語9 『旅の果てに』
- 1 :(・ω・):05/08/12 02:10:23 ID:/h3eIQel
- ヴァナディールを舞台にした物語を語るスレです。
あなたの中にあふれる物語を聞かせてください。
前スレ:
涙たちの物語8 『旅の始まり』
http://yy10.kakiko.com/test/read.cgi/ff11/1105231828/
倉庫等(現役稼働中):
(Wiki)http://kooh.hp.infoseek.co.jp/
歴代スレや旧倉庫は>>2あたりを参照。
次スレは、400k越えたあたりで、宣言→立て→告知を願います。
※この板の転送量限界は512kなので、早めに対応しましょう。
- 39 :アイテム物語No.1(01/14):05/09/03 03:34:29 ID:QitJXKBM
-
グルオオオオッ!
有翼獅子の咆哮が熱砂に轟く。
橙の体毛の巨躯は疾走し、その腕が鉄槌の如く振り回して魔獣は
猛り狂っていた。
薙ぎ散らされた騎士たちの奥、騎乗した兵たちに守られながら、
そのエルヴァーンの女は魔獣を見遣る。チョコボが引く車に乗り、
その上に毅然として立っていた。
強い陽光にさらされた彼女の瞳の色が透け、そこに不思議な輪を見せる。
「王」
騎士の群れの中からひとつの声があがった。
「聞けませぬ」
女は先を聞かずにそう言い、声の主に向かってわずかに笑みを見せた。
白い陽除けのヴェールを頭に頂き、薄くしかし豪奢なローブを
纏った女は、躊躇わずに魔獣を指差した。凛然とした美しい顔立ちは
太陽に彩られ、さながら戦乙女かと見まがう神々しさに包まれていた。
「フォンブルール・S。私が退くことなど」
「いえ」
フォンブルールと呼ばれた騎士は応えながら、外套につけられたフードを
後ろに落とした。
銀色の長髪を後ろで一つに束ね、小冠を戴いた鋭利な面が露わになる。
ぴんと伸びた耳はエルヴァーン族の特徴を現し、切れ長の瞳をさらに
細めて、彼はチョコボの背から降りると女に一礼した。
「天蓋を降ろしていただければ、それで」
そう言うと確認もせずに振り向き、暴威を撒く有翼獅子に眼を向ける。
- 40 :アイテム物語No.1(02/14):05/09/03 03:35:40 ID:QitJXKBM
-
すらりと腰から抜いた佩剣は、簡素ながら落ち着いた刃。それを
眼前に捧げ、彼は小さく何事かを呟いた。
砂を蹴る。
マンティコアの凶爪が年若い騎士の首を薙ごうとした、正にその時。
魔獣の懐に躊躇い無く跳び込んだ男は、勢いもそのままに、左腕に
据えた青い盾を全力で振り抜いた。
オオオオオオオッ!
マナを伴った強打は魔獣の側頭に吸いこまれ、その巨体が大きく傾いだ。
「参る」
冷徹な声とともに挑発。純粋な敵意の塊をマナに変えて撃ちだす
アビリティを受け、魔獣は怒りに燃えた眼を男に向けた。
強い陽光に剣閃が翻る。
殺到する巨大な爪は必殺の威勢。だが所詮は大振り、男は軽やかに
それらをかいくぐり、返しの斬撃を放つ。その所作は舞うが如く、
洗練されたひとつの様式美を為していた。
女は既に座席に腰を下ろし、そこから男の姿を見ている。顔にあるのは、笑み。
「閃光よっ!」
短い口訣とともに閃光が疾る、フラッシュ。突然、眼前に現れた光輝に
マンティコアは思わず手で眼を覆い、顔を背ける。
瞬間、さらに冷たい閃光が疾り抜けた。逆袈裟から瞬転に払い切り落とす。
死角から死角へと斬り抜ける瞬速の三連。その尽くが魔獣の命脈を断つに
十分な威力を伴っていた。
断末魔の声もなく、有翼獅子は砂の上にその巨躯を横たえる。頚脈から
激しく噴き出す血液はすぐさま乾いた砂に吸われてしまい、大きな染みを
作ることは無い。
男は血振りをして持剣を腰に戻すと、何事も無かったかのように騎乗した。
女はその背中を見遣りながら、やはり小さく何事かを呟いた。
- 41 :アイテム物語No.1(03/14):05/09/03 03:36:44 ID:QitJXKBM
-
のちに旅王と称されるマレリーヌ・R・ドラギーユがここ、アルテパ砂漠の
オアシスを訪れたのは、何も外遊のためではない。
即位してのちの時間、そのほとんどを旅に捧げている彼女にとって、安定した
休息地の建設は重要であったし、またそうした辺境の整備こそ自分が成すべき
仕事であるという思いもある。
ゼプウェル島は砂漠の島だ。かつてこそガルカ族の都が繁栄していたが、
今は見る影も無い。それでも、人がこの地の特産品や事物を求めて
訪れることは絶えなかった。であるなら、この砂漠を渡る者達のための
休息地を作るという事は、彼女にとって至極当然の帰結だった。
もちろん、周囲の人間は常に反対をする。
何故、国王自らがそんな所まで、と言う。けれど彼女にとっては、
本国の箱城にいるよりも旅の途上に身を置いたほうが心休まるのだった。
もともと妾腹で、本来は王位の継承権など無かったのだ。それを
お国の(言い換えれば特定の貴族の)都合で担ぎ出されて、いいように
利用されるなど我慢ならない。その反発が彼女を旅に駆り立てた。
しかし今は、どうだろうか。
マレリーヌは星空を映すオアシスを眺めながら思う。
――何を願い、私は旅をしているのだろう?
彼女が立つ水辺は、ラバオ・オアシスと呼ばれている。
砂漠には何箇所かのオアシスはあるが、唯一このラバオ・オアシスだけが、
古くから休息地として利用されてきた。理由は幾つかあるが、オアシスの
豊富な水量と、洞窟を隔てているため砂漠の猛獣が滅多に入りこんでこない
からであろうか。
マレリーヌはここに幾つかの資材を運び込んで、ひとつの集落にしようと
考えていた。タブナジア及びサンドリア本国との交易路を拓きたいと。
事実、既にこの地に居ついてしまった行商人もいるようで、先ほどから
侍従長に取り入ろうと盛んに何かを捲くし立てている。
- 42 :アイテム物語No.1(04/14):05/09/03 03:37:39 ID:QitJXKBM
-
それを尻目に、マレリーヌは水辺を歩いていた。
脱いだサンダルを手にぶら提げ、裸足を水に濡らしながら、歩く。
どうかすると、微笑みながら空を見上げる彼女は、幼い少女のように
すら見える。
マレリーヌにとって、こうして供も連れずに出歩くのは日常茶飯事と言えた。
幼い頃はごく普通の町娘であったのだから、それを小さな楽しみにしていても
何もおかしくはないはずなのだ。
それに……と思い返したところで、マレリーヌは水辺に生えた木に
もたれて立つ影を見つけた。
「フォン」
そう名前を呼ぶ。
彼は全く何の感情も示さぬまま姿勢を正すと、彼女に向かって一礼した。
銀色の尾のような髪が緩やかに弧を描く。白い上衣に、防砂用の外套を重ねた
彼の姿は、どこかくすんで見えた。
フォンブルール・Sと、そう呼ばれた騎士であった。
マレリーヌは猫のような足取りで素早く彼に駆け寄ると、その腕を
胸に抱えるように取る。背を向けかけていたフォンブルールは、それで
動きを封じられてしまう。
「逃げようとしたでしょ」
「…お放しください」
問いには答えず、彼はそう言った。
「放すけれど、今この場を去ることは許しません。騎士フォンブルール・S」
慎重にそう言って、マレリーヌは彼の顔を見上げる。今にも泣き出し
そうな瞳を向けられて、フォンブルールはわずかに、眉根を緩めた。
「承知しました」
ぎゅうぎゅうと身体を寄せる彼女に辟易したのか、フォンブルールは
微かにため息をつくとそう言った。途端に、マレリーヌは笑顔になる。
ただの、23歳の娘の顔になる。
- 43 :アイテム物語No.1(05/14):05/09/03 03:40:03 ID:QitJXKBM
-
「ありがと」
言って、彼女はオアシスの周りを生えている下草の上に腰を降ろした。
フォンブルールはやはり立ったままで、
「座って」
そう彼女が言うと、渋々といった様子でその場に腰を降ろす。
湧き出す水のせいか、オアシスの水面は小さな波紋を広げ続けている。
澄んだ砂漠の空気を透いて、夜空の星々は揺れる湖面にうたかたの輝きを
投げ掛けている。
「婚前の御身なのですから、このような事はお控えください」
フォンブルールの声は低く、冷たい。けれどマレリーヌはそれを
気にした風も無く、微笑む。
「そうね。…まだ全然実感がわかないけれど」
マレリーヌには、タブナジア侯子フィレディナンとの結婚が既に
決まっていた。本来ならばクゾッツに渡る前に婚礼の儀を挙げるはず
だったのだが、マレリーヌのたっての願いにより、このクゾッツ視察を
済ませてから挙式ということになっていた。
口がさない人々は政略結婚などというが、実際のところその縁は
偶然以外の何ものでもなかった。何せ、お忍びでタブナジアの町に
入っていたマレリーヌと、やはりお忍びで城を抜け出していた侯子とが
街中で出会い、意気投合したのが切っ掛けだったのだから。
ラバオでの仕事ももうすぐに、明日にでも終わるだろう。そうしたら
クフタルの洞門を抜けて、ヴォルボーからタブナジアに向かい、式を挙げる。
それを前にして、マレリーヌの心には何かがわだかまっていた。
それが何なのか、彼女自身も分からない。
そういう時、マレリーヌは決まってフォンブルールを頼った。
幼なじみで、年上で、優しく頼もしいお兄さん。ただの町娘だった
彼女を、いつも見守ってくれた人。そして王となった自分を、ずっと
変わらずに守り続けてくれる騎士。
- 44 :アイテム物語No.1(06/14):05/09/03 03:42:17 ID:QitJXKBM
-
フォンブルール・S。家名が無いのは、彼が孤児だからだ。もちろん、
剣の達者とは言え、そんな青年が王立騎士に任命され、近衛騎士隊を差し
置いて女王の警護役に抜擢されたこと自体が既に異例づくめだが、そのうえに
彼は子爵位までも与えられている。
無論、それはマレリーヌによるものではある。だが、今やそれに
口を挟むものは無かった。フォンブルール・Sは女王を守る、最も
優れた盾であったから。
「フォン」
彼女は言い、かつてそうしていたように、彼の肩へ頭を乗せた。
柑橘と太陽の香りがふわりと、フォンブルールをくすぐる。色の薄い
柔らかな金髪が揺れていた。
「何でございましょう」
いつからだろう、不意にマレリーヌは思う。
こんな風に、彼が冷たい声を出すようになったのは。他人行儀に、
主従の言葉を使うのは。マレリーヌ自身、周りに目がない時だけは、
幼い頃と同じくフォンブルールに声を掛けてきたというのに。
彼が言葉を変えたのは、いつだろう。
「ううん」
寂しいとは思わない。フォンブルールはいつでも、彼女の味方だから。
彼女のために、そうしているのだから。だから、それを疑ったりしては
いけないのだ、と。
「フォンは、優しいね」
「…私の務めです」
その『務め』が職務を意味しないことを、マレリーヌは知っている。
「ね、フォン」
その名前ばかりをくり返していると気付いて、彼女は少し可笑しかった。
でも、その名前を口にしているだけで、こんなにも気持ちが安らぐのだ。
だから、それでいいと思う。彼は困るかもしれないけれどと、彼女は
イタズラっぽく笑った。
「私、ここで眠ります」
出し抜けに言ってみた。
- 45 :アイテム物語No.1(07/14):05/09/03 03:42:59 ID:QitJXKBM
- 「は?」
案の定フォンブルールが間の抜けた声と顔をしたので、マレリーヌは
くすくすと笑ってしまった。
でも、口にしてみると、本当にそうしたかったのかもしれないと思えた。
『フォンがいる』という穏やかさと安らぎのなかで眠りたいと。
「騎士フォンブルール・S。あなたもここを離れてはいけませんよ」
「何を、仰られるのです」
言いながらも、彼は決してマレリーヌを乗せた肩を動かそうとはしない。
心地よさが不意に、彼女の瞳に掛かる。昼の強い陽射しのせいだろうか、
そういえば疲れていたなと、眠気の片隅で思った。
眠ってしまおう、この安らぎを抱いて。
「決して…そばを、離れないで…ね……」
「王?」
フォンブルールはマレリーヌの頭を抱えると、そっと、草の上に
彼女の身体を横たえた。
ヴェールを外す。こぼれ落ちる薄い色の金髪がわずかに、指に絡んだ。
畏れるようにその指を離すと、身につけていた外套を折りたたみ、
彼女の頭の下に挟む。
そうして、彼はマレリーヌの寝顔をじっと見ている。
安らかな寝息を立てる彼女から、爽やかな柑橘の香りと、太陽の
暖かな匂いとが届いた。昔から、彼女が好きな香りだ。
いつか、彼は右手を伸ばして、マレリーヌの頬に指を掛けようとしていた。
無自覚だったのだろうか、慌てて右手を戻すと、それを左手で
握りしめ、彼は眉間を歪めた。
まるで、何か大切なものを手放した少年のような、その顔。
振り仰ぐ夜空はただまばゆい。それを映す水面は、星を湛えた輝きの海のようで。
青年はそのまま、長嘆する。
その嘆きは、何に向けられたものであったか。
フォンブルールはそのまま腰に手を遣ると、佩剣を抜いた。
澄んだ剣身は星を映し、瞬く。
その柄を、マレリーヌの手に握らせる。彼女の手を柔らかく包みながら、
彼もまた身体を寝かせた。
星を映した長剣を握り合い、互いの身体の間に剣を横たえて、
フォンブルールは瞼を閉じる。
「…おやすみ、マルゥ」
かつて呼んでいた名前を、口にして。
- 46 :アイテム物語No.1(08/14):05/09/03 03:43:59 ID:QitJXKBM
-
チョコボに騎乗した一団が砂漠を行く。
旅王の一行は縦に長い錘形の陣を組み、強風にも隊伍を崩すこと
なく進んでいく。
その日は吹き上がる砂塵がひどく、視界は非常に悪かった。
ラバオ・オアシスの行商人は砂嵐がくるのではないかと言って
いたが、侍従長は出発を強行した。
実際問題として、日程をかなり押しているのは確かであった。
これ以上の遅れは挙式の差し障りになり兼ねない。今はともかく、
タブナジアに向かうべきなのは明白だった。
既に数年もの旅に暮らす一団のこと、この程度の悪天候は幾度となく
経験していた。さすがに砂嵐に見舞われた経験こそないものの、では風が
強くなる前に洞門に向かってしまえばよい。そのような判断がなされ、
彼女たちは出発した。
連日の施設設営や熱砂での行動によって、近衛騎士隊の面々も
疲れていたのかもしれない。視界を奪う砂の嵐のせいもあったで
あろう。いくつもの小さな、小さな要因が重なったとも言える。
ラバオ・オアシスからクフタルの洞門に向かう道程の半ばで、
旅王の旅団は、アンティカ族の大軍に襲われた。
――当のアンティカにも、旅王の一団にも知りえないことである。
アンティカ族は女王の統制のもとに組織された軍社会で成り立つ。
女王が代変わる際にはそれまでの巣を捨て、別の巣に向かう習性があった。
この度移動先まではそれほど遠くないものの、ごく短い距離だが、
地上を通らねばならない箇所がある。そこを通過しようと女王が地上に
出たところで、アンティカの斥候が至近距離で隊列を成すアルタナの民を
見た。それを、女王の移動に合わせて襲撃を掛けてきた敵と見えても、
仕方の無いことであったろう。
かくして、不幸な偶然は重なった。
アンティカの兵達は錘形をした陣に横合いから喰らい付いた。散々に
矢を射掛け魔法を打ち放つ。突然の襲撃に近衛騎士隊が隊列の乱れを
正そうとする間も与えず、突撃兵たちが切り込んだ。
- 47 :アイテム物語No.1(09/14):05/09/03 03:44:45 ID:QitJXKBM
-
「何事です!」
旅団は混乱を極めていた。奇襲、何よりそれが砂の中から現れた
襲撃者ということが、状況の伝達を遅らせていた。
「なっ、なにやら敵襲の様子ですが」
侍従長の狼狽ぶりが、事態の切迫を彼女に告げる。
既に彼女は天蓋を下ろし、そこに立ち上がっていた。濛々と煙る
砂塵に煽られようとも、その強い意志を秘めた瞳は少しも翳らない。
――まずいけなかったのは、あまりに双方の位置が近すぎたことだった。
互いの王からあまりにも戦場が近く、それ故に兵は必死となる。
また、そこにいる者の密度が高くなり、敵味方が入り乱れた乱戦に
なってしまう。
そして天候。砂塵は視界を遮り、状況の把握を困難にしていた。
それはアンティカにとっても同じで、両者は同じ閉塞感と焦燥感
を持って戦っていた。
勢い、戦闘は泥沼化していく。
「お逃げくださいっ、マレリーヌ様!」
近衛騎士隊長も、警護役であるフォンブルール・Sもそこにはいない。
だが目の前で凄絶な乱戦が行われていては、侍従長もそう言うしかない
であろう。
「しかし!」
目の前で倒れていく兵を見捨てる事が、マレリーヌにはできない。
その躊躇いが致命的となった。
御車に立ち尽くすマレリーヌの目がそれを捉えた。遠く戦場の向こう、
整然と並ぶアンティカ族の戦列を。そしてその全てが、矢をつがえた
半弓を引き絞っていることを。
先行していたアンティカの一団が食い破られた左翼へと殺到した。
彼らは同士討ちというものを厭わない。既に左翼に突入していた自軍兵を
もろともに、大量の矢を射掛けるつもりなのだ。
- 48 :アイテム物語No.1(10/14):05/09/03 03:45:33 ID:QitJXKBM
-
「皆っ、下がって!」
絶叫が合図であったかのように。矢は、放たれた。
まるで黒い雲霞のような一群の矢が迫る。何故だろう、マレリーヌの
目にはそれがやけにゆっくりと見えた。侍従長が針鼠のようになり、
御車を引くチョコボが絶命していく様さえも。
そしてそれは、いずれ彼女自身にも突き立つであろう事が、分かる。
(フォン)
最初に浮かんだのは、婚約者でも母親でもなく、その顔だった。
昨夜の安らぎと、ずっと胸にあり続けたわだかまりが甦る。
(ああ…フォン!)
『マルゥ』
声が、聞こえた。
「っ!」
そして彼女は、そのわだかまりの正体を知った。それを待ってでも
いたかのように、冷酷な鏃は既に彼女の目の前にある。
小さく、しかし万感の意をこめて、マレリーヌは笑みながら
その名を口にした。
「フォン」
刹那だった。
白い閃光が彼女の前に現れ、幾条もの軌跡を描いた。青い盾が、
彼女が彼に授けた特別な盾が、最後のひとつを叩き落とした。
「申し訳ありません、王」
フォンブルール・S。彼女だけの盾。
「バカぁ…遅いよぉ…」
こみ上げてくる涙を隠しもせずに、マレリーヌはその胸元にすがりつく。
「王…」
「バカバカバカ…フォンのバカ…!」
そこにいるのは誇り高く慈悲深い女王ではなかった。明るくて
人懐っこい、彼の幼なじみでしかなかった。
- 49 :アイテム物語No.1(11/14):05/09/03 03:46:17 ID:QitJXKBM
-
フォンブルールは一瞬だけ、ほんの一瞬だけ、あの少年のような
顔をした。そして軽く、マレリーヌの髪に触れる。
「っ、フォン」
彼は答えず、後ろを振り返った。
劣勢だった。そもそも兵の数か違い過ぎた。この混乱では分から
ないが、少なくとも倍以上の兵力差があっただろう。乱戦が続いて
いることで、その兵数の差が次第に効果を現し始めていた。
もう間も無く、旅団は瓦解するであろう。
フォンブルールはわずかに瞳を閉じた。そして再び眼を開いたとき、
彼は仄かに、微笑んだ。
「王、逃げるのです」
「えっ?」
「私のチョコボがあります」
そう言うとマレリーヌの手を引いて、彼の愛鳥の元へと連れて行く。
「ちょっ、フォン?」
困惑する彼女に、
「あなたをお守りするのが私の使命です」
そう答えると、鞍にくくってある荷物を外し始めた。必要最低限の
ものだけを残し、可能な限り身軽な状態にしていく。
「最後までお守り致します。侯子に、あなたをお渡しするまでは」
「…ちゃんと、タブナジアまでだよ?」
マレリーヌの確認に、フォンブルールはまっすぐに頷いた。
「ええ。さあ、前鞍に乗ってください」
- 50 :アイテム物語No.1(12/14):05/09/03 03:47:12 ID:QitJXKBM
-
鐙に足を掛け、彼の肩を借りて、彼女はチョコボの背にまたがる。
すると奇妙なことに、フォンブルールは手綱をマレリーヌのベルト
にくくり付けた。
「フォン、これ…」
「振り落とされないための用心です。手荒に走りますから」
少しも表情を変えることはなかった。いや、何時に無くその声は
明るかったのかもしれない。
「クフタルへ行きます。暁号!」
愛鳥の名を呼び、フォンブルールはその腹を盾で殴りつけた!
クエエェェェッ!
途端にチョコボは急加速した。ラテーヌ随一と謳われ俊足を
存分に発揮し、凄まじい疾走を開始した。主の命に従って。
「待って! 止まって、フォンが!」
マレリーヌが力いっぱい手綱を引き絞ろうとも、暁号の疾走は
止まらない。そして、手綱はきつくベルトに結び付けられて緩める
ことすらままならない。
予感していたはずなのに。
マレリーヌは止め処無く溢れる涙を拭おうともせず、最後の最後で
自分を裏切った男を振り返る。
絶叫が、彼女の喉から広がった。
暁号を見送ると、フォンブルールは微笑んだ。
安心したように。
そして己の佩剣を抜き、眉間の前に掲げる。そうして、いつもの
ように呟く。
「我に女王を守らせ給え」
そう、小さく。
飛来する矢を一寸に見切って躱し、突撃してくるアンティカ族の
戦士に向け走りこむと、たったの一太刀でその首を刎ね飛ばす。
「女王は無事に下がられた! 全軍クフタルまで退け!」
戦場を、砂嵐をも割る大音声で彼は叫んだ。
「殿軍はこのフォンブルール・Sが務めさせて頂く!
全軍退けえええっ!」
そう繰り返し叫びながら彼はただ一人、白刃とともに舞いながら、
アンティカの群れへと突き進んで行った。
- 51 :アイテム物語No.1(13/14):05/09/03 03:47:55 ID:QitJXKBM
-
砂の上に、青い盾が転がり落ちた。
既に女王直属の兵の大半は討ち取られていた。
それがたったひとりの人間によって為されたということに、「彼」は
武人として感嘆を禁じえなかった。
目の前に立つ、満身創痍の男のどこに、それほどの力が残っていたのかと。
「彼」は女王の軍のなかでも随一の剣の腕を誇っていた。アンティカ族
全体でも五指に入るという自負があり、そして実際、その通りだった。
それが、この男とは五分。いや、確実に押されていた。凄まじい気迫と
それに裏打ちされた剣技は確かに「彼」を凌駕していた。
これほどの傷を負っていてさえ、なお。
元は白かったであろう上衣は煤と血に汚れ、赤黒くくすんでいた。
背中には幾本もの矢を生やし、砂に落ちた盾は完全にひしゃげている。
激烈な戦闘を物語る、その姿。それを眼にして見くびった自身を「彼」は恥じた。
それは敬うに値する偉大なる戦士の姿に相違なかったからだ。
そしてその偉大な戦士は、己の全てを込めたであろう剣を手に、
立ち尽くしたまま動かない。
「彼」は己の喉元に手をやった。ぬらりとした体液がにじみ出ている。
男が最期に放った連斬のためだった。その目にも止まらぬ剣閃は、
一の太刀で「彼」の肩甲を刎ね、二の太刀で剣を砕き、終の太刀で
喉元を切り払っていた。
もう僅かでも男に力が残っていたならば、その剣先は「彼」の首をも
刎ねていただろう。そう思わせるほどに凄絶な剣だった。
- 52 :アイテム物語No.1(14/14):05/09/03 03:48:58 ID:QitJXKBM
-
そして、男は動かなくなった。
「彼」は男に近づき、なお握り締めた剣をそっと、その手から抜く。
偉大なる戦士が、その魂の全てをこめた剣を。
アンティカたちはそれを認めると、速やかに移動を開始した。この
ような襲撃がまだあるとも限らないのだ。少しでも速く、女王を新たな
巣へと送らなければならなかった。
熱砂の嵐のなかに、その男の躯だけが残っていた。
――その後、彼の姿を見た者はいない。
Fin.
●セイブザクイーン
生涯を旅に生きたサンドリア女王マレリーヌに、最期まで忠義を
尽くした王立騎士の佩剣。許されぬ想いを忠誠心に変え、女王の
危機を何度も救った彼の念は、今も剣身に宿されている。その茎
には、以下のような言葉が切られている。
「我が剣を、我が最愛のマルゥに捧ぐ」
- 53 :アイテム物語orPPの作者 :05/09/03 03:55:15 ID:QitJXKBM
- 失礼いたします、The Phantom Painの作者です。
前スレを埋めるためにショートを書こうかと思ったのですが、
書いていたら長くなってしまったので新スレへupさせていただきました。
個々のアイテムに秘められたストーリー。
以前から書きたいと思っていたものなのですが、
いかがだったでしょうか。
機会があれば、また別のアイテムについて
書いてみたいとも思います。
では、また。
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